軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30、リスクは分散

「っつー! 久々に死ぬかと思ったわ!!」

ガバリと起き上がったラゼは、その勢いのままいきなり文句を飛ばす。

すぐに服をめくり上げ、刺された腹の傷を治癒魔法で塞いでもらったことを確認する。

腹を刺されて起きたら開口一番がこれだ。

ちょうど彼女の様子を見に来たハーレンスが目を瞬かせる。

事件から二十分後。

あまりにも早いご起床である。

「目が覚めたか」

「っ! ビレイン様! これはご無礼を!」

こんな情けない格好で皇弟を迎えてしまい、ラゼは慌ててベッドの上で正座する。

「……元気そうだな」

「ハイッ。すぐにでも任務に戻ります!」

ハーレンスはぴんぴんしているラゼを見て、安堵のため息を漏らした。

「一体何があった? ソッド・リン・テンニースもすぐに目を覚ましたが、ここ数日のことを何も覚えていないみたいだ」

彼はベッドの横にあった椅子を引き出して座る。

ラゼはどう説明したものかと悩んだが、カーナの予言を立証することはできるので、そろそろ報告しなければならないと腹を括った。

禁術まで持ち込まれては、ただの「楽しい乙女ゲームの世界!」って訳にはいかないのだ。

わかりやすく、物語のようにしてカーナが未来を予言することができることを伝え、その中に出てこないはずの自分が邪魔だから殺されかけたことを告白すると、ハーレンスが唸った。

「……確かにそれは、報告が遅れるのも仕方ない。が、君はそれで死にかけたんだぞ? 困った時には頼れと言ったはずだよな?」

「も、申し訳ありません」

彼から初めてお叱りを受けたラゼは、思わずそのまま土下座する。

「ハァ。頭を上げなさい。君にはもっと自分の身を大事にすることを学んでもらわないとな……」

顔をあげると、ハーレンスの困った顔が目に入った。

「しかし、禁術か。手強いぞ? また狙われたらどうする?」

「ああ。それなら知り合いが禁術を相殺する道具を完成させているので問題ないです」

「そんな物があるのか?」

「はい。こちらです」

ぽんと出したのは、一見ごく普通のペンダントだが、国家機密レベルの重要品である。

「……何というか、流石だな」

「はい。凄いですよね。彼は稀に見る鬼才というやつなんでしょう」

「……」

うんうんと同意してくるラゼだが、ハーレンスが言いたかったのは、そんな物をこのタイミングで簡単に取り出せる君が流石ということで、作った人についてではなかった。

「あ。かなり広範囲で使用できますから、ご安心を」

勘違いしているラゼは性能を訴える。

ハーレンスは、彼女に一抹の不安を覚えるのだった。

「時を止める禁術を考えると、帝国の手の者の可能性が高いです。私が狙われる分にはどうにでもなりますが、殿下方に被害が及ぶことだけは避けなくてはなりません。信頼できる護衛を増やせませんか」

「わかった。ガイアスから騎士を借りてこよう」

(げ、騎士か……)

騎士が苦手だから嫌だとは言えなかったラゼ。大人しくハーレンスの決定に従う。

(でも、こうすれば万が一のことが起きた場合、自分だけの責任にはならない!)

みんなで渡れば怖くないってやつだ。

カーナの破滅イベントがどうなるか分からない以上、ひとりで対応するのはリスクが高すぎる。

殿下に事情を説明してガッツリとカーナを囲って欲しいところだが、それはカーナ次第だろう。

「理事長先生」

「どうした?」

先生と呼ばれたハーレンスは、生徒のラゼと向き合う。

「その。差し出がましいことは承知の上で申し上げますが、できることならカーナ様や殿下たちが自然な学園生活を送れるよう、なるべく介入は少なくして頂くことはできませんか?」

ハーレンスはその言葉を聞いて舌を巻く。

彼女も一生徒だというのに、大人がやれば良いことにまで気を回して、疲れはしないのだろうか?

「わかっているよ。だから、君の入学許可も下りたんだ。

これも天が与えた試練なんだろう。あの子たちならきっと乗り越えられるさ」

「ハイ」

ラゼは力強く肯いた。

「平気なら友人たちに顔を出しておいで。君が狙われて倒れた以上、ここに彼女たちを入れるのは危険だったから心配させている。

幸い、テンニースは幻術使いで君も移動魔法の使い手。見えない戦闘があったことになっている。君は腹部に軽傷を負って、ここに運ばれたことになったから、そのつもりで」

「はい。……この度はご迷惑を」

「気にするな。混乱を避け、相手を泳がせるためにバトルフェスタは続行する。君には頑張ってもらわないとね」

「かしこまりました」

ハーレンスが部屋から出て行く。

ラゼも服を着替えて、医務室長に挨拶してから救護室を出た。

通常、治癒魔法をかけられても身体と理解が一致せず、すぐに動けないことが多いのだが、ラゼは数分でまるで怪我したことが無かったかのように回復していた。

医務室長のメリル・ユン・フェリルは、ラゼの出て行った扉を見つめる。

「もしかしてあの子。身体と理解の順応があれだけ早くなるほど、怪我をしたことが……?」

いや、それは考え過ぎか。

メリルは頭を振った。

「もらった服じゃなくて良かったな〜」

メリルの推察通り、人の倍、怪我をしまくっているラゼ・オーファンは、そのことに気が付かないで通常運転。

早く配置に着くために走っていると、途中アディスとすれ違った。

なんでそんな人気のない暗い場所にいるのかなーと疑問に思ったが、スルーして走り去ることに。

「はっ?」

彼はあり得ないものを見た顔で二度見する。

何事もなかったように走り去ろうとするラゼの腕を咄嗟に掴んだ。

「うおっ」

全く女子らしくない声が上がって、ラゼの体が後ろに傾く。アディスはそれを受け止めた。

「な、なんでしょうか?」

「君、こんなところで何してるの? 怪我は?」

そんなに動いて、まさか抜け出してきたんじゃないか? と目線が言っていて、疑われてムッとしたラゼは向き直ってシャツをめくる。

「この通り完治したので平気です」

「っ! 何してんの?!」

アディスは顕になったラゼの腹を見てギョッとし、すぐに服を下げさせた。

「かすり傷みたいなものですから、ご心配には及びません。あ、二回戦進出おめでとうございます。相手は三年生だったのに流石ですね。私なんて戦闘不能になってしまったので、一回戦負けです」

彼女はアハハ〜と笑った。

偉い人は自分は卑下して、持ち上げるべし。

そんなラゼの言葉を聞いて、アディスが被さるようにして彼女を壁際に押し付ける。

「え。あ、あの。ザース様?」

さらさらの御髪に隠れて表情が読み取れず、ラゼは焦った。

何も言わないで、カツアゲされるのは妙に迫力があって怖い。

「……何勝手に、俺以外の奴に負けてんの?」

間近に整ったお顔がいらっしゃり、ラゼの呼吸がヒュッと音を立てて止まる。

拝見したご尊顔は、全く笑っていなかった。

(お、怒ってる。怒ってるよ、閣下の息子さんがっ! そして近い!)

シルバーの瞳に射抜かれて、彼女はカチコチに固まる。

握られたままの腕が痛いし、目線も怖いし、今すぐここから逃げ出したい。

「す、すみま——ムグッ」

取り敢えず、どうやら彼を怒らせるようなことをしてしまったようなので、ラゼが謝罪を口にしようとすると、片手で頬を挟み込まれる。

「全然、謝る気なんてないでしょ?」

「……」

今、だいぶ酷い顔をしていると思う。

ラゼはじとーっと目線で「離せ」と合図を送ると、アディスはついに吹き出す。

「ははっ。ほんっと、かわいくないね」

「そんなの自分が一番よく分かってますよ。美形なザース様は沢山応援してくれる方がいらっしゃって、羨ましいです」

腕を離して貰えたので、ラゼはさっさと彼から抜け出し会場に歩き出した。

アディスはその後ろ姿を見て、一瞬だけ真剣な眼差しに変わったが、すぐにいつもの表情に戻って彼女のあとを追う。

ラゼは彼がついて来るのに気が付いていたが、気にしたら負けだと思い、そのまま無言で観客席に戻った。