作品タイトル不明
852 青猫族の憎悪
絡んできた青猫族だったが、瞬殺であった。ああ、殺してもないし、切ってもいない。
相手が悪いとはいえ、住宅街で流血沙汰はまずい。今にも青猫族たちをぶった切りそうなフランを宥めて、なんとか拳で決着を付けさせたのだ。
殺意を隠さないフランのパンチで、胃液を吐きながら地面に倒れ伏す青猫族。意識を失い、ピクピクと痙攣しながら動かない。
内臓と肋骨は逝っているが、死にはしないだろう。
「こいつら、どうする?」
2人の青猫族を冷たい目で見降ろしながら、フランが聞いてくる。
今すぐこいつらを叩き起こして情報を聞き出したいのだろうが、ここでお話をするのはダメだとも分かっているのだろう。
『とりあえず、路地に連れて入ろう。そこでササっと尋問だ』
宿に連れ帰るわけにもいかないし、他にこいつらを連れ込める場所に心当たりもない。
一瞬、ベルメリアたちに頼もうかと思ったが、下手に目立つマネをすれば迷惑をかけることになるだろう。
仕方ないので、できるだけ素早く尋問を行うことにした。
路地に青猫族を放り込んで、ウルシの闇魔術と俺の風魔術で外部と完全遮断する。
今のままだと会話もままならないので、ヒールを弱めにかけて傷を癒した。その後、ウルシがその顔をべろべろと舐めていると、ようやく目を覚ます。
「なんか、ベトベト――ぎゃぁぁぁ!」
「ひぃぃぃぃ! 化け物!」
ヒールを掛けたとはいえまだダメージは残っているはずなんだが、痛みよりもウルシへの恐怖が勝ったらしい。
まあ、目の前にいきなり大きな狼がいれば仕方ないけど。しかも、青猫族たちからすれば今にも噛みついてきそうに見えるのだろう。
仰向けの状態で、必死にウルシから距離を取ろうとしている。だが、その背後はすぐ壁だ。それ以上は下がれない。
そんな、未だにパニック状態の男たちに、フランが声をかけた。
「おい」
「あ? あ! てめーは!」
「さっきの雑魚猫――」
「ふん」
「げはぁぁ!」
雑魚猫族と言いかけた青猫族が、フランの蹴りで吹き飛んだ。壁にしたたかに背を打ち付け、再び意識を失った。
軽く見えた蹴り一発で大の男を持ち上げたフランの姿に、もう1人が固まってしまう。見た目通りの少女ではないと、ようやく理解したのだろう。
「お前らは、闇奴隷商人?」
「は? てめぇーに何で――ぎいいぃぃぃぃ!」
「口答えするな。質問に答える」
「……!」
軽く電撃を流された青猫族が、驚愕した目でフランを見上げる。
ただ、それは単純にフランの強さに驚いているという感じではない。
「黒雷姫……?」
「ん?」
「狼連れた、黒猫族のメスガキ……。間違いない!」
どうやらフランの情報を色々と知っていたようだ。しかも、ただ知っているだけではなさそうである。
青猫族は、壁に背を預けた状態で座りながら、憎悪の籠った瞳でフランを見上げていた。
フランが青猫族をその目で睨むならわかる。だが、逆は意味が分からん。
ただ痛めつけられたからというには、その憎悪は深いように思われた。
「私のこと知ってるの?」
「……獣王の野郎に取り入って、俺たち青猫族を陥れたクソガキ! お前のせいで、俺たち青猫族は……!」
「?」
「なんで、俺たちが罪になる! 今まで通り、役立たずどもを金に換えてやっただけだ! 存在する意味のないゴミクズどもに、価値を与えてやっていたんだっ!」
「……ふん」
「ごはっ……黒猫族が、俺たちを見下ろすな! お前らは、俺たちの下だっ!」
フランの拳を顔面に食らっても、青猫族は反抗的な態度を崩さなかった。それどころか、さらに暴言を募らせる。
「他の種族どもも同罪だ! ずっと俺たちがやっていることを黙認しておいて、今更罪を償え? 居場所がない? ふざけるなっ! 自分たちだって、ずっと美味しい思いをしていたくせに!」
「もう黙れ」
「俺たちは、過去の獣王様に命じられて黒猫族を使ってやってたんだぞ! それを、今更やめろ? 黒猫族を尊重? ふざけるなぁぁぁ! 雑魚猫族なんざ、存在価値のない下等な欠陥種族だろうがぁ!」
「……しっ!」
「ぎゃぁぁ!」
ついにフランの我慢の限界に達したらしい。青猫族の右足を切り飛ばし、さらにその傷を踏みつけた。悲鳴を上げて、身を捩る青猫族。
「うるさい」
「許さねぇ……。全員奴隷に――ぐがぁ!」
その後、多少痛めつけてやったんだが、青猫族が態度を改めることはなかった。時間があれば心を折るまで続けられるんだが、今はそこまで時間をかけてはいられない。
『仕方ない。素直に話しそうにないし、もう1人を起こしてそっちに聞こう』
(わかった)
こいつの態度を見て、青猫族側にも色々と苦労や思うことがあるようだと思ったが、だから何だというのが正直な気持ちだ。
長い間、黒猫族を見下して奴隷にしてきたのだ。しかも、禁止されても止めずに。同情の余地もない。
善良に生きてきたのに、風評被害を被っている青猫族がいるなら多少は同情してもいいかもしれないが……。こいつらは違うしな。
『じゃあ、そっちの奴を――』
「む?」
「グル!」
喚いていた男が気を失ったので、蹴り飛ばされて意識を失っている方を起こそうとしたその時であった。
フランが身構え、ウルシが唸り声を上げる。
『誰かいるぞ!』
「気づかなかった」
なんと、俺たちが張った闇と風の結界の外に、誰かが立っていたのだ。俺たちだって、青猫族だけに集中していたわけではない。
それなのに、気配がいきなり出現していた。凄まじい隠密能力の持ち主か、転移が使える相手だ。どちらにせよ、舐めてかかっていい相手ではない。
『くるぞ!』
俺が警告を発したその直後、結界が吹き飛ばされ、相手の姿が見えていた。
「うちのシマで、随分とはしゃいでくれてるじゃねーか? ギルドの奴らが俺たち血牙隊のことを嗅ぎ回ってるみたいだったが……。てめぇ、ギルドの回しもんだな!」