軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

935 イザリオ

「お嬢ちゃん。おじさんにも1皿貰えるか?」

「……ん」

神剣の男は、当然だがこちらに敵意を見せることなどなく、普通に焼き肉の乗った皿を受け取る。敵対する理由もないしな。

見た目は、中肉中背の、どこにでもいるような外見の地味なおじさんだ。年齢は40代かな?

適当に切ってるって感じの、灰色のザンバラヘアーと、ちょっと濃いめの無精ひげが男臭い感じである。少し猫背で、妙にくたびれた様子を漂わせていた。

何というか、徹夜仕事明けのサラリーマン的な感じ? もしくは、無理難題を押し付けられた中間管理職?

男からは慕われそうだけど、女性には敬遠されそうな雰囲気だ。

自分をガン見してくるフランに対し、戸惑ったような態度をしている。そして、すぐにその理由に思い至ったようだ。ニヤリと笑い、口を開く。

「ほう。俺の剣が何であるのか、見破ったのかい?」

「それ、しん――」

「おっと、その先は言うな。落ち着いて肉が食えなくなる」

ということは、本当に神剣なのか。フランの視線が男の腰に向く。見た目は、多少派手目の長剣だ。柄尻には赤い宝石が埋め込まれ、鍔も赤い。ただ、見た目とは裏腹に妙に目立たないというか、地味な心証を受けてしまう。

そもそも、周囲の人間が男に一切の注意を向けないのがおかしかった。フランもようやくそのことに気づいたらしい。

周りをキョロキョロと見回し、男を見て首を傾げる。そんなフランに、男は自分のマントを軽く摘まみ上げながら小声で教えてくれた。

「認識阻害のマントだ。知り合いに作ってもらった強力な奴でな。俺に気づけただけで、かなりの実力者だってわかるぜ?」

外套が魔道具だったらしい。一定以上の実力者は欺けないようだが、その一定のラインはかなり高そうだ。何せ、フラン以外にこの男に気づいている冒険者はいないのである。

フランはサイレンスで音を遮ると、改めて質問をした。男も一目で魔術の効果が分かったのか、苦笑しながらも答えてくれる。

「それ、神剣?」

「お嬢ちゃんの見抜いた通りさ。炎剣イグニスだ」

「おー。じゃあ、あなたがイザリオ?」

「正解。外の子供にまで知られてるとは、おじさん随分と有名になっちまったな」

本当にイザリオだったか! まさか、ノクタで出会えるとは思っていなかった。

相手がランクS冒険者だとわかると、くたびれた社畜サラリーマン的な雰囲気も、強者故の余裕とか、昼行燈的な態度に見えてくるから不思議だ。

「改めて、神剣持ちの冒険者イザリオだ。才無しでも無能でも、好きに呼んでくれ」

「さいなし?」

「俺の異名さ」

ランクS冒険者が才無しって……。どういうことだ?

首を捻るフランに対して、イザリオは肩を竦めながら手を差し出した。握手――ってわけじゃないな。

掌を上に向けて、明らかに肉の催促だ。

「とりあえず、肉をくれよ。大盛でな」

「……模擬戦してくれたら、超大盛にする」

フラン、ここぞとばかりにぶっこんだね! チャンスだと思ったらしい。だが、あっさりと断られてしまった。

「今は肉だ! あと酒だ!」

「あなたなら、お肉もお酒もいつでも口にできる」

「お嬢ちゃん。今回は代金がギルドもちなんだよ。つまり、タダ酒タダ肉ってことだ。後はわかるな?」

男らしいキリッとした表情で、みみっちいセリフを言い放つイザリオ。ちょっとカッコイイと思ってたのに、今の姿は完全に飲んだくれ冒険者そのものだ。

「わからない」

「お嬢ちゃんにはまだ早かったか。だが、タダ酒ほど美味いもんはねぇんだ。絶対に逃さんぜ? それに、ここでやらかすわけにゃいかんだろ?」

確かに模擬戦をするには、この訓練場を使わなくてはならない。盛大な宴会を邪魔することになるだろう。

「……じゃあ、明日は?」

「明日は依頼があるから駄目だねぇ」

「朝にちょっとだけとか?」

「依頼前に模擬戦なんかしたら、疲れちゃうだろ? 万全の状態で挑まなきゃならんから、無理さ」

「……そう」

イザリオの言っていることが正論過ぎて、何も言えなくなったのだろう。フランが残念そうに黙ってしまった。

『フラン。ディアスに貰った紹介状を出してみろよ』

「紹介状もある」

「ほう? ディアスさんからかよ……。分かったが、やはり今は無理だ。まあ、そのうちな」

「約束」

「分かったよ。抗魔の季節が終わったらな? それに、俺なんざ大したことねぇよ? もっと強い奴に教えてもらえ」

「? ランクS冒険者なんでしょ?」

「神剣を持ってるだけのダンディさんだよ」

ダンディかどうかはともかく、神剣をもってるだけ? 自分は大したことがない?

炎剣は、アースラースのガイアと同系統の神剣だ。しかも攻撃力の高い炎の神剣だとすれば、相当な戦闘力だろう。

神剣さえ使いこなせれば本人が多少弱くとも、ランクS冒険者にはなれるのかもしれない。

だが、この男が神剣の力だけの冒険者には、見えなかった。

ただ、謙遜しているようにも見えない。イザリオは、本気で自分が大したことがないと思っているようだ。

「だんでぃ?」

「……いや、何でもねぇよ。じゃ、またな嬢ちゃん」

イザリオは最後に苦笑いをすると、そのまま冒険者の間に消えていった。

(模擬戦の約束、できなかった)

『まあ、ランクS冒険者だからなぁ。忙しいのは仕方ないさ』

(ん……)

ただ、獣王やデミトリスと比べると常識的な人らしいし、約束は守ってくれそうな気がする。

まあ、獣王たちに比べればっていうだけで、十分クセが強そうだけどな。