作品タイトル不明
982 フランの守り
「るおおぉぉぉぉ!」
「はぁぁぁ!」
フランと長老レザルヴァの戦いは、一見すると互角であった。
剣技と速度ではフランが上回っているものの、レザルヴァは多少攻撃を食らうことなど気にせず、猛然と襲い掛かってくる。しかも、その剛腕から繰り出される剣は、凄まじい威力があった。
『硬いな!』
(ん。あの鱗、鎧みたい)
竜神の秘跡によって強化されたからなのか、レザルヴァの赤い鱗は非常に硬かった。軽い牽制程度では、傷ひとつつかない。
強い攻撃で斬り裂いたとしても、再生スキルですぐに元通りなのだ。
メチャクチャ厄介だった。もうひとつ厄介なのが、その回復力だろう。
鱗だけでなく、その下まで貫通した傷も一瞬で塞がってしまうのである。俺たちは傷の治りが遅くなる生命魔術を使っているのに、それが効いている様子がなかった。
何度も体を貫く黒雷も気にした様子はなく、麻痺も効いていない。
むしろ攻撃をあえて受けて、こちらの想定外のタイミングで攻撃を仕掛けてくることさえあった。タイミングの外し方は、戦闘経験の豊富さを感じさせる。
ただ、その老練さに似合わず、レザルヴァはかなり苛立っていた。フランのような少女と互角というのが、こいつのプライドを傷つけたらしい。精神操作の悪影響で、感情の抑えが利かないのかもしれなかった。
それに、フランもこいつも分かっている。今の状態は互角なようで互角ではない。フランはまだ本気ではなく、レザルヴァは少しずつ魔力が減りつつあるのだ。
それだけレザルヴァは再生や身体強化を使い続け、無理をしているということだった。
長老たる自分が無理をしているというのに、フランはこの後のことも考えて消耗を抑えた戦い方をしている。それがまた、レザルヴァの感情を逆なでするのだろう。
さらに激しく攻撃を加えてくるが、フランはそれを全力で捌いていった。その間にも俺の魔術が放たれ、レザルヴァにダメージを蓄積していく。
イザリオの戦いを見ていたからだろうか? フランの受け技は以前にも増して冴えており、レザルヴァの大剣を完璧に防御するようになっていった。
受け損なえば仲間にも被害が及びそうな攻撃も、威力を減衰させつつ、衝撃を空へ逃がすような受け方で往なす。
戦いながら、フランが成長しているのが分かった。
だが、相手は経験豊富な老戦士。精神操作を受けて思考が鈍化しているとはいえ、すぐにフランが仲間に被害を出さないように戦っていることに気づいたらしい。
「これを防ぐことができるかぁぁ!」
「む!」
「ゴオオォォ!」
レザルヴァは、大量の火炎を口から撒き散らした。威力はそれほどでもないが、兵士や冒険者に直撃すればただでは済まないだろう。
しかも、範囲が広い。
「はぁぁぁ!」
フランは咄嗟に魔術と斬撃を放ち、火炎を消滅させる。だが、これこそがレザルヴァの狙いだ。
フランの動きを止め、より大きな技を放つ溜めを行うための時間を作ったのである。背を大きく反らし、胸板が倍近くに膨らむほどに息を吸い込む。
「ガアアアアアアアアァァァ!」
そこから放たれたのは、赤い閃光であった。空気を燃やすほどの火炎の吐息が、火炎を迎撃し終えたフランに向かって一直線に突き進んでくる。
躱すことはできるが、フランが受け止めなければ背後にいる仲間たちに大きな被害が出るだろう。
「はあぁぁぁぁぁ!」
「ガアアアァァァァ!」
フランの障壁と、レザルヴァの炎がせめぎ合い、赤い光が周囲を染め上げる。
『フラン! あと2秒耐えろ!』
「だぁぁぁぁ!」
フランは魔力放出を駆使して、赤い閃光を上手く散らしていた。これもイザリオの戦闘を見てきた成果だろう。剣での受け流しだけではなく、防御行動全部が成長しているのだ。
だが、まだイザリオには及ばない。前に突き出すフランの手が、熱で爛れて煙を上げ始めたその直後だった。
『フランの頑張りを無駄にしねー!』
俺は次元魔術を発動する。やったことは、巨人型の投石を防いだ時と同じだ。ディメンジョンゲートで、奴の火炎を撃ち返してやる。
ただ、この乱戦の状態で、適当に放つわけにもいかない。そこで俺は、奴の真上にゲートを開いてやった。
「ガァッッ! なにが!」
高い火炎耐性があるため、ダメージはさほどではない。だが、敵の気配の全くないところから急に攻撃されたため、動揺したのだろう。攻撃を止め、思わず上を仰ぎ見る。
それが、大きな隙だった。
フランがその瞬間を見逃さず、乾坤一擲の攻撃をしかける。
フランが何も言わずとも、何をしたいのか伝わってくる。俺は神気と魔力を絞り出し、刀身に纏わせた。
魔術とスキルで加速することで、黒い雷の残像だけを残し、瞬間移動もかくやという速度で竜人の老戦士へと肉薄するフラン。
レザルヴァもすぐに気づいたが、その時にはフランはすでに俺を大上段から振り下ろした後であった。
「ばか、な……!」
「……ふぅ」
レザルヴァは肩から股間までを真っ二つにされ、地面に倒れ伏す。静かすぎる決着であった。
「がぁ……ぐが……儂は、なぜここ……?」
即死しないのはさすがだが、神気の攻撃は再生しづらい。さすがに、上級抗魔ほどの常識外の再生能力はなかったのだろう。すぐに、動かなくなっていた。
『消耗最低限で、強敵に勝てたな』
(相手が、もっと頭よかったらきっとピンチだった)
『そうだな。きっと、奥の手を使わなきゃならなかっただろうな』
(ん)
こんな場所でも、フランは少し残念そうだ。本気のレザルヴァと戦ってみたかったという想いが、どこかにあるんだろう。
『それよりも、今はみんなの援護だ』
「ん!」