軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25 デッドラインが近づいています①

「リリーベル殿下。もうすぐ生誕の式典ですねっ」

そう声を弾ませるのは、侍女のベルネだ。

「ええ、そうね」

わたしは少しこわばった笑顔でそう答える。

そう。ナレ死するはずの運命の日が、近づいてきていた。

東部の一連の騒動が落ち着いてきて、わたしは日常に戻っている。ルーク兄様に政務についていくつか意見を求められたり、研究者の方たちと薬草について話をしたりと忙しくも充実した日々だった。

(なんとなく、お城の雰囲気もいいような気がする……?)

図書館に行くときや城内を移動するとき。以前は聞こえていた嫌な言葉がグッと減ったような気がする。

それに、あのメイドたちも見かけなくなった。配置換えにでもなったのかな。

体調はすこぶるよく、ちょっと咳でもしようものならルーク兄様が飛んできてしまう。外で躓こうものならローラント兄様に抱え上げられてしまうし、復活したお勉強の時間はキース様に見守られている。

(なんというか……みんな過保護のような)

そんなことを考えていたところで、ロザリナが静かに咳払いをした。

「リリーベル殿下。少々、お時間をよろしいでしょうか」

いつもより改まった声音に、わたしは背筋を伸ばす。

「これから生誕の式典に向けて、ご公務や来客が一気に増える見込みです。式典そのものの準備に加え、贈答品の確認や各方面との調整もございますので……」

そこで一拍、間を置く。

「侍女の手が、どうしても足りなくなります」

なるほど、と内心で頷いた。確かに最近は、予定が詰まり始めている。今まではなんとか回っていたけれど、これ以上増えたら無理が出そうだ。

「そこで、新しく侍女を一名、お迎えすることになりました」

そう言って、ロザリナが視線を扉の方へ向ける。

「お入りください」

その声で、扉が静かに開いた。

一歩、室内に足を踏み入れたその人物を見て、わたしは目を瞬かせる。

「……えっ、アデリナ様?」

控えめな色合いの侍女服に身を包み、きちんと揃えた所作で頭を下げたのは――アデリナだったのだ。

驚くわたしをよそに、アデリナはにっこりと微笑む。

「本日より、リリーベル殿下にお仕えいたします。ポルシェ子爵家が長女、アデリナと申します」

東部で共に働いた彼女だ。薬草の管理を任せ、必死になって支え合った日々が思い出される。

それなのに今は、最初からこの城にいたかのように落ち着いた表情で、静かにそこに立っていた。

一瞬、言葉を失ったわたしを見て、ロザリナが補足する。

「東部での働きぶりやご本人の出願により、キース様より推薦されました。読み書き、計算、薬草の知識も十分ございます。何より、殿下のお側に立つ覚悟があるとのことです」

覚悟、という言葉に、アデリナがわずかに背筋を伸ばす。

「東部では、リリーベル殿下の背中に多くのことを学ばせていただきました」

言葉を選ぶように、一拍置いてから続ける。

「薬草の扱いだけでなく、状況を見て判断すること、人の不安にどう寄り添うべきか……殿下が前に立ってくださったからこそ、私たちは光を失わずに済みました」

アデリナの視線はまっすぐで、揺れがない。

「だから今度は、わたしが殿下のお役に立ちたいと思いました。まだ至らぬ点もありますが、必要とされる場所で力を尽くしたいと思っています」

やはりヒロインなだけあって、目の輝きがすごい。それに、彼女の誠実で一生懸命なところはわたしもよく知っている。

わたしはゆっくりと彼女を見つめ、それから小さく息を吐いた。

「こちらこそ、よろしくお願いします。アデリナ様」

そう告げると、彼女の顔がぱっと明るくなった。

「はい、誠心誠意お仕えいたします! それと、私のことはアデリナと呼び捨てでお願いいたします。敬語も不要です!」

「わ、わかったわ。ええと、アデリナ」

「はい!」

彼女の勢いに、思わず少しだけ笑ってしまう。

生誕の式典まで、あとわずか。きっと、アデリナがいることで一層賑やかになるだろう。

きっと準備に忙殺されてしまうんだろうな。

お兄様たちの生誕祭ならまだしも、わたしの生誕祭は行われないだろうと思っていたのに。どういうわけかお兄様たちが張り切っているような気がする。気のせいであれ。

「リリーベル殿下にお伝えしたいことがあるのですが……私的なことなのですけど」

「なにかしら?」

アデリナは花が咲くように笑う。

「先日、無事に父と母が離縁いたしました」

「!」

「王都に逃げた先で、知らない家族と暮らしているようでしたので、そのままスッパリと縁を切ることができました。ふふ、こんなこと殿下にお伝えすることではないと思いましたが」

思わず息をのんだものの、すぐに表情を整える。胸の内に広がったのは驚きよりも、ほっとする感覚だった。

「そうだったのね」

穏やかに言葉を選び、アデリナを見つめる。

「それなら、よかったわ。本当に。夫人とアデリナがこれから穏やかに暮らせるのなら、それが何よりだもの。大切な話を、教えてくれてありがとう」

アデリナは一瞬きょとんとしたあと、照れたように笑った。

「殿下にそう言っていただけて、救われました」

その表情を見て、肩の力が抜ける。

(アデリナが虐げられずに済んで良かった)

これから先、アデリナが原作のように理不尽に振り回されることはない。そう確信できたことが、何よりも嬉しかった。