作品タイトル不明
306 迎 撃 9
「念の為、安全策を講じておこう」
「……と言うと?」
リーダーであるイシュリスの言葉に、サブリーダー兼戦闘指揮官であるチェシアが尋ねた。
「私達が不覚を取って全滅したとしても、それは仕方ない。油断にせよ実力不足にせよ、それは自業自得だ。
……だが、それによってみつか……エディス様が敵の手に落ちるようなことがあってはならない。
だから、この町の全力を挙げて、エディス様をお守りする。
商人のダルセン氏は勿論真実に気付いておられるだろうから、ひとくち噛んでもらおう。
あとは、ハンターギルドと商業ギルドのギルマスを巻き込もう。
そしてギルマスを介して、両ギルドの者達と、できれば領主様にも話を通してもらいたいところだな……」
身内だけのため、対外用のお嬢様言葉ではなく、ハンター流の男っぽい喋り方をしているイシュリスと、同じような言葉遣いのメンバー達。
「賛成です」
「私も、賛成です」
そして、全員がこくりと頷いた。
普通の依頼であれば、依頼料分の仕事はする。
しかしそれは、絶対に勝てるはずのない敵に向かって無謀に突っ込む、というような行為は含まれていない。
明らかに勝てそうにない盗賊には降伏するし、対処可能な数を超えた魔物の群れに襲われれば、荷馬車は放棄させて依頼主の商人だけを何とか守り抜くか、どうしようもない場合は、自分達の命を優先する。
たかだか1日当たり小金貨2~3枚の護衛料で、自分の命を捨ててまで依頼主に尽くしてやる義理はないし、それはハンターギルドでも認められている。
そう、『報酬分の働き』は求められるが、それ以上は、無理をすることはない。
勿論、依頼主を裏切るとか、最初から依頼主を護ろうともせずに自分達だけが逃げようとしたりするのは、論外である。
物事、それなりに 守るべき基準(・・・・・・) というものがある。
……しかし、事が『女神様絡み』となると、話が違う。
人々をお救いくださる、慈愛と豊穣の女神、セレスティーヌ。
お怒りを買うと国レベルで壊滅させられる、少々短気な少女神。
その御寵愛を受けし御使い様……。
『もし万一のことがあれば、この大陸が壊滅する』
いくら自分の命が大事でも、この大陸全ての生きとし生けるものの命と引き換えにできる程の勇者は存在しない。
というか、大陸が滅びれば、当然自分も生き残れない。
ならば、自分の命を惜しむことなく、その事態を避けなければならない。
そう考えるのが、当然であった。
たとえ、極悪人、凶悪犯罪者であろうとも。
……なにせ、ここは『女神が実在する世界』なのである。
なので当然、死後の世界の存在を疑う者はいないのであった。
「では、明日、ハンターギルドと商業ギルドのギルマスとダルセン氏に集まってもらい、私から話をする。
チェシア、悪いが朝2の鐘の後、エディス様の護衛から抜けて、その3人に話を通してくれ。
落ち合うのは昼1の鐘、場所は商業ギルドのギルマスの部屋だ。
話をする時に、『 灼熱の戦乙女(わたしたち) 』の名前で、『マルス1』を宣言してくれ」
「…………分かった」
『マルス1』というのは、ハンターがどうしても自分の話を信じてもらわねばならない時に宣言するいくつかの『この話が本当であることを誓います。もし虚偽であったなら、如何なる罰を受けようと不服はありません』という意味の言葉のうち、最も上位のものである。
ハンターがこの宣言をした場合、それが如何に信じがたい突拍子のない話であっても、とりあえずは真剣に聞き、確認をしてもらえる。魔物のスタンピードの兆候があるとか、悪魔が現れた、とかいうような話であっても。
……但し、もしそれが嘘であったなら……。
その者には、かなり過酷な未来が訪れることとなる。
なので、それはそう簡単に使えるような言葉ではなく、使う時には、自らの全てを懸け、そして最悪の事態を覚悟せねばならない。
しかし、『灼熱の戦乙女』のメンバー達は誰ひとり反対することなく、皆、こくりと頷くのみであった……。
* *
「……あれ、チェシアさんは……」
「あ、ちょっとギルドに顔を出しに行ってます。長期の依頼を受けていたり、休暇を取っていたりしても、情報は把握しておかないといけませんからね」
「あ、なるほど……」
イシュリスさんが言うことは、尤もだ。
情報は、世界を制す。
ハンターギルドなら、周辺国や他領のきな臭い話や、魔物の大量発生、自然災害とかの情報が集まり、ボードにでも貼り出されるのだろう。
いくら今現在は私に雇われていても、そういう情報は把握してなきゃ駄目だよねぇ。この仕事が終わった時のために、事前に次の仕事を考えておかなきゃならないだろうし。
やはり、『灼熱の戦乙女』はしっかりとした信頼できるパーティだな。
「あ、昼1の鐘が鳴る少し前には、私が少し抜けてギルドに顔を出しますので……」
「ああ、別に構いませんよ。まだ連中が戻ってくるまで数日あるでしょうし、4人いてもらえれば、充分ですから」
うん、奇襲さえ防いでもらえれば、何とでもなる。
そして町の中なら、数頭の魔物に奇襲されるというようなことはないから、そう心配することはない。
そもそも、お手洗いやら何やら、交代で私の側から離れることは普通にある。それに多分、イシュリスさんが出掛ける前には全員がお手洗いとかは済ませておいて、イシュリスさんが戻るまではそれ以上護衛の人数を減らさない、というくらいのことは考えているだろう。
昔、ルエダの元神官に襲われた時のは、セレスが防いでくれたのだろうけど、……アレは原因不明だからなぁ。アテにするべきじゃないだろう。
常時展開している、自動防御システムなのか。
たまたま、あの時はセレスが覗いていて、直接介入したのか。
70年以上もアイテムボックスの中にいたから、その間にセレスとのリンクが切れて、自動防御システムが解除されちゃっている可能性。
そしてセレスがそれに気付いて、再設定してくれた可能性。
……ないな。それは、絶対にない!
とにかく、私はあるかないか分からないものに命を託す程のチャレンジャーじゃない。
……セレスに確認する?
いやいや、それはやめとこう。
ないものとして安全策で行動し、もし万一の時に助かれば僥倖、ってくらいでいい。
アレだ、防弾チョッキを着ているから大丈夫だと、超至近距離で友人にマグナム弾を撃たせて死んじゃうヤツ。
いくら防弾チョッキを着ていても、超至近距離とか、テフロンコート弾とか、マグナム、アーマーピアシング、自動小銃、狙撃用ライフル、そして大口径の対物ライフルとかだと、簡単に死ねる。
それに、22口径の小型拳銃でも、ヘッドショットを喰らえば即死だ。
それと同じようなことが起こらないとは限るまい。
あの、月面に不時着していたアルコン艦も、人類を舐めて必要最低限のバリアしか張っていなかったために、純粋水爆で破壊されたのだ。
うん、愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。そして私は、小説に学ぶのだ。
人生で大事なことは、だいたい、小説が教えてくれる。