軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

872 フィルリアの言葉

場の騒ぎを一瞬で鎮めたフィルリアが、聖騎士と対峙している。

「あなた方が、聖国からの使者ですか?」

「その通りだ! ここの者たちはどうなっている! 我らに対して無礼な態度を取りおって!」

聖騎士は怒りで顔を真っ赤にし、今にも剣を抜きそうだ。だが、フィルリアは悠然とした態度のままである。

「事前に届けられた書簡によれば、友好の使者としてヤレスフェイム殿がお越しになると書かれていましたが」

「ヤレスフェイム殿だと? 様と言え! 辺境の治癒師ごときが、最高国家たるシラードの神剣騎士と同等とでも思っているのか! 分を弁えろ!」

フィルリアの言葉に、聖騎士のボルテージがさらに上がってしまう。

神剣騎士というのは、始神剣アルファの持ち主のことだろう。ヤレスフェイムという名前らしい。

凄まじい威圧感を伴う聖騎士の怒鳴り声に、ほとんどの人間が怯えている。一度落ち着いてしまったことで、その迫力を無視できなくなったのだろう。

だが、フィルリアはアルカイックスマイルを崩さない。敵ながら、感心するほどの精神力である。

フィルリア以外で恐ろしさを感じていないのは、いつでも動けるように身構えるフランと、真っすぐな視線で聖騎士を睨みつけるソフィくらいだろう。

というか、フランはかなりの緊張感を身に纏っている。少しのきっかけで、相手の首を斬り飛ばしかねないんじゃないか?

『フラン。いきなり殺すなよ?』

(わかってる)

そう言いつつ、その視線はフィルリアを見つめていた。聖騎士よりも、彼女の方が厄介であると感じたらしい。何があっても即座に反応できるように、意識を研ぎ澄ませている。

「つまり、聖国は約定を違えたということですね?」

「何が約定だ! そのようなもの、対等の関係であるから守られるのだ! 聖騎士たる我らが足を運んでやったことすら、過分なことと思うがいい!」

化けの皮が剥がれてからの聖騎士が酷いな。文書に残る約束を決めておきながら、正式な使者がお前らとの約束なんか守るわけがないと言い切ったのである。

これって、政治的にかなりマズいことだと思う。何せ、シラードは正式に交わした取り決めを守らないって、喧伝しているようなものなのだ。

それとも、この最低のやり取りが、聖国クオリティとして認知されているのか? だとしたら、厄介な国としてもっと悪評が聞こえてきてもよさそうなものだが……。

「それで? なぜ、このような騒ぎを? 聖国から我が塔の聖女へと、友好の使者が送られてくるという話だったはずですが? それに、予定では明後日のはずでしょう?」

「こちらは今日を指定していたはずだ。そちらが合わせろ。それに、友好的ではない? 友好的に、聖女を我が国へと招こうとしていたところだが?」

「ほう? 力ずくで連れていくことが、友好的であるとは初めて聞きました。拉致の間違いでは?」

「拉致とは人聞きが悪い! ただ、聖女に相応しき居場所があるはずだと、親切心から説いていただけだ」

聖騎士もただの馬鹿かと思ったら、多少の言語能力は備わっていたらしい。フィルリアの舌鋒に対して、スラスラと言い返している。

視野が狭くて独善的で自己中なだけで、馬鹿ではないのかもしれない。

「聖女様のためを想うならば、お前が説得するべきなのではないか? ああ、望むなら、聖女と共にシラードに仕えることを許そう。聖女様も、お一人では心細いだろうしな。側仕えとして付いてくればいい」

「この私を、下女と同じように扱おうというのですか!」

フィルリアの笑みが初めて崩れたな。すぐに笑顔に戻るが、その口元がやや引き攣っているように思えた。

プライドは高いらしい。初めて、素の感情を見せたように思えた。

しかし、直ぐに調子を取り戻すと、聖騎士に対して言い放つ。その言葉が先ほどよりも数段冷たく聞こえたのは、気のせいではないだろう。

「ともかく、あなた方では話になりません。事前の約定通り、ヤレスフェイム殿を連れてきなさい」

フィルリアは、殿という部分に力を込めて言い放った。お前らの国なんか敬ってないアピールだろう。この姉ちゃん、清楚系の外見とは違っていい性格をしている。

「神剣騎士様は、我が国の柱! 全ての臣民に愛されし、いと尊きお方であるぞ! このような場にくるなどあり得ぬ! であるからこそ、我らがその任を代わって差し上げたのだ!」

「……お引き取りを。本日、これ以上話すことはできません」

「つまり、聖女を渡すつもりはないと?」

「少なくともあなたたちには。無論、聖女ソフィーリアが自ら望むのであれば、止めることはできませんが」

フィルリアがそう言って、ソフィを見た。

「聖女様。あなたはこの都市にとって恩人であり、必要なお方。我らはあなたをどんな時でも守りましょう。しかし、あなたが聖国への所属を望むのであれば、涙を呑んで見送ります」

「私は、聖国になんか行きません」

「そうですか。このような醜き者たちを見てしまったことで聖国への印象が悪くなっているでしょうが、本来はそこまで悪い国ではありません。少なくともヤレスフェイム殿は信用できるでしょう。コレよりはマシなはずです」

聖騎士が再び怒りの表情を浮かべるが、フィルリアの言葉は止まらない。

「それに、この都市が聖国と比べて小さいことは紛れもない事実。あなたにとって、狭すぎるのではないかと、私も心配していました。あなたには本当に感謝しています。尊敬もしています。このまま塔にずっといてもらいたい。だからこそ、あなたを縛り付ける鎖にはなりたくないのですよ」

切なげな表情で言い切ったフィルリアは、心の底からソフィを心配しているように見える。周囲の患者さんたちの中には、目を赤くして鼻をすすっている者もいた。

スゲーな。何が凄いって、フィルリアの言葉のほぼ全部が嘘ってことだ。ソフィへの気遣いも、聖国が悪くないってことも、ソフィへの感謝も、全てが嘘だった。

本当なのは、この都市が小さいって部分だけである。

よくもまあ、これだけ長尺で嘘をならべ立てられるものだ。

フィルリアは、ソフィに対していい感情は持っていないらしい。それどころか、出ていってもらいたいとすら考えているようだ。

こう言っちゃなんだが、ソフィには利用価値がある。医長としては、便利な存在だと思うんだが……。

抗争を煽っている一件といい、この女の真意が分からなかった。