軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第13話・進捗はめでたいようで

「いいか、魔法で土を固めるというと、多くの初歩的、あるいは独学の魔法使いが、硬くなる土の塊をイメージする」アルフレッド兄が拳を握りしめて、例える。「こうやって拳を硬く握るように、土を硬くしようと魔法を行使する。でも、それで可能なのは、魔法による土の硬化までだ」

「??」

ミリアム、ドズゥに続き、一瞬にして俺も置いてけぼりを食らう。

魔法で土を硬くするのだから、魔法による土の硬化こそが全てなのでは? と思って首を傾げると、アルフレッド兄が楽しそうに笑った。

「生徒達もそんな反応をする」

関係ないけどこの人、生徒達からもモテそうだな。ウラヤマけしから……けふんけふん、苦労の多い日々を送っていそうだ。

「実際、土魔法における土の硬化は、土を硬くしているわけじゃないんだ。土の塊の繋がりを高めているに過ぎない。土のひとつぶひとつぶはそのままに、魔法によって繋がりあった状態こそが、土の硬化だ」

それは解る。泥団子を強く握って硬くするイメージだろう。あるいは、おにぎりのほうが解りやすいかもしれない。土を米粒と例えて、優しく握れば柔らかいおにぎりになるし、強く握れば硬いおにぎりになる。

「そうなると」俺は考えながらゆっくりと言う。「硬い土をイメージするのではなく、どうすれば硬くなるかを理解した上で、そうなるように魔法を行使するんですか?」

「正解」アルフレッド兄は人差し指を立ててウインクをする。「魔法は手だと考えるんだ。漠然と、では無く、物質を理解し、物理を理解し、どのようにすれば硬くなるかを知れば知るほど、魔法はそれに答えてくれる」

アルフレッド兄は、踊るように魔法の行使を始めた。その手の動きは、まるで楽団の指揮者だ。

先ほど水を落として泥になった土。それを拾い上げたかと思うと、泥が清水と土に分離した。数秒程度で土は乾いた状態に戻るが、降る粉雪が改めて土を少しだけ濡らす。

魔法による脱水を終えた土を元あった場所に戻すと、今度は水のほうだ。

丸い球体から四角いクリスタル状になったかと思うと、水だったものは氷に変わる。氷の状態で数秒維持したかと思うと、その氷は瞬く間に解け、蒸発を始めた。湯気に当たった粉雪が瞬く間に溶ける湯気。さっきまで氷だったはずの水が、蒸発する温度に達して蒸気になっている。

そして、その蒸気が川の上へと移動し、広がり、水滴に戻り、ゆっくりと落ちた。

「…………」

一級品の手品を見せられたような気分だった。土と水を同時に操り、水の温度まで操り、蒸気にした状態でなお操り、川に戻した。

……数秒で蒸気が作れるっていうことは、水さえあれば人に全治数か月の火傷を負わせられる凶器が作れるって事なんですが、それは……。

「今、スレイン兄さまとアルフレッド兄さまが戦ったらどうなるんですかね……」

興味本位で呟いてみると、アルフレッド兄は苦笑する。

「どうだろうな。1対1だと解らないが、少なくともリーシャと2人での再戦なら、必ず勝てる」

「おお」

凄い自信だ。

字面だけ見ると「2対1なら勝てる」なので自身無さげな文章ではあるが、相手がスレイン兄だと考えれば十分に自信有りと言えるだろう。

決闘してみてほしいなぁ、という願いがチラついた瞬間、死人が出る地獄絵図が浮かんだため、すぐにその欲は畏怖へと変わった。なるほど、この光景が見えるから、アルフレッド兄は苦笑しているのか。

「ともかく、だ。魔法力とは、どれだけの魔力を扱えるかと、どれだけ物理を理解しているかの掛け算で決まる。それで言うと、アルメルは魔力量は十分だが、物理の理解が応用出来ていない」

「物理。応用」

土が固まる理由。土を集め、強く固めるイメージ。そして、魔法は手だと考える。

「そう。それで、壁を作ってみようか」

「はい」

壁。土を操り、盛り、壁を形成する。

今までは、固まれ! と念じている状態に近かった。それをより具体的に、それこそ、両側から挟んで、丁寧に固めてから、プレス機でぎゅうぎゅう詰めにするイメージ。

魔力を惜しむな。

そう言えば、魔法を使う事に慣れたせいで、しばらく全力を込めた魔法を使っていない。そのせいか瞬発的に本気にはなれなかった。だからじっくりと、けれども着実に力を上げて、硬くする。

そして、

「……出来ました」

「お、流石、飲み込みが早いな」

俺とアルフレッド兄の間に壁が完成する。

ドズゥが「どれどれ」と歩み寄り、壁を叩く。今までと音が違うのははっきりとわかる。

「おお、中々変わるもんじゃのう」

結構本気で裏拳を入れたりしているが、壁は無事だ。壁が無事なのは良いのだけど、その力で殴ってどうしておじいちゃんの腕も平気なの。結構がっつり殴ってるよ。

「どれどれ」

と、今度はアルフレッド兄は人差し指で足元の土を操り、数秒もかけずに固めた土塊を壁に向けて走らせた。

結果は――俺の壁は容易く貫通され、風穴を開ける。

「…………」

もう少しこう、手心というか、なんというか……。

「こんなものか?」

「は、はは……まさか」

魔法は日常的に使っているけれど? 本気で使う機会が少なくて? ブランク? みたいな?

やり直す。

壊される。

やり直す。

壊される。

やり直し、

壊されて、

「なぁああああああああんでええええええええええ!!!!」

自棄になる。

久々の全力の魔法行使に酸欠を起こし、ふらふらしながらも叫ぶ。

「お、まだ叫ぶ元気があるのは良かった。もう一度やってみよう」

「がるるるるる!!」

この身体になってから、敗北感、絶望感というものとは縁遠く、この人生を通算しても数えきれる程度しか体験していないように思う。

その中でもこれは、何年か前にフレイヤに告白をしてフラれた時くらいの感覚だ。幼少期あるあるのフリをして割とガチめに「将来お嫁さんになってよ!」と告白をして割としっかり子供扱いされて終わった、あの絶望感に等しい。死にたい。

「なにやってんの、あの2人」

少し離れた所でミリアムが呆れている。

「わしらには理解出来ん何かじゃ」

ドズゥも呆れている。特訓に巻き込まれなかった連中は気楽で羨ましい。

「アルフレッド、少し、可哀想」

仲裁に入ったのはリーシャだった。

リーシャは俺とアルフレッド兄の間に入り、テンションが上がっていたアルフレッド兄の右手にそっと右手を重ねて落ち着かせながら俺を見る。

「アルメル、この人、魔都でもかなり上位の魔法使い。魔法で勝つ事を目的にするの、不可能」

との事。

…………いや、あの……2人の距離感が気になってちょっと話が入ってこないです。

「それもそうだな」上の空の俺を差し置いて納得するアルフレッド兄。「試しに今の魔法力でどこまで配管を作れるか、試してみないか」

「え? あ、ええ」

従いつつ観察する。

アルフレッド兄は「止めてくれてありがとう」と言わんばかりにリーシャの頭に手を置く。リーシャは、その仕草は日常なので気にしませんとばかりに、アルフレッドを上目遣いで一瞥してから、普通に離れていく。

「?」

とりあえず、言われるがままに、今までだったら確実に壊れていた長さの配管を作成し、中に水を入れる。――成功。壊れない。

「おお、早速効果が出たな」

そう歓喜するアルフレッド兄の横にリーシャが来て、漏れが無いかを2人で確認する。

「問題無さそう。距離、伸ばすべき」

そう提案するリーシャ。その際にアルフレッド兄と何度か身体が接触しているが、どちらも気にする様子は無い。というか、なんかワンチャンわざと距離近付けてない? どちらともなく、2人とも、近距離が普通です、みたいな。

「??」

言われるがままに距離を1.5倍にしている。――成功。壊れない。

「目覚ましい進歩じゃのう! この数か月はなんだったんじゃ!」

歓喜するドズゥがハイタッチをアルフレッド兄に求める。アルフレッド兄はそのハイタッチに応じる。その流れでアルフレッド兄は俺ともハイタッチを交わし、自然とリーシャとも小さくハイタッチする。

「????」

操り人形になっている俺を他所に、アルフレッド兄は、

「このまま行ける所まで行ってみよう! 最初の倍の長さだ!」

と、次の指示を出す。言われるがままに倍の長さにして――失敗、漏水が発生した。

「まぁ、いきなりそう上手くはね、行かないのが普通だから。そんなもんそんなもん」

ネガティブに励ましてくれるミリアム。

「でも、急成長」

と、リーシャが言って、俺に向かって指パッチンをしてきた。サーシャはしない仕草だ。つまりそれはメルヘンラークで身に着けた所作なのだろう。

「良い調子じゃないか、このまましばらくは魔法の特訓だな」

アルフレッド兄はそう言いながら、今度は俺の頭を撫でる。

いや、うん、有識者が特訓してくれるのは有難いので、是非とも教えを請いたいのだけど、今はそれどころでは無い。もう気になってしょうがない。いや、実は昼に再会した当初から割と思ってた。もうデリカシーが無いとか関係ない。これで空気読めない奴と認定されるなら、俺は甘んじてその評価を受け入れる。

だから聞いた。

「アルフレッド兄さまとリーシャ、デキてますよね」

その確認に、アルフレッド兄が固まる。いやいや、固まらないで。露骨にイチャイチャしやがって。お祝いか? 宴か?

「ああ、まぁ、出来ているというか」

困ったように苦笑したその笑みは、多分テレだろう。アルフレッド兄はリーシャと顔を合わせて、お互いに頷いて、俺に言う。

「お父様にもまだこれからの相談になるが……結婚して、ディーゼルの家名を残す事にした。お父様が認めてくだされば、俺の名前はアルフレッド・F・ディーゼルとなる」

と。