軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

転生者に会いました

悪役令嬢然としているにも拘らず、どうにも苦労性らしいガーディニアの奮闘を良き哉良き哉と眺めながら、場の緩んだ所で気取られぬよう、マグノリアはそそくさとその場をフェードアウトする事にした。

崩れた(……ようにみせてるだけな)リボンを直すため、身支度へ行くふりをして同席のご令嬢と近くの席に座る保護者とに頭を下げると、側妃発言もあってか皆気遣うように頷き返す。足の引っ張り合いかと思いきや、意外に良い人が多いらしい。

何せ保護者は同じぐらいの女児を持つお母さん達である。自分の娘に置き換えたのだろうか?

衣装なんて崩れていないのである。抜けるための様式美という奴だ。

早くしないと不思議ちゃん系の王妃様に気づかれる。急げ急げ!

少し離れた所にいる担当らしい先ほどの女官が近づいてきたので、衣装を直す事と、体調があまり良くないので少し休憩室で休む旨を伝える。もう茶会が面倒なのと虚弱説を裏付けるための言い訳みたいなものなのだが。

クロードにも、聞くに堪えない内容ならある程度で帰ってきて構わないとのお墨付きも頂いている。

女官がついてこようとするので、控室には侍女がいるのと、万一解散までに戻るのが間に合わなかったら不味いので念のためにこの場にいてもらい、戻れなかったら宰相さん達にそう伝えてほしいと言づけた。

はあ。やれやれ。

長い事日本で庶民だった自分が侯爵令嬢というだけでも荷が重いというのに、王太子妃だとか王妃だとか、無理難題過ぎもいい所である。

数年先には破綻するかもしれない地位である。どうやってガーディニアに手を差し伸べれば良いか、取り留めも無く思考に沈んでいると、ガサガサと低木の茂みが小刻みに揺れた。

「……ねこ?」

声に一度止まったそれは、暫くして大きく揺れ始めたので警戒して後ずさる。

「ぶはっ!」

「!?」

声を出さなかった自分を褒め称えたい。

茂みの中からはピンク色のドレスを着た、小さい女の子が勢いよく顔を出したのだ。

「「…………」」

お互い顔を見合わせ、パチパチと瞬きする。

ガイが飛び出してこないという事は、特に危険はないのであろう。

肩ほどの柔らかそうな茶色い髪をハーフアップにし、小さな髪飾りをつけた女の子は、茶色の瞳を大きく見開く。

「マグノリア・ギルモア!!」

肩を跳ね上げ叫ぶと、ぴょーん、と茂みから(物理的に)飛び出てきて、ふわ~~とか。おおーーーとか言いながらキラキラした瞳でマグノリアの周りを一周すると、プルプルと震え出した。

おかしな様子にマグノリアはドン引きながらも、自分よりも小柄な女の子に傷つけられることは無いだろうと結論づけ、口を開く。

「……えっと、どちらかでお会いしましたか?」

(直訳:あんた誰?)

油断させるために微笑むと、感心したように頷きだした。

「ふえーー、実物マジ可愛い! 声もめっちゃ可愛い!!」

頬を赤らめて、呼吸も荒く身悶えしている。

……なにこれ、めっちゃキモい。

幼女や少女でなかったら、ただただ変態である。

……ん……?

「……『マジ』?」

「あ! エヘヘ」

誤魔化すように笑うと、少女はスカートをつまんで淑女の礼を取った。

「私はリシュア子爵家の娘、ヴァイオレット・リシュアと申します。ギルモア侯爵家のマグノリア様とお見受けいたしました。お会いできて嬉しさのあまり取り乱しました。以後、どうぞよろしくお願いいたします」

ぺこりー!

いやいやいやいや。

先ほどこの世界では聞いたことが無い、しかし元の日本では馴染み深い単語が聞こえた。

(……ヤバい!)

もしそうなら、ガイに聞かれる。

何処にでも入り込む隠密の彼だ。

リリーとディーンが引き離された事で、今も見えない場所から護衛をしている事だろう。

******

あの日、セルヴェスとクロードに異世界から来た話をした時に、誰に何処まで話すかを確認した。

……基本的には幾ら説明したとしても信じられない事なのだ。話したとして、頭がどうかしたと思われるのが関の山であろう。

ましてや、地球には魔女裁判なんて物騒なものがあったぐらいだ……謂われなき罪でヤバい処刑とかは勘弁である。

聞くとそこまでの事はされないだろうが、やはり色々探られたり調査をされたり、暮らし難くはなるだろうとの事であった。

秘密を知る人は、少なければ少ない程外へ漏れにくい。

ガイを信用していないとかリリーがとかでなく……例え事実が知られ誰かに何かを尋ねられたとしても、知らなければ話しようも隠しようもないのだ。

相手のためにも出来る限り知られない方が良いだろうと説明され、マグノリア自身も確かにと納得したのだ。

よって前世については、セルヴェスとクロード、マグノリアの三人だけの秘密という事になっているのである。

『あなた、日本人ね? 前世の話をするなら日本語で話して!』

眉間に力の入った険しい顔で、マグノリアが日本語で捲し立てると、

『へっ!? はぁ? なんでぇ?』

何とも間抜けな声を出しながら、日本語で疑問を呈していた。

……マジか。

******

リシュア家は元は平民の商家の家柄だ。

数代前の当主が男爵位を買い、貴族となったのだった。

平民出の低位貴族ではあるが、何代にもわたる豪商の財力は今や高位貴族にも迫ると言われており、常に目新しい商品を嗅ぎ分ける臭覚に依って財を増やし続けているという。

その財力を目を付けられたりケチをつけられないように、国防やら何やらに活かしてくれと(つまり寄付)貢献しているそうで、その貢献が認められ、昨年子爵位を陞爵されたのであった。

ヴァイオレットが転生した時点ではリシュア男爵だったのである。

……流石にモブの陞爵話まではゲームにも攻略本にも出てこないので、転生ならではの豆知識が増えた事にほくほくのヴァイオレットなのであったが。

やっと前世の知識を持つ人に出会い、みん恋トリビア話に花を咲かそうとしたら。

(……何か、切羽詰まってる?)

******

マグノリアはどこで話すべきか逡巡する。

……控室で話せばリリーもディーンもいるし、ガイも姿をあらわすかもしれない。

ここの言葉では話し難い……転生の件が筒抜けだから。かといってずっと日本語で話していてはどう考えても怪しがられるであろう。

この子……ヴァイオレットと言ったか。この子自身の予定もあるだろう。

多分用事があるか何かで王宮に来ている筈だ。

周りをキョロキョロと見回す。

すると、スッと木陰からガイが姿を現した。

「この近くに自由に使える四阿とかある?」

殆ど大人ばかりとやり取りするお嬢様には珍しい小さなお友達に、ふたりの顔を交互に見ると

「あちらの、少し右に行った所に四阿がありやすよ」

指で示した後、頷いて前を歩き出した。

後ろに付き従いながら、マグノリアは小声でヴァイオレットに話し掛ける。

……どんなに小声で話そうと、ガイの耳には届いているだろうが。

『詳しい事を聞きたいの。だけど今日は時間が無いわ。後日あなたの家に行くか私の所に来るかしてほしいのだけど』

急いでいるらしいマグノリアの様子を見ながら、ヴァイオレットは父と母を思い浮かべた。

……いきなり侯爵令嬢なんて呼んだら、偉い騒ぎになるだろう。

それも『あの』マグノリア・ギルモアである。

多分悪評を気にしているだろうから、仮病でも使って追い返しそうである……

高位貴族から直に呼び出しがあれば行かない訳にもいかないだろう。万一そういう流れになっても、時間さえかければどうにかして覆せる筈だとヴァイオレットは思う。

『じゃあ私が行くよ。両親が本気にしないから、後で招待状を貰ってもいい?』

『解った。空いてる日とか、あなたの予定は?』

『いつでも大丈夫。領地無しの王都住まいだから……』

マグノリアはヴァイオレットを見て頷いた。

頭の中の貴族名鑑を捲りながら、リシュア子爵を思い浮かべる。

人の良さそうな、地味で目立たない感じの男性だった筈だ。

王都住まいならば、住所はトマスに確認すれば何とかなるであろう。

目の前の少女の見た目から、物理年齢はマグノリアと同じぐらいであろう。

話し方から感じる雰囲気で、前世での年齢もそう高くないであろうと思う。多分小中学生か……どちらにしろ未だ幼い子どもだろうと判断する。

******

四阿に着いた所で、かすかに張り詰めた様子の主を見、その隣にのほほんと首を傾げている少女を見ては、ガイは首を捻った。

聞いた事のない言語なので聞き取りにくいが……さっきからふたりは、ずっとその言葉で話をしている事から、多分誰にも聞かれたくない話なのであろう事が推測される。

マグノリアならともかく、この目の前の何てことはなさそうな少女も、その暗号のような外国語のような言語を使える人間だという事だ。

再び少女を見て、武器どころか敵対心も、警戒心すらも持ち合わせていなさそうな様子に危険は無いだろうと判断した。

「……あっしはあちらで見張っておりますんで。何かあったら躊躇なく投げて下さい」

ガイはいつもより真面目な顔でそう言うと、頭をトントンと指さした。

魔道具の小型爆弾。

……彼は護衛である。こちらの気持ちを汲んで離れる代わり、彼からすれば得体のしれない少女に、絶対に気を緩めるなという事だ。

そんな心遣いに、マグノリアは感謝し頷きつつも微妙な顔をする。

(平和な日本に住んでいた子どもが、いきなり爆弾投げつけられたらどんな気がするんだろう……)

気がする前に吹っ飛んでしまうかもしれないが、と思って更に微妙な気分になる。

何はともあれ、初めにしっかり確認しなくてはならない。

マグノリアは小さいながらもはっきりとした声で問いかける。

「単刀直入に聞くわ。 こ(・) の(・) 世(・) 界(・) は(・) 何(・) な(・) の(・) ?」

警戒したようなマグノリアの様子に、ヴァイオレットは首を傾げる。

(あれ……? マグノリアってば、悪役令嬢に転生したのを知って回避している……のじゃないのかな??)

「何って、ここは『みん恋』の世界だよ!?」

何言ってるの、と言わんばかりの少女の様子に、マグノリアは前世の記憶を浚う。

「ミンコイ……?」

「そう、『みん恋』! 乙女ゲーの『みんなあなたに恋してる!』だよ」

何だか、知ってて当たり前のように言ってるけど……

(そんなん、知らんがな!!)

心の中で悪態をついた挙句、多分マグノリアの眉間には叔父譲りの、立派な渓谷が出来ていたのであった。