軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

418 条件

「…………そ、それは――『とっても可愛い』も、つけるのか?」

「当然でしょ。毎回つけるんだよ」

「そ、そんなの、できるか!! 貴様は、私を何だと思っているのだ! スペアを何だと思っているのだ!」

顔を真っ赤にして唇を戦慄かせ叫ぶノーラさん。僕はハードボイルドな笑みを浮かべて指摘をした。

「スペアじゃない、『とっても可愛いアリシャちゃん』だろ? いや、『とっても可愛い妹のアリシャちゃん』にしようか」

「!? 私を辱めて、どうするつもりだ!?」

いや、別にどうするつもりもないけど……呼び名くらいなんでもないじゃん。

一体何が不満なのだろうか。

「ノーラさんはおひいさまの姉なんだからちゃんと姉としての立場をとってもらわないと。簡単な事でしょ? 姉ノーラになるんだよ」

「ッ…………なん、だと!?」

「ノーラ様! どうか、お気を確かに――」

湯気が出るほど顔を真っ赤にしているノーラさんに、それに駆け寄る近衛達。

…………僕はただ呼び名を普通のものにして欲しかっただけで、とっても可愛いアリシャちゃん呼びは半分くらい冗談だったのだが、冗談だと言いづらい雰囲気になってしまった。

怒りか羞恥か、肩を震わせるノーラさんに、わらわらと近衛達が近寄っていく。

皆、長身でイケメンの細マッチョだ。もしかしたら、ノーラさんの好みなのかもしれない。

青髪のイケメン騎士がノーラさんに言う。

「ノーラ様! あの男の言葉、全く言語道断です!」

「言われるまでもないッ! 全くだッ」

「しかし……《雷帝》の力が必要なのは事実。ここは、怒りをぐっと堪えて――」

「な、なに!?」

なんか始まったぞ。目を丸くする僕を前に、騎士達とノーラさんが論争を始める。

「呼び方を変えるだけ。呼びかけを変えるだけです、ノーラ様! 不肖、このべメール、妹がおります。兄ではありますが、姉ノーラになる手助けができるかと!」

「何を言ってる、べメール卿! 兄と姉ではまるで違うではないか。ノーラ様、私は姉と妹がございます。僭越ながら、この私にお任せいただければ、必ずやノーラ様は真に立派なお姉さまになれるでしょう」

「私は姉も妹もおりませんが、理想はあります。ノーラ様、理想的な姉こそが偉大なるノーラ様が目指す覇道に通じるものがあるかと」

「私にお任せください!」

「ここは、我慢の時です。王位のためです!」

「あの男の案に乗りましょう!」

「アリシャ王女に、真の姉を見せつけましょう!」

「「ノーラ様!!」」

ノーラさんが目を限界まで見開き、ぶるぶる震えながら僕を見る。

いや…………彼らは僕のせいじゃないでしょ。

彼らを騎士団に選んだのはノーラさんであって、僕は特に何も唆したりはしていない。何が琴線に触れたんだよ……。

騎士団に憧れていたザザ達、子ども二人も、急に僕の意見に迎合し始めた騎士団に唖然としている。

その時、群がりそれぞれが好き勝手言い出した騎士団に耐えかねたのか、ノーラさんが甲高い声で叫んだ。

「ううう、うるさああああああああああいッ!」

「ッ!?」

先ほどまでと比べて随分威厳のようなものは減ったがまだ十分恐ろしいその怒声に、騎士達が一歩後ろに下がる。ノーラさんは親の仇でも見るかのようにこちらを睨みつけて叫んだ。

「いいいいだろう、クライ・アンドリヒ。立派な姉にでもなんにでもなってやろうではないか!」

半分くらいヤケクソになってないか、ノーラさん。

僕の経験上だが、やけになるとろくな事はない。

「だが、それだけのものを求めるならば《雷帝》だけでは足りん! 貴様には、この私に代わって監獄最下層から封印指定の懐柔をしてもらうわ!」

「封印……指定……?」

聞き慣れない言葉に目を丸くする僕に、ノーラさんが腕を組みにやりと笑みを浮かべて笑った。

「外部の組織が連れてきた、手に負えない犯罪者よッ! 処分するのも惜しいからという理由で、監獄に閉じ込められた、《雷帝》を超えた怪物――アンガスも懐柔を諦めた、都市システムをも無効化する異能力者よ! どうだ、恐ろしいだろう!?」

「あ、はい」

犯罪者とばかり取引しているだけあって、この都市の人材にはろくなのがいないな。

「その男には、何も通じない。捕らわれる寸前に、自身に魔法をかけたらしいな。ふん……手に負えなくなった組織がコードに連れてきたが、未だに対処方法は見つかっていないわ。貴様が、もしもその封印指定の能力を破り、懐柔に成功したのならば、立派な姉になるという提案も、受けてやろう!」

「そんな……ノーラ様、そのような条件、達成不可能に決まっております!」

「再考くださいませ、ノーラ様! この男は4点ですよ!」

「ううううるさーい! 貴様らこそ、正気に戻れ! それでも我が騎士団かッ! それで……どうだ、クライ! やるか!?」

いやまぁ、試すだけなら別に構わないけど……いくら監獄に閉じ込められて安全なのだとしても、一人でそんな危険な事試したくない。クラヒを連れて行かないと。

「それって今すぐじゃないとダメ? クラヒを連れていきたいんだけど」

「当たり前でしょ! 今すぐに、行って来い! クモを用意してやるわ! 今すぐに、よ!」

声を張りめちゃくちゃな事を言うノーラさん。キャラがなんだか変わっている。

もうそろそろ夜なんだけど…………監獄も時間外なんじゃない? もう帰りたいんだが、なんか帰れなさそうだなあ。

半分くらい諦めていると、その時、顔を真っ赤にして叫んでいたノーラさんの身体が硬直した。

その顔から表情が抜け落ち、目が限界まで大きく見開かれる。まるで怪物でも見たかのように。

騎士達がただならぬノーラさんの様子に、警戒態勢に入る。

そして、ノーラさんは僕を見て、震える声で言った。

「今日の、ところは、さっさと、帰るといいわ、クライ」

「え? でも、今すぐ行ってこいって――」

「それはなしだ! 今すぐに、最速で、私の眼の前から、消えなさい! これは、命令よ!」

まったく、ノーラさんは本当に気分屋だな。懐柔しろと言ったり、消えろと言ったり。

まぁ、消えるのは吝かではないが……今日はさすがに疲れた。五日間も寝ておいて何なんだが、帰ってさっさと眠りたい気分だ。

「それじゃ、もう帰るよ。また近い内にくるから。クラヒを連れて」

「…………しばらくこなくていいわ。ゆっくり休みなさい」

突然どうしたんだ、ノーラさんは。感情の浮き沈みが激しすぎて怖いわ。

僕はちらちらと確認しながら、足早にノーラさんの玉座の間を後にした。

§

ビルの前に停めたままだったクモに乗り込み、おひいさまのビルに向かうように指示をする。

夜でも明るいコードの街を、ビルとビルを飛び移るようにしてクモが走る。やはりクモは小型より大型の方がいいね…………勝手に移動してくれるから中で眠ることもできるし。

しかし、本当にノーラさんはどうしたんだろうか。途中で豹変していたけど……また今度、お見舞いでも持っていってあげよう。

大型のクモの内部は一人で使うには広すぎるが、その分ゆったりと足を伸ばして横になる事だってできる。

ほとんど振動のないクモの中、目をつぶっていると、その時大事な事を忘れていた事に気づいた。

「おひいさまへのお土産忘れてた!」

観光兼宝具探しという私用で何日も空けた挙げ句にお土産の一つすらないなんて、とんでもない話だ。

ついでに、僕はおひいさまの近衛であり、今回外に出るにあたり機装兵の近衛までつけてもらっている。

僕はおひいさまとまあまあよい関係を築けていると思うが、親しき仲にも礼儀ありだ。

ビルを跳躍しようとしていたクモを叩き、その場に停止させる。外はもう真っ暗だ。

「お土産……どこかでお土産手に入れないと、帰れないぞ」

店とかなかったし、宝具も手に入らなかったからなあ。

一応、得るものが何もなかったわけではない。トニーさんのエリアでは(壊れてしまったけど)小クモを貰ったし、ノーラさんのエリアでは、ザザ達に取り寄せてあげたサプリと強化装身具を拠点に送付済みだ。だが、それら実用品はお土産として余り相応しくないだろう。

「…………よし、今日は帰るのはやめて適当な所に泊まろう」

明日、ノーラさんかトニーさんの所に行って何かないか聞いてこよう。

そう心に決めた瞬間、不意に脳を揺さぶるような衝撃が走った。

『ふざけるなッ! さっさと帰れ!』

「…………え?」

気づいたら、僕は白い空間に一人立っていた。聞き覚えのある声が天井から降ってくる。

『貴様を帰すために、この私が、わざわざ、手を打ってやったのを、理解しているのか!』

「あ……え…………えっと…………(自称)王様!」

この空間に来るのは二度目である。さすがに忘れっぽい僕も短期間で二度なので忘れたりはしない。

ルシャが言っていたけど、これ、ガチで転移してるんだよな……。

『おい! まさかこの私の名を、忘れたのではあるまいな!?』

「ま、まぁまぁ、落ち着いて。まずは事情を教えてよ。手を打ったって何?」

僕、名前覚えるの苦手だから……。

コード王はしばらく黙っていたが、あからさまに舌打ちをして続けた。

『貴様が我が領域を侵しても追撃は抑えてやった! 即座に監獄に行けなど馬鹿な事を言い出したあのノーラにはさっさと解放するように言いつけた! にもかかわらず、適当な場所に泊まろう、だと!? ふざけるな!』

この自称王様もなんか情緒不安定だな。何だかこうしてハンターをやっていると、案外人の感情というものは浮き沈みが激しいものだという事を実感する。

「……王様、もしかして僕の事、監視してる?」

『したくて、している、わけでは、ないわッ!!』

なんか前回話した時よりも叱られている気がする。僕が一体何をやったというのだろうか……ちょっとお土産を見つけてから帰ろうって言っただけじゃん。

そもそも、何でこの王様は僕をさっさと帰そうしてるの?

突然呼び出された理由が全く解っていない僕に、王様は押し殺すような声で言った。

『……いいから、さっさと帰れ』

「……はい?」

『さっさと帰れ! 貴様はアリシャの近衛だろう!』

予想外の言葉に、思わず目を丸くする。

目を瞬かせる僕に、王様が叱責を飛ばしてくる。

『五日も空けるとは、貴様に近衛としてのプライドはないのか! まったく!』

いや……それはまあ……プライドについては問い詰められると困るところではあるけど。

まぁ、何日も空けてしまったのは僕にとっても想定外ではある。

王様がまるで子どもに言い聞かせるかのように続ける。

『いいか? 寄り道せずに、即座に帰還しろ。帰れば、全てわかる。いいな? 貴様は黙って従っていれば、良いのだ』

「あ、はい…………」

圧力にあっさり負け頷く僕。まぁ、お土産は別に必須ではないからな……何か言われたら王様のせいにしよう。

『私は、忙しい。アリシャばかり見ているわけにもいかんのだ! 手を煩わせるな! さっさと、帰れ! わかったな?』

もう一度念押しのように言うと、再び強い目眩が僕を襲う。気がつくと、クモの中に戻っていた。

まったく、いきなり呼び出した上に理由も言わないなんて、困った人だな。

全てわかるとか言っていたが、何かあったなら自分で対応すればいいのに。

僕はため息をつくと、停めていたクモに指示を出し拠点に向かわせた。