作品タイトル不明
秘話14・常識は遠いようで⑤
それにしても、改めて思う。
もう一度、ドズゥとミリアムも頭数に入れて整理してみよう。
【シンシア】
戦闘力/高 知能/高 学歴/無 指導力/中 事務能力/中。
【サーシャ】
戦闘力/中 知能/中 学歴/中 指導力/無 事務能力/低。
【クリスティーナ】
戦闘力/中 知能/高 学歴/高 指導力/中 事務能力/中。
【アルメル】
戦闘力/低 知能/高 学歴/高 指導力/中 事務能力/低。
【ドズゥ】
戦闘力/中 知能/高 学歴/中 指導力/高 事務能力/中。
【ミリアム】
戦闘力/低 知能/中 学歴/低 指導力/低 事務能力/低。
…………思わずクリスティーナを見る。
俺がオヌシの所へ行かないよう引き留める様は、まるで夜のお店かパチンコへ行こうとする旦那を必死に止める薄幸の妻だ。
まずもってまずいのはもう明らかにここ。『事務能力』である。
うそ……俺達の事務力……低すぎ……?
ここで言う事務能力というのは、現代的には書類等の手続き関連の業務に当たるだろうが、まだ紙すらも貴重品であるこの世界においては、情報整理だったり、行政的な手続き・手引きを含んだものと考えて欲しい。
傭兵団副団長をやっていたシンシア、騎士団長だったドズゥ、公爵家令嬢たるクリスティーナはそういう事がある程度出来るとして、しかし、ならばそれらを専門的に出来るほどのプロフェッショナルかと問われれば、違う。それにだいいち、この3人を事務に回すなんて、断固反対だ。
いや、いや、いわゆるサポート職も非常に重要なのだ。クリスティーナが事務職に回ってくれたらどれほど色々な事がスムーズに回るかと妄想する。妄想の内容はこうだ。
光沢を持って光を反射する美しいピンク髪とピンクの瞳。白い肌、無邪気さと妖艶さを併せ持った超絶美女マイハニーが、そう、スーツだ。スーツが良い。スカートタイプも良いが、シゴデキなオーラとオンオフのメリハリからしてパンツルックのスーツも似合いそうだ。素晴らしい。スーツに身を包むクリスティーナ、可愛い。あまりにもマイハニーがマイハニーしすぎている。
「…………シンシア、 アルメル(この人) 、どうしちゃったと思う?」
俺に対して可哀想な人を見る目を向けるクリスティーナがシンシアに問う。
「これは現実逃避っすね。敗戦を悟った戦士がよくこんな目をして微笑んでました」
そりゃするよ、現実逃避くらい。
ちょっとネタにされていたので、ひとつ咳払いをして気を取り直す。
そして、俺は宣言する。
「人手が足りない」
と。
クリスティーナ、シンシアはどこか呆れたような表情。サーシャは無表情のまま俺を見つめている。
おや? うまく伝わらなかったのかな? と思い、もう1度言う。
「人手が、足りないんだ」
クリスティーナ、シンシアはどこか呆れたような表情。サーシャは無表情のまま俺を見つめている。
……デジャブ?
俺は追加の説明をする。
「現状、俺達は人手不足だ。だからこそ、オヌシ達の成長が今後、非常に重要になる。人材は宝。人を育ててこそ組織だ。ここに居るメンバーが優秀なのはこれ以上とないほど解かっているし感謝している。その上で、次の世代、ないし、さらなる組織拡張のためには、人材を育成するシステムと『取りまとめる事務』が必要になる」
シンシアが首を傾げる。
「人を育てるのが重要なのはわかるんすけど、取りまとめる事務、ってのは、どういう事っすか?」
この世界の良いとこでもあり悪い所でもある。
そして、現代社会の悪いとこでもあり良いとこでもある、この重要性。
俺は、答えるのではなく、あえて問う。
「名のある軍師なら、地理情報も敵情報も無いまま作戦を立てられるだろうか?」
と。
シンシアは答える。
「無理に決まってるじゃないっすか。作戦は、情報ありきっすよ」
と。
だから俺はさらに問う。
「今日明日で決着する戦いだとして、情報が正しければそれで作戦を立てられるかな?」
少し、シンシアは黙って考えた。クリスティーナも考えている状態で、本能のままにサーシャが答える。
「作戦立案は可能。ただし、検討、確認の時間が無いから、成功率、不明瞭」
「そう!」
思っていたより早く、しかも1発で、俺が思う正解が来てくれたので、思わずテンションが上がる。
「情報は、ただあるだけだとその本領を発揮しない。取りまとめ、整頓され、必要な時に必要な情報があって初めて、より早く、より効率的に情報を引き出せるようにする業務。それこそが、事務だ!」
その場に居る 3(・) 人(・) が目を見開く。
ふふ、驚いている、驚いている。そして今! 感情が揺さぶられた今こそが交渉のタイミング!
「より多くの人材に育ってもらい、事務適性が高い人間を見出す必要がある。村の子供達を待っていたら数年後だが、もし、ヤンキーズ又はオヌシに事務適性があった場合、どうだ。今すぐに事が解決する! より効率的で、より効果的な組織運用のため、今、ヤンキーズの困りごとには寄り添ったほうが有益な可能性は高いんだ! あくまで可能性の問題の賭けではあるけれど、やってみる価値は、必ずある!」
決まった。俺の力説。
綺麗事かもしれないが、綺麗なだけじゃ生きていけないこの世界において、綺麗な事は何よりも尊い。
これで、俺の説得は決まり、俺は、絶対に面白いであろうオヌシ&ミリアムが現在進行形でやらかしている事故現場を見に行けるのだ!
あのね、あのね!? オヌシもミリアムも、ガチで優秀なんだよ。将来有望な宝。でも、あくまで特攻性能・一点特化型の有能なんだ。組織としては失いたくないから大切にするのでクビにはならない人材が、それでも暴走してやらかす事件。……こんな面白い事が他にあるか!?
絶対に見たいのである。オヌシとミリアムという一転特化型の有能が合わさって「優秀な人間でもこんな事あるんだ笑える」という状況を! 俺は! 見たい!
クリスティーナが言った。
「人材が足りず、育成も運次第の状況で人手が足りないなら、仕事のペースを落とせば良いんじゃないかしら」
と。
「……………………????」
え、今、マイハニー、なんて言ったのかな。よくわからなかった。
「え……と…………クリスティーナ? ……いま、なんて??」
問うと、クリスティーナはさも当然のように、同じ言葉を、同じ口調で繰り返す。
「人材が足りず、育成も運次第の状況で人手が足りないなら、仕事のペースを落とせば良いんじゃないかしら」
と。
え……と……。
「しごとの、ぺーすをお、とす?」
俺の知らない概念である。
状況を理解出来ない俺を見て、クリスティーナは呆れたようなため息を吐き、ぺちぺちと、2回だけ俺の額を叩いた。
そして微笑む。
「欲しいものは、ひとつひとつ手に入れる。願い事は、ひとつずつ叶える。それでこそ、地に足の着いた政策と言えるんじゃないかしら。だから、仕事のペースを落としても良いんじゃないかしら。……いいえ、落としなさい、 人(・) 材(・) が(・) 欲(・) し(・) い(・) な(・) ら(・) 」
その言葉は、今の俺にとっては天啓だった。
人材が欲しいなら、人材確保のために労働を重ねるのではなく、人材を確保しやすい環境を整える必要があるのだ。そしてそれはなんだ? そう、働きやすさだ。
「…………」
働きやすい環境を作る。
そのテーマは……俺の……自主的に過労死するまで働いていた俺にとっての……天敵……。
ふえ……? 俺、もしかして、無能……?
「ダメっすねこれ」シンシアが俺の顔を覗き込みながら言う。「現実逃避の次は故障した」
ひどい言いぐさである。
働きやすさってなんだろう。誰でも頑張れる環境ってなんだろう。考えるが、すぐには浮かばない。
物事は複雑だ。人材が足りないから育てなければいけない。育てるには新人が要る。ならば新人を呼ばなくてはならない。新人を呼ぶためには環境が要る。新人が来たがる環境。そして、残り、経験を積める環境。
あまりにも難しい課題。
あまりにも、現代では前提になりすぎて、気付けなかった有難み。
「……………………有給だ」
前世では当たり前だった、しかし、世紀の発明のひとつ。年次有給休暇。
給料は支払われるぞという前提で、しかし休める日を設ける。これにより、社員は安心して休みを取れる。そして、経営陣は、社員にこれを与えるために、業務の目標ペースを再設定する。つまり、仕事量を落とす。
経営陣からしたらネガティブな要素しか無いように思えるかもしれないが、取得時期が定まっていない休日を社員に与え、社員単位で閑散期と繁忙期の休み方・働き方の調整をさせる手段として、非常に有効だったりする。
福利厚生として人材獲得にも有利で、なにより社員のクオリティーオブライフが上がる事で会社への忠誠心や依存度を高めてくれる。
使い方を従業員の選択に委ねる諸刃の剣だが、切れ味は鋭い一手。
俺は思いつきのテンションで、その場に居る皆に告げる!
「有給休暇制度を、俺達の組織に取り入れたい!」
と。
そして、いつからか存在自体を忘れていた、助けを求めにここへ来たヤンキーズが、なんか悲しそうな顔で呟いていた。
「これ多分、助けは来ない感じっすかねぇ……」
うん、まぁ無理だよね、この状況で、オヌシ達のプライベートに踏み込むの。
俺、これ以上マイハニーを怒らせたくないし。
申し訳ないが、ヤンキーズはしばらく、オヌシ&ミリアムの元で好き勝手やられて頂くしかない。
現代日本なら完全にハラスメントなんだけれども……福利厚生っていうのは、本当に、難しいのである。