軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

141 そう言や、王都じゃねぇ、『首都』だった

「ふぅん、じゃあ、私達を止めて、脅している間に兵士達がやってきたら、誰も傷付けずに逃げる、ってことになっていた、と……」

こくこくこくこく

「じゃあ、その兵士達とはグル、ってことかな?」

「そ、それはどうだか……。おかしらは死んじまったし、俺達ゃ、おかしらに言われた通りにしていただけだし……」

うちの馬車に連れ込んだ盗賊は、ぺらぺらと 囀(さえず) ってくれた。

ま、『喋らないなら、殺して捨てて、次のに喋らせればいいだけだから』と言ったら、なぜかすごく協力的になってくれたんだけどね。

それに、おかしらが死に、生き残った仲間達も全員捕らえられた以上、義理立てする相手も、秘密を守るべき理由もないのだろう。盗賊であることは否定のしようもないし、あとは犯罪奴隷として少しでもマシな仕事場に……できれば鉱山だけは回避したい……、ということで、協力的な態度になるのは不思議でも何でもない。

それに、もし事情を知っていたなら、『襲う振りをするよう頼まれただけで、本当の盗賊じゃない。金で雇われただけの、ただのごろつきだ』とでも言った方が、罪が少しは軽くなるかも知れないのだから、本当のことを隠す理由がない。……つまり、死んだおかしら以外は何も知らない、ってことだ。

……失敗した。おかしらとやらを生け捕りにするんだった……。

でもまぁ、あの時は誰がおかしらとやらか分からなかったし、問答無用で敵を殲滅するのは仕方なかった。フランセットはともかく、他の護衛達は傷付けられたり殺されたりする危険があったのだから。……そう、ロランドやエミールを含めて。

それに、盗賊の証言なんか、『命惜しさに、適当な嘘をでっち上げているだけだ』として黙殺される可能性が高いだろう。

ま、別に相手がマリアルを害そうとしているわけじゃなく、ただ単に恩を売って取り入る切っ掛けにしたかっただけなら、そう大したことじゃないし。

それに、黒幕を確認するだけなら、別に本当のことを喋るかどうか分からない盗賊に聞く必要はない。……盗賊が依頼者から聞かされている名が、本当の名かどうかも分からないしねぇ。

犯罪者を雇う時に、自分達の敵対派閥である貴族の名を名乗って、とかいうのは、 常套(じょうとう) 手段だ。だから、もっと間違いのない方法でなくちゃね。

うん、3羽ほど、張り付いているんだ。

あの兵士達とやらが、どこに行き、誰に報告するかの確認のために。

カラスって、かなり頭がいいんだ。ちゃんと人間を個人識別できるし、かなりの長期間、しっかりと覚えている。なので、駄目で元々、今回の依頼主が分かれば儲け物、程度で……。

* *

「到着しましたよ」

マリアルが窓から頭を出して前方を見ていたかと思うと、そう言って頭を引っ込めた。

私達も順番に窓から頭を突き出して前方を見ると、左右に長く延びた石の壁と、その壁の向こう側に見える石造りの街並み、そしてお城や神殿らしき建造物の姿が見えた。

……そう、城壁で周囲を囲み堅固に防御された城郭都市である、この国の首都であった。

「ふえぇ、大きい……」

レイエットちゃんが言う通り、レイエットちゃんが知っている、他の唯一の国家中枢都市、つまり薬屋『レイエットのアトリエ』があった、ユスラル王国の王都リテニアより大きそうだ。

商人の力が強い国らしいから、商業が盛ん、すなわち経済力が強い、つまり大国、ということなのか。……軍事大国とかは、また違うのだろうか。

でも、経済力がないと軍事力は……。

あ、いや、貧乏でも国家予算の多くを軍事費に投入している国とかもあるか。

じゃあ、首都の大きさや城郭の立派さとかは、国力とは関係ないのだろうか。

う~ん、難しいなぁ……。

……よし、この件については、考えるのをやめよう。時間の無駄だ。

さて、首都に着いたら、何をやるか。

マリアル一行……私達も含む……は、レイフェル子爵家の寄親である、マスリウス伯爵家の首都邸に厄介になる。

貧乏子爵家には首都邸を構えるような余裕はなく、普通であれば貴族用の高級宿を取るのであるが、今回はそういうわけにはいかない。

普通に宿を取ったりすれば、『女神の愛し子』、『鳥貴族』などと呼ばれるマリアルと接触しようと企む貴族や商人、宗教関係者、一攫千金を企むヤバい筋の連中、情報を掴んだ他国の関係者、その他諸々のオンパレードとなるのは確実だからねぇ。同じ派閥の貴族連中も、当てにならないどころか、その連中が一番タチが悪そうだし。

だから、経費節減、という意味ではなく、マリアルの安全のために、マスリウス伯爵が自分のところの首都邸に滞在させると言って 退(ひ) かなかったらしい。そしてその理由説明に納得しない者はおらず、一行のマスリウス伯爵家首都邸滞在はすぐに決まったらしい。

なので、マリアル達の安全は、一応確保されているはず。派閥の貴族と会ったり、その連中に王宮やら神殿やら、そして大商人のところやらに連れ回される時を除いて……。

勿論、私達はマリアルのお付きや護衛として随行しているわけだから、それらの時にはくっついていく。貴重な人数枠を食い潰して随行員に入れて貰ったんだから義務は果たさなきゃならないし、元々、私達がマリアルに随行を申し出たのは、マリアルが困った時に助けるためだ。

いくらカルロスの頼みでマリアルを助けるためにやったとはいえ、私達がやらかしたことが原因でこういう羽目になっちゃったわけだから、尻拭いはやらなくちゃねぇ……。

ま、そっちはいいんだ、そっちは。

降りかかる火の粉を払えばいいだけなんだから。

問題は、マリアルのサポートにかこつけて首都行きを決めた、一番の理由。

そう、レイエットちゃんを傷付け、攫おうとした連中の特定と、その連中との『オハナシ』の方だ。

私なら、いいんだ。

私を直接狙ってきたなら、殲滅してとどめを刺すだけ、つまり、致命傷で勘弁してあげる。

でも、私の周りの、大事な人達。その人達を狙った連中。

そして、孤児達を傷付け、殺しかけた連中。

てめーらは、駄目だ。

あの街まで手を伸ばしてきたんだ、お目当ての『御使い様』と接触したことがほぼ確実と思われるマリアルがわざわざ自分達の本拠地である首都に来たというのに、手出ししないわけがない。

そして、その『御使い様』が、お付きの者としてお供をしているなどとは思うまい。

マリアルを取り込んで利用しようとして近付いてくる連中。

その中で、マリアル本人ではなく、『御使い様』の方により関心を抱き、マリアルから情報を得ようとする者達。

そいつらを潰す。……プチッ、と。

しかも、二度と『御使い様』やその関係者に手出ししようとする者が現れないよう、充分な広報効果、そして充分な威圧効果と恐怖を伴ったやり方で……。

一般民衆に知らしめる必要はない。

一般の人達は、元々、セレスやその関係者に非礼を働くつもりなど、欠片もないだろう。

たかが人間の間でちょっとばかし金と権力を持っているというだけで、女神の関係者をも自分の思い通りに利用できると考えている、愚かな者共。

その者共が、金と権力で築いた御自慢の情報網で『その情報』を得た時に……。

ふは。

ふはははははは!

「……そろそろ街門を 潜(くぐ) るよ?」

いかんいかん、ちょっとトリップしてた……。ベルに注意されちゃったよ。

さて、いよいよ首都だ。

勿論、貴族の馬車列なので、入門審査の列に並んだりはしない。

先行させておいた家人が申告を済ませており、馬車は素通りだ。そして更に、待機していたマスリウス伯爵家の案内人が先導してくれている。

マスリウス伯爵家の場所くらいはレイフェル子爵家の者も知っているが、これは重要な客を迎えるための儀式の一種であると共に、マリアルがマスリウス伯爵家に着くまでの間に接触を図ろうとする者を牽制するための手段でもある。

招待家(ホスト) からの先導者が案内している馬車列に立ち塞がってその進行を邪魔するということはとてつもない非礼行為であり、襲撃者と看做されて即時反撃をされても文句は言えない。そして、一味と首謀者は極刑である。

首都で貴族を襲ったということであるから、当然である。国王や国の主要貴族達、そして首都の有力商人達の顔に泥を塗ったということであるから、かなりの高位貴族であっても、ただでは済むまい。

……つまり、 害虫(ムシ) 避け効果抜群、というわけだ。

事実、マスリウス伯爵家の紋章を掲げた先導馬と2騎の護衛騎馬、そしてその後に続くレイフェル子爵家の馬車列を無念そうに見詰める、いくつかの『それっぽい連中』の姿があった。

マスリウス伯爵は、可愛い寄子であるマリアルに甘々であるが、有力貴族だけのことはあり、結構しっかりとしているようであった。

うむうむ、どうやら、マリアルがマスリウス伯爵邸にいる間は、マリアルを護るための戦力を残す配慮をすることなく、全戦力を『敵』の調査に振り当てることができそうだな。

と思っていたら、ベルが声を掛けてきた。

「これだけの犬と上空を旋回する鳥に囲まれた集団にちょっかいを掛ける勇気のある人は、あんまりいないと思うよ?」

あ、あの連中の表情は、『無念そう』じゃなくて、『呆然』、『愕然』の方だったか。

ま、どっちでもいいや。大して変わんないから。