軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

157 温泉掘り

全員でぞろぞろ外に出る。入れる家がなく、仕方なくずっと野外にいた(ちなみに、慣れてる)アンセムも合流し、シトリーの先導で温泉掘削予定地に向かった。

ティノがどこか落ち着かなそうな表情で僕を見る。

今回は、ティノだけが《嘆きの亡霊》のメンバーではないが、これまでも何度もパーティに混じってついてきた事がある。皆顔見知りだ。

「と、ところで……ますたぁ……温泉ってどうやって掘るんですか?」

「何言ってるんだ? ティノ。スコップで掘るに決まってるだろ」

「……え? し、しかし、ルークお兄さま。それでは、温泉が出ない可能性も――それに、何メートル掘ればいいのか……」

ティノのもっともな疑問に、ルークは欠片も躊躇うことなく強く宣言した。

「そりゃもちろん、出るまで掘んだよ。それが修行だッ! 森羅万象全てが剣の道に通じている。つまり、穴掘りも剣の道に通じてるわけだッ! そうだな、クライッ!」

「……うんうん、そうだね」

君、本当に何やっても強くなるよね。意味がわからない。

剣を取り上げてもどうにもならないのだから、もはやその成長を止める事は僕にもできない。

最近では半分くらい色物扱いをされているらしいが、それでもなんか楽しそうなのがルーク・サイコルという男であった。

散々クライ君ぬいぐるみに憤懣をぶつけ、落ち着いたルシアが一度咳払いして言う。

「しかし、バカンス先が海じゃなくて、温泉でほっとしました」

「ん? なんで?」

海か……海もいいね。今回は温泉な気分だったが、海水浴も大好きだ。

泳ぎはしないんだけど、潮風に当たり日向ぼっこしているだけで大分日頃のストレスが軽減される。

よし、次は海に行こう。

ルシアが眉を顰めると、額を押さえて深々とため息をつく。

「海だと……何が出てもおかしくありませんから。温泉地ならまだマシです」

「……ルシアお姉さま。ここでも、ドラゴンが出ましたよ」

「俺は海が良かったな。そうだ、クライ、俺は次は手が八本ある剣士を探してるんだッ! 頼んだッ!」

この世界はどこも危険がいっぱいだ。やはり帝都の中で甘味処でも巡っているのが一番安全なようだ。

そして、なんか頼まれてしまった。僕はいつも通り適当な事を言った。

「四人の剣士を一度に相手すれば?」

「……ん? どういう事だ?」

「手が合計八本になるじゃん」

手が八本ある剣士ってなんだよ。そんなのもう魔物だろ。

ルークはしばらく黙って考えていたが、ぽんと手を打った。

「………………天才かッ! 次からそうしよう。実は、八本の次にどうするか心配してたんだ、これならいくらでもいけるッ!」

「うんうん、そうだね」

アンセムの肩に座っていたリィズが呆れたような眼差しを向けてきているが、僕は最近、ルークがどこまでいけるのかとても楽しみだったりする。

シトリーの案内でたどり着いたのは街の端っこ、四方百メートル程の空き地だった。建物もなければ、なにもない。

あるのはただ草や石ででこぼこした大地だけだ。シトリーが両手を合わせるいつもの所作をして、ニコニコと言う。

「今回、ゴーレムの代金の一部として、土地を頂いたのですッ! スルスには隠れ家を持っていなかったので、ちょうどよかったです」

「隠れ家って……こんな、開けた土地貰ってどうするつもりですか……」

ルシアが途方にくれたように、土地を見る。

街の端っこだし、立地も不便だ。そもそも僕達のホームタウンは帝都である。家を建てるのにもお金がかかるだろう。

だが、今はパーティ 全員(エリザはいないけど) が揃っているのだ。なんだってできるように思える。

僕は指をぱちりと鳴らした。

「よし、ルシアッ! 温泉だッ! 出してッ!」

「はぁ?」

「ルシア、滝も忘れないでくれよッ!」

「…………」

ルシアは凄腕の魔法使いだ。シトリーも大概万能だが、彼女の魔法は面倒な前準備なくして大抵の事を可能にする。

大体、何か要求すると出来ないというのだが、ある程度時間をあげるといつの間にかできるようになっているのが彼女であった。

期待を込めた目で見る僕に、ルシアがむすっとした表情を向ける。

「そうだ、後、一緒に、旅館も出して欲しいんだけど。アンセムが余裕を持って入れるサイズで」

「そうだ、激流と大渦も出してくれッ! 端っこの方でいいから――」

「私、サウナが欲しいッ! あっついのッ! 耐熱訓練も出来てお得でしょ?」

「ルシアちゃん、ほら、大丈夫。ちゃんとポーションは用意しといたから」

「その……ますたぁのぬいぐるみ、出して欲しいです」

「…………貴方達、 魔導師(マギ) をなんだと思ってるんですか?」

きっとルシアならできると信じている。次に魔導書を書く時はその辺の日常系魔法をメインに記載しよう。文句言われそうだけど。

と、そこでそれまで黙っていたアンセムが久しぶりに声を出した。

宝具のヘルムの中から低い声が響く。

「すまないな。私は、野宿でも問題ないし、温泉に入らなくても問題ない。慣れてる」

アンセム・スマートは妹であるリィズやシトリーと違って寡黙な男である。僕たち幼馴染の中では最年長であり、昔から頼りになる男だった。

僕がリーダーをやらされていなかったら、恐らく彼がリーダーになっていただろう。パーティでは一番の人格者だ、帝都でも人気者で、彼が籍を持つ教会は彼が入れるように建て直されたりしている。

だが、いかんせんアンセムは自分を二の次にするような傾向があった。リィズと足して割ればちょうどよくなるかもしれない。

彼がここまでビッグな男になってしまったのは、皆を守るためだ。本人がいいと言っても僕たちが良くない。

ルークが仕方ないとでも言うかのように肩をすくめ、その脚甲をどんどんと叩き、示した。

「おいおい、アンセム。見ろよ、この土地を。たった四メートルなんだから、余裕でスペースがあるだろッ! 冷静に考えてみろ、百メートルくらいあるから、えっと……二十五人まではいける」

全く、何言っているのかよくわからないが、ルークの言う通りだ。僕も適当な事を言って追従する。

「そうだよ、大丈夫、スペースが足りてなかったらルシアに魔法で空間を歪めて貰えばいいから。簡単、簡単」

「ちょっとッ! 適当な事言わないでもらえますか? ……まぁ、旅館出すのはともかく、穴を掘るくらいならどうにかなるので……アンセムさんは気にしなくていいですよ。いつもだらだらしている、リーダーに頑張ってもらうので」

「アンセムお兄さま、私もできることはやりますッ!」

「…………面目ない」

アンセムが大きなヘルムに包まれた頭を下げる。

アンセムに迷惑を掛けられた回数よりも、僕が彼に迷惑を掛けた回数の方がずっと多い。温泉を掘るくらいなんだろうか。

ほら、さっさと掘れ、掘れッ! その無駄に高い身体能力を有効活用する時だッ! 魔物と戦うよりもずっと簡単だろう。

リィズが身軽な動作でアンセムの肩から飛び降り、ルークが腕まくりをする。

「リーダー、温泉は掘るだけじゃ駄目なんですよ? 何とかして汲み上げないと……」

「あー…………なら、あれが使えるんじゃない? ほら、昔見せてくれた、噴水を作り出す魔法」

地面から水を噴出させる魔法だ。魔法がどこまでできるのか知りたくなってルシアに要求した魔法である。

ちなみに、当時、散々文句を言われたのを覚えている。成長していない……。

思い出したのか、ルシアが嫌そうな表情をする。

「…………あの魔法、あの後、城を吹き飛ばすのに使ったんですが」

「…………出力をうまいこと調整して? 大丈夫、何とかなるさ……今まで何とかなってきたし」

「何とかなってきたんじゃなくて、何とかしてきたんです。はぁ……」

「とりあえず、大規模な工事はルシアちゃんに任せて、私達は細かい部分を決めましょう。最悪、数日保てばいいです。後は業者に任せてゆっくり直して貰うので」

いつも通り、シトリーちゃんがうまいことまとめてくれる。ルシア達は長い事留守だったので、この光景も随分久しぶりな気がした。

僕は、いつもは何もできる事がないので座っているだけなのだが、今日は働きたい気分だ。

駆け足でシトリーの土地を走り、真ん中付近で立ち止まる。

「よし、ルシア。とりあえずここらへんを掘ってみようッ!」

「また適当な……」

「大丈夫、ルシアちゃん。この周辺はどこを掘っても大体、温泉に当たるって言ってたから。それに、失敗したら当たるまで試せばいいでしょ?」

シトリーに諭され、ルシアが嫌そうな表情でこちらに来る。反抗期である。

そして大きく深呼吸をすると、目を見開き、小声で呪文を唱えた。

その長い黒髪が風もないのにふわりと浮き上がる。僕は魔力を感知する能力に欠けているので見えないのだが、今ルシアはその身から膨大な魔力を発し、魔術を組み上げているのだろう。

僕の示した場所がミシミシと音を立て、一メートル程の大きな黒い穴が開く。何度見ても魔法というのは本当に不思議だ。

お湯が出るのを固唾をのんで見守る。だが、いくら待っても噴出してくる気配はない。

「…………? あれ? 温泉は?」

「…………大体二千メートルくらい掘ったんですが……水源に当たりませんでした。やっぱり、空振りみたいですね」

やっぱりってなんだよ、やっぱりって。どこ掘っても出るんじゃないのか……肩透かしだ。

まぁ、別の場所を示せばいいのだが、やはり僕は運が悪い。シトリーも困ったように笑っている。

新たな場所を探そうと視線を穴から外しかけたその時、不意に穴の中から真っ黒の手が出てきて、地面を掴んだ。

思わず心臓が止まりそうになる。だが、その時には、ルシアが躊躇いなくその手を蹴っ飛ばしていた。

鉤爪の生えた、人間そっくりの手が地面から外れ、音もなく、穴の中に消えていく。

…………何? 今の……。

「もうッ! リーダーは、すぐにこれだからッ! 閉じますよ? いいですね?」

「ちょっと待て、ルシアッ! 地底人か? 地底人だな!? 俺が行く!!」

「待って、ルシアちゃんッ! 何それ、勿体無いッ! 中、見てみたいッ! おら、ティー、行くぞッ!」

リィズとルークがスコップを放り出して穴の側に殺到する。

僕は早く皆で温泉に入りたいなあと思った。