軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

840 裏酒場

アースラースと再会した翌日。

フランは、裏通りにあるという酒場へと向かっていた。

今日も裏路地で、哀れなチンピラたちから情報を集めていたんだが、その中で興味深い話を聞いたのだ。

地元の住民――この場合、アウトローたちのことだ――が集まる、酒場があるというのである。

そこには情報屋がいて、金を払えばどんな相手であっても情報を売ってくれるという噂があるらしい。あくまでも噂で、チンピラも本当にいるかどうかの確証はないようだったが。

ただ、訪ねてみる価値はあるだろう。

(ようやく情報が手に入る)

『まだ確実じゃないからな? 可能性があるだけで』

(ん!)

俺が釘を刺しても、フランはやる気満々である。

昨日から全く成果がないせいで、焦りの気持ちがあるらしい。昨晩なんて、冒険者ギルドのボロ宿に泊まって、わざと部屋のドアを半開きにして隙を見せたりしたんだけどね。

俺は反対したんだよ? でも、フランがどうしてもやるって言うからさ~。

そこまでやっても、奴隷商人の手先が忍び込んでくるようなこともなく、開けた扉から適度に微風が流れ込んでフランはグッスリ快眠できたらしい。

まだ2日目なんだが、フラン的にはもう2日という感覚であるようだった。やはり、捕まっている奴隷のことを想うと、焦りが出てしまうのだろう。無茶しなければいいんだけど。

(この辺? ウルシ、分かる?)

(オン!)

小型犬サイズのウルシが影から出てくると、匂いを頼りにフランを誘導する。

まだ夕方なのだが、この町では夜と変わらない。夜目がなければ全く見えないほどに真っ暗な路地を、ウルシに先導されたフランが駆けていく。

迷路のような裏路地を進むこと数十秒。ウルシが足を止めた。

「あった」

「オン!」

暗闇の先に見えるのは、光の中に浮かび上がる古びたスイングドアだ。間違いなく、あそこが噂の酒場だろう。

「いく」

「オン!」

フランが酒場に向かって駆け出そうとするが、俺は慌ててそれを止めた。

『あ、ちょっと待て! 俺が分体で入る方がいい!』

以前、盗賊ギルドに接触した時にも使った方法だ。

子供が酒場で聞き込みをしたって、まともに相手にされるか分からない。というか、邪険にされて終わるだろう。

情報を得るためにも、俺の分体創造を使う方が確実だと思うんだが……。

「だいじょぶ」

『フラン!』

気が急くあまり、まどろっこしいことをしていられないらしい。フランは俺が止めるのも聞かずに、酒場に突撃していってしまった。

強めにスイングドアを押し開けたフランが、酒場に足を踏み入れる。バネの力で戻るドアが、ギコンギコンと甲高い音を上げていた。

ムワッとした空気とともに、喧騒が押し寄せる。

中では人相の悪い男たちが、酒を飲みながらワイワイガヤガヤと騒いでた。

アウトローたちが集まる酒場と言っても、冒険者の酒場とそう変わりはないな。いや、そもそも世間的に見て、冒険者もアウトロー枠だったわ。

フランが数歩中に進むと、ようやく酔っ払いたちもその存在に気づいたらしい。子犬を連れた場違いな少女に、不躾な視線を投げてくる。

『フラン。少し絡まれたくらいで叩きのめしたりするなよ?』

(わかってる)

『まずはマスターに話を聞こう』

「ん」

フランが入り口付近のカウンターに近づき、そこにいたマスターに声をかけた。顔に無数の切り傷がある、超強面ドワーフだ。

「ジュースかミルク」

「……酒を割る用のぶどうジュースならある」

「それでいい」

「ああ」

睨んでいるような顔ではあるが、フランを追い返すような真似はしない。フランの強さを見抜いているのか、金さえ払えば誰でも客ということなのか。

ともかく、カウンターに腰かけたフランの前に、すぐにぶどうジュースが出てきた。それを一口飲んで、フランが顔をしかめる。

毒の反応はないはずだが……。

「まずい」

「酒を薄めるためのもんだぞ? 渋さと酸味だけの代物だ。美味いわけがないだろ」

「ん……」

ぶどうジュースの入った木のコップをそっとカウンターの上に戻すと、フランが本題を切り出す。

「ここに情報屋がいるって聞いた」

「……紹介状は?」

「ない」

「なら知らん」

やはり紹介状が必要だったか。ギルマスのプレアールも、余所者に情報を売るような奴はいないと言っていたのだ。

「お金なら払える」

「だから知らん」

そんなやり取りを繰り返していると、近くのテーブルからこちらへと近づいてくる男たちがいた。

ニヤニヤと下品な笑いを浮かべた、戦士風の男たちだ。

「見ない顔だが、冒険者かぁ?」

「ぶひゃひゃひゃ! こんなガキが冒険者なわけねぇだろ!」

「だよなぁ!」

鑑定してみたところ、恐喝や窃盗のスキルがあるので悪党ではありそうだ。ただ、誘拐系のスキルもないし、こいつらは奴隷商人ではなさそうだな。

そもそも、この酒場にいる奴のほとんどがこの手のスキルを持っているだろうし、鑑定だけでは闇奴隷商人かどうかなんて分からないだろう。

「へへへ。ちらっと聞こえたけど、金ならあるってぇ? だったら俺たちに奢ってくれよぉ」

やはりカツアゲ目的か。マスターはフランを助けようとする素振りもない。年も種族も関係なく、自己責任ってことらしい。

カウンターに腰かけたままのフランが、ニヤリと笑う。その獰猛な笑みを見ることができたのは、俺とウルシ。そして、ビクリと体を震わせたマスターだけであった。