作品タイトル不明
958 巨大抗魔
突如として大地の下から現れた、超巨大な生物らしき存在。ただ、未だに全貌は分からなかった。
ゴルディシア大陸全体が乾燥している影響か、粉塵の密度が濃く、中々晴れることはなかったのだ。
それでも、多少薄まり、影の正体がなんとか見えてくる。
そこにあったのは、超巨大な抗魔の姿であった。姿形は剣士型によく似ているだろう。サイズは巨大だが……。
ただ、その恰好は、異質だ。
その巨大な抗魔は、自身の膝を抱え込み、座り込んでいたのだ。まるで、体育座りをしているようだった。しかも、その周囲を粘性の感じられる不思議な液体が覆い尽くしている。
その姿は、子宮の中で羊水に守られた赤子のようであった。いや、本当に、抗魔の赤ちゃんなのか? 未完成的な感じがするんだが……。
「イザリオ、あれなに?」
「おじさんも知らんよ。あんなデケェ抗魔、初めて見たぞ。過去の資料にも、あのクラスの抗魔は載っていなかったはずだ」
つまり、過去に類を見ない、超大型の抗魔ってことか。いよいよ、今回の抗魔の季節がまともじゃないと、証明されてしまったな。
「どうする?」
「そりゃあ当然、抗魔は殲滅だ。それしかあるまい?」
「ん! わかった!」
待て待て! そんなあっさりと! 下手に攻撃して、目覚めさせるようなことに――違うな。俺たちと一緒にいるのは、神剣を使うランクS冒険者なのだ。
この男が倒せなければ、誰が何をやっても倒せないだろう。そもそも、イザリオが倒すと決めて、倒せない存在などいるとは思えなかった。
イザリオが「殲滅する」と口に出したのだ。ならば、殲滅は成されるだろう。目の前のうらぶれた親父は、本人がどう言おうがそれだけの存在であった。
『フラン。イザリオの本気に巻き込まれないようにするぞ』
(ん!)
フランもまた、イザリオを信じているのだろう。俺の言葉に、素直にうなずくのであった。
「まずは奴の近くまで行く。倒す前に、情報も欲しいからな」
「わかった。ウルシ、いこう」
「オン!」
フランが再びウルシに飛び乗ると同時に、イザリオが魔道具のボードを発進させる。
「全力で行く。ついてこれるかい?」
「ウルシ。絶対に負けちゃダメ」
「オンオン!」
未だに薄霧のように舞う粉塵の中を、ウルシとイザリオの魔道具は進んだ。イザリオの魔道具はあまり速度が出ないと思っていたが、今はウルシの全速力並の速度が出ていた。
宙に浮くボードの後部から炎が噴き出し、凄まじい加速を生み出しているのである。火炎魔術のバーニアと同じ原理であるが、これだけの長時間使いっぱなしでバランスを取っていられるのはさすがであった。
「抗魔が溢れ出してやがる!」
「ん」
「オン」
途中までは障害らしきものもなく、一気に巨大抗魔まで到達できるかと思ったのだが……。
突如、魔力の波が周辺を覆ったかと思うと、抗魔の気配が湧き出した。言葉通り、急に大量の抗魔が何もない場所に出現したのである。一気に湧いたのだろう。
粉塵のせいで全貌は見えないが、気配だけでも千を超えると分かった。しかも、魔力の波は収まっていない。これから、さらに大量の抗魔が湧くと思われた。
「とりあえず蹴散らしながら進むぜ?」
「ん」
「オン!」
現れた抗魔たちは、ほとんどが黒色の上級抗魔たちだ。数が少ないと思ったが、戦力的には相当なものがあるだろう。
だが、イザリオの前では下級抗魔と変わらなかった。
彼がイグニスを振る度に炎の波が生まれ、周囲の抗魔を飲み込んでいく。最初はやや速度を落としたものの、俺たちはすぐに全速力へと戻っていた。前方の抗魔だけを撃破しながら、グングンと突き進む。
フランとウルシの出る幕もなく、一行は炎の帯を棚引かせながら、抗魔の壁を一気に抜けるのだった。
同時に、フランが目を細めなくてはならないほどの強風が前方から吹き付ける。巨大抗魔から発せられる魔力が、物理的な圧力を発しているせいだった。
ただ、風のお陰で巨大抗魔周辺の粉塵は吹き散らされており、ようやくその姿を完全に目にすることができる。
「おっきい!」
「オン!」
「ああ、近くで見ると、デケェな!」
イザリオまでもが小山のような抗魔を見上げて、感嘆の声を上げている。彼であっても驚いてしまうほどの圧力が、抗魔の巨体にはあった。
重力に逆らってその場に止まる不可思議な液体の中に浮かぶその姿を近くで見て、改めて胎児のようだと思う。
それはフランもイザリオも同じだったらしい。
「抗魔の赤ちゃん?」
「そんな存在、聞いたこともないが……。それに、赤ん坊にしちゃデカすぎるだろ」
「む……? 力、吸われている」
『俺もだな!』
「奴の仕業だな。広範囲から魔力を吸収してやがる。俺たちだけじゃない。大地からも力を吸ってるぞ」
イザリオの言う通り、巨大抗魔が周囲から膨大な魔力を取り込んでいるようだった。魔力強奪系の能力だろう。
ただ、俺やフラン、ウルシはほとんど吸われていないし、イザリオに関しては完全に効いていないらしい。
こういったタイプの力は、相手が格上であるほど効きづらくなる。凄まじい力を内包する巨大抗魔ではあるが、俺たちよりも圧倒的に格上という訳ではなさそうだった。
「これは、放置するのは危険そうだ。どれだけ育っちまうか、分からん」
「……じゃあ、もう倒す?」
「おう。少し派手目にいくから、少しばかり離れててくれ」
「ん」
イザリオが自分で派手というほどの技だ。本当に危険なんだろう。
『フラン。前回よりも、もっと離れるぞ』