軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

403 無 謀 6

「エディス様、例の店が、 客車(キャビン) の中がカラであることを確認したようです。

中がカラであることは、馬車置き場の者は皆が知っていますから、カネを掴ませて聞き出すとか、夜間に忍び込んで調べるとか、方法はいくらでもありますからね」

「おお、御苦労さん!」

『女神の眼』の連中が、新しい情報を持ってきた。

うん、警備の都合とか、『積荷がなくなった!』とかいう客の騒ぎやら言い掛かりやらの防止対策という観点から、馬車を預ける時には、宿の者が中の状態を確認することになっているのだ。

そして勿論、私は盗難防止のため、馬車を預ける前に積荷は全部アイテムボックスに収納して、 客車(キャビン) の中は 空(から) っぽにしている。

勿論、馬は外して 厩(うまや) で世話されているので、ハングとバッドが見張っているわけじゃない。

なので、積荷を盗み出すとかいうのであればともかく、中をチラリと見るくらいのことは、簡単にできるだろう。

あ、今回は荷物を積んでいるけど、『パンツァー』は本来は私とレイコの長旅用に創った馬車なので、箱の部分は 客車(キャビン) だ。

これが荷馬車だったら、『ワゴン』なんだけどね。

「これで、宿への襲撃の目は完全になくなりましたね。

荷が既に馬車にはないと知った以上、リスクが大きい宿への襲撃は、まずあり得ません。

私達を襲うなら、それよりずっとリスクが小さい、外出時を狙うのが当然ですからね。

私達が宿に籠もっているならばともかく、これだけあちこちをフラフラと出歩いているのですから……」

「うん。しかも、裏通りどころか、貧民区とかも平気で、だもんねぇ……。

ま、宿屋に迷惑を掛けることにならなくて済んで、良かったよ」

そう、それがちょっと心配だったのだ。

宿屋や他の宿泊客に迷惑を掛けることになるんじゃないか、っていうのがね。

でも、ファルセットが言う通り、その心配も、ほぼなくなった。

これで、ひと安心だ。

* *

「エディス様、あの商店が襲われました」

「えええええ〜〜っっ!!

あの店、私達の他にも、そんなことをされる程の大きな怨みを買っていたの?」

『女神の眼』からの思わぬ報告に、私が大きな声を出すと……。

「あ、いえ、すみません。言い方が不十分でした。

襲われたのは、おふたりが尾行者に『ここと商品を売る契約を結んだ』と誤解させるように欺瞞行動をされました、あの商店です。襲ったのは、おそらく……」

「ああ、あの店か……、って、無関係の店に、とんでもない大迷惑を掛けてるじゃん!!

そうか、うちの馬車に荷がないということは、既に商品が引き渡されたということだと判断したわけか。

……当たり前だよねぇ……。

連中が、馬車が 空荷(からに) だという情報を得たという報告を貰ったあの時に、当然予想して 然(しか) るべきことだった。なのに……。

ごめん、せっかく『女神の眼』のみんなが事前に入手してくれた重要な情報だったのに、それを 活(い) かすことができずに、無駄にしちゃった。

そしてその結果、あのお店に被害を出させちゃった……」

「いえ、我らがカオ……エディス様のために働くのは、当然のこと。そのようなことをお気になされる必要はありません」

落ち込む私に、この子達は、そう言ってくれるけど……。

「……で、店の被害は? 店の人やお客さん達に怪我人は出たの?」

そう、まずはそれを確認しないと!

「襲われたのは、夜間です。なので、客はいませんでした。狙われたのは、高額商品用の倉庫。

そのため、商店主一家や一般の従業員、使用人等は賊には遭遇していません。

物的被害は、倉庫の一部破損と、高額商品が少量持ち去られた模様です。

かなり物色した形跡があるにも拘らず、商品の被害数はそう多くはなかったとか。

……まるで、目的の物が見つからず、普通の盗賊だと思わせるために、適当に形だけの盗みを働いたかのように……。

人的被害は、夜間警備員が数名負傷。死者は出ていないようですが、重傷者がいるようです」

「……そう。

私達の小細工のせいで、無関係の人達に大怪我をさせちゃったわけか……。

そうか……。

……そうかぁ……。

そおぉうかあああぁ……」

「ひっ!」

報告に来た『女神の眼』の者だけでなく、ファルセットですら、少し腰が引けていた。ほんの少しだけど……。

そんなに引く程か?

とにかく……。

「商人のくせに、完全に、商売ではなく犯罪行為で儲けるってのが常態化しているわけか。

これってもう、『悪事に手を染めた商人』じゃなくて、『商人の振りをした凶悪犯罪者』だよね。

ちょっと懲らしめるとか反省させるとかいうレベルの話じゃないよね。

矯正不能。周囲に悪と不幸を広げる、腐ったミカンだ。

……もう、これ以上私達のせいで被害を受ける 無辜(むこ) の民を増やすわけにはいかないよね。

悠長なことをやっているのは、もうやめた。さっさと叩き潰すよ」

「はいっ!!」

すごく嬉しそうだな、ファルセット……。

まぁ、元々、私達には似合わなかったんだ。じっくりと追い詰めて怖がらせ、反省させるなんてコトは……。

何せ、メンバーがファルセットと 私達(KKR) だよ?

見敵必殺。

右の頬を打たれたら、往復ビンタを返しなさい。ついでに、相手の顔に右ストレートを叩き込みなさい。

……それが我ら、『KKR』のモットーだ。

そして『女神の眼』の初代の連中にも、そう教育した。

確か、『女神カオル真教』の教義になっていたはず……。

少しばかり戦力的に余裕があるからって、舐めプしていて被害を増やすなんて、馬鹿がやることだ。

……少なくとも、私達のやり方じゃない。

ウサギを狩るにも、全力で。

とりあえず、弾倉ひとつ分、全弾ぶち込む。

そして、念の為もうひと弾倉分、全弾ぶち込む。

それが、 敵(相手) に対する敬意ってものだろう。

……いや、あんなヤツに、敬意なんかカケラも持ってないけどね。

* *

「目当ての物が、なかっただと……」

商会主は、機嫌が悪かった。ほぼ最悪と言っていいくらいに……。

「田舎から荷を運んできた者が商家と取引をして、荷馬車が空になった。

そして商家からは新商品はまだ売られていない。

……どうしてそれで、商家の高額商品用の倉庫にその商品がないのだ!

荷馬車1台分の商品だぞ、とても金庫に入りきるような量ではないであろうし、あの店は隠し倉庫などは持っていないはずだ。なのに、なぜ……」

商会主が昨夜の成果についての報告を受けたのは、昼前になってからであった。

昨夜……と言っても、日付が替わってからであるが……の件の報告を待って、深夜まで灯りをつけて待っていたのでは、どうぞ怪しんでください、と言っているようなものである。

朝一番で報告を受けるというのも、似たようなものである。

なので、敢えてゆっくりとして、結果報告は午前中の忙しい時間帯が過ぎてから、としたのである。別に、報告が遅れても何の問題もない。

そのため、当事者である商会主が結果の詳細を知ったのは、カオルより後であった。

……狙いは良かった。

裏組織は、小娘達に直接手を出して、大きな被害を受けた。

なので商会主は、小娘達に関わることなく、商品の新たな所有者となった商店を襲ったのである。

それならば、既に取引を終えた小娘達とは、何の関係もない。

小娘達の護衛に就いている者達と戦いになることもないし、直接の怨みを買うこともない。

戦って勝つことよりも、戦わずして勝つことの方が、遥かに優れた戦術である。

襲撃には、従業員や使用人の中から、忠誠心が高く、そしてある程度の 荒事(あらごと) ができそうな者を選んだ。

商家の従業員とはいえ、穀物が入った重い 麻袋(ドンゴロス) を運んだりと、色々と力仕事をしているし、盗賊に襲われた時のために、ある程度の訓練をさせている。

なので、数を頼めば、僅か数人の警備員などどうとでもなる。

警備員など、兵士にもハンターにもなれなかった半端者や、高齢や負傷のためそれらを引退した連中が、威嚇や 鳴子(なるこ) 代わりに雇われているだけ。

盗賊と正面から戦うためのものではない。

……なので、人数差が明らかとなれば、抵抗することなく、おとなしくしているはず。

誰も、犬死にしたくはないだろうから。

覆面で顔を隠しておけば、皆殺しにする必要もない。

だから、こちらの被害はなく、目的を達成できるはずであった。

そして、裏口に荷車を用意しておけば……。

そのはずであった。

そのはずであったのだが……。

「旦那様、お客様でございます」

「今、それどころではない!

それに、今日は人と会う予定などなかっただろうが! 約束もなく押し掛けた者になど、会う必要はない!!」

いつもであれば、そのような無礼な押し掛け客など、自分に取り次ぐことなく処理される。

門前払いか、良い話を持ってきた者は手代か番頭が相手をするとかで。

それを、選りに選ってこんな時に直接自分に取り次ぐとは、と、不快感も 露(あら) わに手代を怒鳴りつけた商会主であるが……。

「お客様は、先日御商談にお見えになりました、あの若き女性おふたりでございますが……」

「な、何!!」

向こうからやってくるとは、完全に、想定外の事態である。

……しかし、これは何という僥倖か!

おそらく、あの商店の倉庫に目当てのものがなかったのは、何らかの理由により取引が潰れたせいか……。

相手が小娘と侮り、後から金額や条件の変更でも要求したか?

馬鹿な奴だ……。

……などと、自分のことは棚に上げ、勝手な事を考えている商会主。

そして勿論、発する言葉はこれしかなかった。

「通せ! 第2商談室、菓子と茶葉はBランクだ!」