軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

70 面倒臭い・・・

毎日弁当100個を作り始めて、5日目の朝。

早起きして、前夜のうちに仕込みをするわけにはいかないもの、つまり傷みが早かったり時間が経つと味が落ちたりするものを急いで作り、弁当を完成させた。その数、100個。予約分50個、一般販売分50個である。予約は、50個までしか受けない。

いや、これが製造能力の限界、というか、正直、限界を超えている。

ポーション作成能力で出せば簡単だけど、「それは違う」と思うのだ。

薬は能力で出して売ってもいいんだけど、お弁当は駄目だ。

何が違うのか、と言われると困るが、そこを 退(ひ) かないのが、私、長瀬香、いや、カオルだ。

そこを守り通さないと、「能力で、金貨が詰まった樽型の容器にちょっぴりの薬品がはいったやつ」を出せばいいじゃん、とか、「口の中に薬品を含んだ、いい男型の容器」とか、もう、神をも恐れぬ、って、あの「なんちゃって神様」じゃなくて、地球人が信仰している方の、概念的な本当の神様の方ね、その、神をも恐れぬ、とんでもない行為に走ってしまいそうで、怖かった。

それで、そのお弁当だけど、同じものが100個、ではなく、バリエーションがある。

色々作るのは面倒だから、そう大きな違いじゃないけれど、製作に携わった者の好みによって、おかずの種類が少しだけ変えてあるのだ。そう、8種類のおかずを作って、そのうち5種類を選ぶ、というような感じで。

私、ベル、フランセットだけでなく、レイエットちゃんのもある。おかずの作成には参加せず、ただおかずの種類を決めて、容器に詰めただけだけど。

予約の分は、まだ受け取りに来ていない分と在庫が同数になった時点で一般販売を終了するから、その後に受け取りに来た者は、残ったものの中から選ぶことになる。お目当てのものがあるなら、早めに受け取りに来い、というわけだ。

まぁ、シイタケに似たキノコの醤油漬け煮込みとかは、全員が選択しているけどね。

いや、我ながら会心の出来だよ、これは!

あ、醤油とか砂糖とかの調味料は、ポーション作成能力で出している。そこは、許容範囲内だ。でないと、さすがにやってられない。「それはそれ、これはこれ」というやつだ。

お弁当を店に並べ、余ったおかずで、みんなで朝食。

ちなみに、フランセットは早起きして手伝いに来ているが、ロランドはまだ宿屋で寝ているらしい。エミールも、2階で寝ている。なので、食事はお弁当を作る女性陣のみ。

レイエットちゃんは寝かせておこうと思ったのに、私が起きるのに気付き、一緒に起きてしまった。寝る子は育つ、というから、ゆっくり寝かせておこうと思ったのに……。

これは、何か方法を考えねば。

でも、ベッドを別にすると、多分怒る。うむむ……。

で、そろそろ朝イチで出発するハンターや現場仕事の職人さんとかが弁当を買いに来始めてるんだけど……。

どうして私が作った弁当、『カオル弁』が一番たくさん残っているのか!

フランセットの『フラン弁』、ベルの『ベル弁』、そしてレイエットちゃんの『レイ弁』よりも売れ行きが悪い! なぜなのか!!

いや、量もおかずのバランスも、一番優れているという自信がある! 大体、おかずを考えたのも味付けも、全部私だ。納得行かん!!

なので、お客さんに聞いてみた。

「あ~、フラン弁は、力任せでギュウギュウに詰め込まれていて量があるから、腹持ちがいいんだよ。俺達には丁度いいんだ」

「ベル弁は、揚げ物とかがはいってないから、ヘルシーなのよ。狩り場で獲った角ウサギとか、持って帰れない大物の内臓とかも現場で料理するから、これくらいが丁度いいのよ」

「レイ弁は、可愛いだろ。何か、娘が頑張って作ってくれた、って感じがして……」

「でもお前、娘や奥さんどころか、恋人もいねぇじゃねぇか……」

「うるさい! だからだよ!」

「……すまん」

「あ、あの、え~と……、カオル弁、は?」

「ああ、カオル弁か。カオル弁はなぁ……。まぁ、言うならば……」

「言うならば?」

「「「「普通?」」」」

呆然。

呆然、サラダ油セット。

「あ、いや、美味しいよ。カオル弁も、勿論美味しいからね!」

落ち込む私を見て、お客さんが慌ててフォローしてくれた。

当たり前だ、おかずも御飯も、全部同じ味、私が作っているのだから!

ぐぬぬぬぬぬぬ……。

「大隊長殿、薬屋の姉妹が来ました!」

「通せ!」

案内の兵隊さんが大隊長室のドアをノックして申告してくれると、中から中佐さんの声が聞こえた。そして、ドアを開けて私達を部屋へ通してくれる兵隊さん。

「え……」

私を入れるものだから、てっきり中佐さんひとりだと思っていたのに、部屋に入ると、テーブルを囲んで来客用のソファーに座る、5人の男性が。勿論、そのうちのひとりは中佐さんだ。

あ、階級章らしきものの線や図形から見て、他の4人は中佐さんの少し下かな? ということは……。

「ああ、紹介しておこう。私の部下の、4つの中隊の中隊長達だ。こっちは、例の薬屋の姉妹。お前達が取り合っている薬の 卸元(おろしもと) だ」

双方それぞれを紹介してくれた中佐さん。

「ほほぅ、これが、あの……」

「思っていたより幼いですなぁ。それであの薬を独占販売とは、なかなかやりますなぁ……」

中佐さんの御威光か、元々みんないい人なのか、私を敵視したり馬鹿にしたりする人はおらず、みんな優しそうな感じ。まぁ、自分の孫くらいの民間人の少女を威嚇するお偉いさんはいないか。馬鹿では中隊長にはなれまい。

但し、部下や敵の前では、また別の顔があるんだろうなぁ。

「で、ちょっかいを出してきた貴族をやり込めたとか?」

そう、中佐さんが聞いてきた。情報が早いなぁ。……というか、まさか、見張ってた?

「……まぁ、纏わり付く羽虫を払った程度?」

「ふはは、言いおるわ!」

私の返事に、中佐さんではなく中隊長のひとりが笑いながらそう言った。階級は……、大尉か少佐くらいかな?

とにかく、肩に食い込むバッグの紐が、重くて痛い。皆さんが座るソファーの前にあるテーブルには何やら書類がばさばさと置かれているので、床に置くのも 憚(はばか) られ、中佐さんの机の上に置いた。そしてバッグから薬の箱を出して、並べる。

今回は数を減らしてやろうかと思ったけれど、思い直して、前回と同量。

「近衛軍と王都警備兵には廻っていなかったんですね、薬……」

少し皮肉を込めてそう言うと、中佐さんはぽかんと、本当にぽかんとした顔で答えた。

「え? どうしてあいつらに関係が? いったい何を言っているのだ?」

本当に、心の底から私の言葉を不思議に思っているような様子であった。

やっぱり、全く悪気はなかったか……。

ただ単に、完全に別組織のことだから、考えもしなかった。それだけのことだったのだ。別に、中佐さんが悪いわけじゃなかった。全ては、私の無知が原因か……。反省しよう。

そして、ふとテーブルの上の書類のようなものが視界にはいった。

「……え?」

そこには、こう書かれていた。

『軍人病治療薬上級 小金貨2枚 胡椒10グラム 小金貨3枚』

売り値や相場より安い金額?

薬の方は、私が売る価格の3分の2だ。胡椒も、相場から考えると、大体それくらい?

軍では医療費は国持ちだから無料だと聞いている。なのに、この金額は何?

「横流しですかあああぁっっ! しかも、それを隠しもしないで私の目の前で堂々と! ふざけてるんですかあっ!!」

私の剣幕に、驚いてぽかんとしている中佐さんや中隊長さん達。

だが、私が舐められて泣き寝入りするようなタマじゃないことは、貴族の件で理解しているんじゃなかったのか。

とにかく、中佐さんの机の上に置いた今回分の薬を再びバッグに入れて、肩に担いだ。

「お取引はこれまで、ということで……」

「……待て! 待て待て待て! いったい何を言っておる? 急に、何を怒っているのだ?」

中佐さんが慌てたような様子で立ち上がり、そう言うが、テーブルの上の書類を隠そうともせずに、何を言ってるんだか……。

「その書類は何ですか! 上級治療薬小金貨2枚、胡椒10グラム小金貨3枚、って! 治療費は無料なんでしょ! その金額は何なんですか!!」

「「「「「え……」」」」」

私の怒りの叫びを聞いて、中佐さん達はぽかんとしたような顔を驚愕の表情に変えていた。

「よ、読めるのか、これが!」

中佐さんは、私が会話はできても読み書きはできないとでも思っていたのだろうか。

薬の説明書や、前回孤児院の子に持たせた手紙を、いったい誰が書いたと思っているのか。

「この国の言葉くらい、読み書きできますよっ!」

「い、いや、それは分かっている。私が聞いているのは、軍需物資を横流ししている一味の連絡場所と 覚(おぼ) しき場所で押収した、この暗号で書かれた文書が読めるのか、という意味だ」

「……え?」

「「「「「……」」」」」

「…………ええ?」

「「「「「…………」」」」」

「えええええええ!」

『この世界のあらゆる言語の会話、読み書きに不自由しない能力』

暗号も、『言語』に含まれるの?

「ぎ……」

「「「「「ぎ?」」」」」

「ぎゃああああああぁ~~!!」