軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

★書籍2巻発売記念+コミカライズ決定★学園時代番外編 誕生日シライヤ ※シライヤ視点

「もうすぐシライヤの誕生日ですから、サプライズパーティーを企画したいのです」

「それはいい、美味しいものを沢山用意しよう」

「いいわねえ、ケーキは最近話題のあのお店に……」

今正に入ろうとした部屋からシンシアとお義父さんとお義母さんの声が聞こえてきた。

ギクリと肩をすくめ、慌てて踵を返し廊下を戻る。俺のために誕生日のサプライズパーティーを計画する話は、俺が絶対に聞いてはいけないもののはずだ。

真っ直ぐ自分の部屋へ向かうと中へ入り扉を閉める。

公爵家からシンシアに助け出されたあとルドラン子爵家で部屋を与えられ、そのままここで暮らしているのだ。

陛下より正式に公爵の地位を賜り公爵家の屋敷も俺の持ち物となったが、気の済むまでここにいていいとお義父さんとお義母さんに言われ、シンシアにも引き止められて、俺は幸福をそのまま受け取っている。

「こんなに良くして貰っているのに……。誕生日まで……」

始めに思ったのは申し訳なさ。次に思ったのは……。

「誕生日……、祝って貰うの初めてだ……」

ドクドクと胸に熱い想いが集まるのを感じる。やみつきになるような昂揚感。

〝家族〟に愛されているという確信……。

「嬉しい……」

素直にそう思った。

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「で、サプライズパーティーを知らなかったフリをするため、私に演技指導をしてほしいと」

「はい、アデルバード殿下。よろしくお願いいたします」

次の日学園の図書室でアデルバード殿下と二人きりになった時にそう願い出た。

いつもはシンシアも一緒に参加する勉強会だが、今日は珍しく欠席している。

おそらくサプライズパーティーの準備があるのだろう。

「王太子を己の目的のために使おうとはいい度胸だと言うところだが、現公爵を家庭教師さながらにこき使っている手前無碍にも扱えんか。今なら他の利用者もいないし、少し見てやろう」

「ありがとうございます!」

アデルバード殿下は感情を隠すことだけではなく、効果的に感情を見せることもできる。

その場で一番最適な反応を演じることができる彼に教えを請えば、サプライズパーティーでもシンシア達をガッカリさせない振る舞いができるだろう。

「シライヤの演技力がどれ程のものか見てみたい。まずは思いつくままに演じてみろ。ルドラン子爵家に帰り、己の誕生日パーティーが始まった。さあ、どうする?」

勉強会のために着席していたが、勢いよく立ち上がって両腕を大きく広げ、渾身の演技を見せた。

「ナンテスバラシイパーティーナンダー! カンゲキシタヨー!」

「よく解った。着席してくれ」

俺の言葉が終わりきらないうちに、即座にアデルバード殿下から制止の言葉が入った。

「あともう一言……」

「いやいい。早く座れ」

まるで時間の無駄だとでも言うように口早に言われ、しぶしぶと席へ座る。次の台詞こそ自信があったのだが……。

「シライヤ、相談してくれてありがとう。非常に参考になった」

「俺の演技が参考に? そんなに俺は演技が上手かったのでしょうか」

アデルバード殿下が参考になるというくらいなら、俺の演技力はなかなかのものということだ。

知らなかった。俺は演技がうま……。

「今後、腹芸が必要な場にお前を伴わないことに決めたよ。事前に知れて良かった」

「……」

逆だった。俺は演技が下手なようだ。アデルバード殿下は深刻な様子でそう言ったあと取り直すように続ける。

「まず身振り手振りだが、普段お前はそんな仕草をしないだろう」

「……っ、確かに。盲点でした」

「演じることが目的になっている証拠だ。別の自分になろうとするのではなく、いつもの自分を見せることを目指せ」

「いつもの自分というのが解らないのですが」

「似たような場面に遭遇した時の自分を思い出し、真似ればいい。たとえば、シンシア嬢から先に婚約を打診された時シライヤはどんな反応をしたんだ?」

「なぜ、シンシアから先に婚約を打診してくれたと知っていらっしゃるのでしょうか」

「シライヤを奪還するため、シンシア嬢が私に事情を説明した。その時に」

「なるほど……。たしかあの時俺は感激して……、泣きました」

泣き顔を見せるのが恥ずかしくて、一生懸命隠そうとしたのを覚えている。

「演じるために涙を零すというのは難易度が高すぎる。別の状況を想定しよう。では、公爵家にシンシア嬢が助けに乗り込んだ時、どう反応した?」

「あの時は……、驚いて、嬉しくて……、泣きました」

「……シライヤはよく泣くのか?」

「そうですね……、シンシアの前ではつい……」

シンシアと一緒にいると心を激しく動かされるようなことばかりで、気がつけば涙が零れてしまっている。

それが恥ずかしいとは思いつつも、そんな俺を見て彼女は「可愛い」と言うものだから、甘やかされる居心地の良さから抜け出せずにいる。

「そうか……、では泣け。普段から泣いているのに、今回だけ泣かないでいるほうが不自然だ」

「しかし、演じるには難易度が高いと……」

「そうだが、そうするしかないだろう」

「でしたら、咄嗟に泣くためのコツを教えてください」

そう尋ねると、アデルバード殿下は静かに立ち上がる。演技を実践してくれるつもりかと期待して視線を向けていたが、一言投げやりに「知らん」と言葉を返された。

「え……。そんなっ、何かあるのでは!? 殿下は演じるのが得意ではありませんか!」

「涙を見せるのは弱みを見せるのと同じ。涙を堪える訓練はしても、わざと泣くような真似はしたことがない。残念だが、私では力になれぬようだ」

それだけ言うと、用は終わったと学習スペースを出て行ってしまった。あとに残されたのは途方にくれる俺だけだ。

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なんの解決策もないまま当日を迎えてしまった。誕生日当日にパーティーがあるとは決まっていないだろうが、放課後になるとシンシアが急いだように俺の腕を取って。

「今日は早く帰りましょうね!」

と言うので、間違いないのだろう。

ここ数日ずっとサプライズパーティーのことを考えすぎて、どう足掻いても新鮮な反応を見せることはできそうにない。

せっかくシンシアとお義父さんとお義母さんが、俺を驚かせるために計画してくれたのに……。

ふがいない自分に気持ちが落ち込んでいると、馬車の中でシンシアに心配そうな顔をさせてしまった。

こんなことでは駄目だ。正直に言おう。

サプライズパーティーのことを知っていたと伝えればきっとシンシア達をがっかりさせてしまうが、下手な演技を見せて困惑させてしまうよりはいいはずだ。

そう決心する頃には馬車がルドラン子爵家に到着していた。

三人が揃ったら打ち明けて、その後は心からの感謝を伝えて……。

考えながらシンシアに手を引かれて、広間へ入ると……。

「「「お誕生日おめでとう! シライヤ!」」」

部屋に溢れる程の花が飾られ、パーティーのためにセッティングされた食卓には豪華な料理が並び、部屋の一角には山積みになった贈り物の箱。

身内だけが集まった祝い事だというのに、音楽を奏でる演奏隊までいる。

〝家族〟が俺のために、ここまでしてくれた。それを見た瞬間、俺の中で幸福というものが極限まで膨張し弾けて指の先まで行き渡ったのを感じる。

お義父さんが贈り物の箱を一つ持ち上げ言う。

「十七歳の誕生日おめでとう。今まで祝えなかったのが残念だったものだからね、一人十七個ずつ、計五十一個の贈り物を用意したよ。今日一日では開けきれないかもしれないなぁ」

お義母さんが可愛らしいお菓子を一つ取り上げ言う。

「パーティーにはお菓子を用意したいところだけれど、シライヤは甘い物が苦手でしょう? だから甘さが控えめのお店に依頼したのよ。これなんか塩気が美味しいの。きっと貴方も気に入るわ」

シンシアが俺の手を両手で包み込んで言う。

「最近元気がありませんでしたね。サプライズパーティーを進めていたので、シライヤを一人にしてしまうことが多かったですし、寂しい思いをさせてしまいましたか?」

「ちが……」

不安そうにするシンシアを早く安心させなければと、慌てて声を上げる。思いの外俺の声は震えてか細く、途端に鼻の奥がツンと痛みを覚えて視界が揺れるほど涙が零れ落ちた。

「シライヤ……ッ」

更に不安そうなシンシアの声が届き、俺の頬に暖かい彼女の手が添えられる。

「違うんだ……。嬉しくて……」

か細い声では正しく伝わらない気がして、深呼吸してからもう一度慎重に言葉を続けた。

「嬉しいんだ。凄く、嬉しい。ありがとう」

赤い髪の愛しい人達が俺を中心に身体を寄せて、強く抱きしめてくれる。

「これからは毎年、こうしてお祝いしましょうね」

シンシアがそう言ってくれる。

毎年。こんなに幸せなことが、毎年。幸福に押し潰されそうだ。

「愛しているよ、シライヤ」

お義父さん。

「愛しているわ、シライヤ」

お義母さん。

「こんなに素敵な人を知ってしまったら、貴方にしか恋できない。私の最愛のシライヤ」

愛しいシンシア。

「俺も愛しています……っ。愛してる……っ」

俺の人生がこんなに愛に溢れたものになるなんて。

いったい何を心配していたのだろう。

サプライズパーティーを知っていたかどうかなんて関係ない。

愛しい人達から愛を向けられたら、俺は必ず感動して泣いてしまうに決まっているのに。

俺は泣き虫なんだから……。

十七年目の誕生日。

この世界に生まれたことを、初めて感謝した。