軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ぶっ込んで来る王妃様

なんて美しいご令嬢なのだろう。初めて目にしてそう思った。

王子と並んだら、さぞや似合いの一対だろうと。

王妃はかつての夢を、息子とマグノリアに馳せた。

マグノリアはご令嬢方の様子を見遣り、推薦者をガーディニアに決めた。

本人もその立場に納得しているのか、王子をフォローする様子を見せている。

……親の刷り込みなのか本人の意思なのかは解らないが……本人が乗り気でないなら後押しするのは申し訳ないと思っていたが、やる気なら問題無いであろう。

王子には勿体ないご令嬢ではあるが、どう考えても並よりも優秀なご令嬢でなければいけないであろうから、渡りに船である。

あとは伯爵家のご令嬢オルタンシア様であろうか。

あそこのお父様はなかなかやり手で事業もだいぶ潤っており、向上心も野心も高いと聞く。王家にとって良い家であろう。ぼさっとしていると全て持っていかれかねない諸刃の剣ではあるが……そこはお互い様。片方だけが得をするなんて問屋が卸さないのだ。仕方がないのである。

例が無い訳ではないが、伯爵家で王家に嫁ぐには些か弱いとあれば、どこぞの公爵家に養女に入りお嫁入すれば良いのである。万事オッケー。

あわよくば自分の娘がと思いつつ、現実的にはどちらの家につこうかと、お母様方は戦局を見守っているのである。ご苦労様な事である。

自慢も飽きてきたらしい王子がソワソワしてきた所で、王妃様がおっとりとマグノリアに話を向けた。

「今日は本当に楽しかった事。皆様と王子とが交流出来、良き日でありました……初めてのマグノリアは楽しめまして?」

周囲にさわり、と窺うような視線が彷徨う。

王妃はなおもおっとりと首を傾げている。ウィステリアさんとブラ兄は固まっていた。

宰相さんを見るが、対応を見たいのか、興味深そうな瞳でマグノリアを見ていた。

――ご指名、まあ順当ですよね。

「はい、王妃様。王子殿下をはじめ、ご令嬢の皆様とそのご家族様に相見えて、光栄に御座いました」

にっこりと微笑みを張り付ける。

「王子は貴女のお眼鏡に適いまして?」

ゴクリ、とあちらこちらから息を飲む音が聞こえる。

(うっわ~。超ド・直球ですね、王妃サマ)

もはや、沈黙が痛い程である。

「……私などがとてもとても。お恐れ多い事ですわ。やはり王太子妃ともなれば、 筆(・) 頭(・) 侯(・) 爵(・) 家(・) ご令嬢のガーディニア様のようなお方がふさわしいかと存じます。お美しく、御家柄も良く、皆様へのお気遣いも良くされていらしたとお見受けいたします。とても勤勉で多くの教育と教養を身につけられた優秀なご令嬢との事。きっと(見た目が)お似合いの一対となりましょう」

年少のご令嬢に任せず、王妃と王子も周りに気遣えよ、と嫌味を混ぜておく。

紅薔薇のような美しい赤毛の、ややつり目がちなガーディニアを見て微笑むが、胡乱気な表情でこちらを見ていた。

……警戒心丸出しの子猫みたいだ。

彼女にしてみれば、ライバル認定していた相手がべた褒めした上に、まさかの後押しである。真意が何処にあるのか見定めているのであろう。

うん。美少女。才色兼備な悪役令嬢を絵にかいたような姿である。

見た目からいっても、きっと彼女も悪役令嬢だろう。万が一の場合は彼女を救済する手立ても考えなくてはならないだろうと思う。

「オルタンシア様も、とても心優しく淑女の鑑と伺っております。リーダーシップのある(傲慢でマイウェイとも言うが)殿下を一歩引いて支え、国民を思いやる素晴らしい王太子妃になられるかと存じます」

派手さには欠けるものの、本人は慎み深く、その分お父上が野心家であるが……二大勢力派閥から有力なお嬢様を一人ずつ指名して置く。

王妃様は瞳をぱちくりと瞬かせ、マグノリアとウィステリアを見た。

王太子妃になりたくはないのか、なりたいでしょう?――と不思議そうな表情である。

「しかし、流石は王国の誇る名家のお嬢様方です。こちらにいらっしゃる私以外のどなたが王太子妃となられても、きっと素晴らしいご夫婦となられましょう」

それ以外でも全然OKだよ、とつけ加え、要らぬケチをつけられないようにフォローして置く。変に不満をかって、後ろからザックリバッサリとかも嫌だからね。

周囲が周囲を窺い、聡いご婦人方は大本命であるマグノリアが王太子妃にはならないと表明したことに息を呑んだ。

「……どうして貴女以外なの?」

「私は、王太子妃には不向きかと。幼少より体が弱く、お披露目出来たのも六歳です。アゼンダで暮らす今でこそ人並みに過ごせておりますが……他の土地では……お身体の健康なご令嬢がお成りになるべきかと思います」

王妃は悲し気にマグノリアに問い、マグノリアも用意してあった嘘全開の理由をしおらしく説明する。

深刻そうな空気を切り裂くように、王子は偉そうに笑いながら悪びれずに言った。

「お前も 顔(・) は(・) マ(・) シ(・) だから、側妃の一人にしてやっても良いぞ! 元気な時だけ王都に来ればよかろう?」

「王子!」

余りの暴言に、王妃と王子、言われたマグノリア以外の全員が青ざめた。

ここに居る全員がセルヴェスの偉業を知っている。その悪魔将軍が目に入れても痛くないという孫娘を、戯れとは言え側妃の一人にしてやっても、とは……

王妃はあらあら、マグノリアは美しいですものね。といっておっとり微笑む。宰相は見かねて声をあげた。

マグノリアはころころと可笑しそうに笑って、静まり返った端から端までを見渡して、ひたりと王子に視線を戻す。

「まあ! 顔をお褒め頂き誠にありがとうございます。ですが、私にはそのような地位は畏れ多くとても務まりそうに御座いませんわ。ましてや夫を他の女性と分け合う趣味も御座いませんの。王子殿下から賜りましたお言葉、一語一句違えず、祖父と叔父へ伝えさせて頂きますわ」

数多くの噂話と共に、辺境伯の孫娘への溺愛ぶりも多く伝えられている。

知れればどうなるか。奥方たちは戦慄し、静かに瞳を伏せた。

「うむ、苦しゅうない」

(いや、苦しゅうあるわ!)

宰相は王子に抗議の視線を送った。

……哀しいかな、セルヴェスに鬼の形相で詰め寄られる未来が容易に想像できてしまう……

満足気に微笑む王子と、おっとり微笑む王妃、困惑するご令嬢方というカオスな茶会の空気は、最悪なものであった。

******

そんな最低最悪な茶会の雰囲気を変えようかと、思わぬ形で最大のライバルより後押しを受け、妃最有力候補(?)を不動のものとしたガーディニアが取りなしていく。

幾つかの話を投げてはようやく和やかになり始めた途端、王子は急に意味の解らない俺カッコいい自叙伝を披露し始めた。

流石に数名のご令嬢が困ったような顔をする。

調和やら常識やら、良識やらを考えながら場を取り成しているガーディニアは、困惑の中悪戦苦闘しているようである。もののあわれ。

彼女まだ九歳である。エラいね! 見どころあるよ! 今の所、未来の妃は彼女一択である。

でも詩や文学、芸術を語っても、他のご令嬢方に話を振ろうとも、王子が関わってくる時点でダメダメである。なにせ『俺格好いい! イェーイ!』しかないからである。組み立てる端からぶち壊していく。

こうなったら王子が得意そうな分野の話を振って、存分に語ってもらった方が早いのかとも思うが……他のご令嬢にも話をという気遣いがカラ回っているのであろう。

口を出すのも立場上微妙なので、心から声援だけを送っておく事にする。

……しかし、いつもこうなのであろうか。

他の国の人と話していてもこうなのだろうか……疑問は尽きない。

数年経ったら会談中の空気が読めるようにはなるのだろうか? それとも会談なら今でも読めるのか?

流石、十歳で側妃とか言っちゃうだけあるね。

……側妃の意味わかって言ってるんだよね? その辺の知識はあるのか?

ガーディニア様がちらりとマグノリアを見るので、おっとりと受け流し、オルタンシア様に視線を向けた。

ビクリと肩をゆらしたオルタンシア様は、息を呑んで真っ青である。

……彼女に王子とこのカオスを取り成すのは荷が重すぎるようだ。

そして懲りもせずに王妃様がマグノリアに話を振る。

「殿方って幾つになっても子供っぽい所があるでしょう? 賢い女性なら、手のひらの上で転がすのが腕の見せ所ではなくて?」

何人かのご婦人も、うんうんと頷いている。

……ああ~、夫をコロコロという奴ですね。実にメンドイですね。

しかし、世の中の奥さんってのはそんなに夫を操縦しているもんなんですかね?

そうなら世の中、もう少し女性の地位が向上していそうなもんなんですが。

「まあ。皆様素晴らしい手腕でいらっしゃいますのね? 私(わたくし) 、夫には常々自分より賢い人をと思っていますの。私ごときに転がされるなんて……逆に、転がしていると解らないように私を転がしてくれて、かつしっかりと導いてくれる人が良いんですの~」

だからお宅の息子はノーサンキュー! にっこりと視線に乗せる。

「まあ。マグノリア様を転がすなんて……かなり年上の賢い方でないと難しそうですわね?」

何気なく、一緒のテーブルに座るご令嬢の保護者が口にしたので頷いて続ける。

「ある程度(二歳差じゃないよ、もっとだよ!)年上の殿方は頼りがいがありますものね。お話が決まっている訳ではございませんが、アゼンダでさる高貴(?)な年上の方とのお話が出ておりますの」

まあ、と王妃が顔を曇らせて宰相を見た。真偽を確認しているらしい。

マグノリアもにっこりと宰相を見る。何かを訴えているらしい。

(……ん?)

宰相は首を傾げる。

マグノリアにそのような話は出ていない筈である。

ましてやアゼンダから出ていない状態で、高貴な家柄の年上の人間などと……

…………。

……………………。

ち ょ っ と 待 て

ハッとした宰相に、マグノリアはニヤ~ッと笑うと、ご婦人に視線を向け直した。

「まだお話だけですのよ。どうなるかは解りませんの」

(ヴィクタァァァ! ついに犯罪にまで手を伸ばしおったかぁっ!!)

――あのふざけた髪の毛を、全て残らず引っこ抜いてくれる!

いや、合法だケドね? 言われたらそう言いそうである。

……って言うか、なんもしてないケドね?

そう震える宰相の隣で、マグノリアは

(匂わせだけですよ! 名前を出していませんよ!)

アゼンダの空へ向かって、そう要らぬ報告をしていた。