軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20、おひとりさまピクニック

だんだん日が長くなり、制服の上着もクローゼットでお留守番するようになってきたある日の休日。

ラゼはいつも通りズボンにシャツという私服で、自分の机の上に「予言の書」とも呼べるカーナの手記を自分用に写したノートを広げた。

「さてと」

ルームメイトのフォリアは今日、自主練習に付き合ってくれたルカ・フェン・ストレインジにお礼をすると言って商店街にお出かけ中だ。

さりげなくイベントが発生しているのを見落としそうになるのは、フォリアには他に好きな人がいて、攻略対象者たちを全く意識していないせいだろう。

ラゼは終わったイベントにチェックをつける。

フォリアが誰と付き合うのかはさておき、カーナの破滅は、自分の破滅。

そういう訳でラゼはカーナが破滅しないように日々この予言の書を開いて、とある事をしていた。

「んーと。順番的に次は殿下とフォリアが物置きに閉じ込められる、か。これは却下だな」

ラゼはノートにばつ印をつける。

何をしたかって?

それは勿論、殿下とフォリアに関するイベントをなきものにするスタンバイだ。

他の攻略対象であれば、正直どうでもいいのだが、ルベンとの恋だけはご遠慮頂いている。

誤解されないように言っておくと、決してこれはフォリアに対する嫌がらせなどではない。ちゃんと彼女の意思も尊重して、ルベンとのフラグは無かったものにするだけである。

「問題はカーナ様がかなり鈍い事なんだよな……」

鈍いというか、自信がないというか。

あれだけイチャイチャしている癖に、シナリオへの不安が拭えずルベンに頼ろうとしない。

それどころか「自分は破滅に向かう運命なんだ」なんて思い込んでいる節が多々見受けられ、訳を知っているラゼからすると危なっかしくて仕方ない。

「本当にどうしようも無くなったら、私が(命をかけてでも)何とかするからいいんだけどさ……。せっかく華のスクールライフを送れるんだから、楽しまないと、ね!」

彼女はにやりと口角を上げる。

ばつ印をつけた文章の下に、矢印を引き「殿下とカーナ様に変更」と書き加える。

あとはイベントの発生に合わせて、細工をするだけだ。

「今日はルカ様とお出かけだし、殿下はカーナ様とお茶会だから警戒レベルは低いかな」

そこでグゥ〜と腹の虫が鳴いたので、昼食を摂ることにする。

とてもいい天気なので、テイクアウトにして外でご飯を食べることにして彼女は寮の食堂へ。

「あ。ラゼ! おはよう〜」

「おはようございます。アリサ先輩」

そこでアリサとばったり出会す。

彼女の後方に、マリーの姿を見つけたラゼ。

よく見るとノーマンと向き合ってチェスをしていた。

「今日はチェスですか」

「うん。今日はチェスなの」

だいたいラゼがマリーを見かけるときには、ハーレンスの息子と何かしら争っている。

アリサは苦笑い。

「この後、勉強教えてくれるって約束だったのに。まあ、見てて面白いからいいんだけどね」

「お似合いですよね」

「うん」

マリーとノーマンも、カーナとルベン並みに見守りがいのあるコンビだ。ラゼはアリサに同意する。

「あ、ドレイスだ。ちょうど良いところに! じゃあ、ラゼ、またね!」

アリサは眼鏡をかけた寡黙そうな男子生徒を見つけると、彼に駆け寄っていく。

「ドレイス! 勉強教えて! 頼む! この通り!!」

勢いよく頼み込んだアリサに、ドレイスと呼ばれた青年はちょっと迷惑そうな顔をしたが「どこがわからないの?」と彼女に尋ねる。

とても微笑ましい出来事に、ラゼは目を細めた。その表情からは前世を含めた年季が感じられる。

彼女は穏やかな面持ちで、サンドウィッチとお菓子もテイクアウトし、訓練場の先にある裏山へ。

ここには人気のない場所を好むカップルも近寄らないので、気を遣わずゆっくりご飯が食べられる。

「ふんふふーん」と鼻歌を歌ってだんだん坂がきつくなっていく森を進むと、たどり着くのは崖。

目下には雄大な自然が広がり、飲み込まれそうなパワーを感じる。

朝のランニングで偶然見つけた場所だ。

この学園は一体、どんなところに建っているんだ? と気になるところではあるが、場所が特定できないようにハーレンスが幻術をかけているので概要は分からないまま。

何も注意がないことから、この崖も見せかけのものなのかもしれない。

ラゼは適当に木陰に座り込むと昼食を広げる。

「いっただっきまーす」

たまにはこうしてひとりでご飯を食べるのも悪くない。

気持ちのいい風が木々を揺らすのを聴きながら、ラゼはもぐもぐと口を動かしていた。

さすが貴族サマの集まる学園の食堂。サンドウィッチですらレベルが違う。

しばらくするとガサリ、と自然にはない無い音が背後に聞こえる。

「ここは——」

裏山の先に初めてたどり着いたらしい彼は、驚いた様子で立ち尽くしている。

その人物に、ラゼは不満を込めてズゴゴゴ、とストローで飲み物を啜った。

その音に、海よりも深い青色をした髪が、さらりと揺れる。

「……なんだ。君か」

「おはようございます。ザース様」

せっかく有意義な時間を過ごしていたのに、残念な限りだ。

「こんなところで何してるの、特待生?」

実技でアディスを負かして以来、彼の当たりが少しばかり強くなった気がしている。

頼むからお父様に「生意気な庶民がいるんだ」なんて告げ口しないで欲しい。切実に。

「ご飯を食べています」

近くに閣下の顔があって、ラゼには目線を上げることが阻まれるが、嫌がる素振りを見せるのはご子息に失礼だ。

彼女は鍛え上げられた精神力を駆使して返事をすると、アディスがこちらに歩いてくる。

お嬢様には絶対に有り得ない胡座姿のラゼに、彼は眉を寄せた。

「君さ。もう少し何とかならないの?」

彼女が制服とドレス以外でスカートを履いているところは見たことがない。

シャツはちゃんとシワが無いものを着ているし、ズボンもそこそこいいものを履いているが、普通、この学園にいる女子ならば、身分がどうであれもう少し身なりに気を使う。

何を指摘されているのか直ぐに分からなかったラゼは首を傾げたが、慌てて姿勢を正す。

「お見苦しいものを。大変失礼致しました」

アディスは正座で改まった口調になったラゼに、そうじゃないと言いたかったが素直に言葉が出てこなかった。

彼女は、突っかかってみてもこうやって馬鹿真面目に返答をするものだから、面白くない。

他の女子だったら、もう少し可愛げのある反応をしてくれるのに、彼女はいつも決まって正しい返答をする優等生。

どうしたらこの優等生の仮面が崩れるのか、アディスには分からなかった。

さらに困ったことに、いつも驚かされるのは自分の方で、認めたくないが彼女には剣で負かされている。

やられっぱなしは彼の趣味ではないので、無意識に彼女と張り合っていた。

「お邪魔でしたか? 今退きますので」

何も言わないでいるとそう捉えられてしまい、彼女は片付けを始めようとする。

「ちが、ああ。もう」

アディスは頭を掻いて、ため息を吐く。

「ここにいていいから。退けなんて一言も言ってない」

いつもの女子に優しく接している彼には珍しい、ぶっきらぼうな話し方にラゼはハッとする。

(まずい。もしかしなくても、機嫌を損ねた?!)

上司の息子から不評を買って、不遇をかこつことになれば、職場で虐められるかもしれない。

この場から逃げ出そうとしたのが裏目に出てしまった。

「わかりました。すみません。あの、よろしければ焼き菓子は如何ですか?」

今度はご機嫌とりへと舵を切るラゼ。

菓子で機嫌を直そうなど、子どもかお年寄りの発想である。

「……」

アディスは差し出されたお菓子の袋を見て考える。

女子にお菓子を勧められることくらい何度もあるが、彼女からは珍しい。

でも、ちょうど持っていたからお裾分けです。というのがひしひしと伝わってくる。

ちょっと考えたあと、アディスはそれを受け取りラゼの側に座った。

女子たちから逃げるようにしてここに来たので、昼食をとっていなかったのだ。

「あ、飲み物も出しますね」

転移の魔法で飲み物もアディスに持たせて、一通りやるべき接待を終えたラゼ。

アディスは先にジュースを飲んだ。

(まつ毛、なっが!)

目を伏せた彼を見て、ラゼは心の中で声を漏らす。美形め、羨ましくなんてないぞ! と叫びながら、目のやり場に困った彼女はサンドウィッチにかぶりつく。

美味しそうに食べるとカーナとフォリアに評判のラゼは、今日も幸せいっぱいに頬を膨らませる。

「はぁ〜。美味しかった〜」

夢中になって完食すると、アディスが目を丸くして自分を見ていた。

彼はこんなに嬉しそうな顔をしているラゼを間近に見たのは初めてだったのだ。

「ところで、ザース様は何故こちらに?」

完全に存在を無視していたことを思い出し、ラゼはアディスに問う。

「女の子たちから誘いが止まなくてね」

(うわ。腹立つな)

つい昨日、来月にルベンの誕生日会をやることが非公式ながら発表された。学生がホールを借りて行うパーティーだ。

その主催者は婚約者であるカーナである。

彼女は生徒会長の協力を仰ぎ、着々と誕生日会の準備を進めている。毎日忙しそうだが、とても楽しみにしていることが良く伝わってくる。

アディスはそのパーティーのエスコート役を頼み込まれているようだ。

ラゼは上司の息子さんの誕生日会なので、一応顔を出す予定ではいるが、貴族サマのようにドレスをポンポン買える立場にいないので出席するかは悩んでいる。

「そうでしたか。さすが『青の貴公子』でいらっしゃいますね」

恥ずかしい二つ名だこと。

ラゼの心中を察したのか、アディスはすかさず応える。

「ハハ。いつの間にかそう呼ばれるようになってたんだ。俺には貴公子なんて呼び名は勿体ないよ」

ふたりの間に何かが走った。

(食えない奴)

(食えない人)

揃って仲良く同じことを思うアディスとラゼ。

((バトルフェスタで当たったら、絶対負かしてやる))

案外、息はぴったりだったりする。