軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9、初対面

休憩が終われば、一行は旅路に戻る。

のんびりピクニック気分を楽しんだ後、リッカは再び馬車に乗り込もうとするところだった。

「――あっ!」

こちらに向かって飛んできた声に、ぴたりと身体が固まる。

気付かなかったフリをして、そのまま馬車に乗ってしまおうとするが――。

「ま、待って!」

彼女の引き止める言葉と、前にいたミザロに睨まれるから、リッカは足を止めるしかなかった。

覚悟を決めて、後ろを振り返る。

そこにいるのは黒い聖女服を着た、友だ。

「急に引き止めて、ごめんなさい。姿を見かけた時から、ずっと話したいと思ってて……!」

フォリアの優しい笑み。

彼女とこうして顔を合わせるのは、いつぶりだろう。

「……お声をかけてくださり、ありがとうございます。聖女様」

「ううん。わたしも歳の近そうな女の子がいてくれて、すごく心強いんです。リッカ・バウメルさん……ですよね?」

「――はい」

リッカは笑顔を貼り付け、こくりと頷いた。

「どうぞ、リッカとお呼びください。もしよければ言葉も砕けていただいて、ぜんぜん大丈夫なので!」

「……そうかな? じゃあ、リッカちゃんって呼ばせてもらうね!」

相変わらずの、天使スマイルだ。

「――聖女様。そろそろ出発ですよ」

「あっ、うん。今行く!」

彼女はシンディに返事をすると、リッカを振り返る。

「これからよろしくね。リッカちゃん! それじゃあ、また後で!」

天真爛漫でキラキラと宝石のように輝く緑の瞳は、すごく眩しい。

リッカも目を細めながら「はい」と返事をして、次こそ馬車に足をかける。

その一瞬、ちらりとこちらに背を向けて前方の馬車に向かうミルクティーブロンドの後髪が揺れるのを捉えて、

( 私(・) がラゼ・シェス・オーファンだって、認識できなくても、フォリアは変わらないなぁ)

――そう思う。

たとえ、魔法で「リッカ」が誰か分からない初対面の相手だと認識していても、こうして話しかけてくれるフォリアはフォリアのままだった。

ああ、彼女は前もこんな風に歩み寄ってくれたよな、と。

セントリオールで初めて会った日のことを思い出す。

『わたし、ラゼさんともっと仲良くなりたいんですけど、だ、ダメかな?』

『――じゃあ、これからはラゼちゃんって呼ぶね!』

あれから、もう五年が経とうとしていた。

その間、本当に色んなことがあったが、ラゼ・グラノーリが学園を去り、ラゼ・シェス・オーファンとして彼女たちと再会して。

それからも、フォリアは友達でいてくれた。

手紙のやり取りは頻繁にしていたし、たまの休日には遊びにだって行った。

――しかし、今は、ラゼとして彼女の前にはいられない。

別に、最初からフォリアに話を通して、リッカがラゼだということを黙ってもらっていれば、認識阻害の魔法を使う必要はなかった。

しかし、あの過保護なモルディール枢機卿殿と、ラゼの「彼女に嘘はつけない」という進言で、フォリアの保護のためにこの手段が選ばれた。

フォリアは優しい人だ。

視察の旅先は元敵国で、何が起こるかも分からない。

そんな中、シアン皇国軍で最強と謳われるラゼの存在を彼女が知っていると、動きにくいことがあるかもしれない。

たとえば、味方が死にそうなところを助けにいかない「リッカ」として振る舞うラゼを見られたり。

逆に、自分の命が危なくても、「リッカ」として死を覚悟するラゼを見られたり。

そんなことが、あるかもしれないし、ないかもしれない。

彼女に施された魔法はフォリア自身のためであり、かつ、異例にもこの仕事を受ける事になったラゼのためでもあった。

認識阻害の魔法自体は、諜報活動や被害者保護などの関係でよく使われるもの。

フォリアはラゼを忘れた訳ではない。

純粋に、リッカはリッカとして別人に見えているだけだ。

(……こっちはちゃんと偽装できた、か……)

ここで「ラゼちゃん?」なんて呼ばれても困るのだが、何故だろうか。少し寂しく感じてしまうのは……。

(…………こんな感情は、リッカに不要だな……)

前を向き直すと、リッカは馬車の荷台に乗り込んだ。

フォリアにそんな魔法を使って、視察隊のメンバーに怪しまれないのか。という疑問についても心配いらない。

彼女にはそもそも、シアン皇国屈指の保護魔法の使い手から、攻撃を受けると自動で起動するプロテクションが掛けられているのだが、その魔法のお陰で認識阻害の魔法が非常に分かりずらくなっているのだ。

ちなみに、保護魔法の使い手というのは、ギルベルトのことである。

ファンタジーではありがちな、バリアとか結界の類を使える魔法で、治癒魔法までとはいかないが、かなり珍しい得意型だ。

(……あの人、手合わせした時はバリアなんて使わなかったのに……。まあ、手の内を見せなかったのはお互い様なんだろうけどさ……)

特別授業の事件後、ギルベルトと一戦交えた時には、完全に勝ったつもりでいた。恥ずかしい話である。

シアン皇国騎士団のエースと呼ばれる男の力量は、あんなものではなかったのだ。

きっと互いに本気でやっていれば、勝敗は簡単に付かなかったはずだ。もっと言えば、死闘になっていただろう。

「――リッカさん。大丈夫っすか?」

物思いに更けていると名前を呼ばれる。

御者台に座ったハルルが、こちらを覗いていた。

さっきのフォリアとのやり取りを、彼が見ていなかったはずもない。

「はい! しっかり休憩できたので準備ばっちりです!」

リッカとして、準備が整ったことを伝えるのと一緒に、フォリアのことも問題ないと頷いた。