軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29、バトルフェスタに赤い唇

燦々と太陽が降り注ぐのは、夏と冬に行われる模擬戦のために設置された闘技場である。

ドームのような設計の建築は冷暖房完備。客席とフィールドの間には魔法で防御壁が張られ、大勢の観客たちがその中心に熱を注ぐ。

ついにバトルフェスタが始まったのだ。

ルールは簡単。

相手を戦闘不能にして「参りました」と言わせれば勝ち。

最後に残ったひとりが学園ナンバーワンである。

「「きゃあ〜〜! アディス様〜!!」」

黄色い歓声がいつもの倍に聞こえるのは気のせいではない。

「久しぶりに聞いたな、これ」

ラゼは観客席からなんとも言えない瞳でフィールドの右端を見つめる。

閣下の息子は性格が性格なのと、殿下の次に優良物件といっていいハイスペック男子だ。

女子が食いつくのも頷ける。

(当たったら負かしてやろうと思ってたんだけどな)

お偉いさんの中には、ラゼ・グラノーリと聞いてラゼ・オーファンにたどり着いてしまうものがいらっしゃる可能性が高い。自分は煙のように存在感を消して、この大会から身を引かねばならない。本当に残念だ。

(まあ、そんなことより、イベントをどうにかしないと)

この大会で行われる乙女ゲームのイベントは、庶民のヒロインが相手の不正で怪我を負い、殿下が駆けつけるという、結構重要なものだ。

天使フォリアに不正で怪我を負わせるなど言語道断。

カーナも手を回してくれているが、ラゼも獣のような瞳で真剣にフィールドを観察していた。

「ラ、ラゼ。緊張しているの?」

そんな彼女のオーラに当てられたカーナが、少し驚いた顔で彼女に尋ねる。

「はい……。私、剣術はそこそこ出来ますが、得意型が得意型なので、こういう模擬戦は苦手で」

きっとここに彼女の部下たちがいたら、ブンブン頭を横に振って「そんな訳ないだろ!」と指摘しただろうが、彼らはバルーダに遠征中である。

『それに、フォリアに何かあったらと考えると、心配で』

『そうね……。わたくしの方でも色々チェックはしているわ。何も無ければいいのだけれど』

カーナに何かあれば惚れている殿下が真っ先に飛んでいくと思うが、怪我人はよろしくない。

カーナも夢中で観戦しているフォリアに視線を移した。

『心配しなくても、殿下はカーナ様を大切にされてますよ。その髪飾り、星祭りで彼からもらったのでは?』

『えっ。なんでわかったの?!』

頬を赤らめるカーナ。

カマをかけたのだが、分かり易すぎて笑ってしまう。

『その髪飾りのモチーフの花、この世界では「ミューレ」と言うんです。花言葉を調べてみるといいですよ』

ミューレの花言葉は、「誰にも渡さない」。

ちょっとゾッとしてしまうのだが、ルベンのことはカーナ大好き皇子としてしか認知していないので、お似合いだろう。

そこで再び華やかな声が上がり、試合が終わったことを知る。

どうやら、閣下の息子さんは三年生相手に勝利してしまったようだ。さすが規格外。

「そろそろ招集がかかるので、行ってきます」

それを合図にラゼは席を立つ。

「応援してるわ。頑張って。これ、お守り」

カーナは紫色に銀の刺繍が入ったリボンをラゼの腕につけた。

それは戦に出る前に恋人や妻が戦士たちに送るしきたりだった。もらった者は、彼女たちに跪き、命をかけて帰ってくると誓うのだ。

これは女神に報いて、いい勝負をしないと示しがつかない。

「仰せのままに。頑張ってきます」

ラゼはカーナに跪いて、その手にキスを落とした。

「わぁっ。素敵!」

フォリアが目を輝かせたが、その向こうから殺気の混じった視線が突き刺さってくる。

“お前、覚えてろよ?”

殿下の目がそう語っていたが、ラゼはそそくさとその場を後にした。

どうせ、ヤキモチを焼いてカーナといちゃいちゃすることが明らかなので、すぐに退散したのである。

そんな経緯で、ラゼは二年B組の先輩と対戦となる。

時間が長引けば長引くほど、注目を浴びてしまうので、うまい具合で負けなければならない。

ラゼは剣を構えて、ソッド・リン・テンニースと対峙した。

「お願いします」

「……」

最初の挨拶くらいしてくれてもいいのに、と思うが試合開始のゴングが鳴る。

「……$+〆%*:」

「え?」

それと同時に聞き取れない呪文のような言葉が彼から紡がれた。

おぼろげで焦点の合わない瞳が、ラゼを捉える。

(なんだ?!)

彼女は咄嗟に彼と距離を取ろうとするが、幻術にかかったのか身体が動かない。

彼の後ろに黒い霧が現れたかと思えば、その中から何かが姿を見せる。魂が抜けてしまったようなソッドはそのまま崩れ落ちた。

亡霊のように出てきたのは、黒いマントを口元まで被った女。

「ごめんなさい? あなたは本当はこの世界にいないはずの存在なの。出しゃばりなモブはお暇してくださいですって。これ以上、ワタシたちの計画を狂わせないで頂戴な」

真っ赤な唇に、真っ赤なネイル。

まるで魔女のようなその女は、時が止まったように動かなくなったラゼの顔に手を這わした。

「グッバーイ」

懐から剣を取り出して、うっとりとそれを見つめると、ラゼの心臓目掛けて一直線。

ドサリ。

時が動き出したフィールドには、ソッドとラゼが揃って倒れていた。

突然の出来事に、観客たちには混乱が走る。

「おいっ。しっかりしろ!」

審判をしていた教師がラゼを起こす。

騒ぎに気がついたハーレンスがすぐさま幻術を張った。

「グラノーリ!」

「り、じちょ……」

ラゼの白いシャツに、赤い血が滲んでいた。

(ギリ、セーフ……かな……)

肌に剣が当たった直後に、魔法が使えるようになったラゼは辛うじて傷の位置を腹にずらしていた。

呪いの古傷を隠さないと後々面倒なので、回復魔法より先に幻術を張る。気を失ってもしばらくは保つだろう。

(禁術は反則でしょ)

まさか自分が狙われることになるとは。

時間を止めるという禁術にかけられたのはこれで二度目だ。

シアンの亡霊を止めようと、マジェンダ帝国が生贄を差し出して時間操作の魔法を使用して来たことがあった。あの時は未完成だったので、ラゼの力技で打ち破ったのだが、今回はそう上手くはいってくれなかった。

「ウッ」

ラゼは女の術を解こうと無理やり魔石を起動したため、激しい頭痛に襲われる。

フィールドで情けない姿を晒してしまい不覚と感じつつ、彼女の目の前は真っ暗になっていった。