軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ジェラルドと冒険者ギルド長

(……一体、父上は何をされているのか……?)

広間の中央でブンブンと貴族を振り回して振り落とそうとするセルヴェスと、何故か必死にしがみついている男たちを見てジェラルドは首を傾げた。

それにしても。

(……凄いな。もしや関わりのある貴族の顔と名前が全員一致しているのか)

自分の知るマグノリアと、今のマグノリアがまるで別人過ぎる。

稚(いとけな) い幼子の振りをしているが、全くの偽りであり、下手な大人をも凌ぐ知識を持っていると。

……更に、悪意には吊るし上げも上等といった所か。

王都での啖呵といい、大人相手になかなか好戦的な、肝の据わった娘であるらしい。

アゼンダ領の変化に偵察を送ったが、見てくれと言わんばかりに 敢(・) え(・) て(・) ザルであった。その内容には驚くばかりであった。

ジェラルドは苦笑いをした。

まあ、下世話ではあるが四人組の興味ももっともな事であろう。

女性の地位が低いとはいえ、全く敬われない訳ではない。

王室にも公爵家にも未婚の姫がいない今、王妃と公爵夫人達に次いで、マグノリアは一番身分の高い姫君だ。

一応の序列ではシュタイゼン侯爵家の姫であるガーディニア嬢だろうが、現実的にはアゼンダ辺境伯家の姫でもあり、ギルモア家の姫でもあるマグノリアに軍配が上がるであろう。

その背後に誰が控えているのか見定めたいのだ。

面白可笑しい娯楽のための噂を抜かせば、養子のクロードやジェラルドの妻であるウィステリアの不貞の子と考えるのは難しい。

あの珍しい色合いを見れば、セルヴェスかジェラルドの子――正式な両ギルモア家の血筋である事は容易に導き出せる。

(しかし、想像以上だな……何処で、何が変わった?)

機転も利き、自由闊達で物怖じしないマグノリアの様子を見て、ジェラルドは茶色い瞳を眇めた。

変わったのはあの三つの時であろう。

彼女に何があったのか?

ジェラルドが考えに沈んでいると、ぬっと、大きな気配が近づいた。

「ヴィクターか。元気そうだな」

「君は元気ないね? 落ち込み中?」

「…………」

おかしな赤毛の髪形を見て、ジェラルドは大きなため息をついた。

「ため息つきたいのはこっちだよ~。宰相が、いつになっても辞められないってボヤいてるよ。君のせいだからね?」

一体、何年前の話をしているのか。

ジェラルドは貴公子然とした穏やかな顔でありながら、鼻で笑う。

「行政部へ行くなんて、初めからひと言も言ってない。人を当てにせず、ご自分の長男にでも継がせれば良いだろうに」

「逸材を見た後では、色あせて見えるんだろうねぇ」

「……買い被りだ」

はい、と言ってヴィクターは軽食の載った皿を渡してきた。

マグノリアが領地のみんなと作り上げた食材が載った、オードブルが並べられている。

「食べてごらんよ。別に、憎くて追いやった訳じゃないんでしょうに? 一体、 何(・) が(・) 視(・) え(・) た(・) の?」

(……っ!!)

ジェラルドは努めて平静を装いながら、深く息を吸った。

そして取り敢えず、カラフルな焼きパプリカのピクルスとチーズ、オリーブの実のピンチョスを手に取る。

「……何の事だ」

「いい加減、隠すのは止めれば良いのに。妖精王の末裔」

「そんなものは実体のないおとぎ話だよ。それとも宰相家は伝説を裏付ける何かを知っているのか?」

知っているなら教えてほしいものだ、と続ける。

ヴィクターは肩をすくめた。

「不自然なんだよね、色々。昔から」

「……。偶然だろう? マグノリアに関しては、こっちからの姿しか見たことがない人間には信じられないだろうが、元々はかなり鈍い人間だった。ある日突然……人が変わったんだ」

ある時――とんでもない未来がジェラルドの頭の中を駆け巡った。

セルヴェスが危機回避や真偽を感じる力があるように、ジェラルドには遠見の能力が僅かながらにある。

いわゆる未来が、時には何らかの解答が視えるのだ。

……厄介な事にいつでも使える訳ではなく、希望の物事を見れる訳でもない。順番が前後する事もある。何年も現れない事もあれば、連続して現れる事もある。断片的であり、一方的だ。

映像までは見えないが、何となくという感じで頭に浮かぶ事の方が多いだろう。

人より勘が鋭く、何らかの事象の答えが視えるように頭に浮かぶ事がある。

ジェラルドは宰相になる道を回避し、権力者の娘達との婚姻を避け、派手好きではあるものの、政治事や家政に興味のない一番下心の少ない妻を娶った。

再びの戦争に備える為に領地を整え、陰ながら国力を上げる方向に進めるよう、舵を取る。

勿論、 決(・) ま(・) っ(・) て(・) い(・) る(・) 未(・) 来(・) を出来る限り覆すためだ。

そして数年後、いつかの予知通り娘が産まれた。

……そっと小さな手に触れ、視る。

珍しく容易に映像が目の前に広がった。

愚かな振る舞いをする娘。きちんと教え、導けば良いという範疇を超えた愚かさだった。

そしてやはり、視えるのは愚かな選択をする王家。

娘が産まれ二年程は外れる事もあるのではないかと考えたが、今までどの予知も外れた事が無ければ、それを裏付けるかのように娘は目を疑う程にゆっくり過ぎる成長具合であった。

幼少期は特に個人差があると考えてはいたが、まともな言葉すら出ないことに内心心配が募る。

更には愛情を与えようとすれば大きな代償が必要になると知るのに、そう時間は掛からなかった。

導こうとするのは現実的に無理だと、何度も思い知らされた。

……その事実は、とても人に話せるような内容ではなかった。

そして時を同じくして、娘よりも二年程先に生まれ、育っていく王子も我儘で怠惰だった。

思い切って妻にも一度だけ話してみたが、真面目に取り合う筈もなく、冗談と思ったのだろう。笑われて終わりだった。

全て無くすためにはどうするのが最善なのか。

一生幽閉されて過ごすぐらいなら、幼い数年を閉ざされた世界で過ごし、誠実で純朴な、口の堅い青年と過ごす一生の方が幸せであろう?

(どうせ、お前は王妃にはなれないのだ。どんなにお前が願ったとしても)

珍しく幾つかの未確定な未来が視えた。

初めに視たものから長く王家に組み込まれるのかと思っていたが、違う。

……順番がどれが正しいのかはっきりと解らないが、どちらにしろ好ましい未来ではなかった。

抱き上げる度に視える小さな娘の未来。

勝手に人生を捻じ曲げてくれるなと罵られるのだろうか?

(罵るだけの頭があれば、まだ救いだが……)

たとえ罵られても構わない。

(お前や、家族みんなが本当の意味で、幸福になれるのだとするのなら――)

「……ジェラルド?」

気遣わし気に問いかけるヴィクターに、急いで顔を向けた。

「何だ?」

「……言ったところで聞いてはもらえないだろうから終わりにするけどさ。取り敢えず、奥さんと息子はもう少し何とかした方が良いよ。マグノリアちゃんが関わらなければ、まあ普通の範囲のふたりなんだろうけどさ」

もう知己を得たのか、知らない貴族達と笑顔で会話する妻と、顔見知りの騎士に型の手ほどきを受ける息子を見て、頷いた。

「……解ってる。ありがとう」

珍しくジェラルドが礼を言うと、ヴィクターは一瞬目を瞠って、フッと笑った。

「まあ、マグノリアちゃんは王都に遠いアゼンダで自由にのびのび過ごさせるさ。

……こう考えると、僕がアゼンダに来たのも偶然じゃないのかもね~?」

調子のよいヴィクターに、ジェラルドは苦笑いをした。

「それと、ある日マグノリアちゃんが別人になったって言ってたけど……ありうるね。急に覚醒とか。彼女なら」

疑問を顔に浮かべたまま、無言で続きを促す。

「二年前の年末に、アゼンダで祝福騒ぎがあったの覚えてる?」

「ああ、領都の教会で光が降ったんだったか……」

アゼンダの奇跡という題名で、アスカルドの新聞でも大きく取り上げられていた。

数十年に一度位の割合で起こるか起こらないか、神々の気まぐれだ。

まさか……

ジェラルドの様子をみて頷く。

「そう。彼女のいた日の、彼女がいた教会だった。とある一角に大量に光が降り注いだらしいよ? 何にせよ、不思議な存在だよ、妖精姫」

「……どっちに転んでも厄介だな」

そう言ってため息をつこうとして何かに気づき、息を呑んだ。

(そう言えば、あの時……何故気づかなかった!)

図書室でマグノリアと久々に話した時だ。

ついつい様子の変わった態度にばかり目が行ってしまい、不思議に思わなかった……

まるで、目隠しでもされたように。

(頭に触れたのに、何も視えなかった……?)