作品タイトル不明
428 御用聞き 2
「……で、 此度(こたび) の御用件は……」
あ、イカンイカン!
私がアポなしで訪問したのだから、用件は私から切り出さなきゃね。王様達も、暇じゃないだろうから……。
そういうわけで、宰相様から催促されたので、早速用件をば……。
「……あの~、治癒の御用とか、ありませんか?」
「……」
「「…………」」
「「「………………」」」
あああ、部屋に居心地の悪い沈黙が広がったよ……。
ファルセットも、多分呆れているだろう。
振り向かなくても、それくらいは分かるよ。
「……あ、あの、その、『治癒の御用』というのは……」
宰相様がそう聞いてきたけれど、言葉の意味が分からない、というわけじゃないだろう。
私の意図というか、何を考えているかを測りかねての質問だろうな、多分……。
王様と王太子殿下は、目を大きく見開いて、黙ったままだ。
ここは、私との会話を宰相様に任せた模様。
「いえ、言葉そのままの意味です。
前回、貴族や王族の怪我人、病人がいれば御連絡を、って言いましたけど、全然連絡がなかったので……。
もしかすると、御遠慮されているのかも、と思いまして、私の方から御用聞きにと……」
「「「…………」」」
3人とも、無言だ……。
巫女や聖女は、あまり王宮に御用聞きに来たりはしないか、うん!
来るとしたら、でっぷりと太った、カネと権力目当ての、神殿の高位神官とかだよねぇ……。
「……あ、あの、その怪我や病気というのは、あまり大したことのない、ごく 些細(ささい) なものであっても?」
おっ、王太子殿下が、勇気を振り絞りました、っていうような顔で、そんなことを聞いてきたぞ。
……いや、私、怖い野良巫女じゃないよ!
王様と宰相様、そんな凶悪犯罪者を見るみたいな目で王太子殿下を凝視しないであげて……。
「あ、ハイ。
それだけのためにわざわざ呼び出されるのはちょっとしんどいですけど、何かのついで、という時であれば……。
あ、でも、知らない人達が何十人も行列を作って並ばれたりするのは、ちょっと……。
交流のある方達であれば、少しくらいは構いませんよ。
あと、知らない人であっても、部位欠損とか、大怪我や重病であれば、遠慮なく呼び付けてください。そういう方々をお助けしないで、何のための女神の加護か、ってことですよ!
……あ、但し、女神に対して不敬な言動をされる方とか、王家に刃向かったり王位簒奪を狙ったり、他国に通じていたり他者を陥れようとしたりしている方やその派閥、一族郎党は除きますよ、勿論……」
「……あ、ああ……」
王太子殿下は少し戸惑ったような顔をしているけれど、王様と宰相様は、安心したような様子だ。
そりゃまぁ、『女神の御加護を受けし愛し子様』が、現王家を支持し、それに敵対する者とその仲間達には治癒の加護を与えない、と宣言したわけだものね。
これは、使い様によっては、王家とその味方達にとっては、かなり強力な武器になるよねぇ。
自身が怪我や病に苦しんでいる者や、家族にそういう者がいる貴族達に対しては、特に……。
「で、王太子殿下、どこかお怪我を?」
見たところ、病気らしい様子はない。ならば、怪我かな?
「あ、ああ、剣術の訓練で、左腕を、少し……」
そう言いながら、殿下が左手の 袖(そで) を 捲(まく) った。
……うわぁ……。
手首と 肘(ひじ) の丁度真ん中辺りが、青紫色になって、かなり腫れてるよ……。
骨折とか、ヒビが入ったりしていないのかな? 何も処置していないみたいだけど……。
ツバ付けときゃ治る、ってか?
これって、『些細なもの』じゃないよね?
私はまた、指のささくれか何かだと思っていたよ……。
王太子殿下が、こんな怪我をするような訓練をしていて、いいのか?
障害が残ったりしたら、どうすんだよ……。
王太子殿下に怪我をさせた訓練相手、切腹の上、お家お取り潰しになったりしないのか?
大丈夫なのか、本当に……。
腫れはまだ黄色くなっていないから、怪我をしてからそんなに経っていないのかな。
私なら、包帯巻いて吊ってるよ、アームスリングとか、アームホルダーとかいうやつで……。
昔は三角巾で吊っていたけど、あれは使い心地があまり良くなかった。科学の進歩は、ありがたいよねぇ……。
あ、いや、今ならポーションですぐに治すよ、勿論。
私には、もはや三角巾の出番はないのだ! アームスリングも、アームホルダーも……。
あ、いやいや、そんなことを考えている場合じゃない。
「……女神よ、国を護るために努力せし王子の傷を癒やし 給(たま) え……」
そして、腫れ上がった部分の表面に、治癒ポーションの薄い膜を生成。
皮膚表面からの浸透だけでは時間が掛かるだろうから、体内にも生成。
修復機能と共に、鎮痛や炎症を抑える効果付き。
……どうだ!!
「……え?」
「……お?」
「「おお……っ……」」
腫れや変色が、見る見る治まっていった。
……痛みも、消えているはずだ。
うん、まあ、致命傷でも治せるんだ。これくらい、簡単だよねぇ……。
* *
こ、これは……。
いや、当初の『ショボい加護の力しかない』という触れ込みが、謙遜というか、過少申告というか、……つまり嘘であったことは、最初から分かっていた。
本当は、もっと強い加護であるということは……。
しかし、これが『些細なもの』であり、『重傷や重病の場合は、呼べ』と?
ならばそれは、『死んでさえいなければ、治せる』ということか?
……いや。
いやいやいやいやいやいやいやいやいや!!
そんなもの、いくら御加護を受けているとはいえ、人間にできることではない!
それはもはや、女神の御業……。
いくら『女神の御寵愛を受けし、愛し子』とはいえ、所詮は人の身、物事には限度というものが……。
そこまで考えた時、とある考えが頭に浮かんだ。
あの、大聖女カオル様に関する非常に正確な記録を残している、女神カオル真教。
全てにおいて、忖度のない……ある意味、カオル様に対して不敬ではないかと思われるくらい、遠慮なくズケズケと書かれた……完全に信用するに足る記録を残している、弱小宗派。
その中で、唯一、誤りであるとされている記述。
『カオル様は、女神セレスティーヌの愛し子ではなく、女神セレスティーヌと同格の、異世界の女神である。この世界には、友人である女神セレスティーヌに招かれて、遊びに来られただけ』
……もし、それが真実であったなら……。
この少女もまた、女神そのものであるという可能性が……。
そもそも、カオル様と何年も一緒に暮らしていた子供達が客観的な視点で書いた、正確無比な記録である。なのに、どうしてその一点だけが誤りだなどと決めつけることができるのだ?
その他には、明らかな誤りや誇張された記述など、ひとつも見つかっていないというのに……。
……ということは、まさか。まさか……。
そして、この少女は、あの宗派が書いた記録の『異世界の女神、カオル様』との共通点が多い。
ならば、この少女もまた、女神セレスティーヌが招き、この世界で休暇を楽しんでいる、他の世界の女神だとか……。
「……か! 陛下!」
「……あ、ああ、すまん……」
少し呆けていたが、宰相とヴァイスも同じような状態だったため、問題なかった。
巫女殿も、これくらいのことは気にされぬであろう。
……御自分が見せた奇跡の御業の価値をご存じであれば、それが無理からぬことであることくらい、分かっておられるであろうからな。
……しかし、どちらなのか……。
この少女は、女神の愛し子なのか、女神の眷属なのか、……それとも、本当に、異界の女神なのか……。