作品タイトル不明
965 救援するシラード?
センディアに到着すると、多くの冒険者たちが城壁の守りに付いていた。巨大抗魔――巨人型の再度の出現を警戒しているんだろう。
町に入るとすぐに、歩く人々から視線を投げかけられる。視線が向く先はイザリオではなく、フランだ。その視線に負の感情はなく、むしろ歓迎されていた。
さらには、時折声もかけられる。聖女様のお仲間とか、黒猫の姫さんとか、色々な名前で呼ばれていた。
そのほとんどが、町と聖女を救ったお礼の言葉だ。イザリオも有名だが、今のこの町ではフランの方が人気者であるらしい。
「おいおい、超人気じゃねぇか」
「そう?」
イザリオがニヤニヤと笑いながら、からかうようにフランの肩を叩くほどだ。ただ、フランとしてはギルドでのイザリオや、この町でのソフィの人気っぷりを見ている。それに、黒猫族の村で大歓迎された経験もあるのだ。
そのせいで、この程度では大人気だとは思わないのだろう。
人々に軽く手を振り返しながら歩いていると、見知った顔に出会った。
名前は憶えていないが、獣人会の下っ端だったチンピラだ。ネズミ系獣人のおっさんである。メアと一緒に居るところを何度か見たのだ。
「姐御! 帰ってらしたんすね!」
フランを姐御呼ばわりして、嬉しそうに笑っている。獣人たちにとってフランは、憧れのアイドル枠だからな。
「メアとソフィとベルメリアはどこにいるか分かる?」
「へい! 姐さんたちなら、すぐそこのアジトにいると思いやす! ただ、ベルメリアっつーと、竜人の女の子っすよね? その子は最近姿をみないっすねぇ」
「シラードの奴らは?」
「あいつらなら、宿じゃないっすかね?」
とりあえず、まだこの町には居るらしい。
「姐さんたちのところまで案内しやしょうか?」
「お願い」
「へい!」
フランとしてはメアとソフィの無事を確認せねば、落ち着かないのだろう。この町の有力者の協力を得るのは重要なので、イザリオも文句はないようだった。
歩きながら、巨人型が現れた時のことを教えてもらう。
センディアのそばにも巨人型は出現し、町は大混乱に陥ったらしい。抗魔の大群を退けたのに、再び群れに襲われるというのは前代未聞だからだ。
それに、未だに崩れた城壁は直っていないし、組織再編も終わってはいない。襲われるには最悪の時期であった。
それでも塔や獣人会、竜人、ギルドが協力し、なんとか対抗しようとしたらしい。聖女とメア、ベルメリアがいれば何とかなると、戦意も高かったようだ。
だが、そこにさらに予想外の援軍が現れる。
なんと、巨人型とその配下たちに、背後から襲い掛かった軍勢があったのだ。それこそが、聖国シラードの騎士たちであった。
彼らが抗魔を引き付けたことで町への被害はほぼなく、地揺れで怪我をした人が少しいた程度だったらしい。
最終的には聖騎士たちに気を取られている抗魔を町の軍勢が強襲し、殲滅することに成功したのであった。
聖騎士にはかなりの被害が出たらしい。鼠男は聖騎士たちを見直したと褒めている。
「まあ、デカブツには俺たちの攻撃は通用しなかったんですが、そこはメアの姐御と聖女様の出番すよ。お2人が神剣騎士と連携して、あっという間にデカブツを倒しちまったんでさぁ!」
アドルだけでも倒せたのだろうが、メアたちが加勢したら本当に瞬殺だったのだろう。それにしても、聖騎士たちが自分たちを犠牲にしてまで、センディアを救おうなんてするか?
選民意識の高い聖騎士たちからしたら、違法都市なんて見下すだけの相手なはずだ。アドルにしたって、部下を犠牲にしてまでセンディアを助ける理由がない気がする。
俺のイメージするシラードなら、抗魔の相手をセンディアに押し付けて、美味しいところを掻っ攫うくらいしそうなのだ。
ただ、とりあえずソフィが無事で、聖騎士たちも町で変なことはしていないということは分かったな。
そうして獣人と話していると、すぐに目的の建物に辿り着いた。入り口の門番もフランのことを覚えており、そのままあっさりと中に通してもらえる。
「おお! フランではないか! 戻ってきたか!」
「メアだいじょぶだった? 巨大抗魔とか、シラードとか」
「うむ、我らに被害はほぼないな。聖騎士どもはかなりやられたようだが」
ソフィは違う場所にいるらしく、メアだけが出迎えてくれた。
「そちらの男性は……イザリオ殿ではないか!」
「あー、たしか獣王の娘さんだったかね?」
「知り合い?」
「挨拶をした程度であるな。まあ、我が一方的にイザリオ殿を知っているというだけだ。同じ火炎の使い手として、無視することはできんからな!」
メアの目には純粋な尊敬の色がある。メアは炎を操る種族と職業だが、その格上としてイザリオをリスペクトしているらしい。
直接会ったことは数えるほどでも、様々な情報を集めているのだろう。
「あ、握手を!」
「前もしたと思うがねぇ」
「何度でもお願いしたいのですよ!」
「ま、いいけどよ。それよりも、シラードの聖騎士どもがこの町を助けたって聞いたんだが、本当かい?」
「あー、それですか……」
メアが苦笑しながら、本当の話を教えてくれた。
「こちらにとっては幸運なことに、奴らが勝手に巻き込まれてくれたのだ」
聖騎士たちがセンディアを救おうとしたのではなく、巨人型が聖騎士たちの目の前に出現しただけだったらしい。
最初は逃げようとしたようだが、湧き出す抗魔に囲まれて逃げられなくなったようだ。それをセンディア側がうまく利用したというのが真相であった。
メアも聖国と医長の約定に関しては聞いていたが、アドルが相当消耗しているため、今はソフィを襲うような真似はしないだろうと考えているようだ。
シラードとしては少しでも利を得ようとして、助けてやったと言い出したのだろう。本当は巻き込まれたくせに、ずうずうしい話だ。
メアと話をしていると、奥から新たな人影が姿を現す。メアの従者、クイナだった。
「今伝令を出しましたので、聖女様もすぐにいらっしゃると思います」
配下の獣人に命じて、ソフィを呼びに行かせてくれたらしい。
「うむ、気が利くではないかクイナ!」
「お茶をお出しもせずに立ち話をしているどこかのお嬢様とは違いますので」
「……こ、これから出そうと思っていたのだ! 茶を用意せよ!」
「奥に準備しておりますので、どうぞ」
「……ふ、ふははは! 我が配下は有能であろう?」
相変わらずの主従だな。