軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第16話・出会いと別れは唐突なようで①

数か月が経ち、アルフレッド兄が魔法学校進学のために家を出るまで、残りひと月となった。

色々な事があった。

まずはサングラスの顛末について。ジーマン商会にサングラスの作成方法と技術提供兼従業員教育をケイシーさん達にしてもらい、本格的に大きな工場を作るより、教育をした職人を各地へ送り込み、各地で生産させたほうが初期コストが安く済むとの事で、そうした。ケイシーさんとジーマンさんの言い合いは中々に白熱し、殴り合いにでもなるんじゃないかヒヤヒヤしていた。これは別の話。

監視塔でのサングラス作成は今も続けている。とにかく最初は数が欲しいので、3交代制によって24時間稼働出来る郊外の土地は貴重なのだ。しかしその分、実は何度か魔獣や野盗による襲撃があった。夜中に音を立てて明るくしているのだから、そりゃたまに襲撃もされる。基本的には配置していた騎士団が追い払ったが、一度だけ俺が居る時間帯にスライムが大量発生した時があった。その時たまたま警備に来ていた騎士団長のジャンとアルフレッド兄、双子の4人で対処する事件もあったが、これもまた別の話。

で、スレイン兄とアルフレッド兄が決闘をしたりもしたのだけれど、これも別の話。

……いや、別の話が大切すぎる。

俺がカツラとサングラスを無事に完成させ、順調にサングラスを世間に普及出来ているため、双子のどちらかはアルフレッド兄と共に魔法学へ進学する事が決まった。しかし、どうしても不安を拭えなかったスレイン兄が、アルフレッドと双子の片方でタッグを組み、僕と決闘をしろと言い出したのだ。その結果はなんと――庭の地形が変わった、とだけ伝えておこう。

そうだ、その決闘の前に、双子によりガチ喧嘩も発生していた。ようは、どちらがアルフレッド兄とタッグを組むか――というより、どちらが魔法学校へ進学するかの喧嘩だ。勉強に専念する事を拒否した双子が押し付け合いの決闘をした。結果、赤髪のリーシャがアルフレッド兄と魔法学校へ行く事が決定。青髪のサーシャが、俺のメイドに決まった。

日々は順調だった。

相変わらず掃除を拒否する、年相応の双子。この子達を差別から守るための開発を半年でしたわけだが…………。

「もうなんも手につかない……」

俺は燃え尽きていた。

実際、魔法灯の時ほど自分で動く事は少なかった。だが、午前中はジーマン商会と打ち合わせをして、午後は郊外へ赴きサングラス工場を見守る。魔法灯で暗くなっても生活が出来るのを良い事に夜は屋敷で家族と進捗確認会だ。

そんな過酷な日々を終え、ようやくひと安心出来るようになった。地形が変わって芝の面積が減った庭の隅にあるガゼボでぐったりとくつろぐ。

「アルメル。お茶要る?」

と、メイド服のサーシャが聞いて来る。屋敷の中ではフードもカツラもサングラスもしていないので、青い髪とオッドアイの超可愛い少女だ。

「ん-、今は気分じゃないかな。好きな事してていいよ」

屋敷のメイド達にメイドとしてもミッションを叩きこまれたサーシャは、上品な振る舞いこそ身についていないが、いくつかの気配りは出来るようになった。しかし、

「好きな事……アルメルで遊ぶ?」

「俺で遊ばないで? せめて俺と遊ぼう?」

たまにとんでもないボケをかましてくるんだよな。と思いきや、

「ん。アルメルで遊ぶ」

そう言って俺の後ろに回り込む。ガゼボの外から俺の髪を弄りだした。

「本当に俺で遊びだした……」

言い間違いとかボケじゃなかったんだ……。

多分今、俺のそんなに長くない髪で、短い三つ編みをいくつも作っているのだと思う。抵抗する気力も無いので大人しく遊ばれる。

そこから、無言の時間が流れた。

サーシャは元々口数が少ない。喋らなくても苦ではないからクールなのかと思う時もあるが、こうやって露骨に甘えてくる事もある。いや、10歳の少女が6歳の少年に甘えるというのも少し違うかもしれない。上手く表現出来ないが、寂しがり屋な側面を持っているのだと最近気付いた。何も言わずに近くに居るし、短い言葉で構ってアピールをする。なんだか猫のようだ。

「ねぇサーシャ。やっぱりお茶が飲みたいかも」

そう言って見ると、サーシャは手遊びを辞めて、俺の後ろでふんすと鼻を鳴らす。

「そういうこと、早く言う。すぐ済ませる」

どこか誇らしげに颯爽と離れていくサーシャ。すると、さっきまで気付かなかった心地よい風にようやく気付いた。

優しい風に頬を撫でられながら、少し考えてみた。

差別。

俺の前世にあった差別は、本当に色々あったし、酷いものも沢山あった。歴史を学べば反吐が出るものもあって、昔の差別が今もなお禍根となり根強い感情を残している物もある。

酷ければ酷いほど被差別対象に劣等感や敵対心を根付かせ、取返しはつかない。そして、この世界における突然変異の扱いは本当に酷いものだと、アルフレッド兄やお父様から聞いていた。

それにしては、だ。

それにしては、リーシャやサーシャと接していて、そういうものを感じた事が一度も無かった。彼女達は言葉こそ少ないが人懐っこく、人の言う事をよく聞く良い子達だ。純粋に他人の事も信じているようにも見える。差別を受けてきた者が、こんなに純粋にあれるだろうか。

この世界での差別が、前世のそれより軽いのかもしれないけど、それは希望的観測だ。

多分、リーシャとサーシャの周りに居た人たちが、とても良い人達だったんじゃないだろうか。

自分達は被差別対象であると察する必要が無いくらいに愛されて、守られてきて、その事に本人たちも気付いていたんじゃないだろうか。

でも、だとしたら――誰かがしなきゃいけない事を、誰も出来ていない気がする。

「持ってきた」

考え事の途中でサーシャが戻ってくる。

「磨いた技。見るといい」

木のグラスで良いものをわざわざ陶器の上等なティーカップを持ってきたサーシャはカップをテーブルに置き、ポットを高く掲げた。そう、彼女は披露してくれたのだ! メイドや執事が居たら是非やってみて頂きたい、高いところからの紅茶注ぎを!!

「どう」

「うん、半分以上こぼしても自信満々なのは、前向きでとても良い事だね」

そりゃそうなる。

「こぼした分は掃除してね」

そう言うとしかし、サーシャは露骨にそっぽを向く。……この小娘……。

「じゃぁ……撤去作戦!!」

「! 初めからそう言う」

てきぱきと動き始めるサーシャ。めんどくせぇメイドである。

「ここに居たのか、アルメル」

ふと声を掛けられ、庭のほうを見ると、そこにはこちらへ手を振るアルフレッド兄が居た。その後ろにはリーシャが着いている。

「アルフレッド兄さま。どうされたのですか?」

聞くと、アルフレッド兄は正面の椅子に座りながら答えた。

「気分転換に散歩をしていたらお父様に捕まってな。少ししたら、アルメルと一緒に書斎に来るようにって。リーシャとサーシャに、カツラとサングラスをさせて連れて来いだってさ」

「すぐに行ったほうが良さそうですかね」

「お茶を呑む時間くらいは許してくれるさ。さっき淹れたばかりなんだろう?」

「いえ、御覧の通り、淹れるのは半分しか成功しませんでした」

半分しか中身が無いティーカップをアルフレッド兄に見せると、アルフレッド兄は大きく笑った。

「はっはっは! 器用なんだか不器用なんだか解らない子達だな、相変わらず。なんにせよゆっくりで良いさ。最近忙しかったしな」

お言葉に甘えたいところだが、そもそも飲みたくて頼んだ紅茶では無い。サーシャとの戯れのために淹れて貰った紅茶だ。数口だけ味と香りを楽しんで、後は一気に飲み干した。

「問題ありません。行きましょう」

「……そうだな」

俺が立ち上がると、アルフレッド兄も立ち上がる。2人で歩き出す。

「ところでアルメル。その髪はカツラか?」

「? ああ、忘れてました。サーシャに遊ばれたんです」

「独特な遊びだなぁ……。人に会わせたいらしいから、今の内に直しておけよ?」

それはまずい。今自分がどんな髪型なのか解らないのでわしゃわしゃと振り乱して直す。それを見届けたアルフレッド兄が「仕方ないなぁ」と微笑みながら細かい部分を整えてくれた。

「それにしても、誰なんでしょうね、会わせたい人って」

「さぁな。そうだ、リーシャ、サーシャ。自分の部屋からカツラとサングラスを持ってから、お父様の書斎へおいで」

「了解。バレない」「変装、こなす」

さっきまで後ろを歩いていた2人が、アルフレッド兄の指示に従い先に行く。

ああ、そうか、と2人の反応を見て思い出す。人に会わせるという事は、突然変異である事を隠さないといけないのか、と気付くと、さっきまでのダラけた空気が少しだけ引き締まる。

書斎はそう遠く無い。アルフレッド兄と他愛無い話をしながら歩いて、到着して、戸を叩く。

「お父様。アルメルを連れてまいりました」

アルフレッド兄が言うと、中から聞こえてきたのはお父様の上機嫌な声だった。

「おお、入れ」

言われるがままに中へ入ると、そこにはお父様と、もう1人の男が居た。初めて見る男だ。

男性、という表記では無く、まさに男が相応しい、となんとなく思った。外套を羽織り、フードは外しているが、顔にいくつかの傷がある。外套で殆ど隠れているのに体格が良い事も解る。一目で、堅気では無いと察する風貌だった。歳はお父様と同い年くらいに見えるが、皺が多いのでもっと上かもしれない。

その怪しげな男はしかし、俺達を見ると、ひと目見た瞬間の強面が勘違いだったかな、と思うほどの、愛嬌のある大げさな笑みを浮かべた。

「おお、ファラン卿、もしやこの2人が、次男坊と三男坊ですか! かわいい盛りなのに背筋がピンと伸びて、日ごろの教育が行き届いてる証拠ですねぇ!」

「そうだろう。自慢過ぎるくらいの子供達だ」

「いやあー。これは自慢する。親馬鹿にもなりましょう!」

「スレインも最近めっきり成長してなぁ。どうだ、久しぶりに手合わせしていかないか」

「いやあ、はは、勝てない勝負はしない主義でして!」

「何を! スレインはまだお前に勝ててないだろ! 勝ち逃げは許さんぞ!」

大人が2人で盛り上がっている。お父様の大声というのも珍しい。とても仲が良さそうだけど、誰なのだろう、この人は。

そこに、

こん、こん、と、遠慮がちなノックが響く。

ぴたりと、大人2人の会話が止まった。

ノックをしたのが誰か。普通に考えればリーシャとサーシャだが、さっきのノックはどうも2人の性格らしくない。別の誰かだろうか?

静まり返った大人2人も、少し様子がおかしい。外套の男がお父様のほうを見ると、お父様は男に向けてゆっくりと頷いて見せてから、

「入りなさい」

と、扉の向こうに声を掛けた。

そこに居たのは――やはり、双子だった。さっきのノックはなんだったのだろう?

しかし、こちらも少々様子がおかしい。サングラスを装着している2人。リーシャは黒髪のカツラを。サーシャを濃い茶色のカツラを被って――ぽかんと、口を開けて呆然と、その男を見ていた。

対する男は――震えていた。

2人の姿を見て、唇を振るえさせ、心無しか目に少しばかりの水っ気があるように見えた。少しだけ、本当に少しだけ、信じられない、とでも言いたげに、首を横に振っている。

双子のどちらか、あるいは両方が言う。

「 シ(・) ン(・) シ(・) ア(・) 。これ、私」「私、普通になった」

その言葉を、いや、その声を聞いて、男はついに膝から崩れ落ち――涙をこらえて鼻をすすりながら、両手を組んだ。

「ああ……ああ、神よ……団長……、みんな……」

その男に、双子がトコトコと男に歩みより、ぎゅっと抱き着いた。慰めるために抱きしめるのではなく、甘えるように抱き着いたのだ。

「シンシア。久しぶり」「再会。そんなに嬉しい?」

どうやら、その男と双子は、知り合いだったらしい。