軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41 スライム②

スヴェンの号令に従い、ハンター達が一糸乱れぬタイミングで攻撃を放った。

様々なギミックや多種多様な幻影と戦ってきたトレジャーハンター達は対応力に優れる。

突発的な事態と予想外の相手を前にしても、その性質は正しく発揮された。

薄暗闇の中、煌々と輝く光が凄まじい速度で飛ぶ。

数メートルの距離から放たれた攻撃魔法――最も基本的な攻撃魔法でもある『 炎の矢(ファイア・アロー) 』がくぐもった音を立ててスライムの頭に、腕に、胴に着弾した。回避する素振りすら見せない。

スライムの、耳を塞ぎたくなるような奇妙な声が響き渡る。

衝撃に土埃が舞い上がり、スライムの巨体を覆い隠す。

『炎の矢』は魔導師ならばほとんどが使える低級の魔法だ。コントロールが容易く消費魔力も低く、発動速度にも優れるという、熟練の魔導師から初心者の魔導師まで通して使われる攻撃魔法である。

威力は攻撃魔法の中では低い方だが、薄い板金鎧を貫くくらいの力はある。

ましてや今回の相手は、炎が弱点とされるスライムである。

十人以上いる魔導師から放たれた攻撃、全てを受ければ完全に蒸発してもおかしくない。

相手の消滅を確認せず、再び『炎の矢』が土埃の中に放たれる。爆炎が宙を焼き、凄まじい熱が、十メートル近く離れたスヴェンに伝わってくる。

過剰とも言える連続攻撃が終わり、場に静寂が戻る。

地面に伏せたまま後退った茶髪のハンターが目を限界まで開いた。

「……ッ、やったか!?」

「油断するんじゃねえッ! 下がれッ! これは『千の試練』だぞッ!」

矢を大きく引き絞りぴたりと照準を煙の中のスライムに向けたまま、スヴェンが怒鳴る。

攻撃を終え、弛緩しかけていた空気が再び引き締まる。

スライムの姿は異様に過ぎた。『足跡』の所属パーティがこういう事態に遭遇するのは初めてではないが、何度遭遇しても慣れる事はない。

未知の相手に近づくのはあまりにもリスクが高い。じりじりと、まだ収まらない煙から距離を取る。

いつでも射れるように構えたまま、スヴェンはようやく立ち上がった茶髪ハンターに確認する。

「おい、あいつはなんだ?」

「わ、わかんねえ。小便終えた帰り道に遭遇したんだッ……本陣に向かってきてやがった」

その言葉にスヴェンは舌打ちする。

奇襲を受けなくて幸いだったというべきか。

茶髪ハンターは明らかに戦闘不能だ。魔導師ならばともかく、腕を失った剣士は役に立たない。

ヘンリクの強力な治癒魔術は、たとえ重傷でも数秒で治癒することができるが、失った部位を取り戻す事はできない。

茶髪のハンターの容貌は歪んでいた。悪鬼の如き表情。

恐怖とも怒りとも知れない衝動を噛み殺すかのように、歯を食いしばり言う。

「まだ、気づかれちゃ、いなかった。隙だらけ、だった。後ろから、斬りつけたんだッ! クソッ! 俺の……腕が――」

土埃が収まる。中から現れたそれに、襲撃を掛けた魔導師の一人が愕然と目を見開いた。

スライムは健在だった。その粘液の滴る身体には跡一つ残っていない。

スライムがまるで伸びでもするかのように腕に似た部分を上に動かす。その動作に、攻撃を受けたことに対する怒りのようなものは見えない。

その醜悪な姿に、スヴェンの隣で攻撃に参加していたパーティメンバーのマリエッタが目を見開いた。

「え……? あれだけの攻撃を受けて……無……傷?」

火に強いのか。あるいは魔法そのものが効きづらいのか。

あらゆる可能性がスヴェンの脳裏を過る。

スライムが緩慢な動きで一歩踏み出す。その瞬間、スヴェンは矢を放った。

「ッ!」

引き伸ばされる集中。『火の矢』などとは比べ物にならないエネルギーが込められた漆黒の矢が狙い違わずスライムの頭部、目と目の間に吸い込まれる。

竜の鱗すら撃ち抜く必殺の一矢だ。スヴェンを『嵐撃』足らしめた一撃がスライムの眉間を穿ち――次の瞬間、大きく宙に弾かれた。

何かが弾けるようなバチンという音。

「なっ……」

予想外の光景に、スヴェンが眉間に皺を寄せる。

大きく弾け飛んだ矢はそのまま宙を舞い、木々の向こうに落下した。

あまりにも不自然な光景に、茶髪ハンターが目を見開き口をぱくぱくさせている。側にいたヘンリクも言葉を失っている。

調査員を後ろに、ガークが低い声で唸る。

スヴェンは冷静だった。矢が効かない相手などこのクランに入ってから何度も経験している。

刺さらなかったわけではない。回避されたわけでもない。弾かれた。しかもスライムは防御行動を取っていない。

全力ではなかったが、力を抜いたつもりはなかった。

動揺することなく速やかに背中の矢筒から新たな矢を弓に番える。

スライムが不確かな足取りで前に進む。

異常事態に固まる仲間の前で、マリエッタが叫ぶ。

「別の魔法をッ! 近づかせないでッ! 『 雷嵐(サンダーストーム) 』」

大きく掲げられた杖の前に、紫電を纏った金色の光球が現れる。

中範囲を雷撃で蹂躙する攻撃魔法だ。本来ならば単体の魔物相手に使われるものではない。

莫大な魔力と引き換えに急速に生成された雷球はスライムに向かってそのエネルギーを撒き散らした。

本物の雷と遜色ない閃光が闇を切り裂き、凄まじい轟音が辺りに響き渡る。しかし、その致死の一撃を受けて、スライムは一瞬歩みを止めるだけだった。

魔力の消耗に息をつくマリエッタ。

まるで何もなかったかのように侵攻を再開する異形に、一拍遅れて四方八方から攻撃魔法が放たれる。

風の刃に、土の槍。炎を伴った風がスライムを包みこむ。草木が燃え、地面が抉れる。

その一撃一撃が今まで多数の幻影を屠ってきた攻撃魔法だ。その威力をスヴェンは良く知っている。

だが、真紅のスライムは事も無げにそれを受けきった。衝撃のせいか、一歩下がったがそれだけだ。

「……馬鹿な……効いて、いない?」

魔導師達が絶望に表情を歪める。少なくない魔力を消耗して放ったあらゆる性質の攻撃だ。

時間をかければもっと強力な攻撃魔法も使えるが、今回放った攻撃だってスライム一匹殺すのに十分な威力だったはずだ。

強固な装甲で弾いたのならばまだわかる。だが目の前の異形はいかにも柔らかい。

手足を使って弾いたのならばわかる。だが目の前のスライムはただ無防備にそれを受けた。

動揺する魔導師を置いて、短い気合と共に、スヴェンが矢を放つ。目にも留まらぬ勢いで放たれた矢が嵐のようにスライムに襲いかかる。

顔。首。腕。足。胴体。場所を問わず襲来した矢の尽くが弾け飛び、刺さる気配がない。

無敵。その言葉が脳裏を過る。

相手の動きは速くない。だが、攻撃が通じなければ倒すことはできない。

状況に耐えかねたようにハンターの一人が怒号を上げる。突進すると同時に、構えていた巨大な金属製の槌をスライムに振り下ろす。

止める間もなかった。高レベルのハンターの膂力から放たれた重い一撃がスライムの真上から襲いかかる。

棘の生えた金属槌がスライムの頭を叩き潰そうとしたその瞬間――スヴェンは奇妙な光景を見た。

金属製の槌に大きく罅が入る。まるで無理やり拗じられたかのように回転し、歪む。

そして、その力は、槌を握っていたハンターの両腕にも伝わっていた。

「がああああああああああああッ!」

獣の咆哮のような苦痛の声。

なまじその巨大な武器を支えるためにしっかり握っていた事が悪い方向に働いた。

骨が潰れ肉がひしゃげる音。筋肉と腕甲に守られていた腕が無造作に捻られる。

その光景に、両腕を失った茶髪ハンターの姿を思い出す。

これが――あの得体の知れない傷跡の原因か!

「手を離せッ!」

ガークが叫ぶ。粉々に砕かれた槌が吹き飛んだのはほぼ同時だった。

ぎりぎりで離したのか、腕はまだ無事だ。あらぬ方向に折れ、力なくぶら下がっているがまだ繋がっている。

激痛に一瞬動きを止める男ハンターに、スライムが大きくのしかかるように身体を振り上げる。

化け物だ。感情がないように見えて、確かにそのスライムはスヴェン達を敵として認識していた。

とっさに弓に矢を番える。細かく狙う間もなく、矢を放つ。

今まで現れる幻影の尽くを屠った矢が地面を穿ち、足元を崩されたスライムの体勢が崩れる。生じたその隙を見逃さず矢を続けざまに放つ。

狙いはスライム自身ではなくその足元だ。

男がよろめきながらスライムから距離を取った。

ガークが唸った。荒い呼吸。ぎらぎらとした戦意を秘めた眼がスライムを睥睨している。

「『力場』だ。こいつ、何らかの力場を纏ってやがる……魔法が効かねえのもそのせいだッ!」

その言葉に、目を凝らす。スライムの体表がしゅうしゅうと音を立てて溶けている。

その周囲の空間が歪んでいた。『炎の矢』の跡――熱の残滓によるものかと思っていたが違う。

「力場……魔力……障壁……?」

魔導師の良く使うテクニックの一つだ。

身に秘めた魔力を魔法という形を取らずに外に出し、身体の周りに障壁を展開する、魔法とも呼べない魔法。

あらゆるエネルギー――攻撃を防ぐが、その非効率さ故、余程膨大な魔力を持った魔導師でなければ実用的ではない、一流魔導師の証だ。

どちらかと言うと、人の魔導師などよりも、生まれつき強大な魔力を秘めるドラゴンなど強大な魔物が使う事で知られているものだった。

スライムが使うなど考えられない。だが、その推定が正しいとすると、目の前のスライムに攻撃を通すのは極めて難しいということになる。

新たな方針を考える。

障壁を越える程のエネルギーを与えるか、あるいはその消耗を待つか。

「クソッ、クライめ……それで、アークを――」

アークの持つ単騎としての力は最強クラスだ。もしかしたらその力があれば防御を無理やり突破できたかもしれない。

だが、スヴェンは攻撃力だけで言うのならばアークより大きく劣る。スヴェンから言わせてもらえればアーク達の能力が過剰なだけなのだが、今文句を言ってもどうしようもない。

時間を稼いで上位の攻撃魔法で突破を試みるべきか?

だが、攻撃魔法の威力は術者の練度に比例する。今この場に突出した攻撃魔法の使い手はいない。

スヴェンのパーティメンバー、マリエッタは優秀な魔導師だが、スヴェンの矢を容易く弾くほどの障壁を突破できるかというと疑問が残る。

そして、もしそれで失敗したらマリエッタは魔力の過剰消費で動けなくなるだろう。

人員が足りていない。もしも『足跡』でも最強の魔導師パーティ、『 星の聖雷(スターライト) 』がいれば話は別だっただろう。

あるいは全てを予知していた『千変万化』がいればどうとでもしてみせたに違いない。

まるで図ったかのように必要なものが足りていない。ここに『黒金十字』を差し向けたクライの笑みがふと脳裏に浮かび、頭を振って振り払う。

錬金術師のタリアが駆け寄ってきた。その手には細いガラス瓶が握られている。

「スヴェンさん。もうダメです……使いましょう」

殺スライムポーション。今回の切り札。

矢の牽制で動きを止めていたスライムはのろのろと行動を再開している。

魔力障壁は強力だ。だが、決して周囲全てを弾いているわけではない。そんなことをすれば歩行すらままならなくなる。

障壁が弾くのは一定以上のエネルギーを持った攻撃だけだ。例えば毒性の霧などは防ぐことはできない。

障壁を持つ程の生き物は大体毒なんて効かないので弱点にもならないのだが、今回はまた話が別だ。

「一滴でも触れれば、そこから自壊するはずです」

「わかった。……俺がやろう」

タリアからポーションを受け取る。割れやすい投擲用の瓶に入ったポーションだ。

魔力障壁で身を守っているのならば、ぶつけても弾かれるだろう。

スライムの両の眼がスヴェンを見ている。その巨大な体躯がまるで身をかがめるように圧縮される。

スヴェンが唇を歪め、笑みを浮かべる。

確かに化け物だ。とんでもない化け物だ。だが、こいつはスヴェン達を敵としてみていない。

いや、敵対はしているが、こいつがこちらに向けているのは獲物に対する物だ。少なくとも警戒はしていない。

知性があるのかどうかすら定かではない。そこに付け入る隙がある。

血肉がどろどろに溶けたようなスライムは身を縮めると、まるで撥条細工のように跳び上がった。

それまでとは比べ物にならない速度だった。一気に距離を詰め、上空を覆い尽くすように襲い掛かってくるスライムをスヴェンは鼻で笑う。

「なめんなよ、『千変万化』」

読んでいた。『黒金十字』とて一流と呼ばれるパーティなのだ。

左右を固めていたパーティメンバーはタリアを連れ、スヴェンの意図を読んだかのように離れている。

速い。確かに速いが、それはあくまで今までの動きと比べて、だ。

いつも戦っている幻影と比べたら容易く見切れる速さである。

スライムがその身で押しつぶそうとでもするかのように降りてくる。スヴェンは身を屈め、地面を蹴ると同時に持っていた瓶を地面に置いた。

目標として定めていたスヴェンが消え、スライムの四肢が空を切る。その時にはスヴェンはスライムの落下範囲から大きく離れていた。

スライムが地面にべちゃりと着地する。

スヴェンが落とした――殺スライム剤の上に。

ガラスの割れる小さな音を、確かにスヴェンの耳は捉えていた。

障壁は無敵ではない。強力な結界を張ることで有名な『 結界指(セーフ・リング) 』にだって隙はある。

殺スライム剤を受けたスライムの動きが一瞬止まる。

「死ねッ……!」

タリアが、マリエッタが、ライルが、茶髪ハンターが、ガークがその動きを凝視する。

そして、ふいに横から伸びてきたスライムの腕をスヴェンは一歩後退り、余裕を持って回避した。

スライムが何事も無く動き始める。どろどろに溶けているのは変わらないが、その動きは最初に現れた時よりも遥かに滑らかだ。

殺スライム剤を提供したタリアが、唇を戦慄かせ崩れ落ちる。

スヴェンは地団駄を踏んで叫んだ。

「……クソがあああああああッ! やっぱり、スライムじゃねえじゃねえかあああああああああああッ!」

絶叫が夜暗に響き渡る。

予想はしていた。スヴェンはクライと付き合いが長いのだ。

この眼の前の生き物は明らかにスライムという区分から逸脱している。どう見てもウルフナイトの亜種である。

アドバイスを聞き出したライルが青ざめた表情で今更思い出したように言った。

「そ、そういえば、クライ…………スライムじゃなくて、スライムっぽいやつって――」

「あの男、いい加減にしろッ! 情報は正確に伝えろッ! 『 嘆霊(ストグリ) 』を基準にするんじゃねえッ! 何回俺達を殺しかけるつもりだッ!!」

スライムもどきが軽いフットワークでのしかかってくる。

衝撃の事実にショックを受ける面々の前で、スヴェンは身を低くしてぎりぎりでそれを回避する。

のしかかられた時どうなるのかわからないが、あまり良い結果にならないのは間違いない。

緊張で冷や汗が散る。湿った物が地面を叩く音を背中に聞く。

「クソッ、こんなのどうしろっていうんだ、クライッ! 死ねッ!」

「だ、だが、クライは、半分でもいいと……」

「っざけんなッ! 殺すぞッ! 自分でやれッ!!」

怒声を上げながら器用に回避するスヴェンに、慌てたように魔法攻撃が再開される。

スライムもどきの動きがその衝撃で止まり、その隙に距離を取ることに成功する。

中には時間を掛けて放たれた上級攻撃魔法も存在していたが、その全てが体表を逸れている。

解決の糸口が見つからない。

一体何が悪かったのか、あるいは成長でもしているのか、スライムもどきの動きは徐々に速くなっていた。スヴェンからターゲットを移したようで、無差別に周囲のハンターに襲いかかっていく。

阿鼻叫喚の地獄が体現されていた。襲い掛かってくるスライムから必死にハンター達が距離を取る。

変わった攻撃などはしてこないが、連続で魔法を放ったせいで魔導師達の消耗が著しい。このまま魔力が切れて倒れてしまえば守りきることは困難だ。

矢でその動きを牽制しながら必死に考えるが、矢の数も残りわずかになっている。

「スヴェンさん、撤退を……」

ハンターの一人が叫ぶ。

が、宝物殿の中にはまだ数名、仲間が残っている。このまま自分達が撤退すれば、残された者たちが危険だ。そもそも、撤退したところでこのスライムもどきを町まで引き連れるわけにはいかない。

スライムもどきの攻撃を盾で受けたハンターが吹き飛ばされる。

もともと手放すつもりで持っていたのだろう、ダメージはないようで、すぐさま立ち上がる。

攻撃力はそこまで高くない。だが、あの防御が硬すぎる。

手足。頭。前面でも後面でも、どこを攻撃しても弾かれる。防御と言うよりはカウンターに近い。

そして、もしも攻撃が通せたとしても倒せるかどうか……。

と、その時、スヴェンは目の前のスライムもどきの身体が少し小さくなっている事に気づいた。

飛び上がるスライムもどきの姿。身体が不定形に近いのでわかりづらいが、確かにその体積は見てわかるくらいに減っていた。

スライムもどきの体表は液化し、しゅうしゅうと煙を上げているが、地面には何も残っていない。

まるで蒸発してしまっているかのようだ。

時間を稼げば……自滅する、のか?

散々動き回ったのに、スライムの大きさの変化はそこまで大きくない。これがゼロになるまでどれほどの時間がかかるのか予測もつかない。

だが、今は少しでも希望が欲しい。これは試練だ。試練を乗り越えるには意志がいる。

クライは底の知れない男だが、どうしようもない盤面にクランメンバーを叩き込んだりはしない。

半数でいけると言ったのならば、それはつまり全てを読みきったあの男がそう判断したということなのだ。

「時間を稼げッ! よく見ろ、小さくなってるぞッ! 魔導師は魔力と体力を温存しろッ! パーティ単位で交代で足止めするぞッ!」

声を上げるスヴェンの言葉に、皆の表情が変わる。絶望の中に希望が生じる。

走り回りながら弾き飛ばされた矢を回収する。ハンターの総数は百名近いのだ、今のスライムの動きは無作為だが、交代でその気を引き、ターゲットを取って誘導すれば時間を稼げるかもしれない。

一撃ならば攻撃を受けても問題はない。

スヴェン達『黒金十字』は皆、回復魔法を使える。体力は回復出来ないが傷は癒せる。

腕を巻き込まれるようなことがなければなんとかなる。

ましてや今回のこれはクライの試練だ。『足跡』のメンバーは皆、物資をいつも以上にふんだんに持ってきているだろう。

勝ち目がないのならばともかく、勝機があるのならばなんとでもできる。

スヴェンの指示により、皆の表情に冷静さが戻る。

その時だった。スライムもどきが今まで追い掛けていた盗賊のハンターからターゲットを変えた。

ターゲットは、陣から最も遠い位置にいた二人の調査員だ。立ち上がり木に隠れるようにしていた二人にその金の眼が向く。

スライムもどきが身体を引きずるようにして疾駆する。途中で他のハンターが間に入り誘導しようとするが目もくれずに跳ねるようにして移動する。

一般人にとっては十分な速度で接近するそれに、調査員が悲鳴を上げ、駆け出す。

「足止めだッ!」

スヴェンは大きく息を吸い、矢を放った。

轟音を立てて飛来した矢がスライムもどきの足元を穿つ。体勢が崩れるスライムもどきの進行方向を塞ぐように続けざまに矢を放っていく。

久方ぶりの速射に指先がじんじんと傷んでいた。矢筒があっという間に空になる。

だが、そこまでやってもスライムもどきの侵攻を少し遅らせることしかできない。

スライムもどきが大きく跳ねる。まるで捕食でも試みるかのように、調査員二人に覆いかぶさろうとする。

――その前に、巨大な影が立ちふさがった。

真紅の鎧に身を包んだ巨躯が、その右腕に握ったハルバードの巨大な刃を間に割り込ませる。

飛びかかってきたスライムもどきが黒青色の巨大な刃の腹にべちゃりとぶつかる。

ハルバードを握っていた腕が衝撃に震える。が、その手が武器を離すことはない。

「ッ!? 支部長!?」

「おい、てめえら、スヴェン達の方に逃げろ」

頭部の左半分に入れられた入れ墨に、頬に刻まれた深い傷跡。

かつて『戦鬼』と呼ばれた男は笑っていた。がしゃりと鎧が鳴り響きスライムもどきの前に立つ。

地面に叩き落とされたスライムもどきがゆっくりと身を起こし、その眼をガークに向けた。