軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

テアーナベ連合、独立

北部辺境、テアーナベ地方。トミス=アシナクィ・エーリ王国・ガユヒ公国と接するこの地域は、テアーナベ語と呼ばれる言語を話し、独自の文化を形成している。ブングダルト帝国の『旧ロタール帝国領再征服』の中で、最も最後に併合された王国であり、この地方の貴族は宰相派にも摂政派にも属さない中立派として振舞ってきた。

……そう、彼らは中立派だったのだ。その彼らが帝国からの独立を宣言したという報せが帝都に届いたのは、ヴォデッド宮中伯が夜中に俺の部屋を訪れてから、三か月後のことだった。その間に俺は7歳になっている。彼らは『テアーナベ連合』と名乗っているらしい。

その報せが来た後、宮廷は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。狼狽する宰相は、見ていてこう、胸がすっとした。

いや、皇帝としては憂慮すべき事態なんだろうけど……実権無いしなぁ。

式部卿(アキカール公) が帝都にいなかったのは、事前にこの情報を掴んでいたからだろう。それで自領に引きこもったと。対して、宰相派は気づいていなかったようで大騒ぎになっていると。

ちなみに摂政も知らなかったらしい。……この親子、思ってた以上に不仲かもしれん。

式部卿が察知していた理由だが、恐らく距離的な問題だ。

帝都カーディナルは、ブングダルト帝国のほぼ中央に位置 し(・) て(・) い(・) た(・) 。

帝都から見て、南西にアキカール地方、東部一帯がラウル公の領地。今回独立したのは北西地域だ。

さらに言えば、摂政派貴族は多数が西部に、宰相派貴族は大半が東部に領地を持つ。式部卿にとって自身の勢力圏の目と鼻の先で起きた 出来事(独立) だ。それは確かに、帝都で政争なんてしている暇ないわな。

……ちなみに、位置 し(・) て(・) い(・) た(・) と表現したのは 先帝崩御(暗殺された) 後、南東部と南西部(アキカール地方の東側)の領土をごっそり他国に譲渡した為である。

さて、政敵の土地を他国に明け渡しても何の罪悪感も抱かない宰相が、対岸の火事である今回の独立に何故慌てているのか。普段の宰相なら、式部卿のピンチにほくそ笑んでも可笑しくないはずだ。

その理由は今回の独立において支援したと思われる「外国」に理由がある。

まず、最も援助したであろう国家は宗教国家トミス=アシナクィだ。

ベルベー王国と戦争していたが、俺とロザリアの婚約により停戦していた国家である。この国はテアーナベ連合が独立したことにより、帝国と直接国土が接しなくなったのだ。テアーナベ連合という緩衝国が生まれたことにより、トミス=アシナクィは再びベルベー王国に侵攻すると思われる。

……ベルベー王国には頑張って貰うしかない。

だがこの国が宰相を慌てさせた原因ではない。慌てさせたのは独立を支援したとみられるもう一か国。ガーフル共和国だ。

このガーフル共和国というのは複雑な国家である。共和国と言っても、民衆が政治を動かしている訳ではない。つまり「貴族による貴族のための共和制」だ。

そしてブングダルト族とガーフル族の間にある因縁は、おそらく今後数百年改善することは無いだろう。

ブングダルト族の居住地を奪ったガーフル族。ガーフル帝国の伸張を妨げ、帝政を崩壊させたブングダルト人にして後に皇帝となるカーディナル。そしてブングダルト帝国六代皇帝時代に行われた『ガーフル征伐』における歴史的大敗。

ブングダルト人にとって、ガーフル人は天敵である。

このガーフル共和国は帝政が崩壊した際、 国(・) 号(・) は(・) 『ガーフル王国』であった。ただし、この国王は貴族たちの選挙により決定され、実権は皆無であった。

従って周辺諸国はこの時点で、通称として「ガーフル共和国」と呼んでいる。それが完全に『共和国』と名乗るようになったのは、さっき言った六代皇帝エドワード3世の時代のことだ。この皇帝はガーフル共和国における「国王廃止法」の制定に対し、干渉しようとして出兵・大敗したらしい。

そして逆侵攻されることを恐れたこの皇帝は、自身の弟にガーフル共和国と接する帝国北東部を含めた、『帝国の四分の一』の土地を与えた。その息子が現在、ラウル 大(・) 公(・) と呼ばれるにいたる。

何が言いたいかというと、 宰相(ラウル公) の勢力圏はがっつりガーフル共和国と面しており、テアーナベ連合の独立は帝国の兵力を分散させる狙い……すなわち侵攻準備という捉え方もできるのである。

ちなみにこのガーフル共和国、元々遊牧民族だったこともあり、騎兵の強さは「大陸一」らしい。

ラウル公が強力な私兵を抱えているのも、ラウル公領で大砲が量産されているのも、さらに言えば宰相が帝国から独立しないのも、すべて恐れからくるこの「ガーフル騎兵」への備えである。

個人的な好き嫌いは別として、この臆病なくらいの「騎兵への畏怖」は判断として正しい。

この世界では既に鐙が開発されている。これは重要な事だ。地球でも鐙が開発される前と後で、騎兵の戦闘力も運用法も大きく異なるからな。

重装甲のガーフル騎兵による騎馬突撃への、明確な対策はまだ開発されていないんじゃないかな。既に、地球で言う初期マスケット銃は広まりつつあるが、地球よりも圧倒的に遅い。これは恐らく、魔法があるからだろう。

まぁ、宰相はせいぜい頑張ってくれ。俺には どうしようも(実権が) ないからな。

あと、今回の独立はヴォデッド宮中伯 曰(いわ) く「とある商会」の手引きによるものらしいが……それよりも目下の問題は 中(・) 立(・) 派(・) 諸(・) 侯(・) が(・) 半(・) 数(・) 以(・) 下(・) に(・) な(・) っ(・) た(・) ことだろう。

一歩進めたと思ったらこれだ。

***

数日後、宰相も自領に戻った。ガーフル共和国に備えるらしい。

これで帝都の政争が落ち着く……訳が無い。むしろ逆である。

残っているのが 過激な奴(ゲオルグ五世) と 出しゃばりな奴(摂政) だからな。むしろ今まで以上に宮廷の空気が悪い。

さて、トップ二人がいなくなったことにより宮廷は混乱しているが、その分俺への監視が一気に緩んだ。そのどさくさに紛れ、ティモナが寝ずの番になった。これは俺が剣術や護身術を習う為だ。

皇帝の部屋はびっくりするくらい広い。それこそ剣術の訓練をしても尚、余裕があるくらいには。いくら監視が緩くなっているとはいえ、日中は流石に監視されている。こっそり訓練するには、就寝時のこの部屋はうってつけという訳だ。

問題は「こっそり」になるかどうか。つまり……ティモナという「臣下」を信用できるかどうかだ。これに関して俺は、正直なところ判断に迷っている。ティモナからは一切敵意を感じないし、それどころか敬意みたいなのが向けられている気がする……が、殺気を向けられる日々が長かったし、どこまで信用してよいものか決めかねているのだ。

ちなみにヴォデッド宮中伯は「怪しいと感じたら即斬ればいい」と言っていたよ。護衛として主に疑念を抱かせた時点でダメなんだと。

……そういうの、ちゃんと覚悟しなきゃいけないんだろうな。

とりあえず「魔法が使えること」は隠すつもりだ。これは俺にとっての生命線だからな。それ以外はまぁ、少しずつ様子を見ていくつもりだ。

この日以降、本来寝ている時間にヴォデッド宮中伯(屋根裏から来る)から剣術や護身術を習い始めた。当然だが、ほぼ徹夜である。そのせいで日中は睡魔に襲われ、部屋でうとうとすることが多くなった。

その結果、『 微睡(ぐうたら) 帝』とか『アキカール狂い』とかあだ名されるようになった。

この『アキカール狂い』ってのはあれだな。俺が寝不足の理由を「夜、ティモナと二人きりでナニカやっている」って勘ぐられたんだろうな。

……俺はまだ7歳だぞ!? どういう思考回路してんだよ……

って思ってたらティモナに「私が襲われたときはもっと幼かったですよ」と言われた。俺は閉口した。

……それにしても『アキカール狂い』か。ここは摂政派と見なされないよう、ゲオルグ五世とこまめに会っておいた方がいいかもしれんな。俺、アイツ大嫌いだけど。