軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5、物資の支援者

「荷物の最終点検が終わったみたいっす」

「わかりました。 し(・) ま(・) い(・) に行きます」

ハルルに呼ばれて、テントの中で待機していたリッカは腰を上げる。

こんな何もない辺境で旅の支度を整えるのはどうかと思うのだが、先方にも内容を確認させるためにやっている。

案内された先には、山のように積み重ねられた食糧や武器に必需品。

「――? あぁ!」

その前に立っていたひとりの青年は、リッカに気がつくところりころりと表情を二度変えた。

手に持っている書類は、荷物のリストだろう。

特徴的な糸目をした彼だが、分かりやすく笑顔になった後、リッカに向かって歩いてくる。

「いつも贔屓にありがとう! 本当に!!」

彼はリッカの手を取り、感極まった表情で彼女の手を両手で振った。

あまり感情の波がない人だったと思うのだが、この様子だとかなり喜んでもらえたみたいだ。

学園時代にお世話になった先輩に恩が返せてよかった。

「お久しぶりです。ユーグさん」

「元気そうで何よりだよ! 話を聞いた時には驚いた!」

今回、視察団の後援を務めることになったミュンヘン商会の次期当主であるユーグ・ミュンヘンは、リッカの協力者だ。

急に必要なものが増えた時に頼めるよう、彼には前もって「リッカ」の話は通してある。

が、この姿で会うのは今日で初めてだ。

そんなに分かりやすかっただろうか。

(……まあ、最初は誰か分かってなかったみたいだから、大丈夫かな……?)

彼の最初の反応を振り返ってみたが、多分、リッカの情報を知っていたから気が付けただけだろう。

顔には出さず、彼女は切り替える。

「あたしもユーグさんが取り仕切ってくださるとは思っていませんでした」

「……実を言うと、後を継ぐための試験でもあったんだ。抜かりなく準備させてもらったよ」

「流石です」

こういう時にこそ、自分の権限とやらを使わずしてどうするか、と。

優先して打診が行くように、少しばかり手を加えさせてもらったのは、枢機卿様から視察の日程を聞かされた直後だった。

その時点で、出発まで一ヶ月もなかった。

準備の時間はそんなに長くはなかったはずだ。

つい最近まで学生だったのに、立派に家業を継いでいて尊敬する。

リッカはユーグに案内され、簡単にどこに何がまとめられているのかの説明を受けた。

転移で喚び出す必要があるので、前もって何が用意されるかは確認をしているし、すでにマーキングも済ませてあるが、改めてすごい量だ。

支援物資も積んでいるので、戦の準備と見紛う用意である。

「……リッカさん。ミュンヘン商会の若旦那と知り合いだったんすか?」

ユーグが部下に呼ばれて少しの間自由になると、交友があったとは知らなかったハルルが口を開く。

「はい。好きなお菓子とか取り寄せるのに、今でもお世話になってます」

「あー、なるほど」

期間限定品に弱かった彼女はもういない。昔は逃しがちだったチャンスを、彼のおかげできっちり掴めている。

ふふんと上機嫌な様子に、ハルルは彼女たちの関係性を理解して肩をすくめた。

「――なんだって!?」

すると、そこでユーグから大きな声が上がる。

リッカとハルルは揃って顔を見合わせた。

ユーグが足早にテントから出ていくので、ふたりもそれについて行く。

そして、その先にあったのは、白を基調とした荘厳な馬車の列。

「教会側から差し入れだと……馬車八台分の荷物が到着しました……」

ユーグに告げられるのは、全く予想だにしていなかった報告。

まあ、言ってしまえば「有難迷惑」というやつだ。

出発直前だというのに、とんでもないことをしてくれる。

一体何のつもりで、頼まれてもいない支援を差し入れて来たのだろうか。

すでに使者だと思われる聖職者と、隊長シュカが話をしているところで、ユーグも慌ててそちらに走っていく。

「……出発が遅れそうですね」

「そうっすね……」

リッカはただの荷運び役。

ことの成り行きを何処か他人事のように見守る。

そして、ふと。

なんの前触れもなく、言葉を交わしていた中でユーグがリッカを振り返った。

「……ん?」

自分が見られているのは、気のせいか?

リッカは何となく嫌な予感がしてきて、隣のハルルに視線を逃す。

「なんか、こっちに来ますよ?」

前を向いたままのハルルは、不安になる情報を報告して来た。

観念してそちらを向けば、そこにはユーグが立っている。

「リッカさん……」

「どうかされましたか?」

リッカは聖女の視察隊に快く参加した者として、彼と向き合うことから逃げられなかった。

差し入れと言うには、見栄えを意識した馬車を引き連れてやって来た彼らのことを、リッカはあの枢機卿から何も聞かされていない。

唯一、彼から言われていたのは、教会はこの視察を利用するためには多少の無茶や犠牲は気にしないという話くらいだ。

「あの荷物も運べないかな。……収納魔法が使えないなら、自己責任で勝手について行くだけだと仰っていて……」

「わあ……」

まるで、厄介ファンのようだ。

リッカはここではない世界の記憶を思い出して、頬を引き攣らせる。

何となく、黒髪金眼の聖職者が酷く顔を歪めている姿が脳裏に浮かんだ。

フォリアの護衛に自分を付けたくなる気持ちが、今になって分かってくる。

(一応、収納魔法の平均値から調整してユーグ先輩に物資を用意してもらったんだけどな。……仕方ない……)

ここで断れば、シアンの名が廃る。

運ぶことしかできない冒険者でも、国の代表としてここにいるのだから、引き受けてみせるのがリッカだ。

「わかりました。全てお運びしますので、そのようにお伝えください」

「――ありがとう!」

ユーグは了承を得ると、また白い馬車の方に戻った。

◆◆◆

その後、話がついたらしいので、リッカはまず最初にユーグが用意した荷物を収納……したことにする。

「これでよしと。次は馬車の荷物ですね」

一瞬で違う場所へと荷物を移し、次は例の差し入れ(笑)を回収しに行く。

ほぼ間違いなくゼールとは違う派閥の者だと思われる聖職者たちを横に置き、リッカは苦もなく物資をその場から消してしまった。

「……あいつ……」

監視していたシュカが瞠目する。

同行する気満々だったらしい教会側の人間たちも、呆気なく理由が排除されて唖然としている。

これだけの収納魔法が使える人間は、そういない。

たったひとりでこれだけの物資を運べるとなれば、先の戦争でも重宝されていたのではないか。

――勘の良いものなら、そこまで気が付ける。

軍人が専属護衛に着く事情だって、察せるはずだ。

「荷物は全て回収しました!」

リッカが元気に準備の完了を告げるのを、シュカは黙って見ていた。

「ただの足手纏いってわけじゃなさそうだねぇ。シュカ兄」

彼の隣にいた斥候の短剣使いは、彼の心を読むかのように言葉を紡ぐ。

気の抜けた話し方をする小柄な少年だが、ソルド・レッグスは「冷徹の旋風」という二つ名で知られる実力者だ。

帝国で、外に戦力を割かれている間、ひとりまたひとりと削られる人員の中で内側を守って来たのは「冒険者」と呼ばれていた者たちだった。

働いても金なんてほとんど得られない環境で、ダンジョンで資材を集めて害獣を駆除していた雑用係も、この数年で淘汰されてそこそこの強者だけが生き残っている。

シュカ・ヘインズも、その内のひとりだ。

捨て駒の兵士として死ぬか。

害獣に喰われて死ぬか。

つい先日まで、彼らにはその二択しかなかった。

しかし、今や人の矜持すら守れず死ぬ脅威と戦う羽目になっているのだから、人生なんてクソ喰らえだった。

あの国で生きるということを、恵まれたシアンの人間たちには理解できないだろうし、されたくもない。

ただ、それでもここまで圧政を潜り抜けて来た同志たちを救う為に聖女とやらの力が必要だと言うのなら、そんな自我は捨ててやる。

それが、シュカの覚悟だ。

「仲良くなっといた方が便利そうだよねぇ」

まだ十四歳だというのに、周りの大人に気を遣って育ったソルドが言う。

「……変に気を回すな。お前はお前のやるべきことをすればいい」

シュカは晴れた空と同じ色をしたソルドの髪を、ぐしゃぐしゃと雑に掻き回した。