軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71 言い逃れ

私は、再びそっとバッグを中佐さんの机の上に置き、中から薬の箱を取り出して机の上に並べた。

「……い、今のは、無かったことに……」

「「「「「できるかああああぁ~~!!」」」」」

……ですよね~。

そして、問い詰められる私。

「どういうことだ! なぜお前に横流し一味の暗号が読める!

いや、疑っているわけではないから、そう怯えるな。一味の仲間なら、わざわざ暗号文を読んでみせる意味がない。余程の馬鹿ででもない限りはな。そしてお前が馬鹿ではない……、それほど馬鹿ではないことは、分かっておる」

「どうして、わざわざ言い直したんですかあっ!」

くそ。しかしその点については反論できない。いくらセレスのせいだとはいえ、大ポカをカマしたのは事実だ。何とか誤魔化さないと!

「あ、あの、子供騙しの、ごく簡単な暗号ですから、ひと目で判りますよ、誰にでも!」

「……軍の専門家チームが、既に3週間、解読に努めているのだが?」

「「「「…………」」」」

中佐さんの言葉に、部屋に気まずい沈黙が……。

いかん、何とかせねば!

何も考えずに見た時は、ただ単に意味のある文字列に見えたけれど、落ち着いてよく見ると、文章の構成が読み取れた。そりゃそうか、「読み書きができる」だから、読めるだけでなく、書けなきゃならない。書くためには、文字列の法則性が理解できてなきゃ駄目だろうからね。

「えと、まず文章を縦読みして、最初に当たる数字が4、ですよね。だから、全ての文字を4つ後ろの文字に変換します。そして、縦読みで当たるふたつめの数字が3なので、3文字ずつ飛ばして文字を拾い、並べます。その次に……」

慌てて、私の説明をメモする中隊長さん達。

そして私の説明が一通り終わると。

「……で、その、とんでもなく手間がかかる換字作業を、一瞬の内に終えたわけか? メモも取らずに、頭の中だけで?」

案の定、中佐さんが突っ込んできた。

だがしかし、その返しは、既に考えてある。

「え? この程度のことに、わざわざメモを取る必要があるんですか?」

ぎゃあああああ! とんでもない厨二病台詞だあぁ!

でも、こうでも言わないと説明ができないので、仕方ない!

「「「「「…………」」」」」

……もう、おうちに帰りたいよぉ……。

「お前、軍にはいらないか? 今なら、情報将校として少尉、いや、中尉として採用してやるぞ?」

おお、中尉! 士官様、幹部様だ! いきなり幹部とは、なんたる好待遇!

軍属ではなく、軍人としての階級を与えようとしているのは、簡単に辞められないようにかな?

「誰がはいるかああああぁ!!」

はぁはぁ。

そして、引き留める皆さんを振り切って、何とか帰宅した。

レイエットちゃんは、ずっと空気で、私達の話も分からなかったらしく、退屈そうだった。いや、ごめん。

店に戻ると、ベルとエミールから店番を引き継いで、ふたりはハンターとしての仕事に出発した。今日は、素材採取ではなく、獣を狩るとか。うんうん、成長しているようで、何より。

そしていつものように、レイエットちゃんを膝の上に乗せて、店番。お弁当は、とっくに売り切れている。

しばらくの間、ぽつぽつとやって来るお客さんを相手に、腹痛の薬やら軍人病の薬やらを売り 捌(さば) く。軍人病は、もちろん民間人の間にも広がってはいるけれど、軍人さん程には罹患率が高くはないから、行列ができる程のことはない。何せ、通気性の悪い革の靴を履いて、一日中汗まみれで、という人は少ないからね。そもそも、密閉式の革靴は、高級品だ。兵士達も、支給品でなければ、そうそう自腹で買えるようなものではない。

腹痛の薬は、寄生虫なら一発で殺し、食あたりなら菌を殺して毒素を分解、内臓疾患なら痛みの緩和とほんの少しだけ治癒、という感じにしてある。一過性のものであれば治してもいいし、寄生虫は気持ち悪いし伝染すると嫌だから、殲滅!

普通の病気は、うちの薬を飲めば何でも一発で治る、なんて噂が広まったら大変なことになっちゃうから、自重、自重……。

そして、客足が途切れた時。

「すみません、先日戴きました洗髪薬と美容薬、そしてお試し品として付けて戴きました香水、全て5本ずつ戴けますか?」

店に入ってきたメイドさんが、カウンターに歩み寄ると、そう言った。

顔には見覚えがないけど、言われた内容から、相手の素性はすぐに判った。あの、軍人病治療薬を独占しようとした名も知らぬ貴族の、奥さんの使いだ。

洗髪薬と美容薬5セットならば、小金貨30枚。香水は吹っ掛けられそうだから、1本小金貨3枚、5本で15枚。総計、45枚で行くか!

「あの~、香水は高くて、全部で小金貨45枚になっちゃいますけど、大丈夫ですか?」

私が恐る恐るそう尋ねると、メイドさんは、あっけらかんと答えた。

「はい、奥様から金貨10枚をお預かりしておりますから……」

しまったああああぁ~! もっと吹っ掛けるんだったああああぁ~~!!

そうか、私が貴族の御機嫌取りのために赤字で提供したと思ったか、それとも、売らずに試供品の提供にとどめた香水が、馬鹿高いと思ったのか……。

とにかく、失敗した! これなら、小金貨70枚、つまり金貨7枚くらい吹っ掛けても良かったんじゃあ……。

いやいや、待て待て、そんなことをしたら、それが定価になってしまって、平民の皆さんが買えなくなってしまう!

贅沢品である美容薬と香水は少し高くしてもいいけど、洗髪薬、つまりシャンプーは安くしなくちゃ。そう思い直し、商品を包みながら、ふと思い付いてメイドさんに尋ねた。

「あの、奥様の御様子は 如何(いかが) ですか? 髪やお肌の調子とか、他の貴族の皆さんに御自慢なさったりはされていますか?」

うん、宣伝状況のマーケティングリサーチだ。我が『レイエットのアトリエ』は、最新手法を取り入れた、先端企業なのである!

「あ、ハイ、それはもう……。髪はサラサラ、お肌もつるつるで 潤(うるお) いがあり、何か、張りも……。『娘の頃に戻ったみたい!』って、もう、大はしゃぎされて……」

え? 確かに地球のものよりは確実に効果があるけれど、そんなに劇的なものじゃないはずなのに……。あ、もしかすると、ハッキリと効果が眼に見えるシャンプーとリンスの効き目を見て、実際以上に効いているような気がして、そう思い込んでいる? あの、プラシーボ効果、とかいうやつ!

今度会ったら、ロシア語でお礼を言われるかも。……って、それは『スパシーボ』!

「で、他の貴族の御婦人方に自慢を?」

「はい、それはもう! そして、羨ましそうにする方、秘密を教えて欲しいと 縋(すが) る方達に、満面の笑みでの高笑い。それはそれは邪悪……お楽しそうでございます」

そうか、それは良かっ……、え?

「秘密を教えて欲しいと縋る、って……。え? うちの店の宣伝は? どこで買ったか、触れて廻ったりは……」

「は? 何をおっしゃっているのですか? 貴族の御婦人が、自分の優位、それも、美貌に関する優位の秘密を、他の御婦人方にわざわざ教えるとでも? 頭、大丈夫ですか?」

が~~ん!

いつまで待っても、宣伝効果が表れないはずだ……。

あの奥様からの宣伝効果を期待して、他には基礎化粧品の宣伝はやってないんだよ! あんまりやり過ぎて、お客さんが殺到すると困るから。そ、それが……。

くそ、こうなったら、目にもの見せてやる!

「……ちょっと、こちらへ」

「え、な、何を……」

狼狽えるメイドさんの手を引っ張り、奥へと連れ込む私。

そして、私の顎による合図で、さっと入り口の扉に「一時休憩中」の札を下げ、カギをかけるレイエットちゃん。

「な、何、いったい何を……、あ~れ~!」

……そして2時間後。

ふわふわの髪、つやつやの肌、そしてばっちりメイクされた、いい匂いのするメイド服の少女が、『レイエットのアトリエ』から、よろよろと出てきた。

少しふらついているようではあるが、何か少し嬉しそうなその少女は、買い物の荷物を抱えて戻っていった。

「よし、これで、広告塔2基目、完成! 平民ならば、貴族や有力者に問い詰められれば喋らないわけには行くまい! ふはははは!」

しかし、その後も、基礎化粧品が売れる様子はなかった。

……当たり前である。

商品を受け取った奥様は、その場でメイドに口止め。そしてメイドの化粧が完全に落ち、洗髪の効果もなくなって元に戻るまで、そのメイドを決して客の前に出さなかったのであった。

更に奥様は、メイドが施された化粧をじっくりと眺めて研究し、手持ちの化粧品でそれを再現すべくメイド達を実験台として練習を重ね、更なる進化を遂げるのであった……。