軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

354 伯爵家 3

一角獣(ユニコーン) の角が効かなかったのは、仕方ない。

あれは元々、万病に効くという伝承があるだけで、プラシーボ効果以外には意味のないものだ。

そしてレイコはただ依頼に応じてそれを納入しただけだ。偽物ではない、正真正銘の 一角獣(ユニコーン) の角を。

だから、それについては私達には何の責任もない。

……でも、『女神の涙 効果限定版』、アレは駄目だ!

難病で弱っている病人に、激しい下痢とか……。

とどめを刺しかねない。

それも、何の罪もない女の子に……。

いくら自重なしの超強力なポーション『女神の涙』であっても、死者は蘇らない。

急げ急げ急げ急げ急げ!!

いや、金持ちの貴族が、大した怪我や病気でもないのに『女神の涙』を手に入れて、当家は女神の御慈悲を賜った、とか言って権威付けをしようとしたり、納入者経由で御使い様の正体を探らせようとしたり、だと思ったんだよっ!

事実、詐欺師連中は御使い様である私に尾行をつけたしね。

どうやらあれは、依頼によるものではなく、詐欺師連中による計画だったみたいだけど……。

本当に困っているなら、普通に重病人がいるって噂を流せよっ!

金持ちなら、そういう情報を流せるだろうが!!

あの詐欺師連中ですら、『女神の眼』の情報網に引っ掛かるように上手く偽情報を流せたのだから……。

……あ、いや、貴族の娘が『重病で伏せっている』という情報が流れるのはマズいのか?

もし、死期が近いと思われたら。

たとえ回復しても、女神の御慈悲による完全治癒だという場合を除き、再発の可能性だとか、まだ完全には治っていないのではないかとか思われた場合、貴族の娘としては商品価値……良い嫁ぎ先の確保……という点において、致命傷となるかもしれない。

なので、娘の病気のことは隠しておきたい。

でも、娘のために、どうしても『女神の涙』を手に入れたい。

……うん、貴族様にも、色々と事情や悩みがあるのかもしれないな……。

レイコに身体強化魔法を掛けてもらったので、体力に自信のない私も全力で走っている。

……さっきレイコが言っていた通り、明日か明後日の筋肉痛が怖いけど……。

そして、ファルセットはともかく、魔法も掛かっていないのに頑張るなぁ、『女神の眼』のリーダー……。

私達がついて来られる速さにしようと、何度も後ろを振り返っていたけど、私達が平然とついて行くものだから、驚いていた。

でも、まぁ、こっちは女神様御一行だ。すぐに納得したのか、振り返らずに自分の全力で走り出したよ。信仰心が更に上がったりしなきゃいいけど……。

いや、今のレベルでも、少々うんざりしてるんだよ……。

……あ!

レイコに魔法を掛けてもらわなくても、体力強化ポーションとかを飲めばよかったか。

いや、でも、体力強化ポーションとかを飲んでも、筋肉痛にはなるか。

それをなくすポーションも作れるけれど、ポーションで 元の状態に戻す(・・・・・・・) ということは、せっかくの運動効果が『なかったことになる』ってことだ。

せっかく運動したのに、それは勿体ない。

永続的な筋肉増加ポーション?

いや、さすがにそれはやっちゃいけないことだ。

見た目や能力を変えるポーションは、一時的なものはいいけれど、効果がずっと続くのは、反則だ。

美人になるポーションとか、胸が大きくなるポーションとか、いくら食べても太らないポーションとかは、……創ったら負けだ!

絶対に創るもんか!!

……はぁはぁはぁ……。

勿論、痛みだけ消すポーションとかも作れるだろう。

でも、今回の筋肉痛を回避するつもりはない。

一日痛みに苦しむのは、この件に対する、私自身への罰だ。

罪のない女の子を苦しめて、病状を悪化させるとか……。

それは、大罪だ。

「間もなくです!」

罪悪感に 囚(とら) われないようにと、どうでもいいことを考えているうちに、伯爵邸のすぐ近くまで来たらしい。

リーダーの声に、こくりと頷く。

……まぁ、リーダーは振り返らずにそう言ったから、頷いても分からないだろうけどね。

「門番やら取次ぎの執事やらに説明する時間が惜しい! 偽物を掴まされて大変なことになった直後だから、なかなか信用してもらえないだろうし、伯爵は娘さんのところから離れないだろうしね。

事件の前なら比較的簡単に会ってもらえたかもしれないけれど、今は状況が悪い。だから……」

「「突入する!!」」

うん、意見が合うねぇ……。

レイコとは、伊達に何年もの付き合いってわけじゃない。

リーダーは、邸に着いたら帰すか……。

女性だけの方が、少しは向こうの警戒心が弱まるかもしれないし……。

「邸の内部についても把握しています。娘の部屋まで御案内します」

……先手を打たれた。

まぁ、ここまで来ておきながら、一番いいシーン、女神の奇跡が起こるところを見ずに帰ろうとする信徒はいないわな〜。

「あそこです」

前方に見えるのは、……まぁ、ごく普通の、貴族の邸。

いや、貴族の邸として『ごく普通』なのであって、勿論超大豪邸だよ、現代日本の感覚でいえば。

門には、門番の姿はない。

当たり前だ。王城じゃあるまいし、そんな無意味なことに人件費を使ったりはしないだろう。

護衛は、邸の中でゆっくりと休んで体力を温存しているに決まってる。

なので、最初の関門は、玄関ドアだ。

内側には当然使用人がいるだろうから、魔法で姿を消していても、勝手にドアを開ければバレる。

ならば……。

「レイコ、不可視魔法!」

「 了解(ラジャー) !」

そして、皆に声を出さず物音も立てないように指示して、『10分間気を失うけれど、後遺症とかは残らないポーション』を含ませたハンカチを用意。

正攻法で、ドアノッカーを叩く。

そしてすぐに出てきた使用人が、誰もいないことに驚いてキョロキョロと辺りを見回しているところを、うしろから襲って口と鼻にハンカチを当てる。

声もなく 頽(くずお) れる使用人を、ファルセットが支え、ドアから離し、そっと地面に横たえた。

割と優しいところがあるな、ファルセット……。

あ、いや、倒れた時に音が出るのを避けただけか。今は作戦行動中だから、全て任務遂行のための効率重視で動いているのだろう。

……ファルセットって、そういうヤツだよなぁ……。

とにかく、レイコがドアが閉まらないよう押さえて、みんながスルリと中へと入り込み、音が出ないよう、そっとドアを閉める。

すぐに異変に気付かれるだろうけど、その前に事を終えれば問題ない。

リーダーの先導で、2階にある少女の部屋へと向かう。

私達は他の者達からは姿が見えないので、邪魔が入ることなく、無事、少女の部屋の前に到着。

(……中には、いるだろうなぁ……)

(いるでしょうねぇ……)

小声で話す、私とレイコ。

いや、危篤の少女をひとりきりにして放置する親はいないだろう。

だから、ノックもせずにドアを開け、全員、ゾロゾロと部屋へ入った。

「……何だ?」

ドアが大きく開いたのに、誰も入って来ず、人の姿も見えない。

疑問の声を上げるのは当然だろう。

室内には、ベッドに横たわった12~13歳くらいの少女と、簡素な椅子に座って少女を見守っている両親らしき男女、兄弟らしき15~16歳の男の子と、7~8歳くらいの女の子、そして医師らしき者の姿があった。

声を上げた父親らしき者以外も、風もないのに自然に開いたドアの方に目をやるが、当然、そこには何もない。

そして、勝手に閉まるドア。

音を立てることなく、不自然に、ゆっくりと……。

「御使い一行、顕現!!」

「「「「「うわあああああ〜〜!!」」」」」

突然姿を現した私達を見て、ベッドに横たわった少女以外の全員が、悲鳴を上げた。

……うん、まぁ、当然の反応だよなぁ……。

今の悲鳴で護衛や使用人達が駆け付けてくる前に、賊じゃないということを納得してもらわなきゃ……。

「女神の御使い一行である! 偽物の『女神の涙』により危機に陥った少女を救うため顕現した。

これを飲ませるがよい!」

そう言って、ポーションを差し出した。

うん、ここでは優しく説明するより、強く出て有無を言わせず、の方がいいと判断したのだ。

のんびり説明している時間が惜しいし……。

騙された直後なんだ。普通なら怪しまれるだろうけど、登場の仕方が疑問の余地がないものだし、何もしなくてもすぐに死ぬであろう少女に、わざわざ危険を冒して毒を飲ませに来る必要はない。

冷静に考えてもそういう結論に達するだろうけど、今の少女の両親にとっては、そんな考えさえ頭に浮かんでいるかどうか……。

私達が盗賊や暗殺者だという可能性など考えてもいないのか、そして御使い様に対する無礼だとかも思い浮かばないのか、私の手からポーションを奪い取った伯爵は、急いで娘の身体を起こし、震える手でその口にポーションを注ぎ込んだ。溢さないよう、ゆっくりと、慎重に……。

「……おとう……さま……?」

血色の戻った頬。

痛みや苦しさの欠片もない、きょとんとした顔。

……治った。

ここにいる皆が、そう確信した。

「あああ。あああ……。あああああああ〜〜!!」

「「「うわあああああ〜〜!!」」」

伯爵に続き、涙を流しながら大声で叫ぶ家族達。

そして、それをベッドの上でぽかんとした顔で見ている少女と、呆然と立ち尽くす医師。

「「「「「「伯爵様、何事ですかっ!!」」」」」」

部屋に飛び込んできた護衛の兵士と、使用人達。

そして私達の姿を見た兵士達は、即座に剣を抜き放った。

「おのれ、 曲者(くせもの) !!」

「やめろ、やめんかあああっ! 剣を納めろ、そして下がれ、馬鹿者共がっっ!!」

斬り掛かられる前に、伯爵が止めてくれた。

よかった。

……主に、護衛の兵士さん達の無事、という意味において……。