作品タイトル不明
374 次の段階 2
「すみません、お言葉に甘えて、突然お邪魔しちゃいまして……」
「いやいや、そんなことは気にせずともよいぞ。私が確かにそう言ったのだからな」
案内された小さな応接室で、王様と宰相様が私の相手をしてくれている。
他には、誰もいない。大臣とかも、文官も、護衛も……。
勿論、ドアの向こう側には衛兵が立っているだろうけどね。
メイドも、お菓子とティーセットを置くと、出ていった。
どうやらお茶のお代わりは、宰相様が入れてくれるらしい。
……いや、勿論、分かってるよ?
いつでも相談しに来なさい、っていうのは単なる社交辞令であって、それをそのまま額面通りに受け取って、王様にアポなし訪問をカマすような非常識な平民なんかいるはずがない、ってことくらい……。
そして、そんな平民の申告を鵜呑みにして通してくれる門番なんかいるはずがないってことくらい。
でも、私は図々しくもアポなし訪問を敢行したし、 なぜか(・・・) 、門番は野良巫女を通してくれて、案内役の人に引き継いでくれた。
……うん、 なぜか(・・・) 。
そして、フレンドリーにどうでもいいような世間話を振ってくれる王様と、それに話を合わせる宰相様。
そりゃ、用があって訪ねてきたのは私なのだから、私が用件を切り出さないと本題が始まらないよねぇ。
決して暇なわけじゃないだろうに、用件を催促しないとか、ホント、優しいなぁ、王様……。
でも、あまり時間を無駄にさせて迷惑を掛けるわけにはいかない。そろそろ本題に入るか。
話の切れ目を捉えて、と……。
「あの〜、実は、今回急にお伺いしましたのは、お知らせすることがありまして……」
* *
(来たああァ〜!! 遂に、御使い様が本題を……。
いや、大丈夫だ! 御使い様は、『お知らせすることがある』と言われた。
つまりそれは、何か情報をもたらすということであって、決して文句だとか苦情だとかいうわけではない。もしかすると、我が国にとって有益な情報とか、良い話である可能性が……)
ちらりと隣に座る宰相に目をやると、宰相も同じ結論に達したのか、少し安堵したかのような様子である。
それを見て、自分も少し安心し、落ち着いた様子の国王。
そして、カオルが言葉を続けた。
「女神からの伝言です」
「「ぎゃあああああああ〜〜!!」」
* *
えええ!
どうしちゃったのかな、王様と宰相様……。
あ、剣を抜き放った衛兵が、血相変えて飛び込んで来たよ。
どうすんだよ、コレ……。
さすがに、いくら慌てていても、衛兵は椅子に座ったままの私に斬り掛かるほどの馬鹿じゃなかった。
まあ、そんな 粗忽者(そこつもの) は、王様の警護には就かないよね。
真っ青になった王様と宰相様が弾かれたかのように椅子から飛び出して、衛兵と私の間に立ちはだかってくれた。
どこまで素敵な人なんだよ、王様と宰相様!!
こりゃ、サービスしなきゃならないな。
衛兵は、何だか納得できないような顔をしていたけれど、王様と宰相様に追い払われては、部屋から出て行かざるを得ないよね。
なので、再び元のメンバーに戻って、話の続きをば。
「女神から、国王陛下への伝言です。
発・女神。宛て・国王。
本文、『この者に加護を与えた。利用しようとする者を近付けるな。その褒美として、必要最小限の範囲内において、この者の加護の恩恵に 与(あずか) ることを許す』、以上です」
「「は?」」
うん、理解が追いつかないか……。
* *
「……では、巫女様は治癒の力が大幅に向上し、そのお力を民草のためにお使いになられると?」
「はい」
「しかしそれは無制限に与えられるものではなく、心正しき者のみであり、それもその中のごく一部の者に対してのみであると?」
「はい。善人だからといって、それらの者達全員の怪我や病を治すというのは、世の 理(ことわり) に反するでしょう。それに……」
そこから先は、私が口にするまでもなく察してくれた模様。
うん、そんなことになれば、『あなたは駄目』と言われた者達が、何をしでかすか分からない。
部位欠損の大怪我をした者や、死病に罹っている者、そしてその家族や親族達が……。
なので、途中で言葉を止めたにも拘わらず、ふたりはこくりと頷いてくれた。
「でも、未成年の子供は、本人が余程腐りきっているか、親がかなりの悪党でない限りは、少し助けてやるというのも……」
子供は、家庭環境のせいで少し歪んでいても、更生の可能性はある。
それに、一度に完全に治さず、『信心が足りないから、半分しか治らなかった。それでも半分治していただけたというのは、何たる女神の御慈悲でしょうか!』とでも言って、経過観察をするという手もある。別に、ゼロか100パーセントか、って決める必要はないからね。
子供には、チャンスを与えてあげたい。
私の言葉に、王様と宰相様も少しホッとしたような様子だ。
あ〜、本当にいい人達だなぁ。
あとは、ちゃんと貴族達を抑えてくれればいいんだけど……。
あんまりいい人すぎて押しが弱いと困るなぁ……。
よし、要望事項は概ね伝えたし、大きな問題はないな。
「では、どうしても治癒の力が必要になった場合は、平民に偽装した者に手紙を持たせてください。
私から連絡したい時は……、どうしようかな……」
あまり何度も 王宮(ここ) に来るのはアレだし、誰かに目を付けられてからだと、尾行されて私が王宮に行ったことがバレるかも……。
「その時は、戸口に何か目印を付けてくれればよい。白い布とか、何かそういうものを……」
「あ、なる程! では、それでお願いしますね」
……って、うちの家を知って……、って、借家じゃなくてお店の方か。そりゃ王宮でも知ってる人が多いよね、トレーダー商店王都本店……。
* *
「帰ったか……」
「「はあああぁ〜〜……」」
ぐったりとした様子の、国王と宰相。
「どうなることかと思ったが、結果的には、望外の成果であったな……」
「はい。老衰とかは対象外とのことでしたが、怪我や病気の治癒、それも子供達に対してはかなり条件を緩和していただけるとのこと、まこと、望外のことでございましたな。
何せ……」
「うむ。子供は死にやすい。
死産。生まれてすぐに死ぬ。3歳までに死ぬ。
5歳になるまでに、2~3割が死ぬ。
最初の数年間はいつ神の御許に戻ることになるか分からぬから、しばらくは名を付けず、神殿に出生届も出さぬという慣習がある村もあるからな……。
それに、母親もお産で死ぬ。産後の肥立ちが悪くて死ぬ。父親も戦争で死ぬ。盗賊や魔物に襲われて死ぬ。ちょっとした怪我が元で、悪い 気(・) に冒されて死ぬ。
戦争と盗賊や魔物によるものは仕方ないが、それ以外に関しては……」
「はい。勿論、その中の極々一部ではありましょうが……」
「ああ。それでも、……女神の御慈悲が与えられるということは……」
「救い、でございますよねぇ……」