軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ 結婚式

「あのねえ、メリンダ。あなた、『結婚しました』という手紙だけ寄越して、それ以降音沙汰無しとは、どういう了見だったのかしらあ?」

「いや、その」

「しかも、『そういえば結婚しました』だったわよ」

「簡潔な方がいいかなって…」

「大体、再婚って何!?もっと早く言うものじゃないの?」

「急に決まったもので、すみません…」

「「「それで1年近く何もないって、あなたねえぇ!?」」」

「ご、ごめんなさ〜い!」

せっかくの結婚式の日、晴れの日だというのに、お姉様たち3人に詰め寄られていた。

いや、全面的に私が悪いんだけどさ…。

こんな日までお叱りを受けているのだから、私って一生こうなのかもな…。

「あなたののんびりさは、本当にお父様にそっくり」

一番歳の近いお姉様がそう言うと、他の2人がこれでもかというほど強く頷いたのだった。

すみませんでしたってぇ…。

しゅんとしながらも、久しぶりに会った姉たちのお小言をしっかり受け止めていた。

私はシリル様との約束を果たすために、ウェディングドレスを身に纏っていた。

あまり肌見せのない、レースがふんだんに使われたドレスは、身は引き締まるようだった。

ちなみにこのドレスを選んだのは、シリル様だ。

「他の人にあまり肌は見せたくないから」と言うのだけれど、式自体身内しかいませんからね!?

なんでそんなこと言うんだと思ったけれど、本人がいたって真剣だから、素直に受け入れた。

シリル様が選んでくれるというだけで、結局は私にとって特別なのだ。

私とシリル様の式は、小さな教会でしたのだった。

参加者は本当に身内だけで、クラーク家からは私のお父様と、遠くに嫁いだ姉たち3人と、姉の旦那様たち。

ルース家からは、この春結婚したばかりのフェルナンド様とルイーゼ様、それからエルウィン様とアレン様だ。

友人代表ということで、ネイデンさんも出席してくれた。

堅苦しい式にはしないからというと、仕方ねえなあ、と言いながら承諾してくれたのだった。

先日隣国に輿入れされた3の姫である、イングリッド様からは便りが届いた。

隣国の文字で書かれた、おめでとうという言葉とともに、『舞は役に立ったわよ』という近況まで載っていた。

どうやら姫様が行くまでの間に開かれていた隣国の知識共有会は、意味のあるものへと実ったらしい。

よかったよかった。

「私たちがそれぞれ遠いところに住んでいるからってねぇ」

「妹のためなら、ちゃんと来るわよ」

「そうよ、メリンダもそれくらいわかっているでしょう?」

「はい、でも、ご足労をあまりかけたくなかったし。お姉様たちは子どももいらっしゃるし」

「あなたはいつまでも、可愛い妹には変わりないでしょう?」

お姉様たちに囲われて、詰められながら、シリル様とは違う愛を感じる。

甘やかされているなぁ。

「しかも、私たちの中で一番身分が上の家に嫁いじゃって」

「そういうところが末っ子のメリンダって感じだわぁ」

「というか、あなたあんなにも年上の方で大丈夫なの?」

次々と訊かれる質問に答えていくのがやっとだ。

そうだった、お姉様たちってよく喋るんだったわ。

この感じ、懐かしいな。

今はルイーゼ様がいるから多少賑やかになったけれど、シリル様もお喋りというわけでもないし、フェルナンド様も寡黙な方だ。

家の中は静かなことが多いし、それに慣れてきたわけだし、居心地もいい。

以前の家族の形の方が新鮮に感じるくらい、私はもうルース家の人間みたいだ。

「年上だけど、全然問題ないですよ。シリル様はお優しいですし」

「でも、おじさまではあるじゃない」

「私たちの方が年も近いくらいなのに」

「そうよ、私たちのお父様とそんなに変わりないじゃない?」

「シリル様はお父様と違って、おじさんじゃないですっ!」

ムキになって反論すると、お姉様たちの「あらまあ」というニヤけた顔が返ってきた。

それから、くすくす笑うひだまりの声が聞こえた。

「私は、おじさんだとは思うけどなぁ」

振り返ると、私が選んだ正装を着ているシリル様が立っていた。

うん、やっぱりスカイグレーにしてよかったな。

司書の制服を見た時に似合っていると思ったから、同系色のもう少しシリル様っぽい色にしたんだけれど、正解だったみたいだ。

自分の服はなんでもいいけど、シリル様の服の色選びは楽しかったりする。

私としても、面白い変化だなと思う。

「そんなことないです。あと50年くらいは生きてもらうつもりでいるんですから、まだ人生半分もいってませんよ」

「あははっ、それは長生きだなぁ」

「そうですよ、余生は私と過ごしてもらうんですから」

「奥さんの言うことは絶対だものねぇ」

「それは言い過ぎです」

私とシリル様の軽口に、お姉様たちはぽかんとしたあと、急に抱き締められた。

「えっ、わ!」

3人の腕が重なって、ぎゅうぎゅうにされた。

ドレスが乱れちゃいますよ、と言う前に、一番上のお姉様に頬を撫でられた。

その顔が懐かしそうに目を細めていた。

「お母様みたいね、メリンダ」

「え?」

「それだけ言い合える関係性なら、大丈夫そうね」

3人とも安心したように私を撫でまくるから、末の妹でいるしかなくなってしまった。

会ったことのないお母様も、お父様に対してこんな感じだったのかな。

ふふ、お母様みたいなのは、うれしいものがあるなぁ。

お母様は、私のドレス姿を喜んでくれているのかしらね。

「伯爵様、うちの妹は少々貴族離れした子ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

「ええ、おかげで毎日楽しくさせていただいていますよ」

シリル様は眩しそうに、私を見つめた。

「メリンダのおかげで、我が家は活気が戻りましたので、とても感謝しているんです」

「そうですか、妹はお役に立っていますか」

「いないと困るくらいです」

シリル様は伯爵当主としても、夫としてもそう言ってくれている気がして、お姉様たちと一緒に私の顔も綻んでしまうのだった。

「おめでとうございます、メリンダ様!」

「ルイーゼ様も、今日はありがとうございました」

「すっごく綺麗でしたわ〜!」

ルイーゼ様に両手を握られて、はしゃいだように褒めてくれるから照れてしまう。

ルイーゼ様の隣に立つフェルナンド様が、いつもより表情を和らげて笑っていた。

「メリンダさん、ありがとうございました」

フェルナンド様にそう言われて、首を傾げてしまう。

「私、何かしましたっけ」

「父と結婚してくださいましたよ」

「それは、私の方がありがとうございます、ですよ。皆さんが受け入れてくださったから、この結婚が成り立っているのであって」

「いーや!メリンダさんには、とっても感謝しているんです!」

エルウィン様が割り込んでくると、相変わらず人好きのする笑顔で言い切った。

「父様があんなに楽しそうなのは、絶対メリンダさんのおかげですっ!」

「ええ、僕もそう思います」

「アレンだってそう思うでしょ?」

「げっ、エル兄、なんで僕に振るのさっ」

「お前なあ〜、いい加減素直になんな〜。帰省した時に、肖像画が戻っていて感動して泣いていたじゃん」

「あっ、ほんとにエル兄は余計なことしか言わないっ…!」

アレン様が慌てたようにエルウィン様を睨むから、笑いそうになる。

今笑ったら、絶対に剥れられてしまうな、危ない危ない。

私たち、1年で随分変われたんだなぁ。

こんなふうに兄弟の会話に混ぜてもらえるのだから、嬉しいに決まっている。

「あれはとても衝撃的だったからな」

「フェル兄様もびっくりしたんだ」

「ああ、メリンダさんが飾ってくれたんだろうなと、すぐにわかったよ」

「ほら〜、やっぱり全部メリンダさんのおかげじゃん」

「ふふっ、そうやって皆さんがよくしてくれているおかげです。不束者ですが、これからもよろしくお願いします」

私が自然とそう言うと、みんなからそれぞれの顔が返ってきた。

全員が結婚式に参列してくれただけでも、十分だというのに。

私、本当に家族に恵まれたなぁ。

「こちらこそ!父様はメリンダさんにしか任せられないので!」

「ええ、父上とともに、今後ともよろしくお願いします」

「私もですわっ、メリンダ様!」

「…まあ、今日の式はとてもよかったですよ。お綺麗でしたし」

「アレンは早く反抗期が終わるといいねえ」

「エル兄、ほんとに嫌っ!」

「晴れの日に喧嘩するんじゃない、2人とも」

笑い声に包まれて、空が一層青く感じる。

「メリンダは、ちゃんとお嫁さんになれたんだねぇ」

「縁談を持ってきたお父様が、それを言うの…?」

「私の先見の明は合っていたようだね」

「…そうね。それに関しては、すごく感謝しているわ」

「綺麗だよ、メリンダ。母様にも見せてあげたかったよ」

お父様は泣きそうというわけではないのに、いつもはしない顔をするから、私の方が泣きそうになる。

「私、シリル様にすごく大事にしてもらっているから」

「うん、そうだろうね」

「だから、心配しないでね」

「娘のことは、ずっと気にかけてしまうものなんだよ」

お父様が嘘みたいに優しい声を出すから、ポロリと一粒だけ涙が落ちた。

結婚してもう1年は経つのに。

今更泣くつもりもなかったのに。

「おめでとう、メリンダ。お前らしく生きていてくれればそれでいいからね」

そう言われたら、子どもみたいに何度も頷くしかできなくて、ちょっぴり悔しくて。

それ以上に、心から安堵するような、ポッと胸が温かくなるようだった。

「司書殿、お嬢ちゃん、いい式だったぞ」

「来てくれてありがとうございました、ネイデンさん」

「ほれ、祝いを持ってきたぞ」

そう言って手渡されたのは、翻訳されていない考古学の研究書だった。

「海の向こうの国の本だ…!」

「おや、ネイデン。私にはないのかい?」

「司書殿は、お嬢ちゃんがいれば十分だろ」

「そう言われると、言い返せないなぁ」

「本は別腹ですよ!」

「ぎゃははっ、だってよ司書殿。残念だったなあ!」

「うーん、翻訳に負けないように頑張るしかないねぇ」

これ以上頑張られたら、私どうしたらいいんですか。

ネイデンさんにバシバシ背中を叩かれて、シリル様は少し困ったように眉が下がった。

それから、意を決したように表情を引き締めた。

どうしたんだろうと思っているうちに、シリル様は胸ポケットの中から一枚のメッセージカードを取り出した。

「これを、メリンダに渡そうと思っていたんだ」

「カード、ですか?」

「ああ、今日がいいかなと思って。受け取ってくれると嬉しいのだけれど」

そう言われたら、受け取るに決まっている。

慣れないウェディンググローブで滑らないように、指先に力を入れて、そのカードを手に取った。

洗練されたシリル様に似合うデザインのカードだった。

「これ、旧古代語…」

そこには、シリル様の筆跡で短い文章が書かれていた。

全文、旧古代語で書かれていて、すぐにシリル様を見た。

「前に、ルイーゼ嬢の手紙を羨ましがっていたなと」

「覚えていてくれたんですか」

「メリンダとのことは、忘れたりしないよ」

そう言って、シリル様は躊躇いがちに私の頭を撫でた。

私の大好きな少年のような笑みを浮かべて。

ああ、シリル様と結婚できてよかったな。

「喜んでくれるかなと思ったんだ」

「えへへ、…これ以上ないくらい、うれしいですっ」

「よかった」

ホッとしたように笑うシリル様に、やっぱり今日もきゅーっとなる。

こうやって、いつまでも一緒に生きていくのかな。

シリル様の隣を、私なりに歩んでいこう。

それって翻訳ができることと同じほどに、最高だ。

「結婚式くらいは、イチャイチャには目ぇ瞑るわ」

ネイデンさんの呆れた声に、私とシリル様は顔を見合わせて吹き出した。

たくさんの人に支えられている。

それをとても実感する一日だった。

今日、夜シリル様と一緒に眠る時、思い出しながら話すのが今から楽しみだった。

結婚式をするつもりなんてなかったのに、できてよかったと今は心から思える。

『メリンダ、愛している。これからもずっとよろしくね。 シリル・ルース』

短くて、全部が詰まったメッセージは、かけがえのない言葉だった。

結婚式から1年半後、私とルイーゼ様は同い年の子どもを産むこととなる。

はじめての妹に、歳が離れているのもあって、特にアレン様とエルウィン様がとてつもなく可愛がってくれることになるんだけど、まあ、それはまた別のお話ということで。