軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話・生きる道は違うようで

「これは……なんというか、凄まじいな……」

アルフレッド兄がトマトソースを唇の端に付けたまま呆然と言う。上品で中性的なイケメンの顔にトマトソース。ふむ、悪くない。

「そうでしょう、凄まじいでしょう?」

とドヤ顔でアルフレッド兄に食べさせているのはなんでしょうか! デデン!

冬なので肉は確保が難しかったため、主役は川魚。ニジマスに似た味と姿の魚がこの近辺で多少取れるので、そちらを使う。

片栗粉という物はこの時代のこの国には少なくとも無いようなので、蒸したジャガイモを熱々のまますり潰し、開いて骨を取った魚に塗りたくる。

そして、人数分作らないと勿体ない油の使い方――揚げ物にする。

その間に黒パンを横に切ったものを用意。葉野菜を何枚か乗せ、トマトソースを乗せ、そこに、魚のフライもどきを乗せる。

そうです! この時代にパチモンを作りました! フィッシュバーガーもどきです!

片栗粉の作り方、わからなかったんだもん!

アルフレッド兄はクリスティーナが作ってくれた食事にも舌鼓を打ち、食事を続けたまま言う。

「メルヘンラークの食事も味付けは濃いが……これらは、ただ濃いという感じでは無いんだな」

俺はニコヤカに答える。

「野菜の生産事情が回復したので、野菜そのものを調味料に出来るくらいの余裕が出来たんですよ。だから、味付けが今までと少し違う」

「道理で。この赤いソースは、すり潰したトマト、というわけでは無いんだな」

「トマトをすり潰したらもっと水っぽくなりますね。他にも色々混ざってますよ~」

「またとんでもない事をしたんじゃないか?」

人聞きが悪い、何か良くない事をしたんじゃないかというような悪戯な目で俺を揶揄うアルフレッド兄。

「作物が魔物化しない装置を作っただけですよぉ」

「とんでも無い事をしているじゃないか!」

驚くアルフレッド兄。とはいえ、そんなに大げさな驚き方では無い。俺が何かしでかしたんだ、という事は解り切った上での、やっぱりな、的なリアクションだった。ツッコミに近いか。

「それで、こんなに美味しいご飯を作れるようになった上に、今は何をしているんだ?」

知ってか知らずか、アルフレッド兄は自ら首を突っ込んでくれた。相変わらず助かる。

「食事の後にしましょう」

俺はニコやかに言う。

「どうしてだ? 業務連絡や報連相は食事休憩中に済ますのが合理的じゃないか?」

「!?」

アルフレッド兄から出た提案に、思わずスプーンを落とす。幸いにもスプーンはテーブルより下には落ちなかったため、まぁいいよね、3秒ルールという事で! 今はそれより、

「……アルフレッド兄さま……。ど、どこでそのような価値観を……」

昼休憩の食事中に業務連絡? それは、過去の労働状況を彷彿とさせる要素があった。

「? いや、今の職場がな、時間を無駄に出来ない職場なんだ」

と、当たり前のようにアルフレッド兄は言うが! それは、良くない、良くない風潮だ。

知っている。俺は、前世の記憶で、食事中に業務連絡を済ます作戦を知っている。

その名も、ランチミーティングである。

いやこれ本当に良くないからね? 休憩中に仕事させちゃダメ、絶対。犯罪です。日本なら。

ところで雑学だが、『過労死』という言葉は少なくとも英語圏には無いらしく、英語でも『 karoshi(カローシ) 』と表記される。仕事し過ぎて死ぬ。死ぬまで働くという概念そのものが日本特有らしい。

その日本で過労死した張本人である俺が言うのだから間違いない。労働は自分に合った適量を。用法要領をお守りください。

「忙しいんですね。今、確か魔法学の教授の弟子だとか」

「ん? あー」

そこで、アルフレッド兄が微かに言いよどむ。そして、微かに回りの人間を観察し、言い直す。

「そんな所だな。ただ、教鞭に研究に論客対応にと忙しい場所で、休んでいる暇が無いんだ」

「だから数年に1度しか戻って来れない上に、そんな覚悟がガン決まったみたいな面持ちになられたんですね」

「え、そんな顔をしているか?」

俺の言葉に、アルフレッド兄がきょとんとする。続けてリーシャのほうを見る。その横で仲睦まじくフィッシュバーガーを楽しむ2人だが、どうにも、そのリアクションが、俺の知るサーシャ&リーシャでは無かった。

俺が知る2人は、双子がずっと一緒に同じ境遇を生きて、同じ教育を受けていたが故に、色違いの同じ人間が2人居る、というような印象だったが、何故か、その印象を感じない。

「リーシャ、ほっぺにソース、付いてる」

「これ、魚の返り血」

「違う。トマトソース」

「冗談。え、魔都ソース? 魔都の名が入るなら、魔都の名物にすべき」

「理解不能。そもそもトマトソースの名前、アルメルが勝手に着けた。メルヘンラークと関係無い」

喋り口調も性格も変わらない。でも、違う人間になったんだな、と思った。

因みに、久しぶりなので俺も忘れていたけれど、魔都とはアルフレッド兄達が現在生活しているメルヘンラークという魔法都市のあだ名だ。

魔法を学ぶために魔法学校があるメルヘンラークへ進学したアルフレッド兄と、その護衛兼メイド兼同級生として一緒にメルヘンラークへ進学したリーシャ。2人は魔法学校の元々の教育期間である2年間を勉強に費やし(諸説あり)、すぐさまとある教授の弟子として研究を続けながら教える立場となり(諸説あり)、そのまま働いているとの事。

諸説については、しょうもない噂話なので割愛するとして、しかしだ。これだけ見ても、少し考えると思う所はある。

2人揃って同じ場所で就職。という事は、2人とも同じ成績だったのか? たった2年でアルフレッド兄とリーシャが同レベルの魔法使いになったとは考えづらい。なら、2人が同じ場所に就職したのは、コネであると考えるのが普通だ。

パラノメール出身の2人がメルヘンラークに持つコネなど無い。

つまり2人は、学生時代のうちにその教授とのコネを作り、2人とも必要とされ、同じ場所へ就職しているはずだ。

教授とのコネが出来るほどの学生生活、と考えると、だ。修羅場は迎えてるんだろうなぁ、と、なんとなく思うのだ。

絶対にメルヘンラークでいくつもの修羅場を越えてるよね、この2人。アルフレッド兄とリーシャ。

なんか、リーシャとサーシャが双子だって思えないほどリーシャが凛々しいんだよね、口調は変わらないけど、雰囲気が。アルフレッド兄も謎の色気と謎の何かを感じさせる。なんなんこの2人。大人の階段上り過ぎでは?

「……まぁ、そうだな、覚悟はな、決まってるかもな」

アルフレッド兄が小さく笑う。

多分、俺には解らない何かを、2人だけの何かを内に秘めているのは確かだろう。

「そうですか。もし何かお困りなら、ご相談ください。必ず、力になりますから」

と、俺はアルフレッド兄の手を取った。

アルフレッド兄は俺のその行動に少しの間放心し、しかしすぐに、大きく笑う。

「ああ、お前達の力があるなら100人力だ。必ず、力を貸してくれ」

その言葉に、今度は俺が、大きく笑う。

手を貸し合う? 協力する? いえいえいえいえ、そんなのは営業の大前提でございまして。

俺は、アルフレッド兄の手を力強く、逃がさないためにさらに力強く握り、言う。

「そうでしょうとも。なので交換条件です、今、俺を助けてください!!」

と。

「え、あ、はぁあ!? なんだ、唐突に!」

困惑するアルフレッド兄。

いや、本当に申し訳ない。なんか再会でアンニュイな気分、アンニュイな表現になってたかもしれんが、俺の心はずっとひとつ。俺の真実はいつもひとつなのだ。

俺は懇願する。

「配管作りに、魔法の知恵をお貸しください!!」

と。