軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【後日談】クリス

王都にアルマを迎えに行ったクリスは、暫く王都の家族と過ごしてから、半月後にウィンターハーンに戻ってきた。

アルマとジグルドはふたりで先に戻ってきている。

再会したふたりが盛り上がって、クリスの帰りを待たずに結婚式を終わらせてしまっていたらどうしよう――そんなクリスの心配をよそに、ふたりは結婚どころか朝から晩まで別々に過ごしていた。

アルマが「自分に領主夫人など無理だ」と言ってジグルドの求婚を受けないらしい。

アルマは日中はエリックのところで働いて、夕食後はクリスとお茶をし、夜は仕事のお勉強をしている。

ジグルドとは恋人だと言っていたが、ちゃんとお話しできているのだろうか。

このままでは、アルマはまた王都に帰ってしまうのではないか。

何かいい方法はないかと物見台の鋸壁から外を眺めていると、後ろから声がかかった。

「クリストファー様。そんなに乗り出しては危ないですよ」

ジグルドの護衛騎士のマークだ。

「うっかり落ちたりしたら大変でしょう。侍従はどこへ行ったんです?」

「今日は休息日だもの。僕はもう小さな子どもじゃないから、ひとりの時間も必要なんだよ」

「なら、俺たちの肝を冷やすような行動は慎んでいただかないと」

マークがクリスを持ち上げて、鋸壁からおろした。

「ねぇマーク。父上は、もっとアルマにアプローチすべきだと思わない?」

クリスの問いかけに、マークがぶはっと笑う。

「そうですねぇ」

「両想いなのに結婚してくれないなんて、父上がアルマを不安にさせてるからだと思うんだよね」

先日、あまりにもジグルドがアルマをほったらかしにするので、ジグルドにもそう教えてあげた。

ジグルドがアルマをちゃんと好きなことは分かったが、行動に全く改善が見られない。

「好きだったら、ちゃんと、ぎゅってして、好きだよって言わないと伝わらないのに」

「うーん……」

当たり前のことを言ったのに、マークは困ったような顔をした。

「でも、まだ婚約もしてない女性を抱きしめるのはマナー違反なので」

「ぎゅってするのは、マナー違反なの?」

クリスは驚いて目を見開く。

好きな気持ちを伝えるのがマナー違反とは。

「貴族の女性を抱きしめていい男は、家族と夫だけです。クリストファー様も、貴族令嬢との社交が始まる前には習うと思いますよ。

アルマ様は貴族女性ではないので構わないのかもしれませんが、ジグルドはそういう教育しか受けてないし……失敗できないから慎重になっちゃうんですよ」

視線を合わせるように、マークはクリスの前に屈む。

「ジグルドは気持ちを言葉にするのも慣れてないし、今、頑張ってるところなので、もう少し長い目で見てあげてください」

そう言ってマークはニカっと笑った。

クリスはふと、恐ろしい可能性に思い当たる。

「もしかして、僕がアルマにぎゅってするのも、マナー違反?」

アルマはクリスの大事な家族でお友達だが、それがふたりの間だけでの約束ごとでしかないことは、クリスにも分かっていた。

クリスはアルマとぎゅっとするのが大好きなのに。

アルマが優しいから許してくれているだけなのだろうか。

「クリストファー様はまだお子様なのでセーフです。

大人になられたら、……アルマ様がジグルドと結婚していれば、家族なのでセーフですかね」

なんと!?

これは、何がなんでも、ジグルドに頑張ってもらわなければ!

アルマが幸せなら、相手はマークでも良いかも、とか、ちょっとだけ思ってしまったのは、なしだ! なし!

「あのね、マーク」

「はい」

「アルマは可愛いけど、マークはアルマのこと好きになっちゃダメだよ?

アルマが、ほったらかしの父上よりマークの方がいいって思っちゃったら、父上がかわいそうでしょ」

また噴き出したマークが俯く。肩がぷるぷると震えている。

「そうですね。分かりました。気をつけます」

「うん、そうして」

満足そうに頷くクリスにマークは言う。

「そんなに心配なさることないですよ。

少し時間はかかるかもしれませんが、あのふたりはきっと大丈夫です」

「……うん、そうだね」

アルマはジグルドが好きだし、ジグルドもアルマが好きだ。

きっとそのうち結婚して、可愛い女の子とか、産まれるに違いない。

そしたら、ジグルドの子だから、クリスの妹だ。

そしたらクリスはうんと可愛がって、守ってあげなければ。可愛くて、王都にいる弟たちに自慢してしまうかも。

そんな未来が楽しみで、クリスはにこにこ顔で物見台を後にした。