作品タイトル不明
367 来た来た…… 1
「カオル、ハングとバッドのフォローをしなさいよ」
「え、何の話?」
何か、レイコが突然、そんなことを言い出した。
「カオル、あなたねぇ……。
大陸を横断してあの港町に着いてから、あの2頭の出番が少ないでしょうが!
2頭で話ができるのと常時放牧状態だということ、そして子供達がちゃんと世話をしているからまだいいけれど、本当は乗馬としてもっと活躍したいと思っているはずよ。
何しろ、せっかく女神様の乗馬になれたのだから……。
なのに、カオルは滅多に乗らないし、オマケに色々な種類の乗り物を用意した。
それって、ハングとバッドから見れば、どういう状況だと思う?」
「あ……」
やらかした!
恭ちゃんはまだハングとバッドとの付き合いが浅いけれど、レイコは大陸横断の旅で、あの2頭とはかなり交流が深まったからなぁ……。
そして勿論、私はそれにプラスして、シルバー種の祖先であるエドの恩人にして御主人様、シルバー種誕生の原因たる女神様だ。なので、もっと関係が深い……はずだ。
なのに、あの2頭のことをあまりにも放置し過ぎていた。
いや、私も『リトルシルバー』にいる時には子供達に任せず自分で馬体の手入れをしてやってるし、乗馬して建物の周囲をポクポクと歩かせたりはしているよ。
……でもまぁ、それはハングとバッドにとってはあまり本意ではない生活だよねぇ……。
本当は、もっと私を乗せて思い切り走りたいはずだ。
野原を、街道を、……そして戦場を……。
それができなくても、いつか活躍できる時が来ると信じて、じっと我慢していたのだろう。
……そこに、今回の『便利な乗り物シリーズ』だ。
今回のリトルシルバー行きは、超小型艇で隠蔽装置を作動させてこっそり降りたから、ハング達には乗り物のことは気付かれていないと思う。
だけど、馬は人間より遥かに敏感だから、そのうち気付くだろう。飛行機械の存在に……。
あの2頭は、恭ちゃんの搭載艇に乗ったことがあるんだ。だから、飛行機械の何たるかは理解しているはず。
もしその存在に気付いたら、自分達の立場を考えて……。
うわ、ヤバい!
「ど、どうしよう……」
「自分で何とかしなさい」
うう……。
こういう時、レイコは厳しいんだよなぁ……。
私や恭ちゃんが本当にどうしようもなくなって困っていたら助けてくれるんだけど、それはあくまでも私達が全力で頑張ったあとで、なんだよ。
自業自得の場合は、万策尽きるまでは自分でやれ、ってことだ。
これが、私達自身には落ち度がない場合とか、不可抗力であった場合とかなら、最初から助けてくれるのだけど……。
まぁ、何とか自分で考えるか……。
* *
『リトルシルバー』にやって来て、ハングとバッドのところへ。
そして2頭に、 厳(おごそ) かに宣言した。
『 神馬(しんめ) であるハングとバッド。そなた達に、延命の神薬を授けよう』
『『……え?』』
うん、意味が分かっていないみたいだな。
『いくらエドの血を引くシルバー種であり、そして神馬であっても、馬の寿命は私達に較べるとあまりにも短い。
私達には時間があるから、のんびりと生きている。そのため、大きな活動をするのは、ごく 稀(まれ) である。
しかしそれでは、お前達はあまり活躍する前に年老いてしまうであろう。
なので、お前達も焦らずのんびりと生き、活躍の時を待てるようにと考えたのだ……』
『おお! おおおおおおお!!』
『さすが嬢ちゃんだぜ! 俺達が真祖エド様のように活躍して嬢ちゃんの役に立ちたくて、でもなかなか出番がなくて悶々としていること、ちゃんと分かってくれてたんだな……』
『うん、まぁね……。ハングとバッドは、大切な仲間だもんね!』
『おおおおお……』
『おう……、そうともよ!』
『じゃあ、これを飲んで。エリクサーという名の神薬よ』
『『へへぇ〜〜っ!』』
よし、これで、あまり出番がなくてもそう焦ることはないだろう。
あとは、時々は王都への移動に乗ってやるか……。
馬車ではなく騎乗で、それもポーションを飲ませてドーピングすれば、そんなに日数は掛からないだろう。
恭ちゃんに乗馬を教えるのも、いいかもしれないな。長い人生なんだ、恭ちゃんもそのうち乗馬の機会があるだろうし。
……って、恭ちゃんも、レイコみたいに転生に備えて色々と準備していたはずだ……。
まさか、馬術がプロ並み、ってことはないよね……。
あ、子供達に乗馬の訓練をさせよう!
ハングとバッドも、子供達との交流で退屈を紛らわすのはいいかもしれない。
子供達も、乗馬技術は、いつか何かの役に立つかもしれないしね。
私がいる時には通訳してあげれば、上達も早いだろう。
何せ、馬本人……『本馬』から直接コーチされるんだ。すごく効率がいい。
……それは、私で実証されているからね。
* *
「店主はおるか!」
キタ~!
普通のお客さんは、初めて来た店に入るなり、そんなことを言ったりはしない。
それに、態度の悪い、帯剣した連中を数人連れてきたりも……。
あああ、ファルセットが嬉しそうに、満面の笑みを浮かべているぞ……。
出番が、自分の存在意義を示す機会が来たのが、そんなに嬉しいのか……。
あ、そういえば、フランセットもそんな感じだったよなぁ……。
「あ、ハイ、店主は私……、じゃなかった!」
この店の店主は、恭ちゃんじゃん!
いかんいかん、つい、昔の癖で……。
そういえば、私とレイコ、開店以来ずっとここの店員をやってるなぁ。
野良巫女とハンターの仕事はどうしたんだよ!
何か、本来の仕事を忘れていたよ……。
でも、私は 第一シーズン(アイテムボックス前) でこういうのには慣れているけど、恭ちゃんはこういうのには免疫がない。
大丈夫かなぁ……、この連中……。
「はい、私がここの責任者です! いらっしゃいませ!」
あああ、にこやかな笑顔で、恭ちゃんが現れた……。
これ、本当に、心から歓迎してるんだよ。含むところなんか全くなしに。
……それが、恭ちゃんの恐ろしいところなんだ……。