軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

295 資質

宝箱から出てきた神官の数は優に十人を越えた。ぬらりぬらりと引き出され増えてくる神官達にさすがのリィズも目を丸くしている。

引き出された者達の反応は様々だった。夢でも見ているかのようにぽかんとしている者もいれば、感極まって泣き出す者もいる。リィズ達はすぐに出されたからまだいいが、何年も箱の中に閉じ込められたらそりゃ泣きたくもなるだろう。数分でもエヴァ、涙目だったし。

「あ、ありがとうございますッ! 本当に、たずかりましたッ!」

「うんうん、良かったよかった」

終わりよければ全て良しだ。

詳しく話を聞く限り、この人達は倉庫の整理中にうっかり鍵を外してしまい飲み込まれた者たちらしい。どううっかりすれば宝箱の鍵を外してしまうのかは知らないが……つまり、この人達はあまり真面目ではない神官達なのだろう。行方不明になったのに大事になってなかったみたいだしな……。

しかし、鍵がかかった宝箱の鍵が開いていたらさすがに誰か不審に思うんじゃ……。

眉を顰め宝箱の方を見ると、ちょうど宝箱が錠前を拾い鍵をかけるところだった。どうやら……オートロック機能つきらしい。腕生えてるんだけど……その機能、いる?

「ふーん。あの街はあんた達が作ったの?」

「い、いや…………街はもともと。それに、あの中ではお腹も減らず喉も乾かないので――」

それは……凄いな。一部の宝物殿ではこの世界とは別種のルールが敷かれている場所も存在するが、それと似たようなものなのかもしれない。

これは色々使えそうだ。そう、例えば……海の水全部抜くとか……。

………………あれ? もしかして、食材を新鮮なまま保つ機能?

とにもかくにも、恐ろしい宝具だ。能力がバレたら国に取られそう。

深く考えたらドツボにはまりそうだ。ぱんと手を叩き、久方ぶりに表に出てきた神官さん達に言う。

「……とりあえず、神隠しにあったとでも思って、早く家族に顔でも見せに行ったら? …………この箱はこちらで処理するから、どうか内密に」

頻りにお礼を言いながら神官さん達がクランハウスから出ていく。神父さんにどこまで情報をあげるかはわからないが……まぁ、返せと言われたら大人しく返却しよう。

この高性能過ぎる箱は正直僕の手に余る。使いみちないしな……宝具のコレクションを入れれば部屋のスペース削減にはなるがコレクションをいつでも見られなくなってしまうし、中に入ったら自分で脱出できないのが致命的すぎる。

しかし、まさか僕が人助けをしてしまうとは……世にも奇妙な体験をしてしまった。散々妙な騒動に巻き込まれたが、助けられた人がいたのならば意味もあったのではないだろうか?

締めに入る僕に、リィズが柄にもなく、深刻そうな表情で言った。

「クライちゃん、あいつら多分…………同じ年代の人間じゃないよ? 服装違うし」

「…………え?」

「多分、太陽が出ていないから時間感覚が狂ったんだと思う。もしかしたらなんだけど、この箱の中――年を取らないんじゃ……」

「…………」

ぞわりと、怖気が奔った。何かを察したティノが耳を両手でぎゅっと塞いでいる。僕も同じ気分だ。

これ以上変なネタを吹き込まないで欲しいよ。本当に神隠しじゃないか。…………絨毯と戦わせて遊ぶのは保留だな。ちょっと荷が重そう。

僕は大きく深呼吸をすると、全てを放棄し忘れることにした。

確かにこの宝箱君はちょっとやばそうだけど、使わなければいいだけなのだ。幸い見た目は素晴らしい宝箱だしインテリアとして僕の私室の彩りとなって頂こう。

手を広げ、ティノから貰ったばかりの宝具の指輪を眺めながら言う。

「いやぁ、まぁともかく、リィズやティノの成長っぷりも見えてよかったよ」

「!?」

「えー、どの辺りが成長してた?」

ティノが目を見開き、リィズが唇を尖らせる。

成長していたところ……出口よりティノを優先したところかな。逆にティノは出口よりも宝具を優先する生粋のハンターになってしまったが。

これ以上厄介事に巻き込まれたら堪らない。後でマーチスさんに指輪を鑑定してもらおっと。

鼻歌を歌いながら指輪を外す。外そうとして――僕は気づいた。

「ますたぁ、その……どうでしたか、その指輪?」

「なんかティーにいいところ取られたって感じ。まぁ、クライちゃんがそう言うならいいけど……」

役に立てたのが嬉しいのか、むずむずするような笑顔のティノと一定以上の納得をしている様子のリィズ。

僕は小さく咳払いをすると、さっと手をポケットに入れて言った。

「な、なかなか、悪くないかな。さっそくマーチスさんに鑑定してもらいに行こう!」

指輪…………外れないんだけど? この指輪、もしや……呪われてる? ど、どうしよう。

§

呪われた指輪。外れないというのは、宝具の持つ割とポピュラーなデメリットだ。

ルークが持っていった魔剣も使用中は手を離せなかったようだが、物理的に外せない物、捨てても勝手に戻ってくる物など、この手のデメリットを持つ宝具を僕達ハンターは『呪われている』と呼ぶ。

そして、中には落とし物防止の配慮の結果そういう効果がついている物もあるが、大抵のその手の宝具は装備すると何らかのデメリットを齎す厄介なアイテムだった。

もちろん宝具なのでチャージが切れたら装備解除不可能の効果も消えるのだが、大抵、その手の宝具のチャージはなかなか切れない上に、勝手に装備者から魔力をチャージする機能まで付いていたりする。

恐らく、そういった宝具はかつての呪物をマナ・マテリアルが再現したものなのだろう。

その証拠にこの手の宝具を外す手法としては呪いと同様、神官による浄化が最適とされていた。

早速、ティノとリィズと一緒にマーチスさんのお店に行く。武帝祭だの襲撃騒ぎだのでごたごたしていたので久しぶりだ。

商品の確認も早々に、ティノ効果でマーチスさんの機嫌を上昇させながら、きつくもないのに外れなくなってしまった指輪を見せる。

マーチスさんは事情を聞くや否や、頬を引きつらせ、震える声で言った。

「クライ、てめえ……まさか、何も考えずにこれをつけたのか!?」

「い、いやいや、そんな事はないけど……」

「馬鹿者ッ! てめえ、何年宝具触ってんだッ! 素人かッ!」

宝具の多くは未知で、おまけに危険なものが沢山存在する。故に、宝具鑑定師という職業がこの世界にはあるのだ。

マーチスさんの剣幕に、指輪をプレゼントしてくれたティノが青ざめている。だが、リィズがあっさりと言った。

「あぁ? マーチスちゃん、レベル8馬鹿にしてんの? クライちゃんが、何も考えずにつけるわけないでしょお?」

「ぬぅ…………」

マーチスさんがじろじろと僕の顔を見る。リィズのフォローに、青ざめていたティノもほっと息をついていた。

はい……神算鬼謀でいいです。

腕を組み、ハードボイルドな笑みを浮かべる。こういう時にハードボイルドは便利だ。

「いいから、さっさと鑑定してよ。僕の想定通りか確かめるから」

「答え合わせってか…………待ってろ。見覚えがある」

やっぱりマーチスさんは頼りになるな。贔屓にしておいてよかった。

マーチスさんはカウンターの奥に行くと、分厚い手製の宝具図鑑を持ってくる。

これまで数十年、宝具を鑑定し続けて作った秘伝の図鑑だ。マーチスさんはどすんと図鑑を置くと、ばらばらとめくり一つのページで手を止めた。

「これだ…………ふん。木製なのは精霊人の生み出した指輪だから。ふん、よくもこんな厄介な物を装備したものだ。どこで見つけた?」

図鑑を見せてもらう。そこには、僕がつけている物にそっくりの指輪の写真と、名前が書いてあった。

間違いない、これだ。

「『 天命の呪樹輪(ハーミット・リング) 』……? 修行のための指輪?」

「精霊人からの情報提供だ。一部の宝具鑑定師にしか知らされていないが――彼らは……精霊人由来のアイテムが出回るのが我慢ならないらしい。俺達に情報提供して、回収しようとしている」

なるほど…………あぁ、もう。精霊人のイメージがクリュスやエリザのせいで全くイメージがつかん。

そう言えば、エリザも何か探しているって言ってたなぁ。

マーチスさんが真剣な声で説明してくれる。これまで様々な危険な宝具を見せてきたが、これほど真剣なのは久しぶりだ。……あの宝箱見せたらショックで心臓止まりそう。

「かつて太古の精霊人の中でも特に血が濃く力の強い者―― 高位精霊人(ハイ・ノウブル) の巫女がより高次元の力を得るために作り出したらしい。まったく、ろくでもない文明を持っていたのは人間だけじゃないって事だな」

え、まさか僕も高次元の力を得てしまう? これは……困ったなぁ。次から一緒に冒険に行けてしまうのでは?

少しだけわくわくしながらマーチスさんに尋ねる。

「で、気になる効果は?」

マーチスさんは大きく息を吸うと、一度息を止め、深刻そうな声で言った。

「クライ、落ち着いて聞け。この指輪は…………呪いを、引き寄せるのだ」

呪いを…………引き寄せる、だって!?

「 高位精霊人(ハイ・ノウブル) の巫女――つまり、 呪術師(シャーマン) がより強力な呪念を身に受ける事で力を高める指輪だからな。似たような儀式に蠱毒という術が存在するが――その発展型だな。その誘引力の余りの強さと、修行に臨んだ 高位精霊人(ハイ・ノウブル) が何人も死んだ事によって、すぐに廃れたらしいが――今も語り継がれているせいで、こうして宝具として現れる事がある。寿命が長いというのもいいことばかりではない。クライ、そいつはお前が考えている以上に、とんでもない厄介な代物だぞ? 強力な精霊人の呪術師じゃないと外す事もできん。いくらレベル8でも、無理だ」

衝撃に頭を思い切り殴りつけられたような心地がした。木製の指輪を見下ろす。心配そうにティノがこちらを見ている。

とてもこの木の指輪がそんな大層なものには見えないが――なるほど、そういう物もあるのか。

僕はしばらくじっと指輪を見下ろしていたが、両手を差し出してマーチスさんに尋ねた。

「…………ねぇ、マーチスさん。つかぬことをお聞きするんだけど――もしかして僕がつけている宝具、他にも呪いを引き寄せる物、あったりする?」

「……な…………に……?」

付ける前からぐんぐん呪いが近寄って来るんだけど? 今更だろ! これ以上呪いを引き寄せるって、想像つかんわッ!

もう空きスペースがないので近寄って来れないだろう。呪いが順番待ちしてるよ!

マイナスとマイナスでプラスになりそう。大したものじゃなさそうでよかったな。