軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第144話 もふもふ天国

「ふわあああああっ……!!」

アメリアは今、人生の中でも指折りの幸せ空間に包まれていた。

端的に言うと、ミレーユの飼う動物達に囲まれていた。

目の前に広がるのは、まるで夢のような光景。

ふわふわの毛並みの猫や犬、そしてくりくりっと愛らしい瞳の小動物たちがアメリアに無邪気に寄り添ってきている。

膝には子猫がよじ登り、小さな舌でぺろぺろとアメリアの指先を舐める。

まるで絹のような柔らかさと、もふもふとした毛の感触が心地良い。

恐る恐る顎の下を撫でてあげると、子猫はなんとも気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らした。

「か、可愛いぃぃ~……」

頬をだらしなく緩ませて言うアメリアに「僕もかまってよ」とばかりにお腹に頭を擦り付けるのはひと抱えもある大型犬。

まるで太陽のような温かさを持つ彼の体からは、おひさまに干されたお布団のような優しい匂いが漂ってきた。

「ふふっ、お利口さんね」

アメリアが小麦色の頭を撫でると、ワンちゃんは手に頭をすりすりしてくる。

ごわっとした感触が擽ったくて、アメリアは思わず笑みを溢した。

「わっ……」

ふと肩に軽い重さを感じて見ると、フクロウが止まっていた。

フクロウは大きな目をぱちぱちと瞬かせながら、アメリアの頬に柔らかい羽を擦り寄せてくる。

そのなんとも言えない癒しの存在感に、アメリアはふわっと心がほどけていくような感覚を覚えた。

小さなモルモットは足元をうろちょろと行き来し、ウサギがすんすんとアメリアのドレスに鼻を鳴らす。

どの動物も驚くほど初対面のアメリアに懐いていた。

「可愛い……可愛いが溢れすぎてて昇天してしまいそうです……!!」

これほどまでのもふもふに囲まれるのはアメリアとって生まれて初めての経験だった。

全身に広がる幸福感に包まれてニヤニヤが止まらない。

身体に温かくてふんわりとした毛が擦り寄る感覚を覚えるたびに、アメリアは頬を緩めながら愛らしい動物たちを撫でくりまわした。

そんなアメリアの姿を見つめていたミレーユは、驚いたように目を見開いて、「なんと、まあ……」とぽつりと言葉を漏らした。

「ここまで動物に好かれる人は、今までで初めてかもしれないわ。中には人見知りの子もいるのに……」

「動物に好かれやすい者は時たま目にするが、ここまで凄いのは見たことがないな……」

猫が理性を失うマタタビ的な何かを振り撒いているかのような殺到具合に、ローガンも感嘆を声に滲ませながら言った。

一方のクリフは興味深げに言葉を口にする。

「動物は人の心をよく見抜くものだ。アメリア殿の優しく澄んだ心に、この子らも自然と惹かれているのだろう」

アメリアに対する信頼をより深くしたように、クリフは大きく頷いた。

「ローガン様ー!」

不意に弾んだ声でアメリアが手を振り、ローガンを呼び寄せる。

「ローガン様もこちらにいらして、一緒にもふもふしましょう!」

満面の笑みを浮かべながら動物たちに囲まれる彼女の姿は、まるで天使のように無邪気だ。

そんなアメリアの提案に対して、ローガンは「う……」と喉に何か詰まらせたような反応をする。

「いや……俺はいい」

「ええーっ、どうしてですか?」

アメリアが首をかしげると、ローガンは苦笑しながら言葉を続けた。

「俺はあまり、動物に好かれるタイプじゃな……」

「つべこべ言わずほら、行ってあげなさいな」

ローガンの説明を遮るように、ミレーユが彼の背中を軽く押した。

思わぬ所からの後押しに、ローガンは不本意ながらも毛むくじゃらたちに囲まれた輪の中に足を踏み入れる。

すると動物たちは一瞬、ローガンの方に目を向けた。

だがその一瞥だけで、すぐアメリアへと関心を戻してしまう。

「あらら……?」

その光景を見て、アメリアは驚いたような声を漏らす。

ローガンは予想していたとばかりに肩をすくめ、ため息をつきながら言った。

「やはりな……なぜだか分からんが、昔から動物にはそっぽを向かれる体質でな……」

その声は諦めを含めつつも、どこか寂しげな響きが混じっていた。

「そうなのですか……うーん……」

アメリアはウサギを撫でながら考え込むような素振りを見せた後、「よしっ」と顔を上げてローガンの方を見た。

「ローガン様、屈んでみてください」

「こうか?」

「失礼します」

「む……」

驚くローガンの手を、アメリアはそっと握りしめた。

そして、一匹の猫の方へその手を優しく差し出す。

「落ち着いて、ゆったりと、自然な心で接してあげてください。そしたら、きっと警戒を解いてくれますよ」

アメリアの声は穏やかで、どこか自信に満ちていた。

「自然な、心か……」

彼女の手の温もりがじんわりと伝わってくる中、ローガンはアメリアの言う通り、努めて心を平静にした。ちょいちょいと、ぎこちない動作ながらも人差し指を動かしたりしてみる。

すると猫はローガンの手をひと嗅ぎした後、ぺろぺろと舐め始めた。

「おお……」

小さな舌の感触に、ローガンは思わず声を漏らす。

一匹の命が警戒を解いてコミュニケーションを取ってきてくれた事に、ローガンの心に少なくない感動が宿った。

「ほら、大丈夫でしょう?」

アメリアがにっこりと無邪気な笑顔を見せる。

その笑顔は純粋で、眩しい。

至近距離で見ると心乱される可憐な表情だった。

「あ、ああ……」

ローガンは息を呑んだまま、それしか答えられない。

アメリアの笑顔に見惚れてしまって、ほんの少しだけ頬の温度を上げる。

その表情は、普段の彼らしからぬ動揺が滲み出ていた。

「可愛いですよね~~本当に……」

ローガンの動揺に全く気づかず、アメリアは無邪気にフクロウの頭を撫でながら微笑んでいる。

その仕草も、柔らかくかかる髪も、すべてが穏やかな日差しの中で輝いているように見えた。

しかし次の瞬間、ローガンが不意に彼女の頬に手を添え、少々強引に顔をこちらに向けさせた。

その動作はあまりにも自然で、アメリアは驚く間もなかった。

「ローガン、様?」

やっと理解が追いついたアメリアが不思議そうに尋ねると同時に、低い声が空気を震わせる。

「アメリアのほうが、可愛い」

ささやくような響き。

大きな手が、アメリアの耳にそっと触れる。

先ほど動揺させたお返しなのか、それとも真剣に思ってのことなのか──そのどちらとも取れるニュアンス。

どちらにせよ、その一言はアメリアの心臓を跳ね上がらせるのには十分すぎる破壊力を持っていた。

「ぁ……」

彼の言葉が脳内に届くや否や、心臓が急に早鐘を打ち始め、顔全体が熱くなる。

息が詰まる。

身体の中心に小さな火が灯されたかのような感覚が生じ、手に触れていたフクロウの温もりさえ一瞬遠のいた。

「あ……りがとう、ございます……」

なんとか返事をするも、それだけだった。

まともにローガンの目を見ることができない。

だが、彼の視線がずっと自分に注がれているのが分かる。

心の中の混乱を隠すように、膝の上のモルモットをぐりぐりと撫で回し始めた。

ふわふわとした感触が、少しでも彼の視線からの逃げ場になることを期待して。

だがその小さな仕草さえ、ローガンには全て見透かされているように感じた。

(嬉しい……けど……心臓が……)

モルモットを撫でてないほうの手で、胸のあたりを抑える。

ローガンの短い言葉がアメリアの心に深く残り、鼓動はまだ収まりそうになかった。

そんな二人のやり取りを、少し離れた場所で見ていたクリフとミレーユは互いに目を合わせる。

「ねえ、あなた……」

「ああ」

妻の言わんとしている事はわかるとばかりに、クリフは頷く。

「あんなローガンを見たのは、初めてだな」

「人を変えるのは人、ということかしらね」

微笑ましげにミレーユは目を細めて言う。

昔からローガンを知る二人だからこそ、彼の変化に気づいていた。

感情の起伏が少なく、冷酷で無慈悲だと評されていたローガンが愛する者に見せる柔らかな表情。

その変化を促した張本人がアメリアであることも当然のように確信する二人であった。