作品タイトル不明
969 違法都市サーテ
『見えた! 巨人型だ!』
「町が……」
「オン……」
休憩をはさみながら移動を続けた第二部隊の前に、ついに標的が姿を現していた。
立ち上がった巨大な抗魔が、町――違法都市サーテの城壁の中で暴れている。その身長はまるで巨大な高層ビルのようで、町の城壁でさえ跨げそうだ。多分、200メートルはないと思うが……。巨大すぎて、正確な大きさが掴みきれない。
町と対比したサイズ感でいうと、ビニールプールの中に立っている子供くらいの大きさだろうか?
当然ながら、そこらの兵士や冒険者が対抗できる相手ではない。
想像を遥かに超えた巨体が破壊を撒き散らすその姿は、想像以上に迫力があった。
選ばれた精鋭であるはずの騎士や冒険者たちが、息を呑んで足を止めてしまうほどだ。
しかし、イザリオとフランは全く怯んでいなかった。イザリオは相変わらずの飄々とした態度で、ため息をついている。
「あーあ、あれ相手は骨が折れそうだ」
ランクS冒険者の弱気な言葉に、冒険者たちがしり込みしないかと心配になったが、むしろ逆だったらしい。いつもと変わらぬ様子のイザリオを見て、冒険者たちが落ち着くのが分かった。
「今度こそ、倒す」
「グル!」
フランとウルシはやる気満々だ。周囲にも伝わるほどの闘志を燃やし、臨戦態勢である。このフランの態度もまた、冒険者たちを落ち着かせる一助となっていた。
イザリオとフラン。自分たちのトップ二人の頼もしさを見て、完全に戦意を取り戻したらしい。その表情が、ガラリと変わっていた。
虚勢を張っているだけかもしれないが、やる気を取り戻しただけでも上出来である。
それと、ハガネ将国もまた、いつも通りであった。老兵たちは驚きの平静さで、巨人型を前にしても恐怖心を微塵も感じさせない。
馬車から降りてきたアジサイたちも同様だ。マツユキなど、微笑みを浮かべて巨人型を見上げている。
「さて、どうしようかしら? サカキ?」
「此度は冒険者たちとの連携が必要でしょう。お嬢様が動かれるかどうかは、町の人間の避難状況次第ですね」
護衛の女性はサカキというらしい。顔だけではなく、声も指揮官のシキミとよく似ている。こちらの2人も姉妹なのかもしれない。
というか、この状況は結構マズいんじゃないか?
イザリオのイグニスと、ハガネ将国のベルセルクは、どちらも周辺への被害が馬鹿にならない。町中にいる巨人型相手には使いづらいのである。
となると、フランが頑張らねばならないだろう。冒険者たちと騎士たちが、あの巨大な抗魔相手にどれだけ戦えるか……。
ハガネの老兵たちも意気軒昂ではあるが、さすがにあの巨人型に勝つのは難しいだろう。基本的には兵士たちが遠距離攻撃で都市外へと誘導し、フランたちの大技をぶち込む形になるだろうか。
「どうする?」
「お嬢ちゃんみたいな、跳べるやつらで牽制して、壁の外からの遠距離攻撃で奴を誘導。壁の外に引きずり出して、そこをみんなでドカン、かな?」
「イザリオ殿の作戦で構いません。我らも遠距離攻撃に加わりましょう」
頷いたシキミが、老兵の装備と技能を説明してくれる。一部は魔術が使え、それができずとも弓の修練を欠かさず行っているそうだ。確かに、全員が弓術と弓技を所持していた。
そのため、かなりの距離でも当てることが可能であるという。自信のあるなしではなく、それができて当然と言った様子だ。
「嬢ちゃんたちもそれでいいか?」
「ん」
「オン!」
「嬢ちゃんには、牽制部隊の面倒を頼みたい。だいじょうぶかい?」
「わかった」
「先は長いし、できるだけ疲れない方法でたおせりゃいいんだがねぇ」
イザリオが言う通り、ここで終わるなら全力で攻撃してもいいだろう。だが、戦いはここだけで終わらないのだ。
この後に他の巨人型との戦いが残っている以上、ここで全ての力を使い果たすことはできなかった。
「とりあえず、壁と巨人型が一番近い位置まで移動したいですね」
「そうだな」
射程に自信があると言っても、さすがに1キロ以上離れているような場所からは、狙うことはできないらしい。
確実に当てるには、500メートルくらいが限度だという。
そこで、まずは巨人型と城壁の間が一番近い場所を探すことにした。城壁に沿って、違法都市の周囲を進む。
城壁内に人の気配はなかった。逃げてくれたんならいいのだが、そうでないのであれば相当な被害が出ていそうだ。
「む。巨人がこっち見た」
「オフ」
『気づかれたか?』
巨人型の視線がこちらを向く。明らかに、第二部隊の存在を捕捉していた。
「デカブツの雰囲気が変わったな」
「こちらに来ますか?」
この部隊を追ってきてくれれば、挑発する手間が省けるのだが……。
「ルゥォオオオオオォォォォォ!」
「巨人に動き有り! 警戒しなさい!」
シキミの警告の直後であった。
巨人がいた方角から巨大な質量を持った何かが飛んでくるのが分かった。それは、家屋の屋根であった。足元の家からもぎ取り、投擲しやがったのだ。
イザリオが魔術を放とうとするが、その前に俺たちが動いていた。
『フラン!』
「ん! 私がやる!」
フランが跳び上がり、瓦礫を収納する。
「嬢ちゃん、さすがだな!」
「ん。飛んでくるのは私がやる! あいつに攻撃お願い!」
「承りました!」
防御はフランが、指揮はシキミが。当初の予定とはかなり変わってしまったが、第二部隊の戦闘が始まった。
「嬢ちゃん! 抜けてきたのは俺が打ち落とす。後ろは気にすんな」
「ん!」