軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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広場には急ピッチで魔法陣の製造が進んでいた。

中庭の門の上部――空中に縫い付けられたマリンの慟哭を監視できる位置にテーブルを運び、会議を行う。

厳戒態勢の中、神父さんが深々とため息をつき、面々を見回した。

「やれやれ、首の皮一枚でつながった、か。まさかあのようなイレギュラーが発生するとは流石に予想外でした。フランツ卿の助言で宝具を用意していなければどうなっていたか……」

「あんなものを予想できる者などいない。仕方のない事だろう。そうだな、《千変万化》!」

「え? あ……うんうん、そうだね」

ぼーっとしているといきなりフランツさんに話を振られ、慌てて首肯する。アークやクリュスやルシアやガークさん達があからさまにため息をついた。

まさか十字架のペンダントから騎士が出てくるなんて、僕はこれまで色々なものを見てきた自負があるがまだまだ世界は広かったらしい。

まぁ、言わないけどね……誰も見てなかったみたいだし。

「しかし…………この国の人間、やばいもの隠しすぎでは?」

「……………………」

フランツさんが無言でこちらに射殺すような眼差しを向けてくる。

そんな目で見られても…………とりあえず土下座させて頂いてよろしいでしょうか?

そこで、我らがアークが口を開いた。

「しかし、呪いと戦うのは初めてでしたが――私達の想像を遥かに超えていた。雷もルシア・ロジェの上級攻撃魔法も足止め以上の効果がなさそうでしたし……」

「騎士の方にはまだ通っていたが、マリンの慟哭の方はすり抜けていた。効果はゼロではなさそうだったが、見たところ霊魂系の魔物とも違う」

元ハンターで魔物や幻影の討伐にも明るいガークさんが表情を歪めて言う。

確かに、アークの雷撃やルシアのヘイルストームをまともに受けてああもぴんぴんしているなどなかなか考えにくい話だ。アークは本職の魔導師ではないが、ルシアの方は竜をも落とせるレベルに達している。

何事もなかったかのようにしているけど、結界の柱折れたの半分くらいルシアのせいでしょ……。

「確かに…………やはり我々光霊教会の秘術を決め手にするしかないでしょう。もっとも、『 光の柱(シールドブレス) 』で捕らえている状態では外からの干渉は不可能です。再度作戦を再開するとしても方法は……考えねばなりませんが。あの空中では積層結界魔法陣も効果が薄いですし、そもそもあのレベルの呪いが二つも一箇所に集まるなど前代未聞です」

「なるほど…………占星院の捉えた予言の通り、というわけか」

ところで、さっきからフランツさんがこっちをちらちらしてるのが気になって仕方ないのだが……知らないよ。

今回はあまり口を挟まない方がいいだろう。豪華メンバーだし、口は災いの元だからな……。

腕を組みうんうん適当に頷いていると、今回大した活躍をしていないラピスとクリュス達、《星の聖雷》グループが満を持したように口を開いた。

「呪いに魔術はほとんど効かん。呪いには呪いに似た力で対抗するのが一番だ」

「私達の森では歳を重ね精神的な力を蓄えた精霊人がその役割を担っている」

「私達とはまた違った特殊技能を持つ 呪術師(シャーマン) だ、です。そういう適性を持つ血筋に生まれるか年を重ねた精霊人には力が宿るんだ、です!」

「あのクラスの呪物を正攻法で鎮めるのは難しい。恨みが全く薄れていないからな」

口々に見解を述べる精霊人達。付き合いやすい性格とはお世辞にも言えないが、こういう時は頼りになるな。

…………そしてやっぱり、クリュスって遊ばれてない?

敬語を使えと言いつけられてああなったらしいけど、なんで一人だけ変な敬語なんだよ……。

神父さんはその言葉に、深く頷き、どこか哀れみを込めた目でマリンの慟哭を見上げる。

「…………恨みが全く薄れていない、か。仕方のない事なのでしょうね…………マリンの慟哭も悲劇的な成り立ちがある。ある意味では、アレも被害者だ」

何があったのかは知らないが、それでもあの暴れっぷりはちょっとどうかと思うけどな。

考えている振りをしながら話を聞き流していると、ラピスが目を細め、言った。

「人の手であれを浄化するのは荷が重かろう。我々もゼブルディアには世話になっている、もしも必要ならば――呪術は我らの分野だ、我らの森の 呪術師(シャーマン) を呼ぶが…………」

「なんと…… 精霊人(ノウブル) の 呪術師(シャーマン) 、ですか……」

ガークさんが意外そうな目でラピスを見る。《星の聖雷》は一時期、帝都で活動するハンターの中でもかなりの問題パーティだったらしいのでその頃の影響だろうか。

そこまで深い付き合いがあるわけではないが、彼女たちもクランに入って少しばかり丸くなったように思える。

そう言えば、呪術師と言ったらケチャチャッカだな。今頃、何してるんだろう。まだ【迷い宿】?

「だが、森の 呪術師(シャーマン) は人間嫌いだ。ここまで連れてくるのにはゼブルディアの協力が不可欠だ。それに……ふん。教会にも面子はあろう」

「…………なるほど。まぁ、積層結界魔法陣で抑えきれない相手をどうにかする術は総本山にもないでしょうね。現実的に、今の帝都教会であれを浄化できるのはアンセムくらいでしょうが…………相手があの様子じゃ逃げられるでしょう」

「うーむ……」

アンセムが困ったような唸り声をあげる。怨嗟と殺意を撒き散らす呪いが逃走を選ぶとは(しかも結界から解き放たれていたのに、だ)、強すぎるとまた別の問題が発生するらしい。

「占星院の予言への対策は最優先で取り組むように指示を受けている。迎え入れるのに必要なものは責任を持ってこちらで準備しよう。それで占星院の予言を阻止できるんだったら、安いもんだ」

さすがここまで集まったメンバーの層が厚いと何にでも対応できるな。なんだか僕がここにいるの、場違いな気がする。

フランツさんの言葉に、ラピスは仰々しく頷くと、凛とした声で言った。

「精霊人の森に金属製品はご法度だ。迎えの馬車は全て草木か宝石で出来たものを用意せよ。馬はユニコーンかグリフォン、大勢の人間がいる所は苦手なので迎え入れる際は大通りに外出禁止令を出すように。他国の王族をもてなすようにもてなせ」

他国の王族相手でもそこまでしないと思うよ……悪気がなさそうなのが余計にたちが悪い。

さすがに帝都に外出禁止令を敷くのは難しいと思ったのか、フランツさんが押し殺すような声で尋ねる。

「……………………他に、何か方法はないのか? 他に要員は――たとえば、あの魔術学院のセージならばどうだろう?」

「……ふん。くだらん事を……あの女は半端者だ。それに、人間にはわからないかもしれないが、魔導師と呪術師では方向性が全く違う」

フランツさんも大変だな……しかし、今回の僕は本当に何もしていない。

でもルシアもアークもアンセムもラピス達も《始まりの足跡》のメンバーだし、ある意味、僕の貢献度高いのでは?

…………うんうん、そうだね。そのせいでレベルだけ上がっちゃったんだね!

フランツさんと神父さんとラピス達が今後の計画の詰めに入る。

特にやることもないのでぼけーっと窓の外に見えるマリンの慟哭を見ていると、ふとガークさんが言った。

「……クライ、何か気になる事でもあるのか?」

「え? いやー…………」

何も言っていないのに…………いや、何も言っていないのがよくないのか?

皆の視線がいつの間にかこっちを向いていた。ルシアのジト目が特に痛い。これは僕が話をろくに聞いていなかった事もバレているな?

気になる事、気になる事、ね。特にないけど…………そうだな。今回の件とは全然関係ないけど、強いていうなら――リィズが気になるかな。

護衛してくれる順番的に次にやってくるのはリィズのはずだ。護衛されても結局散々な目に遭っているので護衛の意味などない気もするが、来なくていいよでは納得するまい。

そしてもちろん、リィズはルーク達が何か貰った事を知っているだろうから、同じように何か貰えると思い込んでいるはずだ。実際には今回僕があげた物はとんでもない物ばかりなのだが、そんな事リィズにとってはどうでもいいのだ。何か渡さないと子どもみたいに騒ぎ出すよ、きっと。

さてどうしたものか……全然関係ない事を考え込んでいると、ガークさんが顔を顰めて言う。

「何かあるならば今のうちに言え」

「…………いやー、特にないかな」

「どんな些細な事でもいいんだぞ! 貴様は、毎度後からとんでもない事をしでかすからな!」

フランツさんが余計な事を言い始める。一体何が彼の中での僕の評価を貶めているのだろうか……悪気はないんだよ。悪気がないのが悪いと言われてしまえばそれまでなんだけど。

だが、何か言わないとどうにも収まらない雰囲気だ。僕は一度咳払いをすると、申し訳無さそうな顔を作って言った。

「今回のとはあまり関係ない話なんだけど…………その、なんというか、あー………………そう。鍵のかかった宝箱的な何かがあったらいいなーって」

「!? 何を言っているんだ……貴様」

「ここで重要なのは、鍵がかかっている事ね。古びていて、木製の、趣ある奴ね」

リィズは鍵のかかった宝箱が大好きだからな。鍵は複雑であればあるほどいいし、一般的な宝箱のイメージに近ければ近い程いい。

何ならこの際中身が無くてもいい。鍵を開けて貰って褒めちぎればきっと大満足だろう。

アーク達が眉を顰めている。神父さんも戸惑っている様子だ。やはり言葉に出すべきではなかった。帰りに探そうかな。

§

諸々の話し合いを終え、ラピスやルシア達と共に教会を出る。開放感のあまりに大きく背筋を伸ばす僕に、ルシアが深々とため息をつく。

途中で空気の読めない発言もしてしまったが、結局、侃々諤々の論争の結果、精霊人の呪術師に協力を依頼する事になった。

それまではマリンの慟哭は宝具で磔にしたまま放置しておくらしい。なまじよく見える場所なだけに神父さんも困り顔だったが、なかなか前衛的なオブジェだと思う。

昨今では徐々に人間の街にやってくる者も増えてきているとはいえ、基本的に精霊人と人間は相容れぬ存在だ。ましてや相手が精霊人の間でも一目置かれている呪術師ともなれば、何かあれば国際問題に発展しかねない。

迎え入れるフランツさんは終始苦虫でも噛み潰したような顔をしていた。貴族も本当に大変だ。

外に出ると、ラピスがフランツさんに言う。

「急いだ方が良かろう。早速、我々は森に話をつけに向かう。フランツは迎え入れる準備を」

「…………少々、時間がかかる。準備が出来たら連絡をする、共音石を用意しよう………………《千変万化》、貴様に預けていた共音石をよこせ。もういらんだろう」

「…………えー、てっきりくれるものかと……」

「やるかッ! 共音石は帝都でも希少な戦略物資だぞッ!」

受け取った時は戦々恐々だったが、割とすぐにフランツさんに繋がるのは便利だったんだけど仕方ないな。

しぶしぶ、共音石を返す。フランツさんは鼻息荒くそれを受け取ると、ラピスに手渡した。

ラピスがしげしげと共音石を眺め、懐に入れる。仕草の一つ一つが本当に様になっているのがとても羨ましい。ハードボイルドだ。

と、そこでフランツさんがぎろりと僕を見た。

「《千変万化》、他に何か懸念点はないな?」

「んー? ないかなー」

ないって言うか、よくわからないかなー。

自慢じゃないが僕がうんうん頷いていたのは――周りに合わせていただけだ!

「ッ…………貴様は、いつもそうだ! さっきの突拍子のない発言といい、何だ? そのふざけた態度の代償に神通力でも得ているのか!? 宝箱とはなんだッ!」

あれは……関係ないって言ったじゃん。忘れておくれよ……。

「やれやれ、フランツさん。落ち着きなよ。あんなベストメンバーを揃えてまだ不安なの? アークにガークさんにルシアにアンセムと、攻守共に隙のない編成じゃん。マリンの慟哭の被害も結局出なかったわけだし、あれだけメンバーが揃えばどんな呪いが来ても平気でしょ。僕を頼りすぎだよ」

「………………ぬぅ……ッ」

逆さにしたって何もでないよ、僕は。わざわざルシアに飾りの上に載せてもらったのを見ていないのか!

皆アクシデントがあったらすぐに僕の所にくるんだから……僕も暇ではないんだよ。休息に忙しいのだ。宝箱買いに行かないといけないし……。

「今回付いてきたのも念のためで、結局何もしてないでしょ? この際はっきり言わせてもらうけど、僕はフランツさんが思っているより全然大した事ないよ。問題ばっかり起こしてるし」

「じ、自覚があったのか……貴様ッ! 無敵かッ!」

しまった……やぶ蛇だったか!

反射的にルシアの後ろに回って隠れようとしたその時、地面が揺れる。

後ろを向く。声をかけてきたのは(かけていないけど)アンセムだった。珍しく甲を脱ぎ、後ろには光霊教会の神官達を引き連れている。

僕を叱責しかけていたフランツさんが黙り込む。

大きな門をぎりぎりで潜れる程度の体躯。大抵の人が黙り込むような存在感がそこにはある。

何か用だろうか?

言葉を待っていると、アンセムは小さく咳払いをして喉を整え、久々に籠もっていない声で言った。

「クライ、先程の話し合いで出た宝箱の件で、教会から話があるらしい。一緒に来てくれ」