作品タイトル不明
366 王都本店 8
「ただいま〜!」
「「「「「おかえりなさ〜〜い!!」」」」」
うん、乗り物の試作品ができたので、閉店後に、さっそく試運転を兼ねて『リトルシルバー』に戻ってきた。
レイコと恭ちゃんは、お店に残っている。
悪党共が絡んでくるのは、多分営業中だろうとは思うけれどね。嫌がらせを兼ねて……。
でも、夜間に窃盗、強盗、誘拐、その他諸々、という可能性もあるから、最低ふたりは残っていなきゃね。防犯設備完備、容赦のない留守番ふたり付きなら、心配ない。
……あ、いや、心配か。侵入者の身体と精神、そして命が……。
今回は子供達の様子を見に来ただけなので、日帰り……じゃないな、一泊して、明日の開店時間には間に合うように朝早く帰る。
さすがに、あのふたりに店を任せるのは申し訳ない。
……お客さんに対して。
ファルセットも残してきたけれど、アイツは襲い来る敵の刃や矢弾からいつでも私達を護れるようにと、常に両手は空けておいて、周囲に殺気を飛ばしているからなぁ。
とても従業員としてカウントできるような状態じゃないんだよ、うん……。
そもそも、防具を着けて帯剣している、殺気を漂わせた女に商品の説明を求める客はいない。
多分、チンピラ 避(よ) けに店が雇った用心棒だとでも思われているだろう。
ファルセットは、私についてくると主張していたけれど、『リトルシルバー』がある町では私は領主様や町の人達に護られる存在だし、あの町には私に敵対する者はいないこと、そして私に危害を加えられる者はそうそういないということを何度も説明して、諦めさせたのだ。
……『絶対いない』ではなく『そうそういない』という言い方にしたのは、以前同じような場面でそう言ったところ、ファルセットに『しかし、74年前には……』と言われ、反論できなかったからだ。
そもそも、『絶対安全』などという私の主張を認めてしまえば、 女神の守護騎士(エインヘリヤル) の存在意義を全否定することになってしまう。
だから、ファルセットには絶対そんなことを認めることはできないよねぇ……。
今回移動に使ったのは、基本に忠実、複座タイプの超小型艇だ。
操縦は、スロットルレバーとブレーキ、操縦桿だけでできる、簡単操作。私とレイコでも大丈夫だ。
旋回しても、旋回側に機体が滑るようなことはない。全部自動的に補正されるらしい。
……つまり、ラダーを当てて滑りを打ち消すとかどうとかいうことなんか考える必要はないということだ。
そもそも、ラダーもエレベーターもエルロンも付いていないけどね、この機体。
だいたい、空を飛ぶ機体なのにブレーキが付いているというのが、どうかしてる。
まぁ、別にブレーキパッドで回転を止めたりするわけではなく、推力を反転させているのだろうけど……。
そして、別に空中で停止しても墜落はしない。
翼の揚力で浮いているわけじゃないし、そもそも翼は付いていない。推進も、後方に何にも噴射していないし……。
多分、浮いているのは重力中和か、反重力あたりなんだろうなぁ……。
推力は、重力の方向を曲げているのか、何か全く違うやり方なのか……。
それに、この機体、 空中停止(ホバリング) どころか、 後進(バック) も、横への移動もできるのだ。 回転翼機(ヘリコプター) かよ!
もう、地球の航空機とは別のものだと考えた方がいいだろう。
……事実、地球製じゃないし。
まあ、そんなことは知らなくてもいいか。
地球でクルマを運転している人のうち、エンジンやギアボックスの仕組みとかを全て知っている者が何パーセントくらいいるか、ってことだ。
仕組みを知らなくても、クルマは運転できる。
それに、この超小型艇には自動操縦装置や安全装置、サポート機能とかが付いているから、少々のことで事故ったりはしない。前方監視システムや、衝突回避機構とかも付いてるし。
愚者に耐える設計(フールプルーフ) は完璧だ。
……いや、別に私が 愚者(フール) だって意味じゃないよ!
離れたところにあるふたつのボタンを同時に押さないと作動しないプレス機とか、扉が開いていると作動しない電子レンジとかの、どんな馬鹿が使っても事故が起こらないように設計段階で万全の配慮を行うという、まぁ、間抜け対策のことだ。
……でも、そこまで対処していても事故を起こす馬鹿がいるんだよなぁ……。
警告音がビービー鳴ってうるさいからと、自動警報装置を切っておくとかさぁ。
そんなの、もうどうしようもないよねぇ。
『現場猫案件』とかいうんだっけ? そういうの。
それで責任を取らされる、経営者や安全対策担当者が 不憫(ふびん) でならないよ……。
まぁ、とにかく、子供達に纏い付かれながら、畳モドキが敷いてある部屋へ。
土足厳禁の部屋でないと、みんなでゴロゴロできないからね。
あとで、風呂を沸かさなきゃ。
コイツら、薪代が勿体ないとか言って、私達がいないと絶対に風呂に入らないんだよなぁ。
せっかく、広い風呂場を造ったのに……。
ま、これからはレイコや恭ちゃんが戻ってくる回数も増えるだろう。
その代わり、一回あたりの滞在時間は短くなるだろうけどね。
王都本店が落ち着けば、それもそのうち……。
「え? 干物や燻製の生産数を増やした? 顧客の新規開拓も進めているって? そして休養日は週に半日だけにした?
休めよ! 週休2日制って言っただろうがあぁ〜〜!!
私達が喜ぶと思った?
喜ばないよ! 子供達に過酷な労働を 強(し) いた罪悪感で、最低最悪だよっ!
……あ、いや、そんなに落ち込まないで! 泣くな! 泣かないでえぇ〜〜!!」
* *
「ただいま……」
「あ、お帰り。超小型艇の使い勝手はどうだった? 子供達、元気だった?」
「…………」
元気いっぱいの恭ちゃんに返事する気力もなく、ぐったりしている私。
「え? どうしたのよ? 何かあったの? ねぇ、香! 香ってば!!」
* *
「……ということが、あったぞな……」
「「あ〜〜……」」
「あの子達、クソ真面目だからねぇ……。
というか、働いていないと不安なのでしょうね。役立たずだと捨てられるとか、お腹いっぱい食べられなくなるとか考えて……。
もしくは、働ける者が一生懸命働かないと、小さな子達が十分な食事ができなくなる、とかいう考えが頭と身体に染み付いちゃってて、働いていないと落ち着かないとか……。
孤児院時代は食うに困ることはなかったでしょうけど、別に孤児院で生まれたわけじゃないのだから、『孤児院に引き取られる前の生活』というのが、どんなものだったのか……」
「「…………」」
レイコの言葉に、何も言えなくなった私と恭ちゃん。
まだ、あの子達が安心して普通に暮らせる程には私達を信用してくれていない、ってことか。
そして、いつ捨てられるかと、常にビクビクと怯えているってことか?
私達が10日以上戻らないと情緒不安定になる、というのが解消されるのは、まだ当分先のことになりそうだなぁ……。
でも、これでも随分マシになったんだ。
初めの頃は、私達が地下司令部で酔い潰れて、子供達が朝起きた時に私達の姿がないというだけでパニックに陥っていたからなぁ……。
私達の不在に一週間から10日くらい耐えられるようになったのは、割と最近のことなんだよねぇ。
それも、ちゃんと事前に不在にする理由と期間を説明しておくことが必須条件なんだけどね。
それと、どうやら子供達が『自分達が捨てられることはあっても、高価な名馬2頭を置いていくことはないだろう』と、ハングとバッドの2頭がいる、ということが安心材料になっているらしいのだ。
……う~ん、何だかなぁ……。