軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

429 御用聞き 3

「……ええと、陛下と宰相様も、何か調子の悪いところ、ありませんか?」

「「……え……」」

「いえ、今回は他に怪我人も病人もおられないようなので、せっかくですから……」

「お、おぅ……」

自分の治癒なんか、考えたこともない、って様子だなぁ……。

国のトップと次席なんだから、まずは自分達に治癒の加護を使え、と要求してもおかしくはないのに。

何て心正しい、立派な人達なんだ……。

こりゃ、このふたりには健康になって、良き治世を続けてもらわなきゃなぁ。

「本当に、お言葉に甘えて良いのか?」

「どうぞどうぞ!

遠慮深いのは美徳ですけど、良き治世を長く続けるために健康を保つのも、為政者の義務ですからね!」

「う、うむ……。そうまで言ってくれるなら、少し甘えることにするか……。

実は、最近胃がキリキリと痛むのと、首から右肩にかけて、凝りと痛みがあり、キツいのだ……」

「私は、腰の痛みと、目がぼやけて執務に支障が……」

やっぱり、激務で大変なのだろうなぁ……。

よしっ!

「女神よ、国のために身を削り尽くす者達に、癒しを与え給え……」

今度はどちらも慢性的なものだろうから、内側からだけでいいかな。

胃の中に、治癒ポーションを作成!!

さっきの自己申告のものだけでなく、他の病気や不具合とかも全部治るやつにしておこう。

「あ……、ああ……っ、とっ、溶けるうぅ……」

「凝りが……、痛みがああぁ……」

年配の男性のアヘ顔は、気持ち悪いよォ……。

* *

「では、王族や貴族、その他の方々の内で、怪我や病気で苦しんでいる人がおられましたら、御連絡くださいますように……。

但し! 悪い人は除きます!

法律に違反していなかったり、証拠がなかったりしても駄目ですよ。

現王家、現政権に対して悪意がなく、悪人ではない人に迷惑を掛けず、平民を奴隷や道具のように思っていない、真の『正しき女神のしもべ』である場合のみです。

……子供の場合は若干判断基準を甘くしますけど、いくら幼くても、限度を超えたクソガキは駄目です。セレスが決して『優しく、お人好しの女神』じゃないことは、皆さん、ご存じですよね?」

「「「…………」」」

エディス(カオル) の念押しに、こくりと頷く国王達。

そのあたりのことを知らない者は殆どいない。……特に、貴族や王族の中には……。

「それじゃ、今回はこれにて。

皆さん、お忙しい中、ありがとうございました!」

「……い、いや、今回は世話になった!

ヴァイスの腕だけでなく、我らの持病まで……。本当に、本当に感謝する!!」

「あ、いえ、お気になさらず……。

では、失礼いたします!」

* *

「……お帰りになられたか……」

「…………」

国王の呟きに、無言の宰相。

「……で、私があの少女と婚姻すれば良い、というわけですか、父上……もぐっ!!」

「だだだ、黙れ、ヴァイス!!」

いきなり飛び掛かってきて自分の口を塞いだ父親……国王と、一緒になって自分を押さえつけている宰相に、懸命に抗う、王太子ヴァイス。

そして、自分達の他には誰もいない室内をしばらくキョロキョロと見回していた国王と宰相が、ようやく安心したのか、大きな溜息を吐いた。

「な、何ですか、いきなり……」

やっと口を塞いでいた手を 退(ど) けてもらえ、ヴァイスが抗議の声を上げたが……。

「馬鹿もん! 不用意な発言を女神に聞かれたら、どうするつもりだ!!」

「……え? 不用意な発言?」

父親からの叱責の言葉を、ヴァイスが疑問に思うのも無理はない。

一国の王太子から婚約の打診を受けて、舞い上がらない女性はいないはず。

しかも、自分は見目も良く、王太子としての出来も悪くない。

なので、女神の愛し子を正妃として迎えることに、異を唱える者などいるはずがない。女性本人を含めて……。

但し、自分の娘を王妃に、と望んでいる有力貴族を除くが……。

そしてそれらの者達ですら、この国の将来を思えば、自分があの少女を正妃として迎えることに強く反対することはないであろう。自分の娘は側妃に推すことで我慢して……。

……何しろ、 あの(・・) 、女神セレスティーヌの御寵愛を受けし愛し子なのである。

たとえ何があろうとも……この大陸が海に沈むことになろうが……、その者の周囲の者は救われる。上手くすれば、国全体が……。

こんな上手い話、逃す手はない。

そう考えるのが当然のはずなのに、と、疑問に思うヴァイス。

「御使い様をお前の正妃になどすれば、ヴァイス、お前、側妃など 娶(めと) れんぞ!」

「……はァ?」

国王が、側妃を娶るのは、当然のこと。

跡取りである王太子、その予備、予備の予備と、男児が最低でも3人は必要である。

そして、婚姻外交用の女児も、数人……。

貴族家の夫人達を纏め、パーティーを仕切り、他国との交際も必要であるため、王妃がひとりでそんなに子を成すことはできない。

なので、数人の側妃を持つのは、王としての権利ではなく、義務なのである。

王太子であるヴァイスが疑問の声を漏らすのも、無理はない。

しかし……。

「当たり前だろうが、馬鹿もんが!

女神の愛し子と結婚しておいて、他の女性と子を成すなど、もし女神の御不興を買えば……」

「げえっ!!」

蒼白になる、王太子ヴァイス。

「それに、お前には既に婚約者がおるではないか。

今になって公爵家の令嬢を側妃に、などというわけにはいかんし、愛し子様を側妃になど、それこそ……」

「「「大陸が、海に沈む……」」」

「それに、もしお前が愛し子様と結婚できたとすると、どうなると思う?」

「本人の治癒の力だけでなく、我が国に女神の御加護を賜る確率が高くなり、国が栄えるのでは?」

ヴァイスが、瞳を輝かせてそう言うが……。

「うむ。確かに、そうなる可能性はある」

「では!」

「……そして、それを脅威に思ったり、愛し子様と女神の恩恵を自分の国にも、と考える国が現れないと思うか?」

「…………」

「まあ、神罰が怖くて、直接戦争を吹っ掛けてくる国はあまりないだろうが、お前と愛し子様の間にできた子供達は、男だろうが女だろうが、大陸中の国が奪い合いを始めて、戦争になるぞ。

……我が国と戦うのでなければ、別に神罰は落ちぬだろうからな……」

「……」

「お前、それでも愛し子様を 娶(めと) りたいか?」

「…………」

「夫婦喧嘩になれば、お前は抵抗できず、一方的にボコられ続けるのだぞ?」

「………………」

「それでも、自国の王族として迎えたい、という国はあるだろう。治癒の力だけでも、垂涎の能力だからな……。

しかし、愛し子様は、あの通り、慈愛に満ちたお方だ。別に、無理に王族に取り込まずとも、国に滞在してさえいただければ、それで充分恩恵を授けられる。下手に王族との婚姻を強要して、怒らせるという危険を冒す必要はあるまい。

……もし、そのようなことになれば……」

「「「この大陸が、海に沈む……」」」

国王、宰相、王太子の声が揃った。