軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

秘話11・常識は遠いようで②

そっかー、結婚かー。スレイン兄、婚約者を連れてこないってんでずっとお父様と喧嘩っぽくなってたからなぁ。ついに決心が出来たんだね、よかったね!

そして、そのお相手はなんと!

敵対種族。

うーん……よかったね!

とりあえず自分の心境がこの場に相応しくないという自覚だけはあったので、黙る事にした。ここは学者先生にお任せするしかない場面だろう。

その学者先生たるアルフレッド兄が、一歩前に出る。

「え、いや……いやいやいやいや、ちょっと、ちょっと待ってください。それは、それはどういう……ど、どういうことですか」

完全に動揺しているアルフレッド兄に対し、スレイン兄は冷静に返す。

「どうもなにも、こういうことだ」

いや、これは、冷静、というより、覚悟を決めている、という顔だ。なんの覚悟を決めているのかは知らないが、しばらくは様子見に徹する。

アルフレッド兄が質問を続けた。

「どうして、エルフが、人間の言葉を、喋っているのですか!?」

まず、それだ。

スレイン兄は簡単そうに答える。

「僕が教えたんだ」

と。

アルフレッド兄は続ける。

「さきほど、スレイン兄様は、もしかして、エルフの言葉を喋っていたのですか!?」

その問いには、スレイン兄は答えなかった。変わりに、隣のエルフ、ルルミナさんに、俺達が知らない言語で何かを伝える。すると、自身の胸の前で硬く拳に握り、緊張した面持ちのルルミナさんが、一歩前に出て、答える。

「エルフ言葉、私、教える。した」

「そ、そん……そんな……意思の疎通が……可能だった……?」

動揺するアルフレッド兄。

その光景を見て、ん? あれ? と、自分が少し勘違いしていた事に気付く。

そうか、ここは異世界で、世界水準は中世ヨーロッパレベルと推定している。なら、場合によっては『自分達が用いる言語以外の言語が存在する事』すら把握していなかったとしても不思議ではないのか。

学者としての知識がある故に驚きすぎて言葉を失うアルフレッド兄。

お父様は今は喋るつもりが無いらしい。

何らかの覚悟を決めているっぽい真剣な面持ちのスレイン兄。

まぁ隠さずに、自分を誤魔化さずに受け入れよう。スレイン兄の覚悟は、その目は こ(・) の(・) 家(・) か(・) ら(・) 追(・) 放(・) さ(・) れ(・) る(・) 覚(・) 悟(・) だ。

ファラン家は王国の盾なのだ。敵国と繋がりがあると知れれば、失脚は必至だろう。

仕方がない。そろそろ割り込もう。

「あの、すみません、素人質問で恐縮なのですが」

俺は表面上は申し訳なさそうに、何も解っていないかのような雰囲気で手を挙げる。

「何か問題があるのでしょうか?」

3人は即答する。

「「「すあばならるいしい!」」」

なんだって?

3人の声が完全に重なって意味不明な言語になっていた。

なので、少しだけ順番を整える。

「まず、お父様。どうしてそのような険悪な雰囲気なのですか? 以前、スレイン兄さまの結婚相手は誰でも良いと仰っていたじゃないですか。確か、俺に人口回復についてを依頼した時に。あの言葉は偽りですか?」

言うと、お父様は怒るでもなく、自分の目頭をマッサージしながらため息を吐く。

「見くびるな、嘘なものか。結婚に関しては、認めた」

それはそうだ。お父様が敵対種族だから、という理由だけでスレイン兄の意思を拒絶するとは思っていなかった。なんらかの事情があるのか、なんらかの食い違いがあるのか。

「では、何に関して、認められないのですか?」

食い違っている話題を修正するために確認すると、お父様はまたもやスレイン兄を睨む。生半可な睨みでは無い。本気の怒りがそこにあった。

「スレイン。弟達の前で、もう1度この問いに答えて見せろ。……それで、子孫はどうするつもりだ」

え。

……あ。

あー……、なるほど、そういう。

スレイン兄は答えた。

「残せません」

と。

ファラン家は『王国の盾』だ。その長男が敵対種族と結婚し、敵対種族との子供を成した場合、では、そこからの跡取りはどうなる? というと、では、ファラン家が治めるパラノメールはどちらの領土となるのか? という問題が出てくる。極めて重大な政治的問題。だから、スレイン兄は子孫を残せない、と。

というかそもそも大前提、人間とエルフで子供を作れるのか? という疑問もある。どうも、出来る気がしない。

お父様は続ける。

「それで、お前がファラン家の子孫を残せないから、その代わりに、どうしたいと? 弟達に、自分から提案してみてはどうだ」

「…………」

スレイン兄が俯く。俺とアルフレッド兄は黙ってスレイン兄が言葉を紡ぐのを待つ。

気まずいだけの沈黙がしばらく流れた後に、スレイン兄は弱々しい声で言った。

「…………お前達の子供に、ファランの未来を託したい」

と。

だから答えた。

「嫌です」とアルフレッド兄。

「無理です」と俺。

アルフレッド兄が冷静に答える。

「俺の拠点はもうメルヘンラークです。パラノメールじゃない。メルヘンラークで妾を取って、俺もメルヘンラークで活動してるのに、その子供だけパラノメールに寄越せ? 横暴が過ぎますよ。スレイン兄様が妾を取れば良いじゃないですか」

俺もここに参加する。

「俺の妻はクリスティーナですよ。突然変異です。突然変異は子を成せません。俺とクリスティーナの間に、子孫は残らない。その上で、クリスティーナの実家は公爵家。子爵家のファランとは格が違う。子爵家の男が、公爵家の娘を嫁に貰い、その上で妾を取りたい、なんて、断じて、こちらから要求して良い事ではありません。アルフレッド兄さまの言う通り、スレイン兄さまが妾を取るべきでしょう」

その俺の言葉に、しれっとアルフレッド兄が便乗した。

「あ、そうだ、お父様。俺、リーシャと結婚したいんですよ。で、ディーゼルの家名を残すために、アルフレッド・F・ディーゼルになろうかと考えてます」

お父様は当たり前のように答える。

「結婚とディーゼルの家名を残す事は承知した。結婚の祝いは後にやるとして、家名については少し待ってくれ。この大馬鹿者次第では、アルフレッドかアルメルのどちらかにはパラノメールに戻ってきてもらい、ファラン家を継いでもらわねばならなくなるやもしれん」

お父様、本当のガチギレだ。まぁ、そりゃキレるか。

というか、

「突然変異との結婚は問題が無いのですか? 子を成せないのに」

思わず口を挟んでしまった。アルフレッド兄が「おまっ」と俺のほうを見る。申し訳ない、アルフレッド兄。気になってしまったんだ。

お父様は堂々と答えた。

「各方面から話は聞いている。最終手段、アルフレッドをパラノメールに軟禁すれば、 誰(・) か(・) 1(・) 人(・) く(・) ら(・) い(・) は(・) 追いかけてくるだろう。……そうだな、リーシャ」

「な!? リーシャ、お父様と裏で繋がっていたのか!?」

本気で驚くアルフレッド兄だが、リーシャは淡々と、当然のように答える。

「アルフ、向こうで無茶しすぎ。こっちで軟禁の選択肢、あり」

「無しだからな!?」

「因みに、スパイ、私だけじゃない」

「嘘だろ……? 俺はこれから誰を信じれば……」

「アルフレッドは浮気性。もう少し人を信じないくらいが適切」

夫婦漫才してた。平和である。いや平和じゃねぇな。アルフレッド兄、そんなに浮気してるの? まじ? ちょっとなんというかこう言うとすごく失礼なのかもしれないが――全然驚きが無い。なんでだろう。で、その浮気性に対して嫁であるはずのリーシャが寛容すぎるのはさらになんなの? そっちのほうが驚きである。

で、ここで失礼ながら、追撃をば。

「スレイン兄さま。少し確認したいのですが、何故、そこまで妾を拒否するのですか?」

スレイン兄は答える。

「僕が、嫌だからだ」

真っすぐな瞳。そして、その目の半端な開き具合を見て、なんとなく察する。その言葉はおそらく事実だが、前向きな理由では無い、と。

「僕が、ですか。ルルミナさんが、ではなく」

「…………そうだ」

少し考えてから、何かを観念したように返答するスレイン兄。

うん、うん。

俺は問いを重ねる。

「僕が嫌だからと言いましたが、具体的に、妾、ないし、他の女性との肉体関係を拒否するのは、スレイン兄さまの心ですか? それとも、肉体?」

「!!」

そこで、スレイン兄の目が見開く。その開いた瞳が、俺を見る。

俺は言葉にせず、全身全霊で伝える。『俺は味方です』と。真っすぐに見つめ返す事で、ただ、伝える。

スレイン兄は答えた。

「…………両方だ」

と。

だから、俺はスレイン兄に言うのだ。

「スレイン兄さま。それは、恥ずかしい事でも、苦しんで抱え込む事でもありません。けれど、少なくともこの子孫について話し合う場で、それを隠す事は、不誠実だと思います」

と。

その言葉に、少しの沈黙が続く。ただの沈黙ではない。沈黙をもって、スレイン兄に、本当に取るべき覚悟を取らせるための沈黙。ここに居るほぼ全員からの、沈黙というコミュニケーション。

その圧と対話した後に、スレイン兄は、お父様のほうを見て、言った。

「すみません、お父様。僕は嘘を吐いていました。……僕は……ルルミナ以外の女性に、一切、性的な興奮を抱けないんです。性的な興奮を抱けても、実用出来るほどの水準には至らない。それゆえに僕は、妾を取ろうとも、子供を作る事は出来ないのです」

と。

そう、この男。

頭も良く、少し戦闘狂な所を除けば人柄もよく、剣術は化け物レベルに最強な、この男、スレイン・オース・ファランは、現代でいう――EDである。