作品タイトル不明
292 貴族からの接触 1
目付きは変えてある。
なのに、どうしてドン引きなんだよ!
「う、うるさい! 黙って、さっさと歩け!!」
「…………」
人が、せっかく友好的に振る舞おうとしていたのに……。
ムカついたから、もう猫を被るのはやめだ!
……どうせ、今回は ハズレ(・・・) だし。
「どいつの手下だって聞いてんだよ、ゴルァ!」
「ガラが悪いな! やはり、所詮は下賤の者か……」
「うるさいわ! お前達の雇い主に会ったら、協力するつもりだったけど兵士に無礼な扱いをされたからやめる、女神様もお怒りである、って伝えるぞ!」
「「「「えええええっ!!」」」」
いや、何、驚いてるんだ? 遣いの者が相手を怒らせて交渉決裂、取引中止、って、当たり前のことだろう。自分達の立場を、いったい何だと思ってたんだ? 自分が所属する組織の名を背負っての、相手方との交渉役だぞ?
「ま、待て! そんなことをされたら、我々の立場が……」
「知るか! それを承知で、無礼な態度を取ったんだろうが!
自分達が誰を迎えに来たのか、そしてその者が自分達の雇い主にとってどれだけの発言力、影響力を持っているかも知らずに、馬鹿にして偉そうな態度を取ったわけじゃないだろうな、ええ?」
「「「「…………」」」」
ま、コイツらの雇い主が、私を対等とは言わないまでもせめて丁重に、招待客として扱うつもりがあるならば、話くらいは聞いてやってもいいと思っていたんだ。囲われるつもりはないけれど、友好的な有力者は、いても困るわけじゃないからね。
……というか、その『友好的な有力者』をつくるための、エディスの存在なのだから……。
でも、私を連れて来させるために派遣したこの連中に、私に対してはこのような扱いで構わないと思わせるような指示の仕方をしたということは、……うん、ま、そういうことだろう。
だから、今回は ハズレ(・・・) 、というわけだ。
「じゃ、さよなら!」
「「「「…………」」」」
そして、私は連中を後にして、次なる村へと……。
「……待て! 待て待て待て待て待て!!」
行かせてもらえなかった。
「お前を連れて戻らないと、俺達が大変なことになるだろうが!」
そりゃそうだ。
「でも、無理矢理連れていっても、雇い主にさっき言った通りに説明して、誘拐犯の話を聞くつもりはない、誘拐されたと王都の然るべき筋へ届け出る、と言えば……」
「「「「やめろおおおぉォ~~!!」」」」
まぁ、困るわなぁ……。
「ど、どうすれば……」
「このまま立ち去らせて、俺達も発見できなかったってことにすれば……」
「「それだ!!」」
男達の中のひとりの発案に、他の3人のうちのふたりは賛成したが、残るひとりが……。
「そうやって、もし後で他のチームが発見して接触したり、他の貴族家に囲われたりした後でそれが露見すれば、どうなるか分かっているのか?」
「「「…………」」」
まぁ、虚偽の報告であり、裏切り行為だよねぇ。
自分のものになるはずだったモノのあまりの大きさに、逆上して手討ちにされてもおかしくない。
「……ならば、そうなる可能性がなくなれば良いのではないか? たとえば、この娘がなぜかポックリと死んでしまった、とか……」
「「「なるほど!!」」」
「『なるほど』じゃねーよ!!」
何を言い出すかと思えば……。
よし、私の身の安全のため、その目を潰しておこう。
前方には、私達とは反対方向に進んでいる、……つまり接近しつつある商人の荷馬車が3台。
荷馬車の前後を、徒歩の護衛が固めている。
後方には、私達と同じ方向へと進むハンターパーティらしき徒歩の5人連れ。年齢は30歳前後くらいで、堅実な中堅ハンター、というような感じだ。私の足が遅いから、少し離れていたのが、かなり接近してきている。
街道を移動している他の者達は、かなり離れているから対象外だ。
よし、観客としては、充分だな。
息を吸って、お腹の底から大きな声で……。
「ええっ! 自分達の不始末を隠すため、雇い主に命じられて迎えに来た対象である私を殺して、隠蔽されるお積もりなのですか! 聖職者である、巫女の私を殺して、雇い主には都合の良い虚偽の報告をされると?」
ぎょっとした顔のハンターや御者が、私達を凝視した。
……そして、焦る兵士達。
「……これで、もし私の身に何かあった場合、雇い主さんが少し調査すればすぐに真実がバレますよねぇ」
「「「「鬼か!!」」」」
いや、どっちがだよ!
「私を殺す相談をしている奴らに言われたくはないよ!!」
うん、前方の商隊は停止したし、後方のハンター達は駆け寄ってきたから、喋り方は普通に戻した。
そして、私達のところへ駆けてきたハンターの人達が声を掛けてきた。
「ちょっと待て! ……お嬢ちゃん、『さすらいの野良巫女、聖女エディス様』か?」
おお、かなり名が売れてきているぞ!
「……聖女などと自称したことはありませんが、野良巫女をやっているエディスは、私ですが……」
うん、『聖女』なんて自称すれば、神殿からクレームをつけられるかもしれないからね。
それは、自称ではなく、あくまでも人々が勝手に呼ぶ称号だ。
「お前達、聖女様をどうするつもりだ!」
今度は、兵士達に向かってそう怒鳴りつけた、ハンター。
「聖女様は、俺達の弟分であるパーティの者をお助けくださった。良からぬ了見を企んでいるようなら、ただでは置かないぞ!」
「そうだそうだ!」
ありゃ、商隊の護衛の人達もやってきたぞ。
「野良巫女様といえば、あちこちの孤児院で炊き出しをしたり、食材を寄贈したりしてくれているそうじゃねぇか。孤児院出の俺達としちゃあ、見逃せないな!」
あ~、確かにハンターは、孤児院出や浮浪児上がりの者達の就職先、ベスト3に入るよなぁ……。
「聖女様、今、どういう状況ですか?」
う~ん、ま、正直に答えるか……。
「この先の孤児院で炊き出しをやってると、この人達が来て、有無を言わせず連行。
誰の指示なのかは、一切黙秘。そして今、私をぞんざいに扱って怒らせたことを雇い主に喋られると困るからと、私を殺して『無かったコト』にしようと相談しているところ」
「「「「「「なっ……」」」」」」
あ、ハンターの皆さんの顔色が変わった。
まあ、さっきの私の大声は少し芝居がかっていたし、まさか天下の往来で本当に殺人計画を相談する者がいるとは思わず、揉め事らしいがそう切迫したものではない、と思っていたのだろう。
しかし、所属を明らかにしない者達が少女を拉致し、しかも自分達の失策を 糊塗(こと) するために殺害を企んでいるとなれば、冗談では済ませられない。
そもそも、少女を拉致、という時点で、既にアウトである。
しかも、それが最近有名になってきた『聖女様』とあっては、取り込みや人気取りの道具にするのが目当てであればまだしも、下手をすると玩具や道具扱い、幽閉しての自分専属の治癒要員扱いとか、奴隷扱いとか……。
ありゃ、ハンターの何人かは、剣の柄に手を掛けてる。
槍士が穂先のカバーを外し、弓士が弓を手にして、矢筒から矢を1本、抜き出して……。
「……待て! 待て待て待て待て!!」
焦る、兵士達。
そりゃ、私達の後ろから来た5人のハンターと商隊の護衛6人を合わせると、合計11人。4人の兵士の、3倍近い。
そしてハンターは、訓練ばかりの兵士と違い、日々実戦だ。魔物相手とか、盗賊相手とかの。
おまけに、剣士ばかり4人の兵士に対して、ハンター側はその2倍近い剣士に、更に槍士もいれば、弓士もいる。
圧倒的な人数差。
そして、単一兵種対諸兵科連合。
……勝てるわけがない。
そこに、5人組の方のハンターから私に声が掛けられた。
「聖女様、俺達を護衛に雇わねぇですかい? 街までの護衛代金、銀貨1枚に負けときますぜ。
今ここで契約して、ギルド支部には事後報告ということにすりゃ、手数料は取られますけど、何かあった場合にはギルドがケツ持ちしてくれやすから。
……どこかのチンケな下級貴族とか、大店の馬鹿息子とかが相手でも、キッチリと……」
「え……」
「旦那、契約書用の用紙と筆記具を貸してくれ。紙代は後で払うからよ」
5人組のハンターが、御者にそんなことを言い出した。
どうやら、雇い主の商人が御者をやっているらしい。経費節減のためかな……。
しかし、護衛ではなく5人組の方のハンターがそれを知っていたということは、知り合い同士か。
まぁ、同じ街に住んでいるなら、以前の護衛やら素材の売却やらでハンターと商人が顔見知りでも不思議はないか。
「勿論、喜んで提供させていただきますが、代金は要りません。正しき行いの手助けをするのに、お金を取る者がいますか! そんなことをすれば、我が商会の恥となりますよ!」
……どうやら、私が護衛を雇うことは決定事項らしい……。