作品タイトル不明
828 ジェインの協力
ピンチになったら俺たちの力を借りると言っていたジェインであったが、そんな場面は未だに巡ってこなかった。
ボロボロの百人隊を休ませるための方便だったのだろう。
ドワーフたちは相変わらず鉄壁だし、魔族たちの援護も的確だ。
しかも、明らかに抗魔の圧力が減ってきていた。ナディアが戦い続けていることで、抗魔たちがそちらに群がっているのだ。
捻じれ角ほどではないものの、多少強そうな抗魔は姿を見せる。捻じれ角が大将なのだとすれば、副将や部隊長のようなものなのだろう。
だが、オーファルヴやジェインにかなうわけもなく。すぐに倒されていった。
そのまま5分。
(師匠、もう少し)
『ああ』
近くに行くと理解できる。確実にナディアは暴走していた。
その気配は荒々しい獣のようだ。群がる抗魔を蹴散らし、戦い続けている。何百もの抗魔がナディアに集り、瞬時に吹き飛ばされていくのが見えた。
さらに近づくと、ナディアの上げる咆哮が聞こえてくる。
「ウオオォォォオォォ!」
近づく者は全て敵として殲滅するという、強烈な暴力性と破壊衝動を感じることができた。完全に理性を失っている。
「ソフィ。どう?」
「うーん、聞かせるにしても、もっと近づかないと届かないわ」
俺たちを癒してくれたあの魔曲は、効果範囲がかなり狭いらしい。それこそ、目の前で演奏せねばならないそうだ。
「守ってくれるんでしょう?」
「当然。私がナディアの前に連れて行く」
「信じるわ」
「いいの?」
ソフィはあっさりと頷いた。食事の代金を支払ったことに恩義を感じているとはいえ、さすがに信用し過ぎじゃないか? フランも驚きの表情をしている。
「見てれば分かるから。あなたが仲間を見捨てられない人だって。違う?」
「違わない。仲間は絶対に見捨てない」
「だから。頼んだわ」
「ん!」
さて、ソフィの助力はこれで得られるが、まだそれでナディアを救えると決まったわけではない。
ソフィの曲でナディアを癒せるかどうかという以前に、ジェインやオーファルヴたちにナディアが倒されないようにせねばならないのだ。
「……ジェイン」
「なぁに? 随分と悩ましげだけど?」
「私も前に出る」
「ふーん? 自身の状態が分かってないわけじゃないでしょ?」
「ん」
フランはもうボロボロだ。これで戦闘に参加させてもらうには、なんとかジェインたちを説得せねばならないだろう。
そう思っていたんだが――。
「いいでしょう! ワタクシたちが援護をしてあげる! 存分に前に出るといいわ!」
「いいの?」
フランの反応が、さっきソフィに見せたものと全く同じだ。予想外の返事に戸惑っているのだろう。
「あなたほどの戦士が無理をおして死地に赴こうというのだもの! 何かのっぴきならない事情があるのでしょう? ならば、それを手助けしてあげるのが上に立つ者の度量というものよ! あははははは!」
「何か事情があるのであれば、相談してみるといいじゃろう。こんなのでも、実力は確かだからのう」
魔族って、本当に外見と中身が一致していないというか、善い奴が多いよな。魔王と銀の骸骨だぞ?
「私は、ナディアを助ける」
フランは自分の目的をジェインたちに語った。抗魔を倒すことが目的なのではなく、ナディアを救い、人の姿に戻す。その為に、ここまでやってきた。
さらに、現在のナディアの状況も訴える。
「このままだと、オーファルヴとナディアが戦いになる」
「それは危険ねぇ。ナディアっていうのは、この先で暴れ回っている抗魔のことでしょ?」
「ん」
「噂には聞いておったが、抗魔を食らう魔剣が実在していたとはの」
「それを、そちらの少女の演奏で元に戻すと。ふむふむ」
ジェインの視線がソフィに向いた。その血のように赤い瞳が、全てを見透かすようにソフィを見つめる。
「あははは! この部隊は逸材揃いよね! 素晴らしい力を感じるわ!」
ソフィもジェインのお眼鏡にかなったらしい。彼女の言う通り、この百人隊は精鋭だからな。そりゃあ、誰であっても彼女は気に入るだろう。
「魔曲の使い手は我が国にもいるが、これほど強き者はおらぬな。そなたならば、ナディアを元に戻せるのか?」
「確実とは言えませんが、全力を尽くします」
「ソフィならきっとだいじょぶ!」
「戦士たちがナディアを抑え、美少女の奏でる曲で怪物と化した戦乙女を鎮めて救う! うん! まるで戯曲に語られる一場面のよう! こんな素敵な場に居合わせるなんて、ワタクシは運がいいわ!」
ジェインが1人で盛り上がっている。多少動機は不純な気もするが、彼女が乗り気になってくれたのは有り難い。
「まずはオーファルヴ殿に話を通さないと! ワタクシに任せておいて! ふはははは!」
「私もいく」
「よかろう! くるがいい!」
なんかジェインが主導し始めたけど、その方が上手くいきそうだ。オーファルヴもジェインの話は無視できんだろうし。
ただ、今の状態で話し掛けられるか? 先頭で抗魔を蹴散らし続けているんだぞ? ジェインの登場で軽い雰囲気になってしまったが、周辺ではまだ激戦が続いているのだ。
しかし、ジェインはどんどんと歩を進め、オーファルヴの後ろまで到達してしまった。抗魔はこちらに見向きもしない。
「もしかして、気配遮断スキルが私にも?」
「うん! その方がいいでしょ?」
「ん」
簡単にやってくれたが、スキルの効果を他者に与えるだなんてどうやってるんだ? 全く気付かなかったが……。
「さて、少々待っててね。オーファルヴ殿! ちょっといい?」
「うん? ジェイン殿か! 何用だ?」
「話があって」
「ほう? 聞かせてもらおう」
いや、スゲーな。普通に会話しながら、抗魔を迎撃している。ジェインの援護がある分、へたしたら楽になったようにすら見えた。