軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お金持ちは加減を知らない

マグノリアは、もきゅもきゅと口を動かしていた。味見である。

お披露目会の軽食は全てマグノリアの監修の下作られた。

アゼンダやアスカルドで昔から食べられる伝統的なオードブルやローストチキン等と合わせて、ハムやサーモン、香草、チーズにオリーブ、お馴染みのパプリカピクルス……色々な具材を色とりどりに飾ったカナッペやピンチョス。

グリーンとエビのオレンジがグラスに映えるカクテルサラダ。

グラスに彩りや形を組み合わせて並べたコブサラダ。

色々なソースをつけて食べる魚介のフリッターに、愛らしいカラフルな層が見えるテリーヌ。ひと口大のミートパイ。

小さな型で成形し、こんがり焼いたポテト芋とチーズのカリカリ焼き。

様々な具を挟んだサンドイッチ。クラッカーの上に茹で卵の輪切りを、更にその上には飾り切りのハムやチーズ、キャビアとカラフルな野菜を載せて。

テーブルに付く給仕によって、熱いまま供されるスープはお馴染み骨から出汁を取ったものだ。

彼女お得意のチーズケーキは小さくカットし、一つ一つに生クリームを絞り、花菓子をトッピングした。

濃厚なカスタードクリームの上には宝石のように光る果物を飾って。

果物のコンポートはひと口にカットし、器代わりのワンスプーン。

飾り切りした果物をサイダーに浮かせたフルーツパンチ。

カラフルなカクテルや酒類は、給仕達が常によく冷えたものをトレイに載せて運んでいる。

それらをふむふむと確認して回る。

なかなか好評なようで、順調に消費されているようで安心する。

会場の飾りつけもと言われたが煌びやかな宮殿であるため、特段手を入れる事はせず、お披露目会にふさわしい華やかな花を飾るぐらいであった。

「お嬢様」

呼びかけられ振り向くと、西部駐屯部隊隊長のユーゴとその補佐官のイーサンが、やはり騎士団の制服を着て立っていた。

「デュカス卿にベルリオーズ卿!」

騎士団の中でも一番関わりが深いとも言って良い西部駐屯部隊だが、ふたりに会うのは久し振りであった。

案の定、ふたりは、おや。という表情をした。

「……ベルリオーズ、と言えるようになったのですね?」

素直に感心するような声と顔で指摘をするイーサンに、マグノリアは口を尖らせた。

「……今までも本人的には言っていたのですよ」

「言い難いですからね。『ベ リ(・) ュ(・) リオー ジ(・) ュ(・) 卿』も可愛らしかったですけどね」

ユーゴは目の前の少女の成長に、 鳶色(とびいろ) の瞳を細めた。

子どもの成長は早い。初めに会った頃の姿を思い出す。

二年でマグノリアはだいぶ大きくなった。

「……お忙しいのにわざわざ来てくださってありがとうございます」

パレスの警備は北部駐屯部隊が行っているが、騎士団長家のお嬢様のお披露目との事で各駐屯部隊長が顔を揃えていた。

「勿論それもあるのですが、珍しいお客様をお連れしたのですよ」

「お客様?」

きっと、招待状を出していない人を連れてきたのであろう。マグノリアはユーゴの言葉に微かに首を傾けた。

お披露目会は基本貴族の習慣であるため、貴族が呼ばれる事がほとんどだ。

アゼンダの貴族には招待状が届いている筈なので、平民かアスカルド王国の貴族であろうか。

広間で警備する騎士に目配せをしふたりについて庭へ出ると、そこには懐かしい平民姿の少年がいた。

「アーネスト!?」

思ってもみない人物に、マグノリアは大きな声をあげた。

危うく『殿下』と言いそうになり、慌てて呑み込む。

「お久しぶりです、ギルモア嬢」

最後の別れから二年近くが経ち、十七歳になった彼はだいぶ背が伸び、頬もすっきりと細くなって精悍さが増したように見えた。

だが、人懐っこい笑顔と髪と同じ金色の瞳は相変わらずで、にこにこと笑いながら視線を合わせるように膝をついた。

「随分大きくなられたのですね」

「アーネスト……さん?も」

詐称している(?)身分差なら呼び捨てても差し支えないが、その正体はイグニスの第三王子と解っている。流石に呼び捨てはどうなのだろうかと逡巡して、取って付けたようにさん付けしてみるが……

何かに気づいたように、一瞬金色の瞳を瞠ると、クスリと笑って首を振った。

「どうぞ、アーネストで。久しぶりにこちらの国に寄らせて頂く事になりましたが、入って早々に急遽帰還命令を受けまして……お渡ししたい物がございましたので、部隊長に無理をお願いしまして、連れてきて頂いたのです」

「まあ。お忙しい中わざわざありがとうございます」

「お誕生日だそうで、丁度良かったです」

そう言って、 瀟洒(しょうしゃ) な飾り彫りの小物入れを差し出した。

マグノリアが動きを止める。

(…………。何、コレ。とんでもない宝石とか出てこないよね……?)

セルヴェスといいクロードといい(普段は質実剛健だが)。実家のウィステリアもそうだ。

金銭感覚がまるで違うのだ。

得てしてお金持ちは感覚が違うので、簡単にマグノリアがびっくりするようなモノを平気で渡してこようとする。

……逆の意味で怖いものが出てきそうで恐ろしい。

思わず警戒して手を出さずにいると、クスクスと笑ってマグノリアの手を取り、掌に載せた。

「大丈夫ですよ。とんでもないものは出てきやしませんから。ザワークラウトを取引して頂いたお礼も兼ねておりますので」

マグノリアは慌てて首を振った。

「それはこちらの方がお礼を言わないと! 沢山の国に広めて下さってありがとうございます。それと、症状の様子の絵と記録をありがとうございました」

シャンメリー商会にも利があるとはいえ、各国を長年巡っているかの商会の機動力と信頼無くして、早期の普及は無かったであろう。

売買だけでなく、情報伝達も宣伝も行ってくれたため、シャンメリー商会から購入した人々がクルースに寄港した際、再び購入してくれる事も多かった。

また、治療に夢中ですっかり記録をとる事を失念していたマグノリアであったが、渡された資料は事業を立ち上げる際にも医師に説明する際にも、大いに役立ちとても助かったのであった。

「……ただ、実験の件は肝が冷えましたけど」

アーネストはマグノリアを見て困ったように眉尻を下げた。

「申し訳ありません。わが国でも航海病の解明は急務でしたので、早急に確認する必要があったのです。食事療法を伝授して頂いたお陰で何の危険もなく確認する事が出来ました。結果、沢山の命が救われました。ありがとうございます」

海洋事業を多く抱える国としては、確かに悠長に構えてはいられなかったのであろう。

「資料が役に立ち良かったです」

安心したようにそう付け加えると、さあ、と言わんばかりに小物入れを見た。

マグノリアが少々警戒しながらゆっくり蓋を開けると、中から白いフワフワしたものが飛び出してきた。

「綿!?」

ぎゅうぎゅうに押し込まれていたそれは、軽く弾みながら箱の外へ飛び出した。

悪戯が成功した様子に、アーネストは小さく噴き出した。

「はい。パウルからギルモア嬢が探していると聞いて、献上しに参りました。荷物はお屋敷の方へ送らせて頂きました。来年からは是非お取引を」

そうちゃっかり言うと片目を瞑った。

様になる姿に、マグノリアも小さく笑って頷いた。

「それは是非。それと……もしお時間が許すようであれば、会に参加されませんか? 祖父と叔父もご挨拶したいと思いますし。久々にお話もしたいですし……」

マグノリアが中へと促すと、眉尻を下げながら口を開いた。

「せっかくのお誘いをお断りするのは心苦しいのですが、それはまたの機会で……本日中に出港しなくてはならず、申し訳ありません」

マグノリアは首を横へ振った。

「いいえ。お忙しい所をお引止めして却って申し訳ございませんでした。お気をつけてお帰り下さい」

「ありがとうございます。主役を長々とお借りしてしまいましたね。寒いですので、中へお戻りください」

そう言って、マグノリアに頷いた後、ユーゴにも頷いてパレスの中へ連れていくように促した。

中へ帰るまで見送るように立っていたアーネストを振り返ると、彼は思い出したように声を張り微笑んだ。

「お誕生日おめでとうございます、ギルモア嬢!」

お披露目会の微妙な参加者に比べて、紳士! 好青年!!

流石本物の王子様は違うな~、なんて思っていたのは館へ帰るまでで。

馬車何台分かというような綿の山で埋め尽くされた一室をみて、驚愕の叫び声をあげるのは数時間後の事である。