作品タイトル不明
829 オーファルヴvsナディア
「あの中央にいる、同士討ちをしている抗魔を倒さずに動きを封じる?」
「うん! そうなの!」
「それはまた、無理難題であるな!」
だよな。今のナディアは上級抗魔を遥かに超える力を発揮している。それこそ、捻じれ角以上の超強力な抗魔なのだ。
それを殺さずに、動きを止めるというのは至難の業だった。少なくとも、実行者は命を懸けることになるだろう。
オーファルヴの立場では、簡単に了承できるものではないはずだった。
「よいぞ! 我らがあの抗魔を抑えておこう! お主らはその間に近づけばいい!」
「……手伝ってくれるの?」
「うむ! 愛する者を救う為に命を懸けようというその心意気! 素晴らしい! なあお前ら?」
「「「おう!」」」
「ということだ! リヴァイアサンの背に乗ったつもりでドーンと任せておけ!」
リヴァイアサンの背とか、逆に不安なんだけど。ただ、ドワーフたちがやる気になってくれたことは確かであるらしい。
オーファルヴだけではなく、他のドワーフたちもテンションが高めである。
「いいか! 我が正面を受け持つ! そなたらは周囲を掃除だ! ここで最も活躍すれば、エルフの古酒にありつけるかもしれんぞ! 何せ、古酒をもたらした者を手助けするのだからな!」
「「「おおおおおおおぉぉ!」」」
ドワーフたちが怒号にも似た咆哮を上げた。酒パワー凄いな!
「フランよ! 準備をしておれ!」
「ワタクシたちがすぐにナディアの動きを封じてあげるから!」
そうして、オーファルヴたちがナディアへと向かっていった。
「者ども! やれ!」
「「「おおおお!」」」
「皆! 一斉射撃!」
「「「はっ!」」」
ドワーフたちの武技と、魔族の魔術が広範囲に降り注ぎ、辺り一帯の抗魔を一度に薙ぎ払った。
それにより、ナディアと俺たちの間を隔てていた抗魔の壁が一瞬だけ消え去る。
こちらへ向かってくる抗魔も多いが、半数以上はナディアを標的としているため、隙間が埋まる速度がやや遅い。
「いくぞ! 魔曲が完成するまでは、命を懸けてやつを引き付けてやる!」
「付いてきなさい。オーファルヴ殿の後に続くわよ」
「ん! ソフィ、いこう」
「分かったわ!」
オーファルヴが吶喊した。付き従うドワーフたちがいつの間にか陣形を変えている。
いわゆる鋒矢とか呼ばれる陣形だ。鏃の形に並んだドワーフたちが、道をこじ開けながら抗魔の軍勢を切り裂いて進む。
短い脚でドスドスと走るイメージのあるドワーフたち。勇往邁進状態であっても、その進みは速いとは言えなかった。
だが、今は違う。一丸となったドワーフたちは、ナディアまでの道のりをあっと言う間に駆け抜けていた。
そして、その前に飛び出す。その姿は弾丸のようで、鈍重さなど微塵も感じなかった。
突如現れたドワーフたちに、ナディアの敵意が向く。
強敵であると瞬時に理解できたんだろう。
「オオオォォォオォォォ!」
「狂乱しているな! 元人種だとは思えんほどの狂態よ! 相手にとって不足なし! くるがいい!」
「ウガアァァァァ!」
「うるあぁぁぁぁ!」
ドゴオオオォォォオン!
オーファルヴの巨大ハルバードと、ナディアの振るう大剣が正面からぶつかり合った。凄まじい衝撃とともに、両者の武器が弾け合う。
武器を手放すことはなかったが、互いに大きく後ろへと反るような体勢になってしまった。
ほぼ同じ威力だったのだろう。オーファルヴの勇往邁進は部下だけに効果があるのだと思っていたが、自身の強化もするらしい。
「ウオオオォォォォ!」
「らあぁぁぁぁぁぁ!」
ガギイィイィィイィ!
同じような体勢から、オーファルヴとナディアが再び攻撃を繰り出した。薪割りをするかのように上段から振り下ろされた互いの武器が、再び激しく衝突する。
その後は、凄まじい乱打戦だ。
何度武器が弾かれても諦めずに攻撃を放ち、再び相手の攻撃と正面衝突する。
ムキになっているのもあるのかもしれないが、それ以上に攻撃を止めた瞬間相手にやられると分かっているんだろう。
ズガンドガンと凄まじい衝撃が放たれるせいで誰も近付けず、2人だけの攻防が続いた。
周囲ではドワーフと魔族によって壁が築かれ、抗魔とナディアが分断され、次々と処理されていく。
このまま永遠に続くかと思われた勝負。だが、いきなり変化が訪れる。
「ぬううぅ?」
十何度目かの攻撃の直後、オーバーグロウスとハルバード、双方にヒビが入ったのだ。そして、次のぶつかり合いで、互いの刃が砕かれてしまっていた。
あのハルバード、凄くないか? ナディアの振るう剣は、腐っても廃棄神剣。抗魔の力を食らって成長した、オーバーグロウスだ。単純な攻撃力なら俺を凌ぐ。
その廃棄神剣と、正面からここまで打ち合い続け、両者が破壊。あのハルバードの頑丈さは、準神剣クラスってことなのだ。
しかし、僅かに力負けしたことで、オーファルヴの体勢が崩されてしまう。
「我が国の精鋭鍛冶師が生み出した、最高傑作がぁぁぁ!」
悔し気に唸っているが、自分が力負けしてしまったことよりも武器が砕かれたことの方が悔しそうだ。
一見相打ちに思えたが、その明暗はくっきりと分かれていた。砕けたままのハルバードに対して、オーバーグロウスは即座に修復が始まっていた。
やはり、この辺の能力では廃棄神剣が上だよな! べ、別にオーバーグロウスを応援しているわけじゃないぞ? ちょっと、モヤッとしていただけなのだ。
「ウガアァァァ!」
咆哮を上げるナディアが、元通りの姿を取り戻したオーバーグロウスを振りかぶる。もうオーファルヴはその攻撃を受ける手段がない。
そのはずなのに、オーファルヴはニヤリと笑っていた。
「約束は果たした」
オーファルヴは宣言通り、魔曲の完成までナディアの注意を引きつけてみせたのだ。
ポロロロン……♪
ナディアが再び大剣を振りかぶったその瞬間に、ソフィの奏でる最後の音が紡がれていた。
ソフィから放たれた光がオーファルヴやフランだけではなく、ナディアを包み込む。
「ウガォォ……」
「やった! さすがソフィ!」
動きを止めたナディアを見て、フランが快哉を叫ぶ。ナディアの顔が、ジワジワと人の部分を取り戻しつつあったのだ。
左目を起点に、肌色が広がっていく。確実に、ソフィの演奏が効果を上げていた。
瞳に理性の光が戻ったナディアが、口元を震わせる。
「ぐ……これは……」
「おばちゃん!」
「フラ……がああぁぁっ!」
「おばちゃん? おばちゃん!」
「グガ……」
『離れろフラン!』
「ガアアアアアアア!」
ソフィによって一時的に意識を取り戻したかに思えたナディアだったが、すぐに元に戻ってしまっていた。
顔も、再び侵蝕されてしまっている。
「なんでっ!」
《廃棄神剣・オーバーグロウスによって、再び侵蝕が行われました。仮称・ソフィの魔曲の効果が上書きされました》
『そういうことか!』
治るには治ったのだ。しかし、オーバーグロウスの侵蝕効果は、俺たちの想像以上に強力だったらしい。
(まだ、助けられる?)
《廃棄神剣・オーバーグロウスの排除が絶対条件です》
『つまり、俺の出番ってことか』
凄まじい修復力を見せつけたオーバーグロウスだ。単純に破壊することは難しいだろう。
だが、狙いどころがないわけではない。相手は廃棄神剣。俺の同族。つまり、共食いできる! 奴を食らってしまえば、修復することはできないだろう。
《是。一定以上の破損を与えれば、スキル・共食いが発動する確率87%》
『そのためには、俺が直接オーバーグロウスを破壊する必要があるな』
(ん! がんばる)
『ああ、そうだな。また、無理をする必要があるが……。ここまできたら絶対にナディアを救うぞ!』
「ん!」