軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第15話・金の力は偉大なので……

その光景は、まさに圧巻だった。

その部屋の床には、一瞬、人の頭が敷き詰められているかのような景色が広がっている。

だが、それは勿論人の頭では無い。ジーマン商会に作成を依頼していたカツラである。それなりの金と人海戦術によって制作は容易と思っていたが、それにしても、

「どうですかのう、町中の長髪を買い取り、作らせて頂きました。カツラ50個です!」

作りすぎである。

いったん双子の頭を隠せる2つを用意してくれれば問題無く、ちょっと利益率のいくらかを頂くのみで販売権を安売りしようかと思っていたのだが、この男、ジーマンさんは、このカツラにかなりの商機を見出しているようだ。

「御覧くだされ、アルメル様。まるで私が女のようですじゃろう?」

わざとらしく似合わないカツラを被ってみせたジーマンさんに思わず吹き出し、テンションが上がる。

「良いですね! では俺はこれです! こんなの……いたいけな少女になっちゃう!」

「痛い毛なだけに! がはは!」

「あはは!」

「リーシャ、アルメル、壊れた」「オヤジギャグ、寒い」

双子から痛い目で見られた。いたいけなだけに。まぁ、フードとバンダナで目は見えていないのだけど。

「そんなことより、これだけあればよりどりみどりだ。2人とも、好きなのを選ぶといいよ」

と俺は提案するが、まぁ流石に世界初のカツラだ。デザインに多様性は無く、どれも普通にその辺に居る人の髪の毛だ。カツラの選定を始める2人はしかし、両手にカツラを持ったまま固まり、こちらを見た。

「お、ようやく私を信頼してくれましたかな?」

ジーマンさんがにやりと悪そうな笑みを浮かべる。

「おっと、これは失言」

「なにを今更。これが突然変異の子の姿を隠すための発明というのは最初から解っておりましたからねぇ。いつ信頼して話してくれるのかと待ちわびておりましたよ」

「てっきり言わぬが花かと思ってましたよ」

「がはは。お二方、外していただいて結構ですぞ。ここには我々しかおりません」

ジーマンさんの言葉に、2人がフードとバンダナを外した。

赤い髪のリーシャ。青い髪のサーシャ。目は分け合うようなオッドアイ。久しぶりに見た気がする本当の素顔。

「まったく、あんなに綺麗なのに、どうして隠さないといけないのでしょうか」

味方だと思って呟くと、ジーマンさんは答えた。

「人も商品も変わりありますまい。綺麗だから、でしょう。好事家が欲しがりますし、それだけではございません。侮蔑もありましょう、嫉妬もありましょう、羨望もございましょう。周りと違うものには、必ず何かしらの感情が向けられる」

「たしかに、そうですね」

納得して、2人でじっと双子を見守る。

そういえば、

「ところで、ジーマンさんはどうして、積極的に協力しに来てくれたんですか?」

商機を見た、というだけならば想定の範囲内だったのだが、敵味方の区別が付かないためお父様やスレイン兄にも隠すための隠語を用いたり、少しばかり協力的過ぎるようにも思える。それに、ジーマンさんの仕事はこれで終わりでは無い。ここからが彼の本当の仕事だ。

「私はですな、冒険者になりたかったのですよ」

「ほお、冒険者ですか。意外ですね」

「人を助ける冒険者! いやぁ、心から憧れて、父上母上にも黙ってギルド登録まで済ませましてな」

「はは、すごい行動力だ」

「まぁ、向いておりませなんだ。大人しく稼業を継ぐ事にしました」

「ご立派です」

俺の社交辞令を社交辞令と見抜き、ジーマンさんは優しく微笑む。

「そうでしょう、立派でしょう。目立つ冒険者、人気な冒険者の人助けにばかり目を奪われていた幼い私は気付かなかった。商売も人助けが出来ると」

お父様が気に入るわけだ。

それにしても、お父様の人徳なのか、人を見る目なのか、お父様が連れてくる人間はどれも人が出来過ぎている気がする。この環境に身を置いていると、もしかしてこの世界って悪人なんか居ないのでは? と思いそうになるが、悪人が居ないなら突然変異が差別される事も無い。

「アルメル、これ、どう?」「良い髪、解らない。アルメル、選ぶ」

持てる限りのカツラを持って俺の前に来る双子。2人揃ってぴょんぴょん跳ねる姿は、そのジト目とは裏腹に随分と人懐っこい。

「こらこら、持ち過ぎだよ。少し片づけてきなさい」

そう言うと、ウサギモードだった2人はつんとした表情に急変し行動を止めた。

「片付け、しない」「拒否。別のオーダー求む」

そうだった、2人は掃除的な言葉が嫌いなのだった。

「元あった場所に戻しなさい」

「ややこしい言い方、しない」「初めからそう言うといい」

言いながら、いくつかのカツラを元の場所へ戻しに行く双子。うーん、コミュニケーションが難しい。

だが、なんにせよカツラは完成した。残るテーマは2つ。サングラス販売経路の拡大。双子用サングラスの作成。

「それでジーマンさん。本題です。サングラスを出来るだけ多くの人に身に着けさせたい。最低でもこのパラノメールと、メルヘンラークで流行らせたいのです」

「メルヘンラーク。やはりですか。もしや、あの双子のどちらかを魔法学校へ通わせるのですかな? それとも、アルフレッド様のお付きに?」

「お父様は進学させると言っていました。一応、今のところ2人ともに魔法の勉強をさせています」

「おお、流石はダグラス卿。懐が深いですな」

そこまで話しているところに、今度はひとつずつのカツラを持ってくる。一瞬銀髪に見えるほど色素の薄い金髪のカツラだ。

「アルメル。これ。最大候補」「母の髪色、近い。合格」

ああ、そうか、確かに、遺伝子で考えるなら親の髪色に近い物を選んだほうが、自然と似合う色にはなるだろう。でも、

「残念、その色じゃ2人の髪色は隠せない。他の、もっと濃い色のものにしておいで」

「父の髪色、探す」「アルメル、注文、多い」

え、そう? ちょっと待って、俺そんなに何か注文した?

不貞腐れた様子で別のカツラを探しに行く双子。隣でジーマンさんが「大変ですなぁ」と笑っていた。

「しかしですぞ、メルヘンラークで流行らすとなると、特別な手段が必要やもしれません。馬車で数週間は掛かりますので流通が大変で……。魔都は流行等にも敏感な人々がおりますので、メルヘンラークより少し近い王都で流行らせて、その流行り物好きに自発的に察知してもらうほうが、よっぽど成功率は高いと思いますわい」

「そうですか……。なら、パラノメールと王都とメルヘンラークで流行らせましょう」

「ええ!? 注文が増えましたな……」

え、そう? 物事は地続きだからついでだと思っただけなのだけれど、そんなに大変な追加注文だったのか……。如何せん、過労死するほどの社畜だったものな。多分、俺の労働精神で判断してはいけないのかもしれない。

「そんなに大変では無いと思いますよ。ジーマンさんのやる事は3つだけ」

俺が説明した内容はこうだ。

ひとつ。サングラス生産用工場と職人の擁立と育成。今の職人さん達は皆あくまで助っ人ですから。

ふたつ。営業活動。これは多分、1、2回ほど商品名を覚えさせるようにするだけで問題ありません。

みっつ。冒険者ギルドへの無償貸与、人気冒険者への無償提供、人前によく出る騎士への格安提供。これらの金の負担は俺が持ちますので、損はさせません。

「これだけです」

その言葉で締める。

ジーマンさんは少し考えた。そして「それなら」と言いかけて、

「アルメル、これ、面白い」「まん丸髪。これ、髪隠せる」

アフロを持ってきた2人に邪魔されていた。うん、髪は隠せるね。でも、

「ちょっと目立ちすぎるかなぁ。その髪をしている2人が目立つと、一緒に居るアルフレッド兄さまや俺が見つかって、野盗に狙われやすくなってしまうかもしれない」

「うぐ……確かに」「任務妨害、不可」

今度は文句無く引き下がってくれた。いや、パーマの無い時代によくあんな髪があったな。天然アフロは凄すぎる。

「ゴホン。えっとですな」

妨害されたジーマンさんが咳払いして、無理やり話を再開した。

「それなら、狩り好きの貴族にも提供したほうがよろしいかと思いますぞい」

俺は答える。

「いえ、狩り好きの貴族や訓練ばかりの騎士団は、人目に着かないので流行に寄与しません。少しでも目立つ人に優先すべきです」

結構自信のある説得だった。しかし、結果として俺は負ける事になる。

ジーマンさんは言った。

「 軋轢(あつれき) ですわい。ギルドに提供したのに、土地を治める我々への献上が無いのは何事かと不快に思う貴族もおります。そやつらの反感を買って『この領地においてはサングラスは禁止』と法律が施行される、などという事を防げるなら、一通りの貴族にひとつ献上する程度、安い投資でございましょう?」

まったくもってその通りだ。実際、俺はお父様による人間関係の選定がされた上での人付き合いしかしていないため、この世には善人しか居ないのでは、と勘違いするレベルに、この世界においては性善説になってしまっている。悪い人間も居るという事実を知る人の意見をこそ、尊重すべきだろう。

俺は言う。

「承知しました。それでいきましょう。では、早速ですが、お願いします」

「お任せください」

これで、カツラ作成と販路確保および拡大、完了だ。