軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

400 無 謀 3

「エディス様、こちらへ」

「え?」

5人組に襲われた翌日、再びふたりで王都の裏通りを歩いていると、急にファルセットがそう言って自分と私の位置を入れ替えた。

今まで、道路側をファルセットが、そして建物側を私が歩いていた。

まあ、護衛が危険な側に占位するのは当たり前だよね。そこは、道を走るのが自動車であろうが馬車であろうが変わらない。はねられる危険性も、腕を掴まれていきなり車内に引きずり込まれる危険性も……。

なのに位置を入れ替えたということは、ファルセットが『建物側の方が危険である』と判断した、ということだ。

……そしてその理由は、すぐに分かった。

「え~ん、え~ん……」

幼い少女の泣き声。

それが、少し前方の、建物と建物の間の狭い隙間から聞こえてくる。

「あれって……」

「しっ! 黙って、 無視(スルー) してください」

「え?」

ファルセットは、任務……私の護衛……に関しては異常な程シビアだけど、それ以外のことに関しては、割と普通だ。だから、子供が困っていたら、声を掛けるはず。

なのに、どうして……。

「罠です。

私達の少し前を歩いていた人達は、あの前を通過する時、誰もあの隙間の方を見ていませんでした。

声を掛けるかどうかは別にして、幼い子供がそんなところで泣いていれば、チラリとそちらを見るくらいのことはするはずです。

……しかし、それが全くなかった。

これは、他の人達に声を掛けられるのを避けるためにそれまでは静かにしていて、 対象の人物が(・・・・・・) 通る時に(・・・・) 声を出した、ということです」

「おお、なる程!」

さすが、戦闘民族。そういうところには頭が回るんだ……。

「エディス様は、隙間を 正横通過(アビーム) する時、正面を向いたままで。私が、横目で確認します」

「……お、おう……」

そして、隙間の前を通り過ぎ……。

「やはり、罠でした。顔を汚し、ボロを 纏(まと) っていましたが、筋肉が発達しており、栄養は充分に摂れている様子。

スカートの腿の部分の膨らみは、明らかにナイフ類の装着を示していますし、左腕の服の布地が張っているのは、暗器の 類(たぐ) いを仕込んでいるためと思われます」

「はえ~……。

っていうか、何、ソレ! 怖いわっっ!!」

「例の商会主の手の者か、それとも、適当な獲物を狙ったものなのか……」

「え? ピンポイントで私達を狙ったというわけじゃないの?

そういえばファルセット、さっき『 対象の人物が(・・・・・・) 通る時に(・・・・) 』、って言ったよね?

でも、あんな狭い隙間の中にいたら、獲物が見えないから、対象を選べないよね?」

私が、そう指摘したら……。

「そんなの、あの隙間の正面、道の反対側に仲間がいて合図すれば済むことですよ」

あ、なる程……。

さすが、脳筋(フランセットの定義による方)。戦術面では、本当に頭がいいんだ……。

「母国の王都では、あんな小細工に引っ掛かる者はいませんよ。

この国は、あんなのに引っ掛かるような馬鹿が多いのか、それとも、私達が余程の馬鹿かお人好しだと思われたのか……。舐められたものですね」

ファルセットが、そんなことを言うけれど……。

私ひとりだったら、絶対に引っ掛かって、声を掛けてたよ……。

あの子が持っている武器は、孤児が自らを守るための護身用だと思いたい。

……有無を言わせず 獲物(わたし) の胸をひと突き、というために持ってるんじゃないよね?

そして、更に毒が塗ってあったりはしないよね……。

* *

とある裏組織の、親玉の部屋で……。

「失敗しただと!」

「へ、へぃ……」

「人的損失なしでの 搦(から) め手で、と考えたが、そう上手くは行かんか……。

よし、やはり正攻法で行くぞ。

うちのトップクラスでチームを組み、離れた場所に見張り役を置いて実行しろ。

失敗することはないと思うが、万一のことがあったとしても、情報が確実に得られたなら、奴らに次はないからな。

戦いというものは、情報を制する者が勝つのだ。草双紙の『正体を隠した正義のヒーロー』も、正体がバレてしまえば何もできなくなるし、どのような戦術や必殺技も、内容がバレてしまい対策を講じられれば無力となる。

なので、襲撃チームには、今回は向こうの手口が分かれば良いから無理はするな、途中で撤退しても良い、ということを徹底しておけ。

皆、大事な仲間、大事な戦力なのだからな。無為に使い潰すようなことはさせぬ」

「へい、分かりやした!」

* *

「……来ました」

「来たか~……」

搦め手ではなく、正攻法で来てくれると、分かりやすくて助かるなぁ……。

「前回よりは、ややマシな連中ですね。人数も増やしたようです。……誤差の範囲内ですが。

それと、このパターンですと、おそらく離れた場所で状況を確認している者がいると思います」

「なる程……」

確実に情報を持ち帰る、というわけか。

少しは頭の回るヤツがいるのかな?

でも、相手のことを知らずに喧嘩を売ったという時点で、馬鹿なのは確定しているし、未来も決まっちゃっているんだよねぇ。

「よう、お嬢ちゃん達。ちぃとばかし俺達に付き合ってくれねぇか?」

男達のひとりが、そう言いながら近寄ってきた。

ニヤニヤ笑いとかはせず、台詞に合わない、割と真剣そうな顔で、油断した様子もなく……。

まあ、前回の連中が誰も戻らなかったのだから、当たり前か。

今回は、前方に4人、後方に3人か。小娘ふたりを相手に、慎重なこった……。

いや、勿論、それでもファルセット相手じゃ戦力が全然足りていないけどね。

多少人数を増やしたところで、犯罪組織の人間程度じゃ、焼け石に水だ。

女神の守護騎士(エインヘリヤル) とまともに戦えるような者なら、表の世界でそれなりの立場が得られるはずだ。

女神の守護騎士(エインヘリヤル) は、バルモア王国以外には仕官しないから、それに匹敵する強さがあれば、他国なら厚遇されるはずなんだよね。

なのに犯罪組織なんかで 燻(くすぶ) っているということは、……まぁ、そういうことだ。

「交際のお申し込みは、実家の父を通してくださいまし」

「……え?」

あれ? きょとんとしてるぞ。

私がこういう切り返しをするってことは、前回ので分かっているはず。

学習効果がないなぁ……、って、そうか!

前回の連中は誰も戻っていないのだから、前回の経験がフィードバックされることはないのか。

ならば、同じネタが何度も使えるぞ。よしよし……。

加害意思の確認は前回取れたから、もう毎回いちいち確認する必要はないか。

じゃあ、そろそろ……。

「ファルセット、やっておしまい!」

ドロンジョ様じゃないよ、レディ・ペネロープだよ!