軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

皇王亡命編10

それから数日後、シャルルは皇国へと送り込まれることになった。誰の目に見ても、今回の彼に対する対応は左遷だ。まぁ、実際には帝国の命運を背負わされてるんだけど。

こうして反皇王派の代表を宮廷から排除した俺は、本格的に皇王の亡命受け入れへと舵をきった。

そして皇王らを正式に受け入れる宣言と共に、彼らを歓待する宴をしようと提案した。だがその責任者について、俺がニュンバル侯に任せようとしたところ、ニコライ・エアハルトがこれに待ったをかけた。

曰く、これまで反皇王派として活動してきたニュンバル侯が催せば、せっかくこれから手を取り合っていこうという時に水を差されると。

……何が手を取り合おうだお前ら一方的に足引っ張るだけの分際で。

そんなク……ニコライの言葉を聞いた皇帝は、一理あると答えた。しかし皇帝は今まで、宴の準備は常にニュンバル侯に任せていた。

そこで、不慣れなものに任せるよりはと、ニコライにこう言った。

「余はあまり宴に出ぬので分からぬ。しかし卿なら、良い宴を開く者も知っておろう」

……これ、お前は帝都で毎日のように宴に招かれて、随分と楽しんでるもんねっていう皮肉が咄嗟に出てしまったんだけど、伝わらなくて良かったよ。

そんな訳で、俺は帝都の下級貴族数名が合同で開いた宴にゲストとして参加するという形を取った。

もちろん費用は帝国が負担しない。俺はあくまでゲストだからな。帝都で煩い中小貴族の財布なんて、削れば削っただけ良いんだから。

こうして参加した宴だが……まぁ酷いな。

食事だの内装だのに限らず、全体的に「金欠貴族の見栄」って感じだった。

分かりやすい例で言うと、給仕の数と質だな。常に給仕の数には余裕を持ち、何か想定外のことがあれば即座に対応……それが俺の普段見ている宴や社交パーティーだ。

今回は金が無かったのかギリギリの人数しかいないし、いろんなところから借りてきてるからか、連携も滅茶苦茶だった。

とはいえ、貴族の給仕などは平民の中では高給取りの仕事だ。曲がりなりにも優秀なものが多い。だから後手に回りながらも、辛うじて対応できている。

……のに、そんな給仕に八つ当たりするんじゃないよ皇王。

ちなみに、俺が傀儡の頃も宰相や式部卿は宮廷で何度も宴や社交パーティーを開いていた。だが彼らは少しでも自分たちの財布から出す出費を抑えようとしたのか、働いている給仕たちの給料は国庫から出させていた。

そして国庫の管理は、ずっと財務卿であるニュンバル侯が担ってきた……俺が常にニュンバル侯に任せる理由がお分かりいただけただろうか。

さて、そんな皇王に見かねてか、ロザリアが皇王の側に寄っていった。

というか、皇王も元皇太子も酔いすぎなんだよ。この辺は宗派の違いかもなぁ。聖皇派も酩酊は禁止のはずなんだけど、あそこ『十八原則』だからなぁ。原則の数が多すぎて、一つ一つに対して「守らなくてはいけない」っていう意識が低いんだよね。

元皇太子の方は、酔って陽気になり、美形の人間に手当たり次第に声をかけている。

あ、そうそう。今回はティモナは連れてきていない。代わりにバルタザールが一番傍にいる。ティモナは女性並みに美人な男だからな。こんな宴で死人を出す訳にはいかないし。

「おぉ、皇帝陛下」

と、噂をすればとばかりに元皇太子がおぼつかない足取りで近づいてきた。

「おう、皇太子殿」

まぁ、剥奪されたんだけど。でもこの亡命生活中に、再び皇王はこの男を皇太子にすると宣言したらしい。まぁ皇王の発言とはいえ、亡命先での発言だからどこまで皇国の法で正当性があるかは知らない。

しかし本人は皇太子に復帰した気になっているので、気を悪くさせても面倒だと思い皇太子と呼んでいる。

「いやはやしかし、聞きましたぞ。皇帝陛下は魔法が使えないのだとか」

……いや、バリバリ使えるが? いきなりどうしたんだ、この男。

「魔法が使えぬとなると、さぞ苦労なさってきたでしょう」

むしろ魔法が使えたから生き残ったね。使えてなかったら詰んでたなって思うことは何度もあったけど。

「あぁ、いや。こちらでは大して問題では無かったのでしたか。良かったですなぁ帝国にお生まれになられて」

そうやって言いたいことだけ言うと、女を連れて部屋の外へ向かって歩いて行った。連れていたのは妾の一人か。

しかし一方的に喋るだけ喋って出て行ったな。随分と嬉しそうだったというか、俺に優越感抱いて気持ち良くなってたのだろう。

と、その時。散々文句を言った挙句、ロザリアに手ずから酌をしてもらったクソ皇王が、俺の耳にも聞こえる声でこう言ったのだ。

「フン。朕の酌が小国の王女とはな」

よし、アイツ、殺そう!

***

「これはこれは皇王陛下。気が利かずに申し訳ない」

怒ってない、怒ってないよ。ここに来るまでにバルタザールに宥められ、ロザリアに宥められ、元ダロリオ侯に平身低頭で謝られたから。全然怒ってない。

「余がお注ぎしましょう。さぁさぁ我らは同じ帝王同士、遠慮なさるな……おや杯はどちらに」

あぁなんだ持ってたんだ。肥え太った肉に埋まって見えなかったよ。

「あぁ、持っておられたか。さぁさぁ遠慮なさらずに」

それにしても、くせぇなコイツ。体臭誤魔化すのに大量の香水使ってんのか。アルコールの匂いも混じって酷い臭いだ……ん? なんか覚えのある臭いも混じってる……? まぁいいか。

「さぁ、余の杯にもどうか注いでくだされ」

おいおいボトル持つ手が震えてんぞ。酒の飲みすぎだよ本当に仕方ないなぁ、君は。

「へ、陛下っ」

元ダロリオ侯アロイジウス・フォン・ユルゲンスの悲鳴のような声が聞こえる。その呼び方だと、どっち心配してんのか分からないんだけどな。

叫んだ理由は俺の袖に皇王が酒をぶちまけたからな。酒注ぐこともできないくらい飲むなよ。

「はっはっは。酒の席ではよくあること、では乾杯と行きましょう」

あれ、随分と汗かいてるね。俺は涼しいくらいだけどその皮下脂肪のせいかな。……まぁ、冗談だけど。わざとやってるから。

「両国の繁栄と輝かしい未来を願って乾杯」

その時もテイワ朝かは知らねぇけど。

俺は一気に酒を飲み干す。前世ではそんなに強くなかったが、この体はかなりアルコールに耐性がある。それでも普段あまり飲まないのは、間違っても酔いたくないからだ。

酔ってるときに暗殺者に襲われたらどうするのか、とか……考えたこと無さそうだな、お前。

「そうだ皇王陛下。先ほど余のお抱え商人に届けさせた贈り物はご覧になられましたか。南方大陸でとれる濁りすらない透き通った水晶。聖典にも登場する中央大陸にしかいない老狼の毛皮。それから同じく中央大陸から取り寄せた生きた白虎鳥。祝いですので遠慮なさらずご納めください」

あと、酒の味は微妙だ。アルコール度数は高そうだけど。安酒……いや、下級貴族的にはこんなものなのか。味の拙さをアルコール度数で誤魔化している。

たぶん、何かで割って飲む酒だな、コレ。

「おや、酒が進んでおりませんが、どうかなさったか」

俺にお酌されるとか、貴重な経験だぞ? 喜べよ。

「ほう、もしやこの酒はあまりお好きではなかったか」

と、その辺りで泡を噴き始めた。このくらいで勘弁しておくか。

……これ放置はしてると、面倒なことになりそうだなぁ。仕方ない、バレないように魔法使うか。昔よく侍女に使ってた睡眠魔法をっと。

力が抜け、椅子の背にもたれかかったクソ皇王……ミシミシと椅子が音を鳴らし、今にも壊れそうだが俺の知ったことではないな。

「おやおや仕方のない人だ、眠ってしまわれるとは……これは酩酊ではなく、疲れて眠ってしまわれたのだろう」

俺は近くの給仕に後始末を任せ、ホストの貴族に声をかける。

「服が汚れた、すまんが余はもう帰ることにする」

あーあ。皇帝の服とか一着いくらすると思ってんの。もったいない。

まぁ、パーティーに参加するという義理は果たした。もう消えても平気だろう。

驚いて固まっているロザリアの手を優しくとって、外へと促す。いやぁそれにしてもナディーヌは連れて来なくて正解だったな。

連れてきていたら、間違いなくキレて大変なことになっていただろうな。

俺がそんなことを考えていると、バルタザールが器用にも、ささやき声で焦りを滲ませている。

「陛下! 陛下!!」

「なんだ、バリー」

護衛のバルタザールは周りに聞こえないように、口に手を当てて訊ねてくる。

「殺してしまったのですか!?」

「そんな訳ないだろ。寝てるだけだよ」

まぁ、眠らせる魔法はあんまり他人に見せてないからな。正確には眠気を強くする魔法だから、元気な人間には効かないし。

会場からも離れ、待機していたティモナが近づいてくる。

「いや、あんな殺気飛ばしてたら殺したのかと思いますよ!」

周囲に他の人間がいないことを確認したバルタザールが、そう詰め寄ってくる。

「いや、殺すときは殺気を出さないようにするものだろう。なぁティモナ」

「えぇ、そうですね」

ティモナに振ると、懐中時計を取り出しながら、珍しく冗談を返してくる。

「いや……お前、どっちだ。表情変わんねぇから分かんねぇよ」

「ふふっ、もちろん冗談ですわ。ね、陛下?」

アルコールが入っているからか、ロザリアも上機嫌だな。顔の色は変わってないけど。

「……もしかして、わざと殺気出してたんですか」

そう言ってバルタザールは驚いていた。まぁ、殺気と言うか……いつでも魔法を撃てるように臨戦態勢で威圧していただけだけど。

「途中からは、そうだな」

はっきり言って、若い皇帝である俺は皇王に見下されていた。何で亡命中のその立場でその態度ができるのかは謎だが、とにかく下に見られていた。

だからどこかで釘を刺さねばとは思っていたんだが……酒の席はちょうどいい。皇王には恐怖を与えられただろうし、俺は酔って記憶が無いってことにすれば、この件を表沙汰にする必要はなくなる。

「……最初は本気だったんですか」

まぁロザリアに対しての態度に怒ったのもあるけど、同じ立場でも遊んで生きてきた皇王を見ると、なんというか、ものすごく腹が立つんだよね。

その後、俺は元ダロリオ侯の謝罪を一度は突っぱねるも、ラミテッド侯ファビオの執り成しで許し、その日の夜の記憶は表向きには「覚えていない」ということになった。